神の使いの異世界修復   作:ダイヤモンドリリー

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8456字。

魔王戦後からです。


町を治めし完璧な法

「  っ!ここは...」

 

突然幸希が目を覚ました。間近でそれが起こったため、内心驚きながら私はゆっくりと口を開いた。

 

「ここは私の工房さ。この世界で一番安全な場所だから安心すると良い」

 

「ま...魔王は⁉︎どうなった⁉︎」

 

「……なんとか、見逃してもらったよ」

 

「見逃して...って、魔王が⁉︎そんなことするタマかよ⁉︎」

 

「交渉のおかげさ。君の中の魔王のことを説明し、このまま戦闘を続けると覚醒してしまうことを告げた。君の中の魔王がどれだけ危険なのかは計り知れない。私と魔王の二人がかりでも倒すことは難しい...と、大袈裟に伝えておいた。そうしたら、猶予をくれた...少しだけね」

 

「猶予...?」

 

「一週間後、同じ場所に戦いに来いと魔王は言っていた。行かなかった場合もどうせあちらから来るだろうから、一週間後の戦闘は避けられないだろう。事実上のタイムリミットというわけだ」

 

「一週間後か...それまでに、魔王を打ち倒す準備を整えなきゃってことだな」

 

「おそらく、その間に魔王も何かしら準備をしてくることだろう。もし幸希の中の魔王が覚醒したとしても、この世界に被害を出さないようにする対処法でも考えているのではないかな...まぁ、君の中の魔王なら私一人で十分倒せるだろうが」

 

「……さっきも大袈裟に伝えたとか言ってたが、俺の中の魔王を倒せるっていうその自信はどこから来るんだ?」

 

「私なら倒せると確信しているよ。ここでその根拠を話すと、それを君の中の魔王に聞かれてしまうだろうから話すわけにはいかないけれどね」

 

「速度操作と銃火器の生成と衝撃の剣、そして聖杖世界の魔法を操れる魔王だぞ?出来んのか...?ブラフじゃねぇよな?」

 

「ブラフだと思うのならそう思ってくれて構わない。どちらかわからない...その方が、魔王も判断に苦しむだろうからね」

 

……実のところ、幸希の中に巣食う魔王を倒す方法はある。どれだけ魔王が強い力を持っていたとしても、私ならば打ち倒すことができる。

 

しかし、完全な消失には至らない。一度倒し、幸希の中に再封印する現状維持が関の山だ。さらには、この方法を取ることで幸希も死亡する。全てを終わらせた後...この世界の魔王を倒して人類との協定を結ぶことを約束させてからでなければこの方法は取れない。

 

「……さて、これからの話をしようか。魔王との決戦まで一週間。それまで何をするのかをね」

 

「……特訓一択では?」

 

「それも必要だろうが、一択というわけでは無いだろう。例えば、魔王に魔力を供給している大元を叩く...とかな」

 

「……そうか、クルイガの魔力...!」

 

「魔王の中には複数人の魔力が混ざり込んでいた。クルイガのもの以外にも五、六人の魔力はあったはずだ。その者たちの魔力を利用し、遠隔で魔王に魔力を供給している施設を叩くことで魔王の力を削ぐことができる」

 

「なるほど...つーか、そんだけ攫われていたんだな...」

 

「実際はもっと多くの人が攫われていると思うぞ。過剰なほどに魔力を生産している者は魔力送信に使い、適正量を生産している者は傀儡魔法の使い手の様に手下として育成していると考えられる。まぁ、ここは予想でしか無いがな」

 

魔王の目的は人類の成長や進化を見届けることであるが、傀儡魔法の使い手のように人類の成長を促すことは問題ないのだろう。魔力過剰症によって力を持つ可能性がある者が死んでいくことを問題視しているのかもしれない。となると、同じように魔法使いとして育成している者がいてもおかしくはない。

 

「幸希が戦っている最中に、出来る限り魔力の解析を進めておいた。広域限定魔力探知を使えば、これまでクルイガを追っていったようによって方角がわかる...のだが、困ったことに全て別々の場所から魔力を送っているようだ」

 

「リスクヘッジは完璧ってわけか...一週間で全部回り切れるか?」

 

「……おそらく難しいだろうな。ある程度接近しなければ方角しかわからないのだから、全てを一週間で終わらせることは難しいだろう。魔力送信施設には魔物も待ち構えているだろうし、もしかしたら手下の魔法使いが守っているかもしれない。場所を特定したとしても攻略するのは難しいだろう」

