VSクルイガです。
「テメェを潰す。嫌なら今すぐに謝罪して魔力汚染も止めるんだな!」
そう言いながら幸希はクルイガに飛びかかった。
「いきなり襲いかかってくるとは野蛮だな」
クルイガは空気中の魔力で魔法を発動させ、空中に盾を生み出すことで幸希の槍から身を守る。
「先に矛を向けたのはテメェだぞ。泣いて詫びろ。そして殺されないことに感謝しな」
マズイな、だいぶ怒りに飲み込まれてしまっている。私に危害を加えられたことがそこまで気に触るとは...実力で黙らせることに反対はしない。だけど、このまま怒りのままにやっていては出来るものも出来なくなる...!
私がサポートしてやりたいところだけど、魔力で押さえつけられているから動けないし、魔法を使うことも難しい...
というか、魔力で押さえつけるってなんだ⁉︎体外に魔力を放出するのは、基本自分が有利になる空間を作ることでしかしない行為だ。放出した魔力で魔法を編むことは不可能ではないけど難しいし、放出した魔力をそのまま操ることはもっと難しい。
一応、私を押さえつけているのは、私の魔力と空気中の魔力を反発させているという理屈で説明することはできなくもない。幸希を私と同じようにして動きを封じないのは、幸希に魔力がないからというふうに理由付けもできる。
けれど、そのようにして体外に出した魔力を扱うこと自体非常に困難なことだ。それをいとも容易くやってのける...このクルイガという魔法使いは何者だ?
幸希が槍で攻撃し、その攻撃を防ぐクルイガの動きをよく観察する。純粋にどうやって魔力を操っているのかが気になって仕方がない...
……ん?
今気がついたが、魔力量どうなっているんだ?扱っている魔力の量と、魂の魔力の器の許容量との間にあまりにも大きな差があるように見える。許容量に比べて魔力量が多すぎる...それなのに、クルイガの体内魔力量が常に変わっていない?空気中の魔力量はどんどん増えているというのに⁉︎
……そうか、奴は、転生前の私と逆なんだ。魔力許容量は少ないのに、生産魔力量は多いがために魔力過剰症になりやすい体質...それを回避するために、余分な量を体外に放出しているんだ。そして、そんな生活を大人になるまで続けていたから体外に放出した魔力を操作する術も手に入れたと...
はは、それならあんな魔法体系を思いつき、そして実行したことにも納得だ。あれには、魔力を与える側の権力が高すぎてしまうという問題の他に、どうやって必要量の魔力を与えるかという問題があった。なまじ後者が解決できてしまっているがために、それが最適だと考えて実行に移してしまったのだろう。
……なんとしてでもクルイガを止めなければ。この方法ではダメだというのもそうだが、クルイガの置かれている状況は私の目指す解決法のモデルケースであるため、是非とも仲間にして協力を得たい...!
「こ、うき...!」
声を出せ。魔法が使えないなら、その場から動けないのなら、せめて声だけでも届けろ...!
「来い...!」
槍と盾の激突音が鳴り響く中、私の声が微かに響く...が、流石に届かないか...?
「っ!」
幸希は槍を振り回しながら跳び上がると、それに合わせるようにしてクルイガは盾を生成する。しかし、幸希は槍を振るわなかった。生成されて空間に固定されている盾に足をつけると、勢いよく蹴り飛ばして私の方まで跳んできた。
「なんだ?」
「聞こえ...たのか...」
この現象について、最近の研究論文で読んだ記憶がある。カクテルパーティー現象だったか...自分に関する情報は騒がしい環境でも自然と耳に入るらしい。そのおかげで、私が出したあんなか細い声でも幸希の耳に届いたようだ。
「私の力を...使え...!まずはテレパスだ...!」
「……やりたかねぇが、やるしかあいつをぶちのめすのは無理か...」
幸希はそう言いながらバチンと自分の頬を叩いた。そして槍を手にして...
ごめん
と微かな声で呟くと槍を私の背中に叩きつけた。
「んぐっ...!」
「……何をやっているんだ...?なんにせよ、ただの人間風情が魔法使いに危害を加えるなど言語道断!!」
空気中に漂う魔力が結合し、大量の槍が生み出される。それらの穂先は幸希の方向を向いており、その身体を貫かんと飛翔する。
それを見た幸希は私を巻き込まないようにと横っ飛びして私から離れる。飛翔する槍は幸希の動きについていくようにその軌道を変え、風穴を開けるために突き進む。
……っ、この感覚...私の魔力が持っていかれる...!
