神の使いの異世界修復   作:ダイヤモンドリリー

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8657字。

町探索と行きますか...


町を歩きし御令嬢

「ふわぁ...しまったな、もうこんな時間か」

 

そんな声が微かに耳に入ってきたため、半覚醒状態だった俺の意識が完全に覚醒する。

 

「……今何時?」

 

ベッドから起き上がりながら湊に聞く。

 

「もう昼は越してるな...眠りについてから半日は経っているようだ」

 

「そんなにか...話に夢中になって寝るのだいぶ遅くなっちまったからな...」

 

ふわぁ...と大きなあくびをかく。眠りにつくまではそこまで疲れを感じていなかったが、戦闘の疲れは確かに蓄積していたのだろう。一度寝たらぐっすりとこの時間まで寝てしまった...そしてまだちょっと眠い。

 

「ってか、結局俺ばかり話してたような気がするな...あんまし湊のこと聞けてない気がする」

 

「そうだったか?」

 

「そうだよ。どんどん次は次はって聞いてくるもんだから、話を変える隙も無かったぜ...」

 

「それは幸希が面白い話を持ちすぎなのが悪いさ。別世界の話なんてそう聞けるものでも無いしな」

 

「俺からしたら、湊の話も別世界の話なんだけどな...」

 

「とはいうものの、私は人生の大半を魔法の研究に費やしていたから話せることもあまり無くてだな。だが、君は違う。これまでにいくつもの世界を渡ったのだろう?まだ君が最初にいた世界のことしか聞けていない。互いの持つ話題の量を鑑みても、幸希の方が話す割合が多いのは自明ではないかな?」

 

「なーんかそれらしいこと言って丸め込もうとしてない...?まぁ良いけど。とりあえず準備して町回ろうぜ」

 

「そうだな...」

 

湊はむくりと起き上がり、ベッドから降りる。

 

「なぁ...聞き忘れてたんだが、パジャマとか無いの?」

 

「別に寝巻きなど必要ない。次の日の服を着て寝れば構わないはずだろう?」

 

「いやまぁ、そういう考えもあるだろうけど、少なくとも十歳の少女がする思考では無い...」

 

「それと、私がどんな立場の人間か覚えているか?人目線では大企業の御令嬢で拉致誘拐の格好の的。魔物目線では再誕の魔法使いで抹消対象。寝込みを襲われる可能性も低くない。いつでも動ける服装の方がなにかと都合が良いのさ」

 

「うーむ、それは確かに...」

 

となると、ボディーガードとして俺も同じことをした方が良さそうだな。頭の中の買い物リストから寝巻きを除外っと...

 

「……そういえば、この時間だともう昼食の時間は過ぎているな。外で食べる時間も惜しい。これでも食べておくと良い」

 

湊は自身のカバンの中から何かを取り出すと、それを俺に向けて放り投げてきた。

 

「うおっと、これは?」

 

「親の会社で出している携帯食だ。腹持ちはそこまで良いわけでは無いが、夕食までの繋ぎとしては十分だろう」

 

そう言いながら湊は自分の分を口にしていた。そしてもぐもぐと咀嚼しながら湊は準備を進めていく。

 

「サンキュー湊」

 

急いでいるのだなと思った俺は渡された携帯食を口に含みながら急ぎ気味に準備を進める。まぁ、俺の準備は銃のホルスターを装着したり槍を持つだけだから一瞬で終わるのだが。

 

「準備はできたか?出発するぞ」

 

「オッケーっと、俺が先に出るよ。さっきの話を聞いたのに先導させるとかあり得ないからな」

 

湊が扉を開けてさっさと出ようとしていたので、それを引き留めて俺が扉を開け...

