始祖鳥の魔物の追跡回です。
「どこに向かう気だ...?」
私が抱えている幸希がボソリと呟いた。
「わからない。あの方向に町があった記憶はないのだが...」
クルイガを捕まえ、飛んで逃げる魔物を追っているのだが、いかんせん魔物の目的がわからない。私には目もくれずにクルイガを連れ去ったわけだが、殺すわけでもない。連れ去るだけ...傀儡魔法の使い手のもとに連れて行こうとしているのだろうが、なぜクルイガを求める?連れ去って何をしたいのかがわからない。
行き先から何か探ることができれば良かったのだが、この方向には町はないし...
「何も分からないのなら今は手を出さない方が良いだろうな。このまま追尾して、地面に降り立ったら攻撃だ」
魔物の方を見ながら幸希は言う。確かに攻撃の反射があるから無闇に手を出すことは自身を傷つけるだけだし、ここで魔物を倒すことができたとしてもクルイガは地面まで真っ逆さまだからな...今は失った魔力を取り戻しながら追いかけることに注力し、幸希の言う通り地面に降りてから戦うべきか...
「にしても、どうやって倒したものか...一定のダメージを返してくるわけだが、反射されないほどの極小のダメージをひたすら与え続ければダメージが返ってくることなく倒せたりしないかな?」
「どうだろうな...あの魔法がどのような魔法の組み合わせによって成り立っているのかがわからない以上、どんな策も机上の空論に過ぎない」
「じゃあひたすら色んな方法を試して通りやすい攻撃方を探っていくしかないか...それでもダメなら、傀儡魔法だったか?そいつを使ってる奴をぶちのめしてしまえば良い。そっちの方が手っ取り早いまである」
「……戦闘は任せた。幸希の方が私の何倍も戦いに向いているだろう。私の魔力ならいくらでも使って良いから、全力でことに当たってくれ」
「了解。そっちは俺のサポートをしながらあっちの使う魔法の解析をしてくれ。鳥野郎の方は何の魔法も持っちゃいないが、遠隔発動される魔法が厄介すぎる。そっちでも弱点を探ってくれ」
「わかった。善処する」
魔法の分析か...既存の魔法の複合系ならともかく、私の知らない魔法だった場合何も出来なくなってしまうな...こればかりは知っているものであることを祈るしかない。
「……おっ、高度下げ始めたな。そろそろ目的地か?」
魔物がゆっくりと高度を下げていく。その先にあるのは、そこそこの標高を持つ山だ。あそこが目的地か...?
「あの山...内部に魔力の反応があるな。魔物の棲家か魔法使いの工房か...どちらにせよ、私はあまり動けないかもしれないな。そうなったらすまない」
「下手すりゃクルイガの時と似たようなことになってことか。なるかもしれないってことは頭に入れておく...って、すり抜けた⁉︎」
魔物はある程度の速度を維持したまま山に突っ込んだ。すると、岩壁をすり抜けるようにして魔物の姿が消えた。
「幻覚の魔法で洞穴を隠しているのだろう。このまま突入するぞ」
「お、おう了解!」
魔物が突っ込んだ場所に、私たちも速度を落とさずに突入する。特定の者以外を弾く結界といったものはないようで、私たちも幻覚の岩壁を通り抜けて山の中に入り込む。
「よっ...と。結構広いな」
幸希を地面に下ろすと、キョロキョロと辺りを見渡しながら呟いた。
「魔物がいない...飛んで通れる広さもあるし、あの速度でそのまま奥まで飛んでいったのか...」
私が撃ち込んだ魔力の反応が洞穴の奥の方からしていた。私たちがここに降り立つまでの間にそこまで飛んでいったのだろう。なかなか無茶をしているが、クルイガが地面に擦られてボロボロになっていないか少し心配だ。
「そして、魔物から感じた魔力もこの奥に多く立ち込めているな。傀儡魔法を使い、魔物を操っていた者はこの奥に必ずいる。逃すわけにはいかないが...」
魔法を発動させる。音波を反射させ、周囲の地形を探ることができる魔法だ。洞穴の奥がどのような地形になっているか、そして他に外に出れる道がないかを確かめる。
「……他に出口はないようだな。このまま進めば必ず鉢合わせする。おそらく、会敵すれば即座に戦闘になると思うが大丈夫か?」
「ああ、問題ない」
「私の魔力はいくらでも使ってくれ。奥に行けば、私は足手纏いに近い状態になってしまうからな」
そう言いながら腕を差し出すと、幸希は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ...仕方なくといった様子で私の腕を槍で叩いた。
骨は...ヒビも入っていないようだな。だが、とてつもない痛みが...けれど、魔法で感覚を弄ることで表情にも声にもそれを出さない。そうしないと、幸希は躊躇してしまうからな...
