神の使いの異世界修復   作:ダイヤモンドリリー

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8236字。

カリヤくんの心が...


心狂いし神の使い

「死ん...だ...?」

 

俺の口から無意識に言葉が紡がれた。

 

「あ?殺したからな、当然だろ」

 

「……なぜ、殺した...」

 

「邪魔だから。お前らは生かす理由があるが、それ以外は邪魔だ。いるなら全員殺す」

 

「っ...!」

 

じゃあなんだよ...偶然ここに居たからという理由で、ジクルは殺されたってのか...?あまりにも理不尽すぎる...

 

「……ハッ、これが怖いか?非殺傷弾じゃないんだぜ?本物の実銃さ。脆弱な部分を突いてしまえば魔力のセーフティロックなんて簡単に外せて、引き金を引きゃあこいつの頭を弾いたように実弾を撃てる。無駄な抵抗は身を滅ぼすだけだぜ?」

 

こいつら...湊が魔法使いだということは知らないのか。知ってたら普通の実銃を使うはずだからな...それに、魔力持ちでもない。魔力を持っていたら、湊がフォルスであるという強制認知が働くからな。ただの誘拐犯...魔丸を使ってハイになっているわけでもない、純粋なる悪だ。

 

「ほら、そんな武器なんざ捨てて、嬢ちゃんを引き渡すんだな。あまり時間をかけさせるなよ?」

 

「こっちは別にお前がどうなろうとも良いんだぞ?直接声明を出せば良いだけだからな。それが面倒だから、お前を生かして誘拐の証明をしてもらおうとしている。そんなわけだから、その手間よりも今の手間が上回るなら俺らは容赦しないぞ」

 

「さぁ、早く引き渡せ。さもなければ、お前の脚を撃ち抜く」

 

男たちは銃を俺に向けてくる。

 

『幸希。ここは大人しく引き渡せ。魔法で脱出すれば良いだけだ。後で合流するぞ』

 

テレパスで俺にそう伝えると、湊は自分から前に出ようとする。

 

……それを俺は腕で止めた。

 

「……お前、どういうつもりだ」

 

男は怒気を含めながら声を漏らす。

 

「殺せるもんならやってみろよ...」

 

槍を放り捨て、銃を引き抜きながら俺はボソッと呟く。

 

「あ?聞こえねぇなぁなんつった?」

 

「そんな非殺傷弾で何ができるってんだ?五人に勝てると思ってんのかよ」

 

「勝てるさ...」

 

俺の頭の中は、今完全に混濁していた。目の前で人が死に、純粋な悪を叩きつけられた。それにもかかわらず何処か冷静で、そして激昂していた。

 

そんな状態だったからか...無意識に自身を縛り付けていた枷が外れてしまっていた。

 

パンッ!!と乾いた音が響き、一人の男の脳天に風穴が開いた。

 

「非殺傷弾...?笑わせるな」

 

「実弾...だと⁉︎」

 

視界が歪む。けれど、なぜか全て見えている。動揺する男たちの顔、脳天を貫かれて倒れていく男の姿、慌てて俺を撃とうとする動き...その全てを見て、混濁した脳に送り込む。

 

最適解の動きが返ってきた。

 

まず四発弾丸を放ち、男たちの持つ銃や手元を撃ち抜いて銃弾の発射を妨害する。そして次は男たちの頭に向けて狙いを定める。歪む視界の中、的確に男たちの頭を撃ち抜いていき...

 

最終的に、六人の頭を貫かれた死体が転がることとなった。

 

「…………っ...」

 

そのまま俺の脳は正常に戻ることなく、絶大な気持ち悪さを抱えたまま意識をプツリと切断した。

 

俺を呼ぶ湊の声が、聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まさか、こんなことになってしまうとは」

 

目の前に映るのは、六人の死体と気絶した幸希の姿、そして血溜まり。その血溜まりが幸希のもとまで辿り着きそうになっていたので、幸希の体を引っ張って血溜まりから距離を取らせる。

 

「にしても...幸希が人を殺す...だなんてな」

 

やっても良いと言っているにも関わらず私を傷つけることを拒否した幸希が、人を殺せるとはとても思えない。目の前で未来視の魔法使い...ジクルだったか?...を殺されたからにしても、殺すのは不自然だ。あの男たちを傷つけはするものの、槍での無力化に止めるのが普通なはず...出会って一日しか経っていないが、いつもの彼ならそうするだろうと想像に難くない。だというのに、なぜ...?

