神の使いの異世界修復   作:ダイヤモンドリリー

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8302字。

戦闘回です。


突如迫りし宵闇

「……」

 

あれから数日、幸希とは少しだけギクシャクしている...いや、幸希はいつもと変わらず接してくるから、私が少し避けてしまっているだけか。

 

私には幸希の気持ちはわからない。どういう信念で今動いているのかを知らない。もう解決した上でこれなのか、まだ迷っている最中でのこれなのかもわからない。

 

心を読むことはできるが、無意味だ。心を読んだとしても、理解するまでに私の解釈が入る。真に幸希の内心を知ることはできない。まぁ、それは口に出して話した場合でも同じではあるのだが...

 

なんにせよ、どうやっても幸希の心を理解することはできない。そして、それは逆も同じ。私の心を幸希が理解することも叶わない。それでも、壊れてしまった幸希の心を直すために私は自分の信念を幸希に押し付けた。私の生き方、使命を共有させることで、自分を見つめ直させて本来の自分を取り戻してもらおうとした。

 

けれど、逆効果だったのかもしれない。幸希はリトライで解決する術を覚えてしまった。一度殺して救うあの外道のやり方を覚えてしまった。目的のためなら、そして最終的に解決できるのなら、人を殺すことも厭わなくなってしまった。

 

……いや、それで良いのかもしれない。幸希に人を殺してほしくないという気持ちは私のものだ。人を殺してはならないという思いを押し付けてしまえば、別の世界で人を殺さなければならない使命を与えられたときに何も出来なくなってしまうかもしれない。

 

そもそも、目的のためならば人を殺せるのは元からではなかったか?幸希の精神が崩れたのは、死ぬはずではなかった人間を自分の手で殺してしまったからだ。ならば、リトライの術を覚えてしまったことは別に構わないのでは?元々の幸希に近づいたとも言えるのではないか?

 

……などと、思考がぐるぐると二転三転して一向にまとまらない。幸希の心の問題なのだから、私が出しゃばることなく自分で解決してもらった方がかえって良いのではないかとも思えてくる。

 

そんなこんなで私は、幸希に口出しすることが怖くなってしまったのだ。

 

「……久しぶりに見たな、あれ」

 

幸希はそう言うと、前方の空を指差した。思考に耽っていた私はハッとしてその方向を見る。

 

「宵闇...か。こちら側に向かっているようだな」

 

そこには魔力を帯びた雲、そして雲に遮られて完全に自然光が排除された空間...宵闇があった。大きさとしては小さめなものの、かなりの量の魔力を溜め込んでいるようだ。

 

「かなりの速さでこちら側に向かっているな。進行方向に町は無いから、無視して迂回するとしよう」

 

横方向に歩き、宵闇の進行方向から避ける。小さめなので数十メートルも横移動出来れば問題はないはずだ。そして、あの速さなら少し待てば目の前を通過していき、元のルートに戻れることだろう。

 

「……ん?あれ、こっちに向かってきてないか?」

 

「目の錯覚...ではないな。確実に進行方向が変わっている...!」

 

確実に進行方向から避けたはずだが、宵闇は真っ直ぐこちら側に向かって近づいてきていた。

 

「私を追尾してきているのか...!」

 

「急いで逃げるぞ!」

 

「いや無駄だ!逃げたところでどこまでも追われる!誰かを巻き込むくらいならここで迎え撃つしかない!」

 

「魔力の雨はどうする⁉︎」

 

っ...そうか、魔力の雨を浴びれば強制的に魔力を体内に取り込んでしまう。魔力過剰症こそ起こらないものの、大量に浴び続ければ幸希の中に巣食う聖杖世界の魔王が復活してしまうかもしれない。なんとかしなければ...

 

「……少し待て、かっぱらってくる...!」

 

魔法を発動し、遠くにある物を引き寄せる。引き寄せたのは、魔力を弾くカッパだ。

 

「カッパだけにかっぱらうってか。こんな時にいい冗談を吐くじゃねぇか」

 

「な、何を言っているのかよくわからないが、ともかく準備しろ早く!」

 

幸希の言語だと何かの言葉遊びになっていたようだがわからん!

