前回から少し時間が経っています。
「次はどんな町なんだ?」
そう聞いてくる幸希の瞳には光が宿っていない。あれから少々日が経ったが、ずっとこんな調子だ。普段の言動はある程度前と同じくらいには戻ったものの、やはり少しテンションが低いように感じられる。
「調べた限りでは、湖を覆うようにして出来ている町らしい。五百年前にはこんなところに町などなかったのだがな...水はあるが土壌が悪く、不毛の地だとされていたはずだが、科学の力で解決したのか、それとも輸送によって無理矢理解決したのか...」
「へー...なんか、五百年前の知識が役に立ったことあまりないな」
「地理は仕方ないだろう...研究一筋で閉じこもってばかりいたからな」
「魔法の知識も今じゃあんまし使えないけどな」
「随分なこと言ってくれるね...」
「それに、湊って全ての魔法を知ってるわけでもないんだろ?当時の適性的に使えなかったから、詳しく調べなかったのもあるって前言ってたよな」
「ああ。それと、私が転生した後に生まれた魔法も知らん。人類の魔法の消滅と共に文献も失われてしまったから、調べることもできん...」
私が転生してから、最後の魔法世代であるジクルが生きていた時代には二百年ほどの期間がある。その間に生まれた魔法を知る術はほとんど存在しない...普通ならな。
「けれど、私の他にも転生者がいる可能性が出てきたのだから、そいつから聞き出すことは可能なはずだ。嬉しい限りだ」
「まぁ見つけるのは難しいだろうけどな。魔法使いってことがバレないように隠れて過ごしてるだろうし」
……どうも悲観的というか、常に冷めた目線になってしまっているな幸希...もう少し、見かけ上だけでも気分を上げてはくれないものか...そんな資格はないとでも思ってしまっているのだろうな。早く吹っ切れて欲しいものだ。
「……っと、そろそろ町に入りそうだな」
バリケードであったり、固定砲台や機関銃が設置されているのを横目に見ながら歩く。幸希が話してくれた世界だと町の周りには魔物の侵入を拒む壁があるようだが、この世界にはそんな高い壁はない。代わりにこのようなバリケードや固定銃器が町と外の境目の役割を担っている。
「そうだな...」
そう言いながら幸希はローブのフードを被って自身の視界を塞いだ。
あれから幸希は若干の人間不信に陥っている。特に銃を持った人間に少し恐怖を抱くようになってしまっている。
幸希の抱えるトラウマは銃に起因したものが多い。魔物から助けた相手に銃で撃たれて殺されたり、軍に魔物だと疑われて撃たれたり、銃でジクルが殺されるのを見て自身も銃による殺しを行ってしまっている。銃に恐怖心を抱いてしまうのは仕方ないだろう。
また何かされてしまうのではないか、誰かが自分のせいで死んでしまうのではないか、そしてそれを見た自分が何かをしてしまうのではないか...そういった恐怖心がぐるぐるしてしまっているのだろう。
だから、フードで視界を塞ぐ。嫌なものを見ないように、そして嫌な妄想をしてしまわないように。
「……魔力の探知は任せるぞ」
「任せてくれ。守ってほしい時はテレパスを使うから、準備だけはしておいてくれ」
「了解」
幸希は私のそばにピッタリとついて歩いてくれる。正直、ボディーガードならちゃんと周りを見て欲しいものだが...
「……っと、なんだこれは」
町に入り、人とすれ違うことも増えてきたのでそろそろかと思い魔力探知を発動させたのだが...
「どうした?」
「どいつもこいつも、魔力を持っている...だが、この感じは魔丸使用者のそれだ。全員が器を持っているわけではない...しかし、全ての人間が魔丸を使用しているだなんてことあり得るのか...?」
ハッキリ言って異常事態だ。数人ならともかく、町ゆく人全員が魔丸使用者と同じ反応を示しているのだ。その反応はとても微弱なものなため、特有の症状が出ているわけではないようだが...何をどうしたらこうなるんだ?
「いかに流行していたとしても、全員がそうなるのはおかしい...魔物が全員に使うように仕向けているのか...?」
「それか、転生した魔法使いがやっているかだな。魔丸自体は魔法使いにも作れるんだろ?以前は魔法使いが湊しかいないっていうから魔物が作ったものだと断定したわけだが、その前提が崩れた以上その可能性もあるわけだ」
「……否定はできないな。とにかく調査だ。調べないことには何も始まらない」
そう言って私は軽く早歩きで町を移動し始める。
にしても、魔力探知が人だけではなく町や土地そのものにも反応しているのはどういうことなんだ?