 

「っ⁉︎」

 

内開きの扉を開けた瞬間、開いた扉の隙間から銃が差し込まれた。今にも引き金にかかった指が動こうとしている。

 

俺は咄嗟にドアノブから手を離して銃のスライドを掴み奥に押し込む。スライドが後退していれば銃は撃てなくなる...はずだが念のため銃口を俺らから外し、扉を勢いよく蹴り付けて閉め、拳銃を握る腕を扉に挟んでやる。

 

「グアァッ...!」

 

「チッ、早速これかよ!」

 

こういった備えって普通やり始めた当初は何も意味なくて、忘れかけた頃に来るもんだろ!初っ端から来るんじゃねぇ予定崩れるわ!

 

「……ゴム弾か。殺しに来てるわけじゃ無いなら誘拐目的か?」

 

敵から拳銃を奪い取り、マガジンを引き抜いて装填済みの一発も抜いておく。出てきた弾がゴム弾だったから、狙いは殺すことでは無いだろう。湊の誘拐が目的だろうな。これが実弾だったなら謎の手段で俺がここにいることを察知した軍の仕業だと考えたが...ただの誘拐犯なら話は簡単だ。さっさとぶちのめす!

 

「湊、人数は?」

 

小声で湊に聞く。湊なら魔法で扉の向こう側に何人いるか把握できているはずだ。

 

「三人だ。残り二人も銃を所持している」

 

「了解。湊は奥に下がってろ」

 

俺は槍を手に持ち、扉を足で閉め続けて敵の腕を締め上げながら湊が部屋の奥に逃げるのを待つ。隠れ終わったら...!

 

「突撃ィ!!」

 

足を退けて扉の隙間に槍を突っ込み、槍を動かすことで扉を開け放つ。そのまま扉の前にいた男を槍で突くことで、内開きによるタイムロスを無くしながら一人目を倒すことに成功する。

 

残りは二人。まだ一瞬の出来事すぎて何が起こったか理解できていない様子だ。銃口を向けられる前に槍で手を突くことで銃を二人の手から叩き落とし、その直後に首を突く。喉を突かれて呼吸困難に陥った男たちは、喉を押さえながらその場にうずくまる。

 

「いっちょ終わり...」

 

狭い廊下のせいで槍を振り回すことができず突くことしか出来なかったが、案外なんとかなったな。

 

「もう出てきて良いぞ湊。さーて、コイツらどうしたものか...」

 

下手人らに槍を向け、軽く脅しをかけながら呟く。

 

「まずは...お前らが来た目的と、俺らがなぜここにいると知れたのか。そこから聞くとするか。素直に話してくれよ?そうすりゃ拷問の手間も省ける」

 

最初に銃をむけてきた男の腹に槍をグリグリと押し付けながら、俺はそう言い放つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「特段気になることは無かったな」

 

襲いかかってきた三人を警察に引き渡した俺たちは、町を歩きながら得た情報を振り返っていた。

 

目的は至って単純、誘拐と湊の両親への身代金の要求。俺らがこの部屋にいるとわかったのは、あの三人が同じホテルに泊まっており、杜撰な管理によって宿泊名簿がフロントに置きっぱなしになっていたのをそのうちの一人が発見し、三枝湊の名前を見つけたかららしい。

 

名簿に気づくタイミングがもう少し早ければ、奴らは俺らが寝ている間にことを済ますことができただろう。俺たちは運が良かったのか悪かったのやら...まぁ不幸中の幸いといったところか。

 

「その場で思いついただけの突発的な犯行...魔物とか関係なく、普通に人間の醜いところを見せつけられたな...」

 

「仕方があるまい。生きていれば人の醜さを見せつけられる時は必ず訪れる。幸希も、これまで聖人としか出会ってこなかったわけではないだろう?」

 

「まぁ...な。まぁなんにせよ、魔物が絡んでるわけじゃなくて良かった...良かったって言って良いものかは微妙だが」

 

「一応言っておくが、これに関わっていなかったからといって、この町に一切魔物が干渉していないことの証明にはならないからな。しっかりと町を散策し調査をするぞ」

 