次の瞬間、幸希の周囲に透明な壁が作り出されて槍を受け止めた。
「なっ...魔法...だと⁉︎魔力ゼロのただの人間がどうして...!」
「……なぁ...お前、うっすら自分以外の全ての人間を見下してるだろ。そして、魔法使い以外は底辺のように思っている...違うか?でなきゃ、ただの人間風情だなんて言葉が咄嗟に出てくるわけねぇ」
幸希は作り出した壁から炎を噴き出させてクルイガが作り出した槍を燃やし尽くすと、そのままゆっくりと槍を引き摺りながらクルイガに近づいていく。
……テレパスで話しかけて欲しかったのに勝手に行っちゃったよ...だが、幸希ならクルイガの魔力に包まれたこの空間内でも通常通り魔法を使えるようなので、それは良かった。けど、話はちゃんとしようよ...!
「だからこそ、容赦なく人を傷つける選択をできる。全て自分の思い通りになると思っている。自分の選択が正解だと確信していて、それが誤りだと指摘されても間違っているのは周りの方だと思い込んでいる...」
「はっ、説教か?どんな理屈で魔法を使っているかは知らんが、結局お前は魔法使いではなく人間だ。魔法が使えない者どもが私に意見するなど、不敬と言っても良いくらいのことだと肝に銘じておけ」
クルイガの体が椅子ごと真上に垂直に動き出す。魔力を操って生み出した椅子を持ち上げたのか...?
「どんな魔法を使えようとも、この空間を支配する私に適うはずがない!」
「へぇ、空間を操るってのがどんななのか知らんし興味もないが...見たところ、閉鎖空間であることに意味があるように見えるな」
幸希はそう言いながら私の魔力を奪い取って魔法を練り上げていく。
「なら、天井をぶち抜くまでだ」
特大の光線を幸希は真上に向けて放った。クルイガはその光線を散らそうとするも間に合わず、天井をぶち抜いて空高くまで飛んでいく。
そしてすぐさま真下から上に向けて暴風が吹き荒れた。この部屋の中に溜まった魔力を外に追い出してやろうというわけか...怒っているはずなのに戦い方はだいぶクレバーだな...
「これでお前の守りはだいぶ剥がせたか...な!」
身体強化の魔法を発動させたのだろう、瞬く間に加速しながら跳躍し幸希はクルイガに肉薄する。クルイガは体内の魔力を放出して盾を生み出したが、幸希はその動きに即座に反応して動きを変え、盾と盾の隙間を縫うように槍を突き刺しクルイガに叩き込んだ。
クルイガは口から血を吐きながら後ろに倒れ込み椅子から落下、そのまま地面に激突する。
……だろう、と曖昧な表現になっているのは私の魔力を使った魔法ではないからだ。おそらく魔物の魔力器官の魔力を使って身体強化を発動させたのだろうが...私の魔力を温存する意味はあるのか?湯水のように湧き出してくるからどんどん使っても構わないのだが。なんなら、使って減らしてくれた方が、私の拘束が弱まって動きやすくなるのだが...
なんにせよ、幸希が攻撃を当ててくれた。今の攻撃による傷は浅いだろうが、幸希の能力である模倣の傷が発動可能になる。どんなに小さくとも、魔力を操れるようになれれば...
「……へぇ、そうやって放出した魔力を操って物を生み出していたわけか。そんで、魔力生成速度が異常だな。換気して魔力を排除しても、生み出した側から魔力を放出すればこれまで通りの魔力運用が出来る...と」
「っ...なぜそれを...!」
模倣の傷の副次的効果により、幸希はクルイガの扱える魔法全ての知識を得た。そして、魔力とつながったことによりその異常な魔力生成速度や魔力運用方法にも気付いたようだ。
「なぁお前、俺のことをただの人間と言ったな。そんで、魔法使いの俺は上の存在だからただの人間如きに負けるわけないとか、そんなこと考えてるんだろ?」
着地した幸希はゆっくりクルイガに近づく。
「だが、残念だったな。俺はただの人間じゃない。異世界からの来訪者であり、神から力を貸し与えられた神の使いであり、体内に魔王を住まわせた半人外であり...数千の人間を殺した殺人鬼だ」
そう幸希が言い放った瞬間だった。
「……え?」
微かな違和感、そして私の魔力がごっそり減っていた。それと同時にクルイガの魔力がゼロになっていた。
「お前...この私を...!」
クルイガは頭の辺りを押さえながら立ち上がる。その目は怨嗟に包まれているように感じた。
「よくも殺したな...!!」
……っ、そうか。クルイガの魔力がゼロになったのは、リトライの魔法のデメリットのせいか...!相手を一度殺してリトライの魔法を使えば、時間を戻しながら相手の魔力を枯渇させることができる。一瞬にして私の魔力が減少したのも、リトライの魔法を使用して時間が巻き戻ったから...!