 

「……とにかく、ここを離れるか」

 

この町に止まるのは危険だろう。この短時間で二度も誘拐犯に狙われたのはどう考えても偶然ではない。この町には何か大きな犯罪組織でもいるのだろう。このままこの町に止まればまたすぐに狙われることだろう。一刻も早く離れなければ。

 

「転移先は...仕方ない。工房に連れて行くのが最善か」

 

この時代に来てから作った私の工房は誰にもその場所を知られていない。安全を確保するのならば、そこが一番だろう。

 

幸希が放り捨てた槍を拾い上げて幸希の元に戻る。そして転移魔法を発動させて...私の工房の中へと飛ぶ。

 

「さて、ひとまず寝かしておくとして...っと、起きたか。早いな」

 

転移時に起きた僅かな揺れで目が覚めたのだろうか...などと考えていたら、幸希はキョロキョロと辺りを見渡していた。

 

「ここは私の工房だ。あの町から早急に離れた方が良さそうだと判断して、転移魔法でここまで飛んだ。相談も無しにやったことは謝るよ」

 

「い、いや、それは良いんだが...悪い、何が起きたのかよく覚えていなくて...なんで俺寝てたんだ?」

 

……これは、あまりにも衝撃的なことが起きてしまったがために、幸希の脳が身を守ろうとして記憶を封じたか。

 

……どうしたものか。ここで本当のことを話すと、幸希は確実に動揺するだろう。あの性格だ、確実に引きずる。言わないのが優しさだろう。

 

しかし、ここで言わなかったとしても不意に記憶が蘇る可能性がある。いつ爆発するかわからない爆弾を抱えさせるよりも、今ここで伝えてしまって感情を全て発散させてしまった方が良いだろう。

 

「とある場面を目撃してしまい、気絶してしまったのだ。ところで、気を失う直前に見たものをどれだけ覚えている?」

 

「えっ...と、ジクルと会って、別れて、それから...?」

 

「ジクルが撃ち殺された」

 

「っ...!うぷ...」

 

口元を押さえる幸希だったが、抑えきれずに胃の内容物を吐き出す。

 

「思い出したか。それでは、五人を撃ち殺したことも思い出したかい?」

 

「こ、こふ...」

 

「おう、気にせず吐け吐け。掃除なら魔法でチョチョイのちょいだからな」

 

「ゲホッゴホッ...あ、あぁ...うぅ...!」

 

幸希は膝をたたんで縮こまり、頭を抱えて塞ぎ込む。

 

「お、俺...は...!なんて、ことを...!」

 

「五人を殺してしまったことを悔やんでいるのか?ジクルを殺した奴らだぞ?それに、私たちに危害を加えようとしていた。幸希の世界では違うのかもしれないが、この世界では正当な防衛の範疇だと思うぞ」

 

幸希は私の声には反応せず、うめき声を上げながら涙を流している。

 

「それとも、ジクルが殺されたことの方が心に来ているのかな?会って間もない相手なのに死を悼むことができ...」

 

いや、この言葉はダメだ...はは、口下手だな私は。こんな言い方では幸希をかえって傷つけてしまう。

 

……難しいな。人を慰めることがここまで難しいとは思っていなかった...心を読んで決めるとするか。今の幸希は泣くばかりで何も話してくれないからな...

 

『Q◎"・♪ヾ♤仝♤℃≫®︎...!』

 

うおっと...テレパスで聞き出そうとしたが、どうやら脳内の言語翻訳が切れてしまっているようだ。これでは何を考えているか聞き出せない...

 

仕方ない。思考を声に出させる魔法を使うとしよう。声に出せば、きちんと翻訳がなされるはずだ。

 

「俺のせいで...俺が六人を殺した...!」

 

「……?ジクルを殺したのはあの五人だろう?幸希はジクルを殺していないぞ」

 

漏れ出てきた幸希の心の声に含まれていた間違いを指摘する。思い出した記憶が混濁しているのか...?こんなことしかできないが、こうして幸希の心を溶かしていければ...