「……湊は自分の身を守ることを最優先にしてくれ。魔法の解析は二の次で良い」
「了解した」
幸希が戦いに集中するためには必要なことだろう...っと、腕の傷もそうだが他の魔力の領域に入ったからか少し疲労が...魔法の解析、こなせるか分からないな。
「……じゃあ行くぞ」
そう言って先導する幸希の後ろをついていくのだった。
「……光か。たしかに居るようだな」
湊の魔法を借りて暗い洞穴の中を照らしていたのだが、緩やかなカーブの先から光が漏れ出ているのが見えたので魔法の灯りを消す。明かりがついているということは、そこには誰かがいるはず。魔物とクルイガと、傀儡魔法の使い手がそこにいるはずだ。
「先程私が使った反響探知のせいで、おそらく私たちが洞穴の中に入っていることはすでにバレているだろう。慎重に進め」
「まずは確認を...」
ジリジリと歩みを進め、壁際にへばりつく。そして魔法で小さな鏡を生み出し、その反射を使って向こうの様子を確認する。
「……人がいるな。人の形をした魔物なのか、本当に人なのかは俺には見分けつかねぇが...そんで、他にも魔物が数体いるな。クルイガも居て...っ、消えた⁉︎」
一体の魔物と共にクルイガの姿が消えてしまった。姿を消す魔法?それで透明のまま俺らの横を通り抜けて外に出るつもりか?...いや、そんな危険な作戦をするはずがない。となると...
「転移魔法か...!」
湊が使っているような転移魔法を使ってクルイガをこの洞穴の中から脱出させたのだろう。こうなってしまえば、クルイガを追って助けることは難しい。あの傀儡魔法の使い手をぶちのめして居場所を吐かせるほか無さそうだな...
「仕方なねぇ。突入して魔物もあいつも全員ぶっ倒すしかないわ。湊はここにいて見ていてくれ。行ってくる」
そう言って俺は飛び出した。心苦しいが、湊にはそれなりの傷を付けさせてもらった。平気そうな顔をしていたが、魔法で誤魔化していそうなんだよな...だが、仕方がない。目的を果たすにはこうする他ない...
「お前は...再誕の魔法使いの護衛だと聞いている。残念だったな、既に過剰生産の魔法使いはここには居ない」
俺が姿を現すと、傀儡魔法の使い手の男はそう言いながら俺の方を見る。
「なぜクルイガを攫った」
「魔王様が必要だと仰っていたようだからだ」
「魔王...様か。ってことはお前ワーウルフ的な魔物かそれなら殺せる!」
湊の魔力を使って身体強化魔法を発動し、超高速で接近して槍を振り回す。
「いいや、人間さ。魔王に与してはいるがな」
男はそう言い放つと、近くにいた魔物が飛び出してきて俺の振り回した槍を腕でガードして受け止めた。だが、魔物は威力に耐えきれず腕がひしゃげて、そのまま頭を槍が抉る。
「魔王に与する人間か...チッ」
まぁそういう主義思想の人間もこの世界に一人くらいはいるか...いてもおかしいんだけども、よりにもよって転生した魔法使いがそれなのはマズイだろ...!魔法を使いながら人類に仇なしてくるの恐ろしすぎる...殺すのはダメだが絶対に止めなくては...!