「……っ!生き返らせたことを後悔するんだな!」
幸希がクルイガの目を見ても一切怯まずにいたせいか、クルイガはさらに激昂して魔力を操り出す。クルイガの魔力生成速度は異常であり、一度魔力がゼロになったものの少ししただけで魔法を使えるようになっていた。元々空間に放出していた魔力はリトライのデメリットの効果を受けておらず残存しているので、その魔力も活用して幸希に襲い掛かる。
だが...
「無駄だ」
クルイガが操ろうとした魔力は幸希に奪われ、魔法で生み出された槍がクルイガを取り囲む。
「お前が抵抗するならこっちは何度でも殺して時を巻き戻す。お前みたいな奴なら不思議と心が痛まねぇ。本気で何度でも殺してやるよ」
ちょっ...どうしてそうなった⁉︎どういう心境の変化が起これば数日前のあの状態からこの方向に舵を切れるんだ⁉︎どうするかは幸希の自由にさせるつもりだったけど、こうなるのは想定外だ...体が動くなら今すぐにでも止めに行くのに...!
「まぁ、本当に死ぬわけじゃねぇから、耐えれると思うのなら耐えるが良いさ。けど、この魔力はフォルスのものでな。フォルスが魔力切れを起こせば巻き戻しも出来なくなる。いつそうなるかは俺にはわかるがお前にはわからない...さて、始めるとするか」
ちょっと待てちょっと待て!発動できてもあともう一回が限度だぞ⁉︎というかそうか、途中で魔物の魔力での魔法発動を挟んでいたのは、私の魔力をリトライ用に温存するため...⁉︎
「く...くそっ、わかったよ!全て謝る!魔力を流すのもやめる!それで良いんだろ⁉︎」
「よろしい」
幸希はそう呟くと、向けていた槍を消しながらクルイガの首に触れた。私の魔力がそこに流れ込む。
「今の言葉、言質をしっかり取らせてもらった。従わなければ...わかっているな?」
今の魔法は...簡易的な隷属魔法か?命令違反を起こせば苦痛を与える紋様を相手に刻み込む魔法...それを使って、魔力を町に流せば苦痛が襲うようにしたというわけか。
……そうか、幸希はそういう方向に完全に舵を切ってしまったんだな...目的を叶えるためなら人を傷つけることをも厭わない。人を殺すことさえも...ただし、生き返らせることができて尚且つ悪人限定という条件がありそうなのはまだ良かったのかもしれない。
けれど、これがさらに悪化してしまったらどうなる?取り返しのつかないところまで幸希の精神が変貌してしまったら、どうする?
……研究尽くしで人生経験に乏しい私では、もはやどうしようもないのかもしれない。こんな時にどうにかできる者がいるとすれば...友という存在なのだろうな。出会って日の浅い私では難しいが、苦楽を共にできる友に出会うことができれば、もしくはそんな友と再会することができれば、不安定と化した幸希の精神を落ち着かせることができるだろう。だが、そんな者とこの世界で会えるかどうか...
「……クソッ、ただ魔法使いと話したかっただけだというのに、どうしてこんなことに...」
「お前の用件マジでそれだけだったのか...悪いが、こっちは最初から魔力汚染を止めるのが目的でな。すんなりいくとは最初から思ってないから殴り倒すの前提で考えてたわ」
「野蛮人め...」
「ってか、さっさとみな...フォルスの拘束を解け。いつまで抑えとくつもりだ」
「そんなもの、とっくに外しているよ」
「……おっとすまない。考え事をしていて気付かなかった...」
いつのまに...もしかしたら、リトライの辺りからもう拘束は無かったのかも...?ともかく、自由に動けるようになったのでひとまず立ち上がる。
「とりあえず、こちらの用件は終わらせたわけだが...そうだ、一つ聞いておこう。この町には、他に魔力を持つ者はいないな?魔物や魔法使い...いたら君には分かるはずだ」
「いない。今のこの町には私の魔力と君の魔力しか感じ取れない」
「そうか」
それならこの町にはもう用事はないな。用があるのはクルイガに対してのみだ。私の方法での魔法復活に協力してもらおう。
……だが、生き返ったとはいえ一度殺してしまったというのに何の見返りも与えずに利用するというのは忍びない。まずはクルイガの所望する魔法使い同士の対話をして、良い感じの話題に入ったらそれとなく告げてみることにしよう。
「それなら...私と話をしたいと言っていたね。この町にはもう用がないから少しくらいなら話に付き合っても良い」
「それは本当かい⁉︎」
見るからにテンションが上がったな。幸希もこれくらいになってくれたら良いのだが...