 

「来るぞ!」

 

宵闇の領域に取り込まれる。全く光のない暗闇...それを晴らすために、真上に光源となる魔法を放つ。

 

「カハッ...」

 

息が漏れる音がした。そして、ドサリと倒れ込む音がした。

 

放った魔法が眩い光を放ち、宵闇の中を照らす。

 

そこで目にしたのは...禍々しい気配と魔力を纏った怪物と、そいつの腕によって腹を貫かれた幸希の姿...⁉︎

 

「り、リトライ!!」

 

幸希に仕込んでいた魔法が起動し、時間が巻き戻る。放った光が消えていき、宵闇が私たちから離れていく。幸希の傷も消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、宵闇の接近に気づいた時間に戻ってくる。

 

「幸希聞こえるな⁉︎」

 

認知時間停止中に幸希に呼びかける。

 

「あの宵闇の中にいた化け物...あれはただの魔物なんかじゃない!...多分魔王だ!」

 

一瞬しか見ることができなかったが、人の体躯を三倍にしたような肉体を持ち異なる種族の魔物の顔を無数に持つあの容貌と禍々しい気配...話に聞く魔王に違いない。今まで直接見たことはないが、人類と交流のあった過去の時代では新聞で情報や絵が出回っていた。その時に見聞きした情報と合致している。

 

「クルイガの一件やワーウルフの一件といい、最近の私たちは派手に動きすぎた。私たちのことを邪魔だと判断して消しにきたのだろう...本気でかからなければさっきみたく一瞬で殺されるぞ」

 

逃げたとしても、宵闇を引き連れてどこまででも追ってくることだろう。ここで魔王を討伐...するのは無理でも、痛手を負わせてしばらく動けなくするところまではしてしまいたい。

 

「……一応、絶好のチャンスでもある。幸希はここで魔王を倒して目的を果たすことが出来るかもしれない。それが無理そうでも、ある程度ダメージを与えて逃げる必要がある。どっちみち、迎え撃つしか道はない...いけるな?」

 

「ああ、やってやるさ」

 

ちょうど認知時間停止が切れたようで、幸希が返答してくる。私は急いで魔法を使って魔力を弾くカッパを引き寄せて幸希に渡す。

 

「まず最初の攻撃を避けられなければ話にならない。突入前に魔法で内部を光らせておくが...避けるのは各々自力でやる必要がある。幸希を守る余裕は無い。それでも問題ないか?」

 

「問題ない。湊は自分の身を守ることを最優先にしてくれ」

 

宵闇が迫ってくる。その中に取り込まれるよりも前に魔法を撃ち込み、内部を光で照らす。

 

「来るぞ!」

 

雲が頭上を覆う。

 

その瞬間、魔王が腕を突き出してきて幸希の腹を貫かんとする。

 

「っ!...っぶねぇ...!」

 

幸希は間一髪のところで槍を間に挟み込み、魔王の攻撃を受け止めた。

 

「ほう...今の動きは偶然ではないな」

 

攻撃を防がれた魔王は、ニヤリと笑いながら腕を引いた。

 

「まるで未来を見てきたかのように、腹を的確に守ってきた...そして、再誕の魔力の減少度から見るに、二度目だな?」

 

っ、リトライを使ったことがバレている...⁉︎個々の事象から推測して時間遡行を見抜いたというのか...!

 

「一方的に鏖殺するつもりだったが、これはこれは、十分楽しめそうじゃないか」

 

先程口を開いた顔とは別の顔が口を開き話し始める。

 

「意外とお喋りだな魔王!ぺちゃくってる暇があるなら攻めてきたらどうだ?」

 

ちょっ...なぜ挑発する⁉︎

 

「……面白い。魔王だとわかっててその物言いをする奴は貴様で初めてだ。そして、その目...かなりの手練れと見受けられる。名を名乗ることを許そう」

 

「仮谷幸希だ」

 

「ほう、幸希と言うのか...妙な技を使うと報告を受けているぞ。再誕とともに邪魔ばかりしているとも報告を受けたゆえ、配下に任せず自ら始末しに来たのだが...配下になる気はないか?」

 

……挑発したのに逆に気に入られている...?こうなることを見越して挑発したとでもいうのか...?

 

「ないね。逆にこっちから提案だ。戦争をやめてまた人類と協定を結ぶ気はないか?」

 

「……ふはは!本気でそう申しているのならば実に面白い!...その要求を呑んでも良いほどにな」

 

「……えっ、自分で言っといてなんだが良いのか?」

 

「別に、本気で人類を支配してやろうと思って協定を破ったわけではないからな。人類が魔法を失ったことで崩れたパワーバランス。何年経っても人類は力をつけない...このままでは対等な相手が現れることは一向に無い。それでは退屈だ。そうならないために、戦を起こした。人に進化を促し、新たな力をつけてもらうためにな」

 

それが...魔王が協定を破った理由?