「おう了解...つっても、探すのはほぼ湊がやるんだよな?俺にできることある?」

 

「そうだな...幸希は私を守ることにだけ集中してくれればそれでいい。周囲を警戒して、さっきみたく襲われてもすぐに対処できるようにしてくれ。そうしてくれれば、私は安心して魔法での捜索に集中できる」

 

「他にもできることがあれば良いんだけどなぁ...」

 

「……」

 

「今、能力使えば良いのにとか思ったか?」

 

「おっと、魔法も使わずに心を読むのはやめてくれないか?」

 

「顔に出てるんだよ顔に...」

 

「私を傷つけることを忌避しているのはわかるが、そろそろ考えを改めたらどうかな?これから私の力を使うことは増えていくだろう。だが、今の幸希では咄嗟に力を使うことは難しい。いざって時に使えなきゃ、その力は何の意味もなさない」

 

「それは...そうだけどよぉ」

 

「それに、幸希の力は同じ対象に繰り返し使うと、小さな傷でも引き出せる魔力の量が増えるようになるのだろう?このままでは私に大きな傷をつけなければ全ての力を引き出せことができない。今のうちから少しずつ私の力に慣れさせて、わずかな傷でも能力を起動できるようにするべきだ」

 

「理屈で殴ってくる...それはそうなんだけど、感情がどうもねぇ...」

 

「何がトラウマでそうなっているのかを聞き出す必要があるな...比較的躊躇なく人を攻撃できる私相手だとダメな理由...子供だから?」

 

「人をロリコンみたいに言うな」

 

「私は子供としか言ってないはずなんだがね...まぁ良い。それは後で聞き出すとして...っ」

 

「どうした?急に立ち止まって」

 

「……魔力探知に反応があった。だが、これは...」

 

湊は少し考えるような仕草を取り...急いで駆け出した。

 

「ちょっ、なに⁉︎」

 

慌てて湊を追いかける。

 

……が、体格と身体能力の違いのせいで、一瞬で追いついた。ちまちま走ってて可愛い...中身はおじいちゃんだけども。

 

『この魔力の反応...おそらく発生源は人だ』

 

テレパス魔法で湊が話しかけてきた。

 

発生源が人...ってことは、また魔丸服用者か?

 

『それは直接見てみないとわからない。だが、おそらく...』

 

「……っ、すまない幸希!私を抱えてくれ!私の足では遅すぎる!」

 

「りょーかいお姫様!」

 

湊を抱き抱えて走り出す。湊からお姫様はやめてくれと言わんばかりの顔を向けられたが、完全に無視して走る。俺の能力を使えば〜とかいつも言ってくる仕返しだ。

 

『けれど、あり得るのか?たしかに可能性としてはあるが、まさか...』

 

ああもう思考が漏れて俺の中に来てるぞ湊!そんなに気になるのなら何がおかしいのか言ってみろ!

 

『……この魔力の反応は魔物ではない。けれど、魔丸服用者にしては魔力量が多すぎるんだ』

 

過剰摂取したとしても無理な量なのか?

 

『そうだ。ゆえに、あり得る可能性は一つしかないのだが...』

 

「そこ!一旦脇道に逸れてくれ!突入前に準備がしたい!」

 

「おうよ了解!」

 

キュッと方向転換して建物と建物の間の路地に入る。そこからさらにもう一回曲がって、通りから見えないところまで来たところで湊を下ろす。

 

「これから会う奴が、敵か味方かはわからない。出会い頭に襲われる可能性がある。いつでも魔法を発動できるように警戒しておけ」

 

「そっか、魔力持ちだから魔法使っても問題ないわけね...んで、せっせと付けてるそれはなんなんだ?」

 

湊は異空間からバッジのようなものを取り出して、服につけていた。

 

