魔王戦です。
「異世界の魔法...そして、この世界の魔法の可能性を見せてやる」
宵闇の雨によって俺の身体に魔力が満ちる。
……かすかに胸が痛い。魔王がほんの少しだけ覚醒しようとしているのだろう。頼む、終わるまで出てこないでくれ...!
「穿て...!」
脳内で呪文を紡ぎ閃光の魔法を発動させる。魔法拡散以外のありとあらゆる魔法的防御を貫通する、この世界でのみ確殺可能な初見殺し魔法だ。
「くっ...ほう、大した威力だ」
魔王は一切防御を固めることなく、そして避けることもせずに直撃を受けた。腹に風穴が開き、すぐさま治癒魔法によってその傷は埋められる。
……最初からこうだ。俺がやった初見の攻撃を、魔王は一切防御せずに毎回受けている。人類の得た強さを知るためにわざと攻撃を受けている...ということなのだろうが、舐めプも良いとこだ。ちょっとムカつく。
「これが異世界の魔法か...面白い。もっと撃ってくるがいい」
魔王はその場を動かずに待ち構える。しばらくは様子見ってわけか...おそらく、これからも初見の攻撃は何もせずに受けてくれるだろう。だから一撃で決着を付けられるような高火力魔法を使えれば、それ一発で終わるだろう。
……だが、それをするにはカスタムが必要だ。一応、この世界でも魔法のカスタムが出来ることは確認済みである。実はカスタムの概念は元からあったらしく、出来ることをそのまま抽出してくる模倣の傷を使っていたためにそのことに気づいていなかったのは内緒だ。
そして、この世界のカスタムの仕様を知った後に調べたら、聖杖世界とこの世界では通常設定がズレていることが多く、聖杖世界での基本がこっちではカスタム後ということが頻発していることが確認できた。未来跳躍がいい例で、聖杖世界では一秒の跳躍がデフォルトであったが、こちらでは一瞬が基本設定である。
これが意味しているのは、聖杖世界の魔法の性質全てをそのままこの世界に持ち込まれているわけではないことだ。聖杖世界でのカスタムをしたとしても、必ずしもうまくいくとは限らない。実験自体そこまで多く数をこなせているわけでもないためこれからやるカスタムが成功するかはわからない。
……そして、もう一つ問題がある。それは、俺がカスタムをする時は魔法図鑑に頼り切っていたことだ。魔法図鑑を使っていた時は、魔法陣を構成する線の中の特定色に魔力を流し込むことでカスタムを発動させていた。無論その図形を忘れてしまったわけでは決してないが、魔法陣に頼り切りで呪文によるカスタムをしてこなかったのは事実だ。
だったらカスタム適用の魔法陣を描けば良いじゃんとなるが、あまり魔法陣を描くことはしたくない。魔王に魔法陣を見られてしまうからだ。もしその魔法陣を丸々写し描きされたらどうする?魔王が聖杖世界の魔法を覚えてしまったらだいぶまずいことになるだろう。それを防ぐためにも、魔法陣を描くことはできない。
ニアみたいに、脳内で魔法陣を描くことができれば良かったのだが...それが出来てればそもそも魔法図鑑なんて使ってねぇんだよな...!
「カスタム無しでやるしかねぇよな...しゃあねぇなもう!」
脳内で呪文を紡ぎ、魔法を発動させる。一個ずつしか魔法を使えないのももどかしい...!
「ぬっ...空気を引き裂く魔法か」
鎌鼬によって魔王の足の健を切り裂く。それを見届けながら次の呪文を紡ぎ、路面凍結を発動させて周囲の地面を丸ごと凍らせる。次の呪文で足裏に水の膜を覆わせ、また次の魔法で足裏から水を噴射させることで推進力を得て氷上を自在に移動可能にする。
「ほう、複数の魔法を利用しての高速移動か。既存のものも含まれているようだな」
「舐め腐れるのは今のうちだ...ぜ!」
魔法で炎の弓矢を生み出し、魔王に向けて放つ。相変わらず防御姿勢を取らない魔王に内心苛つきながら、また別の魔法を発動させる。増殖の魔法だ。飛翔中の炎の矢を増殖させて数十の矢に変化させる。
数十の炎の矢は魔王の全身に突き刺さる...が、それだけだ。特に大きなダメージは無い。そして、一度攻撃を受けて満足した魔王は魔法で水を生み出して炎の矢を消し去り次の攻撃を待つ。
「くっそ、俺の手数少なすぎだろ...!」
聖杖世界ではいろんな魔法を使ってきたものの、全て速度操作と同時に使うことを前提とした使い方しかしてこなかったため、速度操作がないとどうしようもない。魔法陣を使えないから複合魔法も使えないし...魔法がパクられることを許容するにしても、大技はここぞというときにしか使いたくないから結局手数不足は解決しない。どうする...どうする...⁉︎
「……攻撃はもう終いか?ならば、防御魔法を見せてもらおうか」
「っ...!!」
魔王が剣を片手に攻撃を仕掛けてきた。すんでのところで氷上を滑り回避する...