幸希には前に説明したが、魔力は自然界に存在しているものではない。動物が生命力を練り上げる際にできる副産物...それが魔力だ。よって、自然物であったり建造物に魔力が宿ることは基本的にはない。宵闇という現象も、魔物や魔王が意図的に雲に魔力を流し込むことによって生まれており、自然発生したものでは決してない。
よって、その理論でいうと町の建造物や土地に魔力探知の反応が返ってくること自体おかしいのだ。魔物か、それとも転生した魔法使いか...そのどちらかが意図的に魔力を流し込んでいることになる。どちらがやったにせよ、どういう意図でやったのか見当もつかないな。
「……っ、魔力探知がまるで機能しない...!」
周囲の全てから同じような反応が返ってくるため何も意味がない。これでは魔法使いないしは魔物が隠れていたとしても、その他大勢の反応に紛れてしまう恐れがあるな...
「なら調査は足で歩いて生で見るしかないな。危険物危険人物が近づいてこないかだけ魔法で探知すれば良い」
「そんなことを言うのなら幸希もちゃんと見てほしいものだがね...」
あれこれ言ってはみるが、今の幸希に辺りを見渡せるのは危険だからさせられない。実質的に私一人で調査をすることになるな...
ひとまず、町の外周をぐるりと回るように歩く。初めて来た町ゆえ土地勘がまるでないので、渦巻き状に歩いて少しずつ内側へと向かうことで、全ての場所を確実に巡ることができるように...
「……そうか、川があるのだった...」
歩いていたら町の中央にある湖から外に流れ出る川にぶち当たった。こうなることを完全に忘れていた...暗渠にしてしまえばいいものを、普通に川を露出させているがために渡ることができない。橋は...少し離れたところにある大きめの通りにしかないのか。少々不便だな...
「川にも魔力が染み込んでいるな...流れ出た先で何か問題が起こっていなければ良いのだが...」
川の下流の方向を見ると、そこには大量の固定銃器が設置されていた。川の魔力に引き寄せられた魔物を倒すため...か?なぜ魔物が集まってくるのかはわからないものの、とりあえず対処だけはしていることが見て取れる。
「……なぁ、湖のほうに行ってみないか?」
と、急に幸希がそんなことを言い出した。
「ほう、どうしてだ?」
「この川に魔力が染み込んでるってことは、上流の湖もそうである可能性が高い。そのまた上流の川も魔力汚染されてるってんなら原因は町の外だし、そうじゃないなら原因が湖付近にあるとわかる。町をぐるりと回るよりも効率的だろ?」
「そう...だな。そうするとしよう」
こんな状態でも頭はしっかりと回っているな...いや、逆に私の頭があまり回っていないのか?
久しぶりにこの量の他者の魔力に当てられて、無意識のうちに消耗してしまっているのかもしれない。いわばこの町は、魔力を流している者の独擅場。他の魔法使いを拒むその者だけの世界と言っても良い。魔物はお構いなしに魔力に惹かれて寄ってくるものの、魔法使いならその場にいるだけで消耗し魔力を削られてしまう。まぁ私は魔力生成が恐ろしく早いからこれだけの症状で済んでいるのだろうな...
「……大丈夫か?少し疲れた顔してるように見えるが」
「問題ない。周囲の魔力が多すぎて驚いているだけさ。時期に慣れる」
人の心配は二の次で自分の心配をして欲しいものなんだがなぁ...やはり、幸希はどこか自身よりも他者を優先する傾向があるようだ。身を挺して私を守る、といった行動に出ないか少し心配だ...