 

「いいや、ジクルが死んだのは俺のせいだ...俺がいなければジクルが死ぬことはなかった...ジクルは俺が殺したようなものだ...!」

 

「なぜそうなる。それを言うなら私のせいだろう?誘拐犯は私を狙っていたんだ。私がジクルと出会わなければ、巻き込まれることはなかったはず...そして、幸希が五人を殺したのは私を守るため。全て私のせいさ。幸希は何一つ悪くない」

 

「違う!違うんだよ...ジクルが言っていただろ。俺が近くにいるとほんのわずかな先の未来すら見えなくなるって...あれは、異世界から来たこの世界にとっての異分子である俺が側にいたせいだ。俺があの場にいなければ、ジクルは襲撃の未来を見ることが出来たはずなんだ...俺があの場にいなければ!ジクルは襲撃を回避できていたはずなんだ!」

 

「それはない。ジクルが見る未来は確定したものだ。襲撃の未来が見えたとて、それを回避することはできないだろう。幸希がいなくとも回避は無理さ」

 

「……あの時ジクルは、未来が見えなくなるから俺に離れてくれと言った。おかしいだろ?ジクルは確定した未来に飽き飽きしていたはずだ。確定した未来が見えないことを喜ぶはずだ。それなのに未来を見たがっているということは、ジクルが見る数秒先の未来は変えることができるようになったと考えられる。俺があの場にいなければ、襲撃の未来を見てそれを変えることができたはずだ」

 

っ...手強いな。こんな状態なのになぜこんなにも頭が冴えているのやら...そして、逃げ道を作ってやっているというのになぜ自分のせいだと考えるんだ...

 

「湊だけでもあの場を切り抜けることはできるはずだ。それも、殺さずにな。ジクルを生還させ、誘拐犯らも死なずに終われる...俺がいなければ全てハッピーに終わったじゃないか...!」

 

「そうかな。私もあの場なら殺していたと思うぞ。今後も狙われるのなら危険の芽は摘み取っておくに越したことはないからな。犯罪者なのだから、死んでも文句は言えまい」

 

「たとえ犯罪者だとしても殺すのはダメだろ...!」

 

「随分と優しいのだな幸希は。さっきも言ったが、私たちに危害を加えようとした相手だぞ。殺さなければ何をされるか判ったものではない。あれが正解さ」

 

「それでも、殺す必要は...」

 

うーむ、それを言われるとこちらも困るな。私ならこれ以上の面倒事を避けるために殺してしまうだろうが、必ずしも殺さないと解決できないわけではないからな。犯罪者だから心も痛まないといった考えは幸希には無いようだし、どうしたものか...

 

「……なぁ、湊は人を殺したことがあるか?」

 

「あるにはある。転生前にも転生後にもな。どちらも身を守るためで、仕方なくではあったがな」

 

「そうか...俺もあるよ。何十何百何千と殺したさ」

 

「……そうは見えないが。そんなに殺したことがあるのなら、今更数人の死で苦しむことはないだろ」

 

「殺したのは、この世界に来る一つ前に行った世界。それ以外で人を殺したことは無かった...はずだ。その世界で俺は、魂の初期化によって生まれなくなってしまった魔王の代理をしていた。そして、魔王が生まれなかったことで生存してしまう人を全て殺すことを命じられて、配下の魔物に指示をしたり、自ら手を下したりした」

 

ほう、そんなことを...

 

「それで良く精神を保っていられたな。その精神性ならば、最初の一人で躓きそうなものだが」

 

「俺もそうだと思っていたが、不思議と一人目となる戦姫を殺した時は何も思わなかった。どうやら俺は、責務や使命としてなら人を殺すことができるらしい。まぁ、これまでも魔族やらなんやら、人の形をした生き物を殺してきたからその影響もあるんだろう」

 

「……なるほど、殺しても良いと言われていれば人でも殺せるというわけか」

 

なんというか...心を無にした暗殺者のような思考になってやしないか?

 

「多分そうなんだろうな...けど、だからこそ今回は違う。誰に命じられたわけでもなく、怒りに身を任せて本物の人間を殺してしまった...狂化の時ですらしなかったってのに...いや、あれも同じか。怒りの対象が複製体か本物の人間かの違いしかない...」

 

「狂化だとか複製体とかについてはわからないが、要するに殺して良いと認められていれば良いのだろう?ならあいつらは構わない。あいつらが死んだことで、これから先被害に遭うはずだった人が助かったんだ。犯罪者の命より無辜の人の命の方が重い。そう考えると良い」

 

「そうじゃない...俺が関わったせいで未来を変えてしまったんだ...ただ俺が魔王を倒すためだけに動いていれば、あの男たちの未来は変わらなかった。殺してしまったことで、本来の歴史に近づけるという目的から遠ざかってしまったんだよ...」

 

……幸希がどの部分で悔やんでいるのかよくわからなくなってしまったな。私にはまだ幸希の思考の軸がわからない...もしや、人を殺してしまった事実よりも、本来なら死ぬはずのない人間を殺してしまったことに対して後悔しているというのが近いのか?