「氷がっ⁉︎」
空振りした剣が凍った地面に突き刺さった瞬間、剣が激しく燃え出す。その炎の余波のせいなのか、それとも問答無用で氷を溶かしてしまう魔法なのかはわからないが、凍っていた地面が一瞬で解凍されてしまう。
路面凍結と水膜で二重に摩擦を奪い、ハイドロプレーニング現象に似た現象を引き起こすことで高速移動を実現させていたため、氷が溶けてしまったことにより高速移動を封じられてしまう。なんなら、足裏から水を噴射しているせいで普通に走ることも難しい...クソッ、解除し切る前に追撃が来やがった!
「あぶっ...ねっ!」
ギリギリのところで障壁の発動が間に合い、魔王が放った光線の魔法を受け止める。
「その魔法...ただの防御魔法では無いようだな」
そう呟きながら魔王は次々と魔法を放ってくる。走って避けられるほどの密度と速さでは無いのでこのまま障壁を貼り続けて防御を固める。
「この世界の防御魔法とは一線を画しているな。特効魔法も効果が無い...か」
……良し、この世界の魔法じゃ障壁は貫けないようだな。このまま耐えて、魔法の余波で視界が塞がれた瞬間に魔法陣を描いてカスタム閃光をぶち込む...!
「……貫けないのならば、こうするまでだ」
「ちょっ...⁉︎」
俺の目の前に赤黒い何かが生み出される。慌ててその場を飛び退くと、その何かは破裂して周囲に棘のようなものを撒き散らした。
「座標指定型は勘弁...!」
避けた先にも同じ魔法が設置されていた。この体勢からじゃ避けきれない...!
「 っぶねぇ!!」
未来跳躍の魔法を発動させ、一秒間別次元に飛ぶことで回避不能の攻撃を回避することに成功する。
「ほう、消失転移の時間を引き伸ばしたか...いや、貴様の世界では今のが基底であるのか」
「っ...⁉︎」
そうだった、こいつ俺の記憶を次々と盗み見ているんだった...!
……待てよ?だったら、魔法陣を秘匿しているのって完全に無意味じゃねぇか?
記憶を見てその内容を理解しているのならば、それは文字情報として見ているのではなく映像記憶をそのまま見ていると予想ができる。文字情報の場合、俺の頭で使っている言語が違うから理解は不可能だからな。音声情報も同様に無意味となっているはず。それでも理解出来ているのだから、俺が見てきた光景を盗み見ていると特定できる。
そして、俺が見てきた光景を見ているのならば、聖杖世界の魔法陣も当然見ているはずだ。断片的に記憶を見ていたとしても、ここまで一度も魔法陣の情報にヒットしていないとは到底思えない。そして、今後も記憶を盗み見られることは確定している...ならば、わざわざ自らに制限をかけて魔法陣を使わないことに意味はない。
……ん?じゃあ、なぜ魔王は盗み見た俺の魔法を使わない?聖杖世界の未来跳躍の記憶を見ているのだから、当然魔法陣も見たはず。魔法図鑑の隣接しているページの魔法陣も見ているはずだ。この魔王の性格上、知識を得るために試し撃ちぐらいしそうなものだが...使う必要がないだけ?それとも、出来ない理由がある?
「使えないことを願うしかねぇか...!」
魔法陣を描いての魔法行使は出来ないと勝手に結論付けてしまう。ただ、口頭での呪文詠唱だけしないように心がけよう。声に出したら、翻訳されてこの世界での呪文が魔王にバレてしまうからな。それだけ注意すれば、魔王に聖杖世界の魔法を使われることはない...はず!