「というか、なんか妙に乾燥しているよな。湖とか川の近くだってのに全然湿気がないというか...」
そう呟きながら幸希は自身の水筒を開けて水を飲む。
「確かに水辺にしては乾燥しているようだ。元々水質が悪かったのもあるが、魔力を含んでしまっているせいもあるかもな。蒸発しにくくなってしまっているか、それとも魔力同士引かれあってすぐに地面に染みてしまうのか...」
「お陰ですぐに喉がカラカラになる...そんで水飲み切っちゃった。どこかで補給しないとな...っと、良いところに給水器あるじゃん。流石現代チックな世界」
そう言いながら幸希は、視界に入った給水器に近づく...が、直前で水を汲もうとしたその手を止める。
「……ん?この水って湖から汲んでるのかな?水質悪いって言ってたけどちゃんと濾過されてる...?あと魔力汚染大丈夫か?」
「……ダメだ。汲まない方が良い」
魔力探知をかけると、給水器に供給されている水から反応が返ってきた。魔力を保有できる器を持っていない幸希は飲まない方がいいだろう。他者の魔力は魂の魔力の器に入るわけではないが、元の器が小さいほど他者の魔力によって起こる魔力過剰症が酷くなる傾向があるからな。
「……なるほど、そうか。水なのか」
「どうしたんだ?」
「この町の至る所から魔力の反応が返ってきたのは、町全体に供給されている水に魔力が含まれていたからだ。そして、その水を飲んだ人間は魔力を取り込むことになる...それが、全ての人に微弱な魔力を感じた理由だ」
「なるほど、その方法なら全員から魔力を感じるってのも納得だな。にしても、度し難いな...やってること、水に毒流してるのと何ら変わらないじゃねぇか」
「そうだな。いち早く元凶をとっちめて、魔力汚染を除去しなければな」
少し駆け足気味に歩き、湖へと向かう。
大通りの横断歩道を渡って橋の横を通り、川沿いをひたすら歩き続ける。湖に近づくにつれて、少しずつ川に含まれる魔力が微量ながら増えているな...
「……っ、つけられている...?」
橋の横を通り過ぎたあたりからだろうか、後ろから付かず離れずの距離でついてくる者たちがいることに魔法で気付いた。意図的に歩幅を変えるなどして歩く速度を変えてみるものの、同じような距離を保ってついてくる。どう考えても、偶然進行方向が同じだというわけではなさそうだ。
「また誘拐犯かなんかか?」
「わからない。だが、なんにせよ白昼堂々道のど真ん中で襲いかかってくることはないだろう。警戒だけしてこのまま進むぞ」
「……わかった」
私も最大限の警戒を背後に向けておく。魔力で満ちたこの町の中では、どんな場所であっても実銃を使うことができる。弾丸くらいならいつでも弾くことができるように準備は欠かさない。
「っと、見えてきたな。あれが湖だ」
緩やかな上り坂を登り切ると、ようやく湖が見えてきた。
「前と比べるとだいぶ水の色が澄んでいるな...魔力で汚染されていなければ最高だったのだが」
「なぁ、あの湖の中心にある島はなんだ?」
「島...?そんなもの地図には無かったはずだが...」
「そこは領主様の宅であり町の水質を管理する施設でございます」
「っ⁉︎」
何者かにいつのまにか背後に立たれており、私たちはすぐさまその場を飛び退いた。
「それゆえ、安全保障上の理由から地図には記載されておりません」
「何者だテメェ...」
幸希は槍を手にしながら不審人物二人に声をかける。
「領主様からお二人を迎え入れるようにと言伝を承っております。私どもについて来てください」
「……断るね。何されるかわからねぇのにホイホイついていく馬鹿がどこにいるんだよ」
「それは困りましたね...でしたら、領主様から承った魔法の言葉を伝える他ない」
魔法の言葉...何かの魔法を発動させる気か?
「フォルス...この言葉に何の意味があるのかは分かりませんが、どうですか?」
なんだ、魔法ではないのか...にしても、なぜ私の名前を?この程度の魔力量ではフォルスの強制認知は発動しないからそれが原因ではない。領主とやらが私のことに気づいていると、そうアピールしたいのか...
「……なんのことかさっぱりわからねぇな。ほら、行くぞ」
「いや、待て」
しらを切ってその場を離れようとする幸希を止める。テレパスで私の考えを伝えておくとしよう...
私の名前を出したということは、領主とやらは確実にフォルスの強制認知の効果を受けているはずだ。ということは、一定以上の魔力を保有していることに他ならない。そして、それが魔法使いならば湖に魔力を流している張本人である可能性が高い。自ら招いてくれたのだから、断らずに受けた方が楽に事が進むと思わないか?