「私は普段、魔力を持っているものに対して強制的に私のことをフォルスであると認識させる魔法を発動させている。幸希に渡したローブと原理は同じだが、作用は逆だな。幸希のは意識を散らすことで容姿を隠すが、これは逆に見せつけることで今の私の印象を覆い隠してしまう。この魔法を使って私は魔物から三枝湊=フォルスだということを隠してきたのだが、このバッジはその魔法をさらに強めるものだ。付けなくてもバレないとは思うが、念のため...な」

 

「へー...そっか、俺自身が魔力を持ってるわけじゃ無いからフォルスの強制認知は俺には効かないのね」

 

「そういうことだ。さて、行くぞ。通りに戻って、二つ先の路地にいるはずだ」

 

「りょーかい。もう背負わなくて良いよな?」

 

「ああ。この距離ならば問題ない...というか、背負うではなく抱えるではなかったか?それと、あのように抱えられると三枝湊として周囲の目が気になるのだが...」

 

「背中に槍背負ってるんだから前で持つしか無いだろ?ってか、それはおんぶでもほぼ変わらないと思うぞ...」

 

そう言いながら俺らは通りに戻り、二つ先の路地へと入って行く。いつでも動けるように細心の注意を払いながら、ジリジリと歩みを進める。

 

『この角を曲がったところにいるはずだ...そして、おそらく私の魔力量のせいで相手からもこちらは認識されているはず』

 

多分俺も魔物の魔力器官のせいで認識されてるだろうな。じゃあ、俺が先陣を切って出る。湊は後に続いて出てきてくれ。

 

『わかった。頼むぞ』

 

俺は懐から、もう魔力が底をつきかけている魔力器官を取り出し、それをひょいと放り投げる。

 

次の瞬間、銃弾が魔力器官を貫いた。

 

それを見た俺は即座に角を飛び出す。曲がり角の向こうには、動揺している子供がいた...子供?俺は魔力探知を使えないから調べられないけど、あの子供が魔力を持っているのか...?

 

けど、とりあえずあの子供は銃を持っている。魔力器官を撃ち抜いたのもあの子だ。俺たちに事前に気づいていて、攻撃を仕掛けたことに変わりはない。魔力器官を投げて隙を作る作戦も成功している。このまま...!

 

「無駄だ!」

 

子供はこちらに向けて銃弾を立て続けに撃ち込んできた。俺は身体強化の魔法を使い、強化した動体視力と身のこなしで飛んでくる弾丸を視認して槍で弾いていく。

 

「なっ、魔法...⁉︎」

 

驚く子供に向かって走り出す。子供は慌てて照準を合わせようとするものの時すでに遅し。槍で拳銃を叩き落とし、足払いをかけて転ばせて背中に座り込む。

 

「くっ、この...!」

 

「暴れても無駄だぜ...おーい、鎮圧したぞー!」

 

子供は抵抗しようとするも、身体強化を使っている俺に叶うはずもなく完全に鎮圧されている。安全を確保できたので湊を呼んだ。

 

「さて、と」

 

そう言いながら湊は角の向こうから出てきた。

 

「君の素性を聞「フォ、フォルス...様⁉︎」っと、こうなるのを忘れていた」

 

子供が湊を見てフォルスであることに気づく。魔力を持っているのはこいつで間違い無いな...って、様?

 

「まさかこんなところで会えるだなんて...!来た甲斐があったよ!!」

 

フォルスのことを知っている?...まぁ、この世界の人たちは歴史上の人物として知ってはいるのか。そこは別段おかしくはない。だが、来た甲斐があった...とは?