「腹ァ括ったぞ...!ぶち込め!!」
一瞬で魔法陣を空中に描く。手描きではここまで早くは描けない。脳内で筆記の魔法を発動させることにより、高速で魔法陣を描き出したのだ。そして、描いたのはカスタムを付与した閃光の魔法陣。大量の魔力が注ぎ込まれた閃光が魔王に向けて放たれる。
「同じ力を喰らうつもりは無い」
魔王はその場を飛び退き、閃光の射線から逃れる。
……が、放たれた閃光は直角に曲がり魔王を追尾し始めた。
「追尾性の付与か...!」
避けることは無理だと判断した魔王は、魔法で防壁を生み出した。ハッ、どうやら閃光の記憶はまだ読み取ってはいなかったようだな。
「ガフッ...⁉︎防御魔法を貫い...いや、すり抜けたのか⁉︎」
閃光は魔法の防壁をすり抜けて魔王の身体を貫く。困惑しながらも即座に治癒を発動させていることには脱帽だが、その治癒魔法、利用させてもらうぞ!
「反転しろ...!魔法改竄!」
魔王の治癒魔法に介入し治癒効果を反転させることで、発動することで逆に傷を抉る狂った治癒魔法の出来上がり...!
「ガッ...ヅヴ...!!」
「さらにもう一発...!」
確実に一度殺すために、再度閃光を生み出す。追尾性の付与はもちろんのこと、今度は高速化もかけて避けるまも無く撃ち抜く...!
「……っ⁉︎」
魔法陣を描いている最中に魔力が尽きてしまい、全ての魔法が解除されてしまった。同時にあれこれやりすぎたか...!
宵闇の雨のおかげで常に魔力供給をしてくれるものの、一度に大量に使ってしまうと供給が追いつかなくなって一瞬魔力切れを起こしてしまう。すぐさま魔力は供給されるが、魔力切れを起こしたことには変わりなく発動中の魔法全てが解除されてしまった。
聖杖世界のような、魔力が回復しきるまで魔法が使えなくなるといったことは起こらないので、再発動すれば問題ないものの...
「チッ、回復されちまったか...」
魔法改竄の効果が切れたことで正常な治癒が再開されてしまった。せっかく付けた傷も元通りだ。
……つーか、一度殺すことですら大変すぎる。リトライを使った時は、魔力器官に残っていた魔力を全て注ぎ込み、湊の魔法でさらに強化を施した雷を超至近距離で放つことでようやく殺すことができた。それと同じくらいのリソースを吐かなければ二度目は難しいだろう...そして、魔力が足りない。
リトライによって、雷を放てる魔力器官の魔力はある程度戻っている。完全に力を注ぎ込む前の時間に戻したからな。その魔力も取り込み、しばらく時間を稼いで雨から魔力を貯めればあるいは...といったところだ。
「アレは使わないのか?魔法を散らしてしまうあの魔法だ。使ってみせろ」
……見られた記憶の断片に魔法拡散があったか。だが、あの余裕...すぐに魔法拡散の領域から出れる自信があるのだろう。入ってみて、魔法が散らされるのを生で見たらすぐに脱出しようとか思ってるんだろうな。それなら...
「誰が使うかよ!」
脳内で再度筆記の呪文を唱えてアクティブにしながら拳銃を握る。そして、一発の弾丸を放った。
「無駄なことを...」
魔王は銃弾をいとも容易く回避する。しかし...避け切ることはできるかな?
「む...なんだこれは」
いつのまにか、魔王の周囲に鏡のようなものが浮いていた。放たれた銃弾はそれに命中すると、進行方向を変えて背後からまた魔王に襲い掛かる。
後方も見ることができる魔王はその弾丸を軽々と避けたものの、また鏡に命中して角度を変えて別の鏡に当たり、今度は横から魔王に襲い掛かる。
「複合魔法、跳弾鏡射だ。避けれるもんなら避けてみろ!」
「っ...!」
銃弾は永遠と反射を続けて魔王に襲い掛かる。しかも、本来の跳弾鏡射に加えて加速の魔法も付与させたため、一度反射するごとにその速度は増していき回避はより困難になる。
「おっと、そいつは逆効果だ」
魔王は鏡を破壊しようとして魔法を放ったが、その魔法すら反射してしまう。毎回反射角度の調整をしなければならないため俺の脳を疲労させることは出来ているが、その代償に魔王は回避できる領域を大幅に失った。時期に避けきれなくなり...