 

「むぅ...じゃあどうすんだ?」

 

「場所だけあらかじめ特定してしまい、一気に叩く。そもそも、一つ破壊した時点で魔王にその事実が伝わってしまうから、新たな供給元を攫ってきたり、救った人がまた攫われてしまうといったことが起こりかねない。それを防ぐためにも、一つ一つ日を分けて潰すのでは無く一日で全て潰すのが得策だろう。それも、出来ることなら魔王との戦闘中にな」

 

「戦闘中...って、もしや俺が魔王と戦ってる最中にやるってことか?」

 

「その通りだ。私は対魔王戦では何もさせてくれない可能性が高い。今回と同様に、周囲に魔力を散布され無力化されるのがオチだろう。ならば、別行動をとって幸希をサポートする方がより貢献できる」

 

「……理には叶っていると思う。だが、一人で魔力送信施設を襲撃って出来んのか?さっき自分で魔物や魔法使いが待ち構えてるって言ってただろ?」

 

「……たしかに、その問題はある。だから、一週間をそこに注ぎ込む。場所の特定と、効率的に潰すための作戦立案。そして...それを成すための戦力の確保もする」

 

「戦力の確保って...軍を利用するってことか?」

 

「ああ。そこに人が捕らえられていると軍に情報提供をするなり、上層部を洗脳して軍を強制的に向かわせるも良いだろう。軍の力を頼れば、戦力不足も複数箇所を同時に攻撃できないという問題も解決する」

 

「でもそれだと、魔王配下の魔法使いがいた場合まずくねぇか?魔法を使ってる奴ら=魔物って認識の奴らは魔法使いの人間も容赦なく撃ち殺すと思うぞ」

 

「っ...考えが甘すぎたか。軍の力を頼れるのは、魔物しかいないと判明している場所に限られる...となると、ほかに協力者を得る必要があるな」

 

「協力者つっても、どうするよ」

 

「魔法使いを探すんだ。私と同じ、転生者をな」

 

「うーん...多分、転生してきた魔法使いは他にもそこそこ居るとは思う。俺らが知らないだけでな。けど、それを一週間で見つけるってのは難しくねぇか?」

 

「そうだろうな。ゆえに、この方法はあくまで第二プランだ。積極的に探すことはせず、偶然出会えたなら協力を持ちかけるだけに止めよう。優先順位は魔力送信施設を特定することの方が上だからな」

 

「なるほど了解」

 

「これからやることは、まず魔王に勝つための特訓。そして、魔力送信施設の位置を特定しそれを攻略する手段を探すことだ。テキパキ動く必要があるが、ついて来れるな?」

 

「ああ」

 

「魔王戦では幸希一人で戦うことになる。だが、魔力を取り込んで戦うことは魔王に乗っ取られる危険が伴う。よって模倣の傷を有効に使う必要がある。沢山の魔力器官の確保...そして、私の魔法を使いこなすことが必須だ」

 

「湊の魔法...って、それは無理だろ。別行動を取るんだから」

 

「遠く離れていても模倣の傷を使えるようにするのさ。この一週間を使ってな。最終的に、針一本チクッと刺しただけでこの世界全域で魔力を引き出せるようにしてもらいたい。大きな傷では私の行動に支障が出るし、どこまで離れることになるかは現状想像もつかないからな」

 

「針一本って...まぁ、やってやるしかないか...」

 

「今から始めるぞ。この一週間は常に模倣の傷をアクティブにしてもらう。頭に流れ込む情報量に慣れることも重要だからな」

 

そう言いながら、私は幸希に針を渡す。

 

「……魔王の魔法を使えるようにするのなら、情報量への適用も必須か...」

 

幸希は呟きながら針を受け取ると、それを私の手の甲にプツリと軽く突き刺した。血がぷくーっと小さな傷口から出てくる。

 

「……流石にこんな傷じゃすぐに塞がっちまうか」

 

「いいや、問題無い。たしかに傷が埋まると魔力の接続も途切れてしまうが、どうやら模倣の傷を発動中はその傷の自然治癒が行われなくなるらしい。この傷を一週間維持することは可能だ」

 

「えっ、そうなの?知らないんだけどその仕様...」

 

「実際、自然治癒の力を促進させる魔法ではこの傷を治すことは出来ない。他の治癒魔法では治せてしまうがな」

 