「お前と再誕の魔法使いもこちら側に来ないか?再誕の魔法使いはもちろんのこと、お前も魔法が使えるんだろ?即戦力は大歓迎なはずだ」
そう言いながら男は別の魔物を消しかけてきた。魔物の数は始祖鳥っぽい奴も含めてあと六体。透明化して隠れているような魔物はいなさそうだ。こいつら全員倒せば終わりだな。
「ほっ、とぉっ!...っと。勧誘しながら最初にすることが魔物に襲わせることだなんて随分と野蛮だな」
近づいてきた魔物を蹴り飛ばし、その反動を利用して魔物たちから距離を取る。
「転生者がなぜ魔王に与する。協定を結んでいる時代を知っているはずだろうに、魔王に与して争いを激化させるのはなぜだ」
「……はは、お前は大きな勘違いをしているな。魔法が使えるからといって、再誕や過剰生産のような転生者だと思わないことだな」
「転生者じゃない...?」
こうやって魔物を操る魔法を使っているというのに?普通の人間が魔力を抱えることはまぁ普通に起こりうることだろう。魂によっては、現代人でも魔力を少量だが溜め込むことが出来る人間はいるし、それと身体の魔力生成速度が釣り合っていれば日常生活を送ることができる。
しかし、魔法には出会わない。人類には魔法は使えないという固定観念がある以上、魔力を自覚することもなく魔法を使ってみようと思うことすらない。魔丸を魔物から受け取って、魔力を得たと自覚して尚且つ魔法の使い方を教わらなければ習得は...
「それと、魔物はいい奴らだぞ。あいつらが居なけりゃ、俺は死んでたからな。魔王に与する理由は、その恩返しのようなもんだ」
「魔物がいい奴ら、ねぇ...」
どういうわけかは知らないが、こいつは魔王や魔物に対して恩があるらしい。だが、魔物が人間を助ける理由はなんだ?今は戦争中だ。人間を助けるとは到底思えない...
……ハッ、もしやこいつに魔法を教えたのが魔物なのか?魔力過剰症で苦しんでいたところに、魔法の使い方を教えることで魔力を発散させて命を救った...その恩があるから魔王に従う...筋は通ってるな。
人類側から魔法使いの素質がある者を誘拐して自分達の戦力とする、といった行動は戦術的にも有効であるだろう。その可能性は大いにありえるな。
「……そのいい奴らを手足として操っている感覚はどうだい?」
飛びかかってきた魔物を槍で薙ぎ倒し、そのまま頭を砕く。
「っ...すまないニスクル」
「ハッ、名前呼びするほど親しい奴を手駒にしてるたぁ随分と大きな矛盾だな。やめた方がいいぜ?どうせこいつら魔物は魂のない精霊のようなもんだからな」
「お前に指図される謂れはない!」
男に操られて、残り四体の魔物が一斉に襲いかかってくる。
先程の蹴りや槍での攻撃で何も反射しなかったことから、始祖鳥の魔物以外には反射の魔法が込められていないようだからまずは安全な三体から仕留めることにしよう。
前方から一斉に襲いかかってくる魔物をどうにかするために、右後ろへ二歩下がる。それによって魔物の接近が同時ではなく順番へと切り替わる。一番左から来た魔物が始祖鳥だから、こうすれば最後に残しながら一体一体対処できる。
槍に魔法を流し込み、一番手前の魔物の腹を突く。そして腹から槍を離した瞬間、ピンッと何かが弾け飛んだような音がして魔物の腹が爆発した。
「次」
魔法で暴風を発生させる。腹が爆発して力尽きた魔物は耐えきれずに真横に吹き飛ばされる。その背後にいた魔物はなんとか風を耐えているものの、それで手一杯のようだ。そこで魔法を発動し、風の刃で魔物の足の腱を切り裂く。威力が低いせいで一点集中をせざるを得なかったが、足の腱という重要部位を切断したことで踏ん張りが効かなくなり、魔物は吹き飛ばされていく。
飛ばされた魔物が壁に激突する直前、俺は地面に手をつき魔法を発動させる。地面を流体化させて操る魔法だ。聖杖世界の土流のような魔法だが、それを使うことで魔物が激突する壁に剣山のように棘を生やし全身を貫く。
「弱いな。ちゃんと育成してやってんのは鳥だけか?」
複数同時に操作してるからなのか、それとも魔物の力が単純に弱いせいで操っても強くないだけなのか...どちらにせよ、厄介なのは反射魔法が付与されているらしき始祖鳥の魔物だけだ。まぁ、目の前のこいつがもっと厄介な可能性はあるんだがな。
「数だけ並べたとて、弱けりゃ無意味!」
残る一体の魔物の頭を槍で薙ぎ払う...って、弾けた?それもまるで液体のように...