「突き刺さる!」
魔王の放った魔法が魔王の足を払い、もつれたところに銃弾が背中に突き刺さった。
「そして...お望み通り喰らわせてやる!魔法拡散をなァ!!」
突き刺さり、貫通せずに魔王の体内に残った弾丸に刻まれていた魔法拡散が発動する。発動起点は銃弾に刻んだ魔法陣。つまり、どれだけ逃げようとも魔法拡散からは逃れられない...!
「……なるほど、考えたな」
「まぁパクリなんだけどな」
今やったことはサーマルとキネットという赤髪姉妹魔族たちに、ニアから受け取った魔法拡散の魔力銃をぶち込んだことの再現だ。あれも撃ち込んだ弾丸を起点にして魔法拡散を発動させるものだった。それを、実弾に魔法陣を刻むという方法で代用しただけ...俺はほぼ考えてない。
「そんじゃ...終わりだ」
銃弾に刻んだ魔法拡散の魔法陣に流し込んだ魔力量からして、魔法拡散の効果時間は三、四十秒ほど。そのうちにできる限り攻撃を叩き込み、治癒魔法を使われる前に倒す...!
「閃光!そんで魔法復唱!!」
魔法復唱の魔法により、閃光の魔法陣が複製される。そして放たれる十を超える閃光。いずれも追尾性を持っている。込める魔力の量を調整したから、魔力切れも起こさない。これで決める...!
「……ふむ、なるほど。では、こうするとしよう」
……っ⁉︎壁を貼っただと⁉︎魔法は使えないはず...!
「受け止め...⁉︎クソッ、そういうことか!」
魔法拡散の内部では魔法は魔力に散らされてしまう。だからあの壁は魔法によるものではない。そもそも閃光は魔法の壁は突破できるから、閃光が受け止められていることからも魔法によるものでないことはわかる。
ならば、あの壁は何なのか...おそらく、魔力の塊だ。体内の魔力や雨に含まれる魔力を利用して魔力を固めた壁を作り出し閃光を受け止めたのだ。魔力は凝縮されると物質と似たような性質に変化する。魔法をすり抜ける閃光も、物質化した魔力は通り抜けられない。
……けど、なぜその対処法に辿り着けた?魔法の防御を貫けることはその身で理解しただろうが、物理的な防御は貫けないことを魔王はまだ知らないはずだ。知ってたら、魔力で壁を作るなんてことせずに土砂を巻き上げるだけで良いからな。魔力で守れると気づいた理由が必ずあるはず...!
「魔法では受け止められないが、魔力でなら可能なようだな。雨で削られる光線を見てもしやと思ったが、当たっていたようだ」
っ、なるほど雨か。物質に当たると消えてしまう閃光は雨に当たっても掻き消えてしまう。速度操作を持たない今の自分では、雨の全てを回避させて魔王に当てられるような技量を持たない。よって、何かに触れてもすぐには消えないように二重三重の層構造を構成し、雨によって全て消えてしまうのを防いでいた。
魔王はそうして削られていく閃光を見て、雨に含まれる魔力によって削れているのだと解釈したのだろう。それ自体は誤りなものの、最終的な結果としては正解を引き当てているのがなんとも言い難い...クソがっ!
「魔力を直接操ることは不得手なのだが...まぁ良い。これも良い経験となるだろう」
魔王はそう言いながら魔力を操り、剣を形作る。そして...
「なっ⁉︎」
魔王は一瞬で俺の目の前に移動すると、魔力で構築した剣を真上から振り下ろしてきた。障壁魔法は間に合わず、ギリギリ槍を間に滑り込ませてなんとか防御する。
「素の身体能力かよ...!」
「防いだ貴様もなかなか優れていると思うがな」
「ガフッ...⁉︎」
魔王の足先から放たれた魔力が剣の形をなし、俺の腹を横一文字に引き裂いた。激痛が走り、内臓がこぼれ落ちる。
「っっっ〜〜〜!!」
途切れそうになる意識の中、なんとか正確に魔法陣を描き出し魔法を発動させる。逆行再生...傷のついた部位のみ時間を巻き戻すことで治療を施す魔法だ。これでなんとか治して、復帰する...!