 

「……で、だ。君の素性を「不確定な未来というものは恐ろしくもあれどこういう幸運ももたらしてくれるのか!これは考えを改めなければな!ははは!」...幸希、そいつ一回黙らせてくれ」

 

「いでででで!!!」

 

ベラベラと喋り続ける子供の背中に槍をグリグリと押しつけて胸を圧迫させ、呼吸を苦しくさせることでその口を封じる。

 

「……改めて聞くぞ。君は何者だ?」

 

「いでで痛い痛い!話すからそれやめてくれ!」

 

「余計なこと喋ったらその頭引っ叩くからそのつもりで」

 

槍をこれみよがしに見せて脅迫をしておく。これで素直に喋るだろう。

 

「いっつつ...私の名はジクル。三百年前から転生してきた、最後の魔法世代の魔法使いさ」

 

「っ、魔法使い...⁉︎」

 

「……やはり、そうなのか。この魔力量では転生した魔法使いでなければ説明はつかない...」

 

この子供が、過去から転生してきた魔法使いだってのか...ん?

 

「……ってか!現存する唯一の魔法使いとか嘘っぱちじゃねぇかフォルス!!」

 

普通に他にも転生してきた魔法使いがいるじゃねぇか!

 

「す、すまない。まさか私以外にも転生してきた魔法使いがいるとは露知らず...ま、まぁ、他の魔法使いがいたとしても、魔法を使っているところを見られないようにするのが基本でこうやって邂逅することなんてないから、知らないのも仕方がない...だろう?」

 

「そうだろうけど肩書き詐欺すぎる...!もっと調べてから自称しろ唯一とかはよ!」

 

「すまない...」

 

「おい貴様!誰かは知らんがフォルス様を責めるな!そもそも貴様も魔法使いなら唯一の前提が崩れるのは元からだろう!」

 

「いや、俺は厳密には魔法使いじゃないし...」

 

「まず上から退け!」

 

「……へいへい」

 

もう攻撃の意思は無さそうだなと思ったので、背中の上から退いてやる。

 

「やれやれ、どこの時代の魔法使いだ...って、え?体内に魔力がない...?」

 

「だから言っただろ?俺は魔法使いじゃないって」

 

「魔力生成もしていない...ならばいかにして魔法を...」

 

「おっと、こちらの詮索は後にしてもらおう。先に君の素性の全てを話せ」

 

「はいフォルス様!」

 

なんで様付け...敬愛しているのか?よくわからんが、フォルスの言葉はちゃんと聞いてくれるらしい...極度の興奮さえしてなければ。

 

「と言いましても、私めの素性は先ほど申し上げた通りなのですが...」

 

「最後の魔法世代ってなに?」

 

「それは言葉の通りだろわからないのか?生まれる子供たちが皆魔力を抱える器を失いだした世代の一つ前。人類が皆満足に魔法を扱うことができた最後の世代のことだ常識だろ?義務教育でも習うだろ」

 

こいつ、俺が質問した時だけ露骨に態度変えやがる...!

 

「……なぜ転生を選んだ?あの魔法を使うには長い年月をかけた準備が必要だ。とても執念のいる行動...ゆえに、よっぽどの理由がない限り使うはずがない。その理由を述べろ」

 

「率直に言いますと、あやふやになった未来を見てみたいと思ったから...ですかね」

 

「未来があやふや...とは?」

 

「私の得意魔法は未来視。遥か彼方先の未来まで見通すことができる。その未来は確定しており、変えることは絶対に不可能なんです。なので、正直この世界に退屈していました。未来視を使う使わないに限らず未来は確定していることがわかっていて、何をするにしてもそうすることが定められていたのだと思えてしまったから...しかし、ですよ」

 

一呼吸置いてジクルは話を続ける。

 

「突然未来が見通せなくなった。ちょうど、器を無くした赤ん坊が生まれ出して大量死し始めた辺りからでしたかね。遥か彼方先はもちろんのこと、数日先でさえ見ることができない。それはどんどん深刻になり、数分先すら見通せなくなってしまった...」

 

……なるほど。俺には未来が見えなくなった原因がわかる。

 

まず、世界の行く末が定められているのは本当だ。これまでの世界もそうだったな。神様から散々聞いてきたことだ。そして、魂の初期化によってその未来は改変された...確定した未来から逸れてしまったために未来を見通すことができなくなったのだろう。魂の初期化による影響が出始めたタイミングと重なっているからほぼ確実だろうな。