「そうだったんだ...知らんかった」

 

「その辺の事情を、もっと神様とやらに聞いてみたらどうだ?それと、聞けたらで良いのだが他に転生者が居ないかもそれとなく聞いてみてくれ。もしかしたら答えてくれるやもしれん」

 

「……クソッ、ダメだ。神様と連絡が取れなくなってる。魔王の力が強まっている証だな...」

 

「そうか...残念だが、致し方ない。それと、魔王が力を強めているのならば行動をさらに早めるとしよう。一週間の猶予はあるが、別に早めても構わないのだからな。魔王が復活してしまう前にことを済ませるため、巻きで準備を終わらせて魔王挑むぞ」

 

「了解」

 

「では、魔王に出会った直前の場所まで戻るぞ。そこから迂回して、本来行くはずだった町へ向かう」

 

転移魔法を発動させる。魔王を倒すまでに幸希の中の魔王が覚醒すれば全て終わり...心の中で祈り続けながら、私たちは転移するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんだ、あれは」

 

目的の町へ向かっていたら、その道中で別の町を見つけてしまった。城郭都市とは珍しい。にしてもあんな町、地図には無いが...

 

「地図には無い町か...気になるな、行ってみよう」

 

「ちょいちょい、どこ行くんだ?そっちには何も無いだろ?」

 

「……何を言っている?あそこに城郭都市があるじゃないか」

 

「湊こそ何言ってるんだ?あんなとこ何も無いだろ」

 

「幸希には見えていないのか...?ほら、あそこだ見てみろ」

 

魔法で私の視覚を幸希に共有する。

 

「うわっ、急に出てきた何あれ」

 

「……ふむ、なるほど。どうやらあの町全体に認識阻害の魔法がかけられているようだ。一定以上の魔力を持つ人間にしか見えないように設定されているのか...?」

 

「模倣の傷じゃ俺自身が魔力を得るわけじゃないから見えないってことか...たしかに怪しいな。そんな魔法かけるってことは、一般人には見られたくない何かがあるってことだろ」

 

「なのだろうが...あそこに魔王から検出した魔力の反応はない。送信施設ではないようだが...ひとまず向かってみるか」

 

「おう。つっても、見えない俺がついて行っても無意味かもしれんけど」

 

「あれは外からの認識を乱すもの。内側に入ってしまえば、正常に見ることができるはずだ」

 

幸希を引き連れて町に近づく。

 

「……中に大量の魔力反応...だが、一つ一つは少量だな。そして、魔物の魔力ではない...?」

 

近づきながら町の中を対象に魔力探知をかけて情報を探る。

 

「中にいるのは人か...?一人だけ魔力の濃い者が紛れているな。それも人間...クルイガのように、あの地を治めている者だろうか」

 

「……どんだけ近づいてもほんとに町があるとは信じられねぇ...」

 

「もうそこだ。入ればわかる」

 

せっかく城壁で囲んでいるのに開きっぱなしである門の下をくぐる。

 

「うわっ、本当に町が...えらく中世チックだな」

 

「そう...だな。この町を造った者の趣味だろう。この時代に、わざわざ手間をかけてこの形式の町を作る意味がない...そんなことよりも先に驚くべきことがあるだろう」

 

「ああ...普通に魔法を使ってやがるな」

 

町に入って最初に見た光景。それは、住民が普通に魔法を使っているという今では異様な光景だ。水を生み出したり、重い荷物を浮かばせたり...と、目に見えてわかる魔法をさも当然のように使っている。

 

……どうやら、その光景を奇怪なものを見る目で見ている者もいるようだ...って。

 

「魔力を持っていない一般人もいるのか...⁉︎」

 

おかしい、一般人なら魔法を見れば迷わず魔物だと考えるように義務教育を受けている。その腰につけている銃を即座に向けて引き金を引いていてもおかしくはないのに...

 

「ちょっと...思っていたよりも異様な町だな、ここは。魔法で洗脳を受けている様子もない...ならばなぜ共存出来ている?」

 

「魔法使いの方が多くて、一般人が手出ししないとか?」

 

「……たしかに怯えてはいるようだが、魔法や魔物への恐怖というより、別の何かに怯えているような...」

 

「何が何だかまるでわからないって感じか。こりゃ調べるしかないなぁ」

 

などと幸希と話していると、物を魔法で浮かせている男がこちらに近づいてきた。

 

「この町に来たってことは、お前らも逃げてきた口か?」

 

男が話しかけてきた。逃げてきた...とは?

