魔王戦突入です。
「 っ、ここは...?」
気がついたら、町のど真ん中に立っていた。
「おかしいな、さっきまで寝てたはず...」
俺の衣服は寝巻きのままだし、寝ていたことは間違いないはずだ。となると...
「……そういや、前にもこんなことがあったか」
聖杖世界、そして源流世界での記憶を思い出す。目が覚めたら寝る前とは別の場所に立っている、夢遊病の記憶。
その原因は、俺が寝ている間だけ身体を乗っ取り自由に身動きしている、俺の中に寄生する魔王...!
「この症状が出始めたってことは、魔王が復活寸前のところまで進行してるってことか...今日まで持ってくれて助かったぜ」
「見つけた!」
声がした方を向くと、ゼェハァと息を切らした湊がいた。
「私が寝ている間にどこかに行くな...繋がりが無ければ探せなかったぞ」
そっか、模倣の傷の魔力接続を辿って探し当てたのね。にしても、この息の切らし様からして、工房からかなり離れたところまで魔王は歩きやがったようだ。
「悪いな、魔王が寝てる間に乗っ取って散歩しちまったらしい」
「乗っ取...大丈夫なのか⁉︎」
「問題ない。前にもあったが、目が覚めればこの通りだ。こうなり始めたってことは、もうそう長くは持たないのかもしれない。けど、この世界の魔王と戦うところまでは持たす。必ずね」
「……頼むから、最後までちゃんと持たせてくれよ...急いで戻るぞ。今日は決戦の日だ。準備したらすぐ出発するぞ」
そう、今日は魔王と戦う約束の日だ。チェルスや、情報提供した軍も動き出す。ここでもたもたしている暇はない。
「おう、行こうか」
俺はそう言いながら湊を抱える。
「そんな体力じゃしばらく走れんだろ。このまま行くぜ」
「抱えて走るなんてことしたら魔王と戦う体力が...」
「こんなん準備の段階で治る。つーか、体力を心配すべきなのは湊だ。訓練の時に湊の体力づくりもしとくんだったなぁ」
「言ってくれるじゃないか。にしても...緊張とかしないのか?私、若干手が震えているのだが...」
「緊張しても意味ないしな。してても戦闘に集中して全神経を注いでおけば、緊張する暇すらなくなるさ...手は俺も震えてるけどな。なんか重くね?防弾チョッキ重ね着とかしてる?」
「よく気づいたね。魔法使いがいるのなら、銃を使ってくることも想定しなければならない。魔法で強化してくることも踏まえると、これくらいしないとダメだと思ってね。それと...女子に重いは禁句だぞ」
「こりゃ失敬お爺ちゃん」
「はは、本当に口がよく回るな。おかげでこちらも緊張がほぐれてきた」
湊の緊張をほぐしてやりながら、俺らは湊の工房へと戻り、各々準備をするのだった。
「よっ...と」
湊の転移魔法陣に乗り、一人で転移をする。転移先は、決戦の地の目の前だ。
「こりゃまた結構な雨なようで...」
もしかしたら、あれからずっとこの場には宵闇の雨が降り続いているのかもしれない。宵闇の雲の領域の外に地面が貯水出来なかった分の雨水が流れ出し、巨大な水溜まりを作り出していた。半分泥沼みたいになっているな...