 

……魔王が本気で人類を支配しようとしていなかったことは確かだろう。人類が魔法を失ってから科学力という別の武器を得るまで、百年を超えるほどの時間があったはずだ。その間に協定を破ったのならば、魔法を使える魔物や魔王側は一方的に人類を蹂躙できたはずだ。それをしなかったのが、人類の進化を促そうとした何よりの証拠...!

 

「そうして人類は科学力という新たな力を手にした。その力にはとても興味がある。協定を再び結び、魔法の技術を人類に提供する代わりに科学技術を提供してもらうというのも悪くはない...そう思っていたところに、人から協定再締結を求められるとは思ってもみなかった」

 

これは...いけるのか?

 

「……だが」

 

魔王の禍々しい気配が強まった。そして、無数にあった魔物の顔が、隣接する顔同士で融合し合い数を減らしていく。

 

「この魔王を倒すことができる者は人類に存在するか?...否!今の人類では魔王を倒すことは叶わない!となれば、未だ人類の進化は果たせていないことになる。ならば、まだ協定を結び安寧をもたらすわけにはいかない。戦の中で進化し、この魔王を打ち倒すことのできる者が現れない限りな」

 

「倒されたいってマゾかよ。つーか、戦争させて進化を促すって法術世界のロリ女神みたいなことしてるな...」

 

頭に手をやり、やれやれといった仕草を幸希は取る。

 

「じゃあさ...俺がお前を倒せば、協定を結んでくれるってことで良いか?」

 

「良いぞ。この魔王を超える者が現れたのならば、それが戦の終わりだ。喜んで再締結に応じよう。だが、そう簡単に倒せると思うな」

 

魔王の手にいつのまにか剣が握られていた。そして、無数にあった顔は一つに統合されており...目も鼻も口も何もついていない、不完全な人の顔のようなものになっていた。

 

「魔王にして、人類の裁定者...天命の魔法使いヲルが相手だ。簡単に死ぬでないぞ...人類の可能性を見せてみろ!」

 

「っ...!」

 

魔王が一歩踏み出そうと脚を動かし始めたその瞬間、魔法を発動させる。

 

一つは自らの思考を加速させる魔法。動体視力なども強化し、魔王の動きに対応できるようにしておく。

 

それと同時に発動させたのは、影を媒介として相手の動きを封じる魔法。光源の真下にいる魔王の影を使い、魔王の足を地面に縫い止めた。

 

これで先手は潰した。先に仕掛ける...!

 

「貴様は邪魔だ再誕。過去の力を持ちし者に興味はない」

 

何もない顔がこちらを向いた。

 

……気がつくと、私の胸に羽根のようなものが刺さっていた。それは服や防弾チョッキには触れることなく私の胸に刺さっており...

 

意識が途絶した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……不思議な感覚だった。普段は起こり得ない感覚が同時にいくつも起こっており、違和感が全身を包んでいた。

 

私の魔力が外へ流れ出す感覚。雨に打たれ、そこに含まれていた魔力が体内に入っていく感覚。胸の辺りに蟠る、私の意識を奪おうとする嫌な感覚。そして、それを中和しようとする、私の魔力による癒しの感覚。

 

段々と癒しの感覚が強まっていき、意識が覚醒していく...

 

「ふははっ!面白い!まさか、別世界から人がやってくるとはな!」

 

「クソッ...!」

 

人の何倍もある体躯による剣戟と、極められた魔法を前にして幸希は防戦一方であった。剣はなんとか槍で弾き、防御系の魔法で放たれた魔法を全て受け止めることは出来る...しかし、攻めに転ずることは出来ない。

 

「打ち合うごとに記憶を読み取っていきやがる...!」

 

幸希は吐き捨てるようにぼやいた。

 

「面白い...のは良いのだが、この場合どうなるのだ?仮に貴様が勝ったとて、この世界の人類が進化したということになるのだろうか...」

 

「今更そこ覆されると困るんだが⁉︎」

 

「……まぁ良い。一度決めたことをやっぱ無しとするのは無粋だ。このまま続けるとしよう...全てをぶつけてこい!来訪者よ!!」

 

「こんの...っ!」

 

槍で剣を押し返すと、幸希は拳銃を引き抜いて銃弾を叩き込んだ。魔王は避けることが出来ず直撃する。

 

「ほう、それが銃という物か。なかなかのものだが...」

 

魔王がそう呟くと、銃創がみるみるうちに塞がっていく。

 

「魔王に撃ち込むにはちと火力不足だな」

 

「それなら...もっと凄いもんぶち込んでやるよ」

 

幸希が私から魔力を奪っていく。発動させようとしている魔法は...私がさっき使った物を引き寄せる魔法か⁉︎

 

「それは使えないぞ幸希!」

 

「なっ...クソッ、そうか...!」

 

宵闇の中では高濃度の魔力を含んだ雨が降り注いでいる。そのため、内と外では魔法の伝わり方が変わる。外から内部に干渉できないのはもちろんのこと、内から外へ魔法を届かせることも叶わない。宵闇の外から物を引き寄せることはできないのだ。

 

「ほう、まさかもう起きるとはな。貴様が再誕の魔力を引き出し、治癒を発動させたのか」

 

魔王がこちらを見る。二度もやられるわけにはいかない。防御魔法を展開...!