 

「……フォルス?教科書に出てくるあの?」

 

おっと、魔力を持っているからフォルスの強制認知が...にしてもこの反応、どうやら現代の人間のようだな。

 

「まぁ良いや。どういう経緯でここまで流れ着いたのかは知らないが、この町に来たからにはルールに従ってもらわないといけない」

 

「ルール...とは?」

 

「この町特有の法に従うことさ。詳しいことは町中央に位置している神殿で話を聞いてくれ。ここに来た人間はまずそこに向かうように定められている」

 

「そうなのか...教えてくれて感謝するよ」

 

「おう、この町に来たからにはもう安全だ。幸せに生きろよ〜」

 

そう言いながら男は去っていった。

 

「……ひとまず、神殿とやらに向かってみるか」

 

「そうだな...」

 

町の中心に向かって歩き始める。歩く最中に目に入る行き交う人たちの半数は魔力持ちで、魔法を使っている人も少なくなかった。どの人も、他者から魔力を分け与えられたのでは無く自前で魔力を生成しているようだった。まぁ、器はそこまで大きく無いし、生成量も微々たるものであるようだが...自前の魔力で魔法を使っていることには変わりない。

 

……これくらいの魔力を生産できる人は魔王軍に連れ去られて魔法使いの配下として育てられているだろう、と予想を立てていたけれど、まさかこんな場所にいるとはな...男が言っていたように、ここにいる者たちが皆逃げてきたというのなら魔王軍に連れ去られた人というわけではないのだろう。

 

……いや、決めつけるのは早計か。自由意志で逃げてきたと思い込まされている可能性が捨てきれない。この町を管理しているのは魔力の反応からして人間で間違いなさそうだが、魔王軍配下だと考えることもできるからだ。実際に会ってみなければわからないな。

 

「……なぁ、この町に入ってから身体が重いんだが、これって俺だけか?」

 

神殿に向かって歩いていると、幸希がそんなことを言い出した。

 

「私はなんとも無いな」

 

この町は複数人の魔力で溢れているため一色に染まっておらず、個人の世界が作られていない。そのため、クルイガの町のように他の魔法使いを苦しめるような作用は働いていない。けれど...

 

「だが、この町全体に正体不明の魔法がかけられているような気配がする。幸希だけその効果を受けている可能性はあるな。例えば、魔力を持たない者にのみ働く魔法とかな」

 

「そいつは面倒なこった...まぁ、ちょっと重いだけだし気のせいってことにしておくか」

 

「そうすると良い...っと、これが神殿で良さそうだな」

 

目的地である神殿の前までたどり着いた。

 

「入っても良い...んだよな?」

 

そう言いながら幸希は入り口の扉を開けた。

 

中を覗くと、その空間の一番奥に巨大な石像が聳え立っていた。掲げている手には天秤が握られており、もう片方の手で剣を地面に突き立てている。あれが崇拝対象なのだろうか。

 

そして、その石像の前に佇む者が一人...その者は、私たちが扉を開けた音に気付いて振り向いてくる。

 

「……これはまた、随分と大物が来てくれたな」

 

黒一色の服を着こなしている男はこちらに向かってゆっくり歩いてくる。

 

「再誕の魔法使いフォルス...か。ここにはどのルートを通ってきた?周辺の町に流した噂からか?それともある範囲の量の魔力持ちに一斉送信しているテレパスを傍受でもしたか?」

 

「旅の途中に偶然気付き、気になったから立ち寄っただけだ」

 

「なるほど...フォルスほどの実力者がわざわざここに逃げ込むことはないし、そうなるか...」

 

「すまない、一人で納得しないでくれ。ここに来ればこの町のルールとやらについて教えてくれると聞いている。君の名前も含め、話してもらおうか」

 

「名前...か。チェルスの名で呼んでくれ。本名は過去も現在も少しばかり嫌いな名前なんでね」

 

「……魔法使いの名を名乗るということは、転生者で間違いないな?」

 

「ああ、その認識で正しい」

 

……まさか、こんなに早く転生した魔法使いに出会えるとは思ってもみなかった。この町のルールとやらを聞いた後、魔力送信施設への攻撃の協力をしてもらえないか願い出てみよう。

 

「それで、この町のルールだが...それは私の作った法に従うというものだ」

 

「……この町限定の条例に従えということか?」

 