「……さて、入りますか」
魔力を弾くカッパを着込んだ俺は、光源魔法を宵闇の中へと放って明かりを確保してから中に入る。
「よく来たな。この七日間、大層待ちくたびれたものよ」
「待たせてすんませんなぁ魔王よ。こうして倒しに来てやったぜ」
魔王は既に戦闘モードのようで、何もない顔の状態で剣を握りしめていた。だが、この様子だとしばらくは会話に興じてくれるらしい。
「ほう、此度は貴様のみなのだな。再誕はどうした。まさか、一人で敵うとでも?」
「一人じゃないぜ。ちゃんとここにフォルスの力はある」
宵闇の中に入ったが、湊との魔力接続は正常に繋がっていた。これが出来てなきゃ全てが台無しであったが、良かった良かった。
「俺とフォルス...そして、人類の力全てを持って、お前を倒す!魔王!」
「そうか、ならば来い!魔王にして、人類の裁定者...天命の魔法使いヲルが相手だ!」
魔王は剣を大きく振りかぶった。そしてその剣を振り下ろすのを、ただでさえ研ぎ澄まされている動体視力をさらに魔法で強化したこの目で見切り、横っ飛びで回避する。剣は地面に突き刺さり、雨によって泥と化した地面を周囲に飛び散らす。
「まずはこの悪環境を正す!」
横っ飛び後の着地の瞬間に魔法を発動させ、泥沼と化した地面を完全に凍り付かせる。完全凍結には少しばかり時間がかかってしまったため、直前で跳ばれてしまい魔王の足や剣を地面と共に氷漬けにすること叶わなかったものの、これで泥沼に足を取られることは無くなった。
「こんな氷いつでも消せるが...こちらとしてもこの方が好ましいか」
以前の戦闘で路面凍結によって凍らせた地面を一瞬で解凍させられたことがあったため少し不安だったが、魔王も魔王で泥の中で戦うのが嫌だったらしい。好都合だ。
「さて、何をしてくる!」
初撃を躱された魔王はしばらく受けに回る。俺の攻撃を真っ向から受け止め、人類の強さを測るために。この舐めプ状態のうちに倒してしまいたいが、魔力供給によるほぼ無限の魔力を会得している状態では即座に治癒魔法を使えるため倒すのは困難だろう。
それゆえに、ここで倒し切ることはしない。湊たちが攫われた人たちを救い出し魔力供給が止まるまで、ひたすら多種多様な攻撃を仕掛けて魔王を飽きさせないようにする...そんな時間稼ぎをすれば良い。
「これから見せるのは魔法では無い。人類の、暴力に振り切った科学力だ!」
湊の魔法を使い、次元収納を発動させる。取り出した物は...一般人じゃ持てない軍の支給銃。地球で言うところのアサルトライフルだ。
凍った地面を滑りながらフルオートでアサルトライフルを撃ち続ける。反動が小さく制御しやすいものの、氷の上であるため少しずつ身体が押し出されてしまう。それを魔法の力を借りることで移動方向を制御し、ひたすら魔王の身体を撃ち抜く。
「ぐぬゥ...!前回の銃とは弾数も火力も段違いというわけか...!」
そりゃ当然だ。この銃は軍の駐屯地に潜入して盗み出してきたものだからな。市販のものとは比にならないほどの火力を持っている。物を引き寄せる魔法では宵闇の外のものを引っ張ってこれないが、あらかじめ盗み出して次元収納にぶち込んでおけば、こうして火力を出すことは可能...!
「リポートありがとよ!そんじゃ次の食レポ頼むわ!」
ひとしきり撃ち切り弾切れを起こしたアサルトライフルを投げ捨て、次元収納から別のものを取り出す。軍から盗み出してきたものはこんなアサルトライフル一本じゃ済まない。リロードなんて面倒なことはせず、次なる盗品を取り出してしまった方が何倍も早い。
そして即座にピンを抜き、それを魔王に向けて投擲する。
「これは...⁉︎」
投擲されたのは手榴弾。それは魔王の目の前で爆発し、周囲に爆風と破片を撒き散らす。魔王は初見の攻撃を必ず受け止めてくれる。俺は身の安全のために障壁を張って破片からを見守ったが、魔王はそれをせず全てをモロに喰らった。
「……ふはは!面白い!そこそこ魔法に近い威力を魔法無しで叩き出すとはな!」
煙の中から既に治癒を完了させた魔王が出てくる。相変わらず治癒速度が尋常じゃないくらい早い...模倣の傷を発動させてもすぐさま治されてしまうな。
けど、これで良い。何度も傷を負わせて時間を稼ぐ。そして、傷をつけると同時に模倣の傷を発動させることで、魔王の持つ魔法の情報を少しずつ汲み取っていく。膨大な量でも、少しずつ噛み砕いていけば理解は可能だ。何度も何度も繰り返せば、いずれは魔王の魔法を行使することも...!