『……なるほど。水質管理の施設でもあるとか言ってたし、湖に魔力を流すにはうってつけの場所にいる領主は犯人候補第一位か。だが、誘いに乗って乗り込むのは危険すぎやしないか?』
領主は魔法使いの可能性が高い。ならば、魔法を使うことに遠慮はいらない。危なくなれば魔法を使えば良いだけさ。
『……わかった。一応、嬉々として乗り込むとこちらの狙いがバレるかもしれないから渋々要求を飲んだように見せかけてくれ』
わかった。このまま演技に移るぞ。
「その言葉の意味は分かりかねるが、その言葉を伝えれば私たちは必ず来るなどという考えには興味がある。行ってみても良いんじゃないかな」
「……お前がそう言うなら良いけどよ」
「了承してくださったようで何より。それではついてきてください。領主様のもとにご案内いたします」
そう言って歩き出した男たちの後ろを、私たちはついていくのだった。
しばらく歩き、橋を渡り、地下に潜って地下道をまたしばらく歩いたら、階段を登って屋外に出る。気づけば、私たちは湖の中心にある島の中にいた。
「初めはてっきり船で向かうのかと思っていたが、まさか地下が繋がっているとはね...」
「船では密航の恐れがありますゆえ、このような道を唯一の出入り口として厳重に警備することで安全を確保しております。船着場を造らず全面崖にすることで、泳ぎでの立ち入りも防いでおります」
「ふむ、出入りはここからしか無理と...」
「ええ、その通りでございます」
やけに強調しているな。暗に、領主が帰すように言わなければ一生私たちをこの島からは出さないぞと脅しているようだ。出入り口はここにしかない。逃げ出すことは不可能だと告げている。まぁ、魔法で転移をしたり空を飛ぶなどすれば容易に脱出自体は出来るのだがな...
「領主様はこの屋敷の中におります。御一人で話がしたいとのことでしたので、私どもはここで失礼させていただきます」
そう言うと、男たちは地下道へと戻っていった。
「あの言葉を信じるのならば、この屋敷の中には私たちを含めて三人だけ...気兼ねなく魔法を使えるな」
「使わないで済むならそれに越したことはないがな。じゃあ、入るぞ」
幸希が先導して屋敷の中に入る。
……ふむ、見たところ特に何も変わったところはない、普通のお屋敷だ。魔法で罠が仕掛けられている形跡も無い...か。
「だが、魔力が濃いな...確実に魔法使いがいるな。この魔力は魔物のものでは決してない」
「魔力が濃いとかわかるものなのか...俺にはさっぱりだ。あと、魔力過剰症とか大丈夫かな...」
「この感覚は魔法使いでないとわからないだろうな。それと、空気中に散布された魔力は吸い込んだところでそのまま呼気と共に吐き戻されるから問題はない。液状、もしくは固体の魔力でしか体内には取り込まれないさ」
「なるほどそれなら良かった...」
まぁ、それは身体に取り込まれないという話であって、魔法使いにとってはこの魔力で満たされた空気は少しばかり苦痛なのだがね...肌や肺がピリピリと痛む。私自身の魔力と空気中の魔力が干渉しているためだ。我慢できなくはないが、久方ぶりの感覚ゆえ耐えるのは困難だな。
「おそらく、魔力の主はあの部屋にいる。行くぞ」
「了解」
幸希が部屋の扉を開ける。
「やぁやぁ、よく来てくださったね。大賢者フォルスと、その護衛さん」
部屋の奥にポツンと置かれている椅子に腰掛けている女が、私たちに向けて声をかけてきた。
「まずは座ると良い」
女はそう言うと、周囲の魔力が集まって椅子が二つ生成された。魔力から直接物質を生成する魔法か...かなり非効率な魔法を使うのだな。
「どこの誰だかは知らないけれど、随分とまぁ軽率に魔法を使ってみせるものだな。私はともかく、護衛が魔物だと勘違いして襲っていたらどうするつもりだい?」
私はそう言いながら生成された椅子に座り込む。
「その護衛の持ち物に魔物の魔力器官があるな?それを持っていて魔法使いの存在を知らないわけがない。それに、そのような考えを持つ者を護衛にするわけがない」
「なるほど、それもそうだな」
魔力を散布して自らの世界を作り出した魔法使いには、自身の世界に入り込んだ魔力を認識することができる。それよって、私が町に来たことや幸希の持つ魔物の魔力器官に気付くことができたのだろう。
「おい、俺らはお前のことを何も知らないんだ。話を始める前に、まずは名前くらい名乗ったらどうだ?」
「おっとすまない。早く本題に入ろうとしていて忘れてしまっていた。私の名前は谷戸美月という。前世の名は霧市翔で、魔法使いとしての名はクルイガだ」
「……前世は男か?」
「ああ、君と同じだな」
『……なぁ、転生魔法って必ず異性として生まれ変わるようになってたりするのか?』
いや、そんなことないはずなんだが...偶然なのかそれとも意図せずそうなってしまっているのかわからないな。調べる必要があるか...