「お前...スライムみたいなもんか」
弾け飛んで地面に散らばった頭の一部の色が青く変化し、モゾモゾと動いて魔物の体へと戻っていった。殴っても分裂してまた一つに戻るだけか...
あー、あー、湊聞こえるか?スライムを倒すならどの魔法が良い?
物理攻撃が効かないのなら魔法を使うまで。だが、いろんな魔法を試して魔力を消費してしまうのは、この後反射魔法が付与されているあの魔物と戦う前にやるべきことではないだろう。この世界の魔物の知識がある湊に聞くのが一番だから、テレパスで聞き出す。
『その類のスライムなら蒸発させるのが一番手っ取り早いはずだ』
「なるほど、前と同じか」
その手に光の剣を作り出す。圧倒的な熱量の塊だ。前に宵闇の中でスライムと戦った際に使った魔法ならば、蒸発させるのは一瞬だろう。水蒸気爆発が心配だが、前回は起こらなかったし今回も大丈夫なはずだ。液体とはいえ魔物の構成物だから蒸発した瞬間に塵になって消えているのだろう。
「じゃあ...消えな!」
剣を振り上げる。
その次の瞬間だった。始祖鳥の魔物が高速移動の魔法によってスライムの魔物の横を飛び俺に蹴りを叩き込んできた。
「くっ...!」
攻撃の瞬間だったから少しばかり防御が遅れてしまった...蹴りの衝撃で全身が痛むが、魔法でもって傷を癒やし痛みを軽減させることでなんとか対処する。
あの魔物が高速移動できるってこと忘れてたぜ...そんで、前に出てこられたのはかなり厄介だ。先にスライムの方を倒して、落ち着いた状態で反射の魔法の突破に時間を使いたかったのだが...
「しゃーねぇ、まずはお前を...!」
地面や天井から鎖を召喚し、始祖鳥を縛り付ける。
……っ!鎖で締め付けた部分が痛む...!体が縛り付けられて動けないというわけではなく、単純に鎖で締め付けられた痛みだけが俺の身体を襲ってくる!
なんつーか、同調魔法に似ているような気がするんだよな。同調魔法は聖杖世界の魔法であり、傷をつけた相手に自身の傷全てを強制的に共有させる魔法だ。相手に同じ傷を与えるという部分が、同調魔法のそれと似ている気がしてならない。
というか、この世界の魔法ちょっと聖杖世界のと似てないか?先ほど使った地面を流体化させる魔法は、使った感じが土流とまんま同じ感覚だし、前に魔物が使っていた一瞬消えて近場に転移する魔法は未来跳躍のそれに近い。
能力で他人の魔力を操る形で魔法を使っているため、本来の魔法発動の手順を踏んでいないから断定することはできないけれど、どこかあの世界の魔法と似ているような...
「づっ゛...!!考え事してる暇はねぇってか...!」
始祖鳥の魔物は鎖の拘束を解こうとして、魔法での急加速を活用して暴れていた。拘束が解けることはなかったが...暴れるたびに鎖で身を傷つけていくためそのダメージが俺にも跳ね返ってくる。
暴れてるのはアイツなんだから自傷だというのに、鎖の発動者が俺だからという理由で俺に反射してくるのバグだろ...!こんなんじゃ長くは止めていられない。さっさとスライムを倒して一対一の状況に持ち込まねば。
「お前を...消し飛ばす!」
光の剣を構え、全身の痛みに耐えながらスライムに向かって走り出す。魔法での加速を利用して一気に踏み込み、圧倒的な熱量で構成された光の剣を振り下ろす...!
「避けろ!ミセラ!!」
男が叫ぶと、スライムはその声に反応して回避行動を取った...が、それよりも前に剣を振り下ろす俺の手が止まった。
「ミセ...ラ?」
偶然...?ミセラは、一つ前の世界である法術世界で俺の相棒であったスライムの名だ。俺の命を救い、そして最後には使命のために俺に殺されることを選んだ相棒...その名前を、このスライムも持っているだと?