「……俺がいると話しにくいだろ。護衛だからこの部屋を出るわけにはいかないが、視界には入らないようにしてやるさ」
幸希はそう言うと、クルイガの視界に入らない後方側の壁際に寄りかかる。
「後方に立たれるのもそれはそれで気になるのだが...まぁ良い。それでは話を...っ⁉︎」
クルイガの表情が一瞬にして驚愕へと変わり、左上の方向を凝視し出した。
「どうした、何があった?」
「魔物がものすごい速さで町に入ってきた...!このまま突っ込んでくるつもりか⁉︎」
クルイガがそう叫んだ瞬間だった。壁を突き破って魔物が屋敷の中に入ってきた。魔法を発動させ、飛んできた瓦礫を弾き飛ばす。
「……っ、幸希!無事か⁉︎」
幸希によって既に天井が崩壊していたところで壁一面が崩壊...建物の強度が足りなくなり全てが倒壊し出した。幸希は壁に寄りかかっていたため、巻き込まれている可能性が...
「問題ない」
……流石に大丈夫だったか。
「にしても...なんだ?この始祖鳥みたいな魔物。クルイガの口ぶりからして真っ先にここに来たようだが...何が目的だ?」
魔物は屋敷に押し入っては来たものの、暴れるようなことはしなかった。じっくりと辺りを見渡し、私たちを観察しているようだった。
「なんだこれ...魔物にもう一種の魔力...?」
クルイガがポツリと呟く。どういうことかと思い私も魔力探知を発動すると、確かに魔物の持つ魔力の他にもう一種何者かの魔力を感じ取ることができた。この魔力の感じは...
「傀儡魔法...!別の魔物ないしは魔法使いがこの魔物を操っている!通常の魔物とは全くの別の動きをするぞ気をつけろ!」
この種族の魔物は少しばかり頭が悪い。単調な動きしかしないから普通なら倒すことは簡単だ。
しかし、何者かの傀儡ならば話は別。全くの別の動きをすることで翻弄してくるだろう。自分の中の常識を捨てなければ、蹂躙されて終わり...
「通常を知らないから何も関係ねぇわ。とりあえずぶっ倒せばそれで良いよな!!」
そう言いながら幸希は駆け出す。この世界の魔物の知識が浅い幸希は、全てが初戦のようなもの。いつもと何も変わらずに戦うことができる...!
「クルイガはこっちに来い。戦闘は幸希に任せるぞ」
「わ、わかった」
傀儡魔法の使い手があの魔物がここに寄越した理由は完璧にはわからないが、おそらくフォルスか私を狙ってのことだろう。どちらかわからない以上、固まって守りやすくした方が得策なはずだ。
「オラァッ!...くふっ⁉︎」
槍を振り回し、魔物の頬に叩き込む...そうした次の瞬間、幸希の身体が真横に吹き飛んだ。
「いったぁ...攻撃反射系の魔法か...?」
幸希は空中で体勢を立て直すとそのまま地面を滑るようにして着地しながら頬をさすった。受けたダメージをそのまま攻撃者に返す魔法...?にしては、魔物のダメージが少ないな。受けるはずのダメージの一部を肩代わりさせるといったほうが正しいか。
「けど、ダメージはある...!模倣の傷で...ってこいつ魔法持ってねぇ⁉︎」
なるほどじゃああの魔法は傀儡魔法の使い手が予めかけていた魔法か...!
「それなら魔法で...!」
幸希が私の魔力を吸い取って魔法を発動させようとする。そういえば傷を治していなかったな...
「づっ...⁉︎」
幸希は苦悶の表情を浮かべながら頭を押さえた。何かの魔法を受けた...?いや、違う!幸希は私に模倣の傷を使うと、魔法の知識量が膨大であるがために脳が疲労してしまう。その影響が今になって訪れたのか...!