 

「寝かせてもまた起こされるだけ...ならば、行動不能にさせるしかないな」

 

「っ、ゲホッゴホッ...⁉︎」

 

魔王の奴...自らの魔力を私の周囲に巻くだなんて...!

 

「魔法使いを潰すならこの手に限る」

 

宵闇の雨はギリギリ問題ない。雨に完全に固着しており、触れることで体内に取り込むこともできるからだ。しかし、こうして意図的に魔力を散布されると自らの魔力と反発して苦しめられてしまう。こういう魔力は取り込むことができないし、魔力の粒子はとても細かいからあらゆる防御魔法も貫通して襲い掛かってくる...くっ、動けない...!

 

「……ほう、隙を見て無言で攻撃を仕掛けてくるとはなかなかやるな。だが、私の目から逃れることは叶わない」

 

魔王の意識が私に向いているうちに、幸希は魔王の背後から攻撃を仕掛けた。しかし、ぬうっと地面から生えてきた手によって槍が受け止められてしまう。

 

「つーか目ェどこだよのっぺらぼう!」

 

「この顔は全てが目で全てが耳。ゆえに死角はない」

 

「そーかよそれなら...!」

 

幸希は銃で地面から生えてきた手を撃ち抜いて消滅させると、そのまま数歩下がってから魔法を発動させた。

 

突如として魔王を眩い光が包んだ。そして大砲を発射させたようなどでかい音が魔王の辺りから鳴り響く。

 

「ほらよっ!!」

 

槍が投擲される。光と音で魔王の目と耳を潰した。顔の全てが目で耳と言っていた魔王には、おそらく普通の人よりも効き目が強かったことだろう。そこに放たれた一撃...どうだ?

 

「話を聞き、即座に行動に移せることは評価しよう。だが、浅はかだ。魔法の存在を忘れてやいないか?」

 

魔王は飛んできた槍を片手で受け止めていた。目や耳が使えなくとも、魔法を使えば飛翔物の探知など余裕だろう。

 

「浅はかなのはどっちかな!」

 

「ぬっ...⁉︎」

 

槍を掴んでいた魔王の手が大きく弾かれた。二重衝撃の魔法で槍の衝撃をもう一度叩き込むことで手を弾いたのか...!

 

「穿て引火の槍!!」

 

その巨体ゆえ、弾かれた腕に引っ張られてしまいバランスを崩した魔王に向けて幸希は引火の槍を放った。

 

しかし、放たれた引火の槍は魔王によって張られた防御魔法によって防がれ、半透明の壁を燃やし尽くす。バランスを崩そうとも、魔法を発動さえしてしまえば避ける必要はない。魔王は余裕を持って体勢を立て直すと、真上に魔法を打ち上げた。

 

放たれた魔法は宵闇の雲の近くまで飛翔すると、弧を描くようにして軌道を変え上から幸希に向かって降り注ぐ。

 

「そこっ...!」

 

極端に低い姿勢で走る幸希は、降り注ぐ魔法を見ることなく回避していくとそのまま魔王に近づこうとする。その手には魔物の魔力器官が握りしめられており...そのまま投擲した。

 

「む...?」

 

魔王は訝しみながらもその魔力器官を魔法で撃ち抜いた。その瞬間、蓄えられていた魔力が放出されて魔王の周囲を包む。

 

「はは...面白い!再誕にしたことの意趣返しとはな!!」

 

撒き散らされた魔物の魔力と自らの魔力の反発...魔法使いならば誰もが持つ弱点を突き、幸希はそのまま近接戦を仕掛けた。槍を振り回し、遠心力を最大限に利用して足に槍を叩き込む。

 

「っ...だが、無駄なことよ!」

 

もう一撃叩き込もうとした幸希を魔王は殴り飛ばした。すんでのところで防御は間に合ったようだが...困ったな。魔法を封じたとしても、あの巨大で肉弾戦を仕掛けられるのはなかなか厄介だな。