「は、はは」
くだらない。ただの同姓同名で、こいつはあのミセラとは何ら関係がない。
……だというのに、なぜ俺の手は止まる?ミセラと過ごしたあの日々が脳裏にフラッシュバックする?
俺は...魔物すら殺せなくなったのか?
「クソッ、名前なんかに惑わされやがって...!」
頭がジンジンと痛み出す。始祖鳥の魔物からの反射によるものではない。自分の身体が拒否反応を引き起こして俺自身を無理矢理止めようとしているのだろう。
「こいつはただの敵、あいつじゃない。こいつはただの敵、倒すべき相手。こいつはただの敵、目的のためなら殺せるはずだろ俺は...!」
叫ぶことで自分の声を頭に響かせて邪魔な思考を無理矢理シャットアウトさせる。
光の剣を振り上げ...スライムに向けて振り下ろす。
「クソッ、ちょこまか避けんな...!」
スライムは俺の斬撃をひょいひょいと避けていくためなかなか当てることができずにいた。
「そこまで動かしているつもりはないぞ。お前、どういうわけかは知らんが当てる気が無いな?」
っ、煽ってきやがったあいつ...!
「名前を言った瞬間から動きが変わったが、何かあるようだな。ミセラを誰かと重ねているようだが...そのせいで情が湧いたのなら最大限活用させてもらおう」
男はそう言うと、スライムを操って俺に近づかせる。自ら近づいてきているんだぞ、いつでも切れるだろ...なぜ動けない!
「お前はミセラに攻撃出来ない...一度、寝ていてもらおうか」
「もがっ...⁉︎」
スライムに口を掴まれ...体内に液体を流し込まれた。
それと共に、液体とは違う別の異物が身体の中を駆け巡ったような、そんな気がした。
「まさか...魔力を流し込んでいるのか...⁉︎」
あの魔物は何故か攻撃しようとしない幸希を掴むと自らの一部を体内に取り込ませた。魔力の流れを見てみると、魔物の魔力が幸希の中に入り込んだことが確認できた。
幸希の魂は魔力を抱える器が一切ないと言っていい。そして、今魔物にやられていることは、魔丸を飲まされていることとほぼ同義。他者の魔力は器には入らず全身を駆け巡るが、その際に副作用が出ることがある。ある種の魔物化と言っても良い精神の凶暴化と軽度の魔力過剰症...そして、それは元の器の容量が小さいほど起こりやすい...!
「早く...魔力を取り出さなければ...!」
他者の魔力に包まれた空間であるため私も辛いが、今は幸希の方がもっと辛いはずだ。後ろに下がっていろと言われていたけれど、飛び出して魔力を取り出さなければ幸希は何もさせてもらえずに負けてしまう。勧誘を受けていたから殺されはしないだろうが、今ここで幸希を失うのはとても痛い...!
魔力を流し終えたのか、スライムが幸希から離れた。器を持たない幸希は魔力に耐えきれずに倒れるだろう。スライムが少し離れたこの隙に近づいて一度離脱を...!
「は、はは...」
私が飛び出そうとしたその時だった。
「ハハハハハハッ!!」
幸希はなぜか笑い出していた。
……そもそも、なぜ倒れていないんだ?
「お前...なぜ動ける。魔力の器は無いはずだろ...!」
魔法使いならば、魔力の器を見て魔力の最大保有量を調べる術がある。だから、あの男にも幸希に器はないことはわかっているのだろう。だからこそ混乱する。私も、あの男も。
「これがこの世界の魔力かァ...」
幸希は半ばギラついた目で自分の身体を見ていた。
そんな幸希にスライムが近づく。幸希が倒れなかったから、男が追撃を命じたのだろう。
「……邪魔だ」
スライムの頭を槍で殴り飛ばし、即座に蹴りを入れて胴体も吹き飛ばす幸希。スライムへの攻撃を躊躇していた先ほどまでの幸希とは全く違うな...魔力による影響か。
「この魔力...実に気持ちが良い。懐かしい気分だ」
そう言いながら幸希はフラフラと歩き出す。
「俺は...この世界の真理を見たのかも知れねぇなァ」
いつのまにか、幸希との魔力の繋がりは絶たれていた。
さて、カリヤくんはどんな真理を見たんでしょうかねぇ...