「んなっ⁉︎」
魔物...いや、それを操っている者はその隙を見逃さなかった。幸希を的確に蹴り抜き、崩れた建物の壁の向こう側へと吹き飛ばす。
……その次の瞬間、魔物の足が切り落とされた。幸希の使った魔法によるものだろう。蹴りの瞬間を見ていたが、なんとか防御と攻撃を紙一重のところで行えていたらしい。しかし...
「っ、離れすぎたか!」
幸希が遠くまで吹き飛ばされたことで、幸希との魔力の接続が途切れた。今のこの傷では二、三十メートルが限界か...!というか、まずくないか?おそらく今の魔法による斬撃も幸希に一部が反射されたはずだ。そして、幸希は回復魔法を持つ魔物の魔力器官を持っていない...急いで助けにいかなければ!
「クルイガ、戦えるか?」
クルイガの傷を魔法で癒しながら問う。
「まともに使えそうなのは魔力の物質化くらいだ。武器ならいくらでも作ってやれるが、この魔力量ではそれも...」
そうか、幸希のリトライで魔力が一度ゼロになっているから...あれから多少は魔力を生成しただろうが、建物を崩されてしまったため閉鎖空間内に魔力を溜め込むクルイガの戦法は使えない。
私が戦うしかないが...私も私で、幸希の魔法行使によってだいぶ魔力が削られてしまっている。おそらく、物理攻撃よりかは精度が落ちるものの魔法でも攻撃反射は機能するだろう。反射による傷を癒しながら攻撃...魔力が尽きることはないにせよ、耐え忍ぶのが限界で倒すのは難しいはずだ。けれど、それで十分。耐えながら幸希の元まで下がり、まずは幸希の傷を治して体勢を立て直す...!
「攻撃は私が捌き切る。まずは幸希のもとまで下がるぞ」
そう言いながら先に私が一歩下がった、その時だった。
「了k
魔物の姿が一瞬にして消え、クルイガの返事が途切れた。そして暴風が吹き荒れる...まるで、超高速で動く物体が私のすぐそばを通り抜けたかのような風だった。
横を向く。そこには、残っている方の足でガッチリと魔物に捕縛されたクルイガの姿があった。
超高速移動...忘れていた、魔物がこの建物を破壊するほどの速度で飛んできたことを...!
グェー!!と鳴き声を鳴らしながら魔物は飛び立とうとした。今からあの魔物を止める手段は...
「っ、今はこうするしかないか...!」
魔力で弾丸の形を形成し、魔物に撃ち込む。その攻撃の一部が私に跳ね返ってくるものの、私自身の魔力なので特に問題は無し。
そこから先は何もできない。私は、クルイガを攫いどこかへ飛んでいく魔物をただ見つめることしかできなかった。
「撃ち込んだ魔力で後から追うことはできる...今は幸希の治療が先!」
急いで幸希が吹き飛ばされた方向に走る。幸希を回収して治療を施したらすぐに魔物を追うぞ...!
「……っ、繋がった!」
幸希の能力の範囲内に入ったようで、幸希と魔力が再接続される。傷を治さずに放置した甲斐があった。すぐさま魔力が引き抜かれ始めたので、おそらく治癒の魔法を使っているのだろう。
「幸希!すぐに出発だ!クルイガが攫われたから魔物を追うぞ!」
「り、りょーかい...」
私が大声を出して呼びかけると右の方で、倒れていた幸希がむくりと起き上がった。私はその手を掴むと、すぐさま飛行魔法を発動させて魔物の後を追いかけ始める。
「クソっ、だいぶ面倒な魔法が仕込まれてやがるな...魔法拡散が使えれば良かったんだがな...」
幸希がボヤく。魔法拡散...たしか、最初に幸希が行った世界の魔法で、その領域内の、発動者以外の魔法を魔力に分解して無効化するものだったか。
確かに、それがあれば話は早かっただろう。しかし、現時点で魔法を無効化する魔法は見つかっていない。どれだけの研究を重ねようとも、その魔法を構築することは叶わなかった。
けれど、そんな魔法があれば...だなんてことを考える暇はない。今ある手数であの魔物を倒すしかない。
うんうんと頭を働かせながら、魔物の後を追うことが今この場での最善だった。
第三者視点で戦闘を描写するのが難しい...でもフォルスの思考も書きたいから神の視点は使いたくないんですよね...ジレンマ。