 

「……は?」

 

突然、幸希の身震いが止まり、怒気を含んだ声を出した。

 

「おいおい神様...そいつはないだろ...!」

 

神様...幸希をこの世界に送り出した神とやらか。幸希にしか聞こえない手段で通信をしているのだろう...聞き取った内容も声に出してもらうようにしよう。

 

「ジクルは元々この時代にいるはずがない人間だから死んでも構わなかった...なんなら死んでた方が良かっただと?そんなわけねぇだろうが!」

 

……そうか、ジクルは未来が見えなくなったことで不確定な未来になったことを知り、転生魔法を使う決断をした。そして、未来が見えなくなったのは魂の初期化とやらのせい...魂の初期化が起こっていなければジクルはこの時代に転生してくることはない...!

 

「他の奴らもだ!そりゃ改変からだいぶ年月が経ってるから人の生き死にはガラッと変わってて本来の歴史とは似ても似つかないさ!けど、それでもある程度未来はわかるようになってて、誰がどれだけ生きるとかも決まってるんだろ?それを外から来た俺が直接変えるのはダメだろ...!」

 

どうやら神様とやらに、別に死人が出ても問題ないぞとか言われているのだろう。どうも、幸希の考えとはマッチしていないようだが...

 

「改変を出来るだけ元に戻すってんなら、本来転生しないはずだった転生魔法使いたちを殺さないとってのはわかる...けど、そいつらだって生きてても良いだろ!死ななきゃいけない人間なんて...ッ゛、あぁっ...!!」

 

幸希が急に頭を抱えて暴れ出した。

 

……まさか、自分で自分の矛盾に気付いてしまったのか...!今幸希が言ったセリフは、ひとつ前の世界で自身が行った所業を全否定するものだ。使命としてやったがために何も思わなかった何千もの殺人が、今になって無数の後悔として幸希の心を押し潰そうとしている...!

 

どうしてそんなことにいちいち気がついてしまうんだ...なまじ賢いだけに悪い想像をしてしまうのも早い...!すぐ自分で自分を追い詰めてしまうのやめてくれ...!

 

「落ち着け幸希!もう神の声なんて聞かなくて良い!私の声だけ聞け!」

 

「クソッ!クソクソクソ...!俺は、俺は...!」

 

止めようとするが、暴れる幸希を抑えることができない。

 

「俺がこの世界に来なければ...っ!」

 

ピタッと幸希の動きが止まる。

 

「……なぁ、湊...」

 

「な、なんだ...?」

 

「多分、お前なら魔王を倒せるだろ...あと、頼んだわ」

 

幸希はそう言うと銃を引き抜いて自身のこめかみに...!

 

パンッ!!

 

「っ、リトライだ!!」

 

幸希に仕込んでいた魔法を発動させ、時間を巻き戻す。戻せる時間は、死を回避できる可能性がある時間まで...ゆえに、巻き戻る時間はほんの数秒、幸希が銃に手を伸ばす前までだ。

 

時間が巻き戻り、認知時間停止による思考の猶予が与えられる。記憶があるのは私と幸希だけだが、話せるのは私だけ。今のうちに幸希を心変わりさせなければ、また自殺する...!

 

「ま、まず...なんだ、落ち着け」

 

……口下手が過ぎるぞ私!まず私が落ち着け!

 

「幸希は責任感が強いのだな。責任感が強いからこそ、与えられた使命に従うことができる...自分の心を押し殺してでもね。そして、使命に反することをしてしまうとその事実に押し潰されてしまう...」

 

責任感の強さという長所のせいで、幸希はこんなにも苦しんでしまっている。まったく、長所から二つのデメリットが生まれるってどうなっているんだか...