「君たちの名前も聞いて構わないかな?本名を言いたくなければそれでも構わないが、魔法使いとしての名くらいは教えてくれ」
「既にわかっているだろうが、私はフォルス。名は伏せさせてもらおう」
「そうか、なら君は?」
「俺は仮谷幸希。魔法使いではない」
「おっと、そうなのか。フォルスと共にいるのだから、魔力を生み出せない身体に生まれてしまった魔法使いだとばかり思っていたよ」
「だからフォルスだけでなく俺まで呼んだのか...」
「私は同じ魔法使いと話がしたくてここに呼んだ。魔法使いでないのなら、別に帰ってもらっても構わない。残りたいのならそれでも良いけどね」
「それなら残らせてもらおうか。こっちにはあんたに聞きたいことがあるからな」
「なんだい?」
「単刀直入に聞こうか。この湖に魔力を流し、町中に魔力混じりの水を供給しているのはなぜだ?」
「……君たちは、人類から魔法が失われたことをどう思っている?」
「質問を質問で返さないでほしいんだが...別に良いんじゃね?そのおかげで科学が発展したんだし。ま、ありゃ便利ってのは否定しないが」
「私としては極めて不快だね。人類の叡智が全て消えたも同然だからな」
「そうか...私は、フォルスの意見にほぼほぼ同意だ。魔法が失われたことは大きな痛手...ゆえに、取り戻す必要がある。だが、それをなすには障害があまりにも多すぎる...」
「そもそも器を持つ人間がほぼいないんだ。それが最大の障害にして、魔法を復活させる上での最低条件。少しでも器を持つ人間を育成し、長い時間をかけなければ魔法の復活は不可能だ」
「それでは遅すぎる。何百年もかけていられないのでな。もっと手っ取り早い方法でことを解決する必要がある。例えば...魔力を分け与えて慣れさせる、とかな」
「魔力を流したのは、人への魔力の適合を促すため...そう言いたいのか。だが、その方法では器は育たないことは、私が生きていた五百年前にはすでに立証されている。悪戯に魔力過剰症を引き起こすだけ...今すぐやめろ」
「そんなことは知っているさ。目的はそこじゃない。他者の魔力で魔法を使う、そんな魔法の在り方を作り出すのさ。そうすることで、地道に魔法は魔物が使うものという認識を改めさせる」
「ふむ、もっともらしい説明をするもんだ。だが、一つ欠けていることがある」
「ほう、なにかな?」
「同意さ。町の人の様子を見た限り、僅かに感じる体調不良に違和感を覚えているようだった。君、何の説明もせずにやっているだろう?そんなことでは、偶然魔法を発動させてしまった人が排除されるだなんてことが起こりかねない」
そう言うと、クルイガはムッとした表情を浮かべる。
「あと、さっきの形式では魔力を分け与える存在に依存した関係性が成り立つ。そのような魔法体系では、クルイガだけが力を持つ社会構造の出来上がりさ。魔法を復活させるには、その方法では問題があるだろうね」
「……大賢者の意見は大いに参考になるな。だが、私は私の方法を貫かせてもらう。止めるつもりはない」
「そうか...それは困ったな。君が失敗するのをこのまま見過ごすわけにはいかない。失敗すれば、ますます魔法への印象が悪化してしまうだろうからな」
「ほう...ならばどうする?力づくでも止めにかかるか?...私の世界の中で、私以外の魔法使いが出しゃばれると思うなよ」
ぐっ...⁉︎椅子が消えて、地面に押し付けられ...!空気中の魔力を操っているのか...!
「っ、お前...!」
幸希が槍を手にして立ち上がる。
「俺の大事な相棒を傷つけやがったな...!」
「魔法使いでもない者が、私に叶うとでも?」
「テメェを潰す。嫌なら今すぐに謝罪して魔力汚染も止めるんだな!」
目に怒りを宿した幸希は、クルイガに飛びかかるのだった。
次回はカリヤくんの戦闘ですが、視点はフォルス視点になります。