 

「無駄かどうか、決めるのはちと早計だぜ!」

 

後ろに弾き飛ばされた幸希は濡れた地面を滑りながら銃を引き抜き、魔王に向けて何発も撃ち込んだ。魔法発動が困難な状態に陥っている魔王は全ての銃弾をモロに受け、身体中に風穴を開ける。

 

「ようやくまともに傷を残せたぜ...!」

 

それまでは傷をつけたとしてもすぐ治されるか、そもそも傷をつけられなくて模倣の傷を幸希は発動できずにいた。けれど、今は治癒魔法も制限されている。発動させる絶好のチャンスだ。

 

「模倣の傷、発ど...ぐっ...⁉︎」

 

幸希は突然頭を押さえて苦しみ出した。

 

「……ふむ、先ほど読み取った記憶にもあったな。初めて再誕の魔法を使おうとした際に、使える魔法の知識が流入してきたことで頭痛が起きた...それと同じことが今の貴様にも起こっているのだろう。もっとも、再誕とは比にならないレベルのものだろうがな」

 

っ...!最近は私の魔法の知識量にも耐えられるようになっていたはずだが、それでも苦しむということは、魔王の魔法知識は私の比じゃないくらい多いのだろう。にしても、ここで相手の使える魔法がわかることがデメリットになるだなんて...!

 

「クソッ...模倣の傷で魔力ガンガン使ってやろうと思ってたんだが、予定変更だ」

 

幸希の手のひらに雷の塊が生み出された。以前の宵闇の主である龍の魔物が使っていた魔法だ。

 

「殺してゼロにする」

 

……その瞬間、私の魔力がゴッソリ持っていかれた。魔力の雨から魔力を吸収して回復していたというのに、残り一割も残っていない。一瞬にしてここまで魔力を使う魔法は、あれ以外に説明がつかない。

 

リトライ。魔王を一度殺してリトライを発動させることで魔力を全て消費させ、魔王の降参を促そうとしての魔法行使なのだろう。

 

「おい...」

 

雷の塊を持ちながら幸希がつぶやいた。

 

「なぜリトライさせたのに魔力が尽きていない...魔王!」

 

馬鹿な...と思い魔王の魔力を見る。たしかに、魔力がまだ体内に残っている...⁉︎

 

「魔力供給をし続けていれば、減った側から回復させることは可能だ」

 

「そりゃこの雨ならそれも出来るだろうよ。けど、それだけじゃない。それだけなら一度ゼロになってから今の値になっていないとおかしい...元から減りきってないんだよ!答えろ魔王!」

 

「知っているか?リトライの対象者が失う魔力は、本人の魔力だけ。他者の魔力は消えずに残る...つまりはそういうことだ」

 

他者の魔力...っ⁉︎

 

「幸希!魔力探知を魔王に当てろ!クルイガのをだ!!」

 

「……っ⁉︎クルイガの魔力が魔王の中に...それだけじゃない、他の魔力も入ってやがる...!」

 

嫌な想像が当たってしまった。魔王の中にクルイガや他の者の魔力が含まれている...それはつまり、そいつらの魔力が魔王に供給されていることを意味している。魔物に攫われた人らは、魔王に魔力を供給するために攫われたということか...!

 

「ようやく気づいたか。魔力切れは存在しない。存在させない。そもそも、魔力切れで勝とうと考えること自体浅いとしか言いようがないな。きちんと殺しに来い。殺された位では死なん。もう一度殺すことが出来れば、認めてやろう」

 

「っ...もう一度殺せ、か」

 

そう言いながら幸希は溜め込んだ雷を魔王に向けて放った。しかし、魔王はすでに散布された魔物の魔力の中から脱していたため、防御魔法で簡単に防がれてしまう。

 

「ならば...見せるしかないな」

 

幸希は身につけていたカッパに手をやると、勢いよく脱ぎ捨てた。雨粒が幸希に降り落ち、触れた側から魔力が体内に染み込んでいく。

 

「異世界の魔法...そして、この世界の魔法の可能性を見せてやる」




戦闘回とは言ったが、ただの戦闘とは言ってない...というわけで、唐突のラスボス戦です。
まぁ、流石に最終戦とはならないのですがね...
ちなみにこの世界の魔王はとっても良い奴だし気さくな奴です。
精霊である魔物たちをすべる王であり、この世界の神から人類の行く末を見守り時にはコントロールすることを頼まれた人類の裁定者であり、唯一直接神と対面した最古の魔法使いでもあります。
……設定盛りすぎかな?
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