 

「だけれど、幸希は幸希だけの考えも持っている。その考えと使命が相反してしまうからこそ、さらなる苦しみが押し寄せているわけだ」

 

どんな人間であろうと生きていても良いはずだ、死んで良い人間なんているわけがない。そんな理想論に近い考えがあるせいで、使命とのコンフリクトを起こしてしまう。

 

「結論から言おう。今の君はどっちつかずなのさ。使命に忠実に従うわけでもなく、かといって自分の心に従って生きているわけでもない。それぞれが行動の指針として主張し合っているせいで、軸がブレている。それが今の君の状態さ」

 

さて、そろそろ認知時間停止が解かれる。耳を塞がずに私の言葉を聞いてくれていれば良いのだが...

 

リスタート、世界が動き出す。

 

「……なら、俺はどうすれば良いんだよ...」

 

幸希の手は銃に向かって伸びていたが...途中で止まり、声を漏らした。

 

「簡単な選択肢は二つ。一つは、完全に自分の心を塞いでしまって、神様から命じられた使命を忠実にこなすマシーンになる選択肢。そしてもう一つは、我を貫く選択肢。自分の信念に従って動き、使命が間違っていると思うのなら、自分で考えられる最高のハッピーエンドを目指して突き進む...そんな択だ」

 

「二択...か」

 

「前者なら、多分これから一生苦しむことはない。苦しむ心すら捨て去ってしまうのだからな。けれど、それはもう仮谷幸希とは言えないだろう。君を知るものが君を見た時、何を思うかはわからない」

 

「……はは、こんな俺を見たら、あいつらなんて言うかな...」

 

「後者は、おそらく今回の出来事を一生引きずることになる。これからも何度も過ちを犯すかもしれない。けれど、それにははっきりと自我があり、心がある。仮谷幸希としてこれからも生き続けられる...使命に従うだけでは得られなかった、最高の結末を迎えることが出来るかもしれない。もちろん、悪い方向に傾くかもしれないけどね」

 

「……だいぶ、耳触りのいいことを言ってくれるな」

 

「はは、少し卑怯だったか。だが、それで良いのさ。これは、私の我儘だ。幸希にこうなってほしいという我儘で、幸希がこの道を選ばなければならないわけではない」

 

「……」

 

「幸希も少しは我儘を貫いても良いだろう。神は絶対ではない。全て従う必要はない。君が見ている世界は、全て君の手で変えることができる。変えてしまうことを恐れるな。変えなければ、最高の未来は訪れない」

 

どんどん畳み込め。完全な解決には至らなくても良い。少しでも幸希を前向きにさせることができれば...!

 

「……今の俺には、そんなこととても...」

 

「たしかに、今すぐには無理かもしれない。どちらを選ぶにしても、極端に舵を取らなければならないからな。だから、今は答えを出さなくて良い」

 

「今は...?」

 

「しばらく、私の我儘に付き合ってくれ。私の願いである人類の魔法の再建、それを叶えるのを手伝ってくれ。これは、君に与えられた魔王を倒すという使命でもなければ、君が本当にしたいことでもないだろう。けど、だからこそ、良い気晴らしになるはずだ」

 

「湊の、手伝い...」

 

「期限は、君が自分の我儘を通せるようになるまで。そして...自分だけの第三の選択肢を見つけられるまでだ」

 

「第三の...選択肢...?」

 

「ああ。私が言った二つの選択肢をただ選ぶだけじゃ、自分の意思で決めたとは到底言えないからな。そんなもの、神から与えられた使命に従っているのと何も変わらない。君自身の選択を、そして君の我儘を私に見せてくれ。仮谷幸希!」

 

「俺の我儘...か」

 

幸希は額に手を当てて、考え込む。

 

「……わかった。湊の手伝いをするよ。まぁやること自体はこれまでとあまり変わんないんだろうけど...自分の選択肢を見つけてみる」

 

「そうか...決断してくれてありがとう。それと...自殺しようとすることだけはやめてくれ。心臓に悪い」

 

「それはすまない...二度としないと誓うよ」

 

そう言う幸希の目は暗い。まだ完全に本調子に戻ったわけではない...が、なんとか動ける程度には回復したようだ。

 

私はほっと胸を撫で下ろしたのだった。




ついにカリヤくんの心が崩壊しましたが、なんとか回復...しかし、自分の意思が希薄になってしまっています。
よって、しばらくはフォルスの視点で物語を進めていこうと思います。
別キャラ視点を数話続けるのは今までやったことがないので、どんな出来になるかわかりませんがお楽しみに...
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