 

「けれど、これは私にとって幸運でもあった。何故かはわからないが、未来が見えなくなったということは未来が不確定になったということだろう?飽き飽きとしていた未来が面白くなったのだ。そうなれば、もっと遥か未来...自身の死後の未来を見たくなるのは普通だろう?」

 

「普通...かはわからないが、理由としてはまぁ納得できる。そこから私の転生魔法の準備を進め、発動させたと」

 

「そういうことです。フォルス様と同じ時代に飛べたことは全くの偶然ですがね」

 

「そうか...」

 

そう呟くと湊は黙って考え込み出した。大方、転生魔法について考えてるんじゃないかな...同じ魔法を使ったのに同じ時代に飛んだことが気になっているのだろう。本当に偶然なのか、はたまたそれぞれの転生条件が噛み合ったのか、それともこの時代に何かあるのか...

 

「にしてもその容姿...なんとも美しい!少女...のように見えるが、どうかな?こんな男ではなく私と共に過ごすというのは」

 

「うわなんか急に変なことを言い出したこいつ」

 

「交際ならお断りだ。中身が男だということはわかっているだろうに...」

 

「それは問題ありませんよ。なにせ私はその逆。身体は少年で中身は乙女!ベストマッチじゃありませんか!」

 

「……ふっ」

 

うわぁといった顔を湊がしているのを見て、思わず笑ってしまう。露骨に嫌そうな顔で面白い。

 

「おいそこ笑わない!...あと、君が誰なのかは知らないが離れてくれないか。どうも君が近くにいるとコンマ数秒先の未来ですら見えなくなってしまうようだからな。消えてしまえ」

 

俺が近くにいると見えない?...ああ、俺が異世界人だからか?この世界にとっての異物が現在進行形で未来をかき乱しているから、ほんの僅か先の未来も確定していないのだろう。

 

「それはごめんだね。俺はフォルスのボディーガードだ。そばを離れることはしないさ」

 

「チッ、生意気な子だね...まぁ良い。フォルス様、私の連絡先でございます。何かあれば私にご連絡を...」

 

そう言いながらジクルは一枚の紙を湊に手渡した。

 

「ああ、何かあれば使わせてもらおう...登録はしておくが、そちらかは連絡はしてくるな。良いな?」

 

「それがお望みならば...では、私はこれで」

 

ジクルが俺たちから離れて行く。

 

変な奴ではあるが...湊以外の初めての魔法使いだ。もう未来はほとんど見えないとはいえ、何かと使えるかもしれない。

 

「知り合えて良かったな」

 

俺がそう言った瞬間だった。

 

パンッ!!

 

ドサッ...!

 

乾いた音が響き、何かが地面に倒れ込んだ音がした。

 

「な、にが...」

 

恐る恐る後ろを振り向く。

 

……そこには、頭から血を流して倒れているジクルの姿があった。

 

そして、ドタドタと足音を立てながら5人の男が曲がり角の奥から出てきた。

 

「非認可の改造拳銃...⁉︎」

 

湊が男たちの持つ銃を見てポツリと呟く。

 

そして男たちはこう言った。

 

「護衛の男は生かせ。誘拐の事実を三枝グループに伝えてもらわないとだからな」

 

「そこのお前。痛い目見たくなければ、その嬢ちゃんを渡すんだな」

 

男たちは銃を向けてくる...が、そんなことはどうでも良かった。

 

俺の視線は一点に注がれていて、それでいてぼんやりと歪んでいた。

 

「死ん...だ...?」

 

俺は、目の前で命が失われた事実から、目を離すことができずにいた。




日常回とは誰も言っていない。
死の未来はいつどこで来るかはわからない。
不確定の未来は、いつでも刃を向けてくる..
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