「有体に言ってしまえばそうなるが、もっと厳密だ。現代広まっている通常の法にさらに追加事項をいくつも加え、現行のものを一部改変したものがこの町の法...私の作った完璧な法律だ」

 

「法律に完璧があるとは思えないが...具体的に何を追加したんだ」

 

「魔法使いへの差別禁止...それが一番の特筆すべき点だろうな」

 

「それは...なるほど、だから魔法を見ても一般人は何も反応をしていなかったのか」

 

「ああ。魔法使いの真実を広め、なおかつ法で縛ることで魔法使いを魔物だと決めつけ差別することを禁じた。そのおかげで、この町は魔力を持つ人間の楽園と化した。この楽園を享受できる者を増やすべく、あらゆる手段を用いてこの町に魔力を持つ人間を集めている。先程挙げたルートはその一部というわけだ」

 

なるほど...この町の中限定とはいえ、魔法使いの存在を明るみにして一般人との共存を確立させているとは驚きだ。かつての魔法を人類に取り戻すという私の目的を、この町ではもう達成してしまっている。この町をモデルケースに出来れば、私の目的はもっと早く達成できるやもしれない。

 

……だが、一つ気になることがある。

 

「……もし仮に、その法を破り魔法使いを差別した場合、どうなる?」

 

「直ちに法の元に処罰される。この町全体にはそれ専用の魔法が張り巡らされており、いかなる法も破れば罰が襲い掛かる」

 

「……罰...というのは?」

 

「物によってまちまちだ。魔法使いへの差別の場合、どこまで実行したかによって変わる。暴言では侮辱罪や脅迫罪が適用され、暴力を振るえば傷害罪による罰が下る」

 

「罰の内容はなんだと聞いている」

 

「一時的な苦痛や疲労感、所持している金銭の強制没収などが基本だが、より重い罪ならば肉体に障害を負うことになったり、期間はまちまちだがしばらく意識喪失に陥ることもある」

 

「……それが、強制的に...か」

 

「こうでもしなければ、人は罪を犯す。そして、罪は必ず罰しなければならない。これでもまだ温情をかけて罰は弱めにしているんだ。効果が見込めなければ強めるつもりだったが、この時点で既に効果は出ている。この罰を変えるつもりはない」

 

「……この方法では、魔法で強制的に縛られているのと何も変わらない。表に出していないだけで、一般人の魔法使いへの不信感は強まっている。いつ爆発するかわからないぞ」

 

町で一般人が魔法使いに向けていた目を思い出す。あの時抱いていた恐怖感は、魔法使いに何かした際に襲いかかる罰に対してのものだったのだろう。魔法使いが魔物だという認識は撤廃できておらず、けれど罰が降りかかるから何もできないというだけで、罰さえなければ即座に撃ち殺していてもおかしくは無いだろう。

 

「ならば、爆発しないよう法で縛るだけだ。以前はそれが普通だったのだから、今の人間にも魔法使いを人間扱いしてもらわなければ」

 

迷いなくチェルスは言い切る。そして...チェルスは私から視線を外した、

 

「ところで、フォルスと共に来たそこのお前...随分と苦しそうだな」

 

……そういえば、この神殿に入ってから幸希は一言も喋っていなかった。横を見るが、幸希の姿がない...っ、蹲っている⁉︎

 

「幸希に...何をした⁉︎」

 

「この町には魔法が張り巡らされている。罪を犯せば即座に罰する魔法と、これまで犯した罪に応じて作用する魔法の二つがな。この二つを持って、侵入してきた魔物は人への攻撃が不能になる」

 

この町は魔力を持つ者にしか認識できない。そのおかげで一般人に見つかることはないが、魔力を持つ魔物には認識できてしまう。だが、中に入ったとしても人を攻撃することは罪を罰する魔法によって防ぐことができるようだ。そして、すでに罪を犯している...要するに、人を傷つけたことがある魔物は町に入るだけで何かが起こるのだろう。

 

……例えば、身体が重くなる...とか。

 

「何をしたかと問うたな?ならば、こちらから問おう。お前...今まで幾つ罪を犯した」

 

幸希に、今までの全ての罪がのしかかっていた。




罪と罰を扱う力なので、最近アニメ化されたあの人が思い浮かぶ人多そうだなぁ...と思いながら書いてました。
こっちでは裁判の過程を踏まずに即罰を執行してくるので、下手したらより強力な力なのかもしれませんね。
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