「そんじゃ、もっと凄いものを見せてやるよ」
次元収納から取り出したのは、ロケットランチャー。それを肩に担ぎ、煙の中から出てきた魔王目掛けて即座に発射する。
「なっ...⁉︎」
直撃、そして爆散する。模倣の傷接続...魔王の魔法情報を取り込み、頭痛が治まるように分割して頭に叩き込む...!
……今度は長い!かなりのダメージを与えられたようだ。治すのにも手間取っている。それなら今のうちに次の用意を...!
次元収納から取り出すは固定機関銃。土台ごと取り出し、魔法で土台を凍った地面とくっつけて固定する。
「このような兵器まで完成させたか!人類の科学とやらは恐ろしいものだな!」
魔王は嬉々とした声を張り上げる。そこに照準を合わせ、機関銃を連射する。
「更なる連射速度...防御魔法を貫けるか試してみよう!」
魔王は防御魔法を張り機関銃の連射を受け止め始めた。急に防御し始めたな...けど、身を守りたいからでは無いだろう。魔王にあるのは極度なまでの人類に対する知的好奇心。身を滅ぼすことですら厭わず、威力検証のために防御魔法を使うこともある...か。
「……ほう、ほうほうほう!この程度の防御魔法ではヒビが入るか!これを持たせるにはかなり力を使うことになるな!」
「チッ、こんだけ撃ってヒビだけかよ」
引き金を引き続けて数十秒、弾切れを引き起こす。これ専用の弾薬はもう無いので、その場に放置して真横に滑る。そして次元収納から散弾銃を取り出し魔王に向ける。
「それなら...!」
引き金を引き、薬室に込められているスラッグ弾を撃ち込む。放たれた一発のスラッグ弾は魔王が展開しているヒビの入った防御魔法に命中し...
防御魔法を消失させて魔王を貫いた。
「なっ...るほど、弾丸に魔法を込めたか!それも、魔法を散らす魔法を!」
チッ、看破してくるのが早いな。これでは二度同じ手を食らわせるのは難しい...
「だが変だな。その魔法は別世界の魔法。貴様が行使できるのは再誕の扱える魔法のみ...ふむ、となると彼奴も使えるようになったというわけか」
模倣の傷は対象者の使える魔法しか使うことが出来ない。だが、一度でも使っていれば俺も使える。湊に聖杖世界の魔法を一度使わせてしまえば模倣の傷でも発動させられるのだ。適性が低いためか消費魔力があり得ないくらい多くて、ある程度湊のために残しておかないといけないことを考えるとそう何度も使うことは出来ないがな。
けれど、その事実を魔王は知らない。一度でも使ってみせれば、二度目を警戒せざるを得ない。このまま情報戦を制し続け、流れを引き寄せる...!
そのためにも、魔王に考える隙は与えない。次へ次へと手札を放出し、魔王を追い詰める!
「さぁ!次は何で来る!」
今魔王には顔がないが、あれば満面の笑みであると容易に想像できる声色で魔王は叫ぶ。
「そんじゃあ...」
次元収納を開く。中が飛び出してきたのは...
「轢かれな」
次元の裂け目から時速120キロで走行する自動車が飛び出してくる。秒速にして33メートル...そんなものが僅か数メートルの場所から解き放たれたため、魔王は反応する間も無く自動車に轢かれる。
「ぐぉぉっ⁉︎」
自動車は魔王の脚に突き刺さり、大破した。流石に、普通の人間の三倍近くの大きさの魔王を吹き飛ばすことは叶わなかったが、先ほどのロケットランチャーのように傷の治りが遅い。かなりのダメージは与えられたようだ。
こんだけ効果あるならもっと作っておけば良かったぜ。次元収納は収納時の状態を保存する。盗み出した自動車を魔法で吹き飛ばし、次元の裂け目に突っ込むだけでこの巨大な鉄の弾丸は作り出せるのだから、変に躊躇せずに量産するんだったな。
「次!」
魔王の傷が治り切る前に次元収納から新たな物を取り出す。そしてすぐさま魔法を起動し、取り出した物を操作し始める。
「それは...なんだ?」
「戦車さ。二対一だぜ!」
無人の戦車を魔法で無理矢理動かす。凍った地面をキャタピラで進むのは難しいので移動は魔法で直接動かすことにし、砲撃はトリガーを魔法で遠隔操作することでこなす。
「くっ...一撃で破壊するか!」
戦車の砲撃を放つと、魔法が作り出した防御魔法は粉々に破壊された。良い火力だ。戦車で防御魔法を破壊し、俺が軍から盗んだ銃でその穴を撃ち抜けばいける...!