「ほう、治すか!大した根性だ」
「そりゃどうも...!」
魔法陣を描き、一瞬の未来跳躍でほんの少しだけ魔王から遠ざかる。そしてもう一度魔法陣を描きながら魔王の追撃を避けていく。これがおそらく、俺にできる最後の抵抗...!
「これで終わらせる...!」
一瞬で大量の魔法陣を描き出し、自身に身体能力強化を魔力切れを起こさない限界までありったけつぎ込む。そして、先の魔法陣を描いてから三秒経った。
俺はこの世界から姿を消す。未来跳躍で飛ぶことの出来る限界三秒を別空間で過ごし、魔王に迫る。
三秒が経ち...俺は魔王の右腕のすぐ側に出現した。真後ろでは単純すぎて読まれる可能性があったため選択肢から外し、その上で最適だったのがこの位置だった。魔王が剣を持っているのは右手。この位置ならば、魔王に位置がバレても攻撃をするのに時間がかかる。振りかぶるというワンアクションが挟まるからだ。剣のせいで視界が遮られているのも加味すれば、この位置が魔王にとどめを刺すには最適だった。
そして、もう一工夫。俺は持っていた槍を魔王の目の前に向けて投げ込んでいた。一緒に跳んだ槍も、俺と同時にこの世界に戻ってくる。それに気を取られてくれれば攻撃成功確率はさらに上がる。武器は失うものの、刃の無い槍なんてあってないようなもの。強化をありったけ込めた拳で貫けばそれで良い!
「 なっ」
転移直後、俺は驚愕し声を失った。なぜかって?魔王が真っ正面から俺のことを待ち構えていたからだ。
そりゃもちろん、三秒もあれば魔王も少しくらい動いているだろう。けど、少しくらいなら許容範囲として俺も考えていたし、少しくらいなら対処してやろうと思っていた。でも、真正面はおかしいだろ。俺がここに出てくるって分かってなきゃ、そんな迎え撃つみたいな体勢取れるわけが無い...!
「ぐぁッッ!!あぐッ...!」
魔王によって剣の腹で殴り飛ばされ、地面と並行に吹き飛びそのまま地面を転がされる。
「知っているか?以前は変えられなかった確定した未来は、いつでも変えられる陳腐なものに成り代わっていることを」
「っ...未来を...見たのか...!」
おそらく、未来跳躍中に魔王に撃ち込んでいた魔法拡散が時間切れで効力を失っていたのだろう。そして俺があの位置に転移してくる未来を見て、待ち構えていた...そうとしか考えられない。
「先程、これで終わらせると宣っていたが、本当にこれで終わりで良いのかな?」
「くっそ煽りやがる...!上等だ、何度でもやってや
言葉が途切れた。
心臓が痛んだ。
「あ、が...魔、王...め...!」
「……何かした覚えはないぞ。魔力過剰症か?」
「出て...くんな...!」
魔王が...俺を蝕み乗っ取ろうとしてくる...!
魔力を出さなきゃなのに、雨で強制的に供給される...まずい...!
「間に...合え...!」
こんな時でも、こんな時だからこそ冷静に魔法陣を描いていく。
手元に投げ捨てたカッパが戻ってくる。物質転移の魔法だ。急いでカッパを着込み、新たな魔力供給を防ぐ。
急げ。体内に残る魔力を全て放出...!!
「魔力放出...武装解除だと?何故そのようなことをする」
はぁ、はぁ、と息を漏らす俺に魔王はそう問いかけた。心配では無く、なぜ戦いを止めるのかという困惑からだろう。
「魔王!戦闘の一時中断を所望する!」
段々意識が遠ざかる。少々派手に暴れすぎた。魔力は全て放出したから、魔王に乗っ取られる心配は無い...はずだ。
「ほう?何故だ」
魔王の魔力の中から逃れたらしき湊と、魔王の会話をする声が耳に入ってくるが、その声も段々薄れていく。
「彼の中には、別世界の魔王が...っ、幸希!!」
支えていた糸がプツリと切れたかのように、俺はその場に崩れ落ちた。
まぁ、何の準備も覚悟も出来てない今のカリヤくんに勝てるはずもなく...