「喰らいな!」
魔法は再び壁を張るも、戦車の砲撃が即座に破壊する。そこに魔法で爆風を防ぎながら近づき、至近距離で散弾銃を撃ち込む。今度は散弾が込められており、無数の弾丸が魔王の腹を貫く。
「ついでに吹き飛べ!」
手榴弾を取り出し、傷ついた魔王の腹目掛けて投げ込む。俺は魔法で加速しながら地面を滑ることでその場を離れ、手榴弾の爆発から逃れ...
「クソッ、防御しやがったか...!」
魔王は手榴弾を強力な防御魔法で包むことで爆発を外に漏らさず受け止めた。手榴弾によるダメージはゼロ...ならば次なる一手を!
「っ...燃えろ!」
次元収納から起爆スイッチを取り出す。先程滑り込むように魔王の足元に移動した際、そこに爆弾を設置しておいた。その起爆スイッチを起動し、魔王に爆炎を浴びせる。
「なるほど面白い。攻撃に意識を向けさせながら罠を仕掛けておくとはな」
「……まだ余裕ってか...」
どれだけ魔王を攻撃しようとも、魔王はすぐさま治癒魔法で回復してしまう。宵闇の雨と複数人からの魔力供給によって、魔王の魔力が底をつくことはない。何度でも回復し、笑って俺の次なる攻撃を待つ...終わりが見えないまま攻撃を続けなければならないのは精神にくる...!
早く、早く魔力供給を絶ってくれ...!
湊は今戦闘をしている。その大体を右から左へと聞き流していたが、カッパのフードの内側に取り付けた通信機によって湊の魔法を使う宣言はずっと為されていた。
それが止まらない。まだ誰かと戦っている。おそらくはあの魔法使い。奴との戦闘を終えてくれなければ、俺は全力で湊の魔力を使うことができない。魔法を使うのにも少しタイムラグが生じてしまう。頑張ってくれないと、先に俺の手札が尽きる...!
「流石にあの兵器もいい加減目障りになってきたな。破壊させてもらおう」
「なっ...!」
魔王が戦車に向けて魔法を放った。戦車を守るために防御魔法を...クソッ、湊とのタイミングが...!
「しかも追尾式かよ!」
防御できないならば仕方ないと、発動中の念動力の魔法で戦車を高速移動させて魔法を避けようとするも、魔王の放った魔法は追尾性も持っており、なす術もなく撃ち抜かれ大破する。
「まだあるのなら出しても別に構わない。出したらまた破壊させてもらうがな」
「宣言されておいそれと出すかよ...!」
というか戦車は一台しか盗んでねぇよ!だから壊されたくなったってのに...!
「畳み掛ける!!」
拳銃を二丁取り出し、間髪入れずに魔王に向けて銃弾を放つ。
「数が増えたところで何の意味がある。他の武器を見せてみろ」
やりたいけどできないんだよ...!色々銃を盗んでは来たけど、魔王にとっては細かい銃の違いなんてわからないから目に見えて違う武器じゃないと別の武器だと思ってくんないだろうし、そもそも湊が本格的に戦闘状態に入ったせいで、俺が魔法を扱えるタイミングがほぼない!使えてもせいぜい一瞬次元収納の扉を開けるだけで、湊の魔法を使った攻撃はほぼ出来ない...魔法と銃火器による同時攻撃の択がもう消えてんだよ...!
……しょうがない。湊の魔法は銃火器の取り出しに専念させよう。少し威力は弱まるものの、魔法はこっちで発動させる...!
「……ほう、確かにそれらも貴様の武器か!」
次元収納の中から、大量の魔物の魔力器官が飛び出して周囲の地面にばら撒かれる。この魔力器官全てと模倣の傷による魔力接続が行われている。そして、魔力器官は宵闇の雨によって常に外部からの魔力供給を受けている状態なので、一気に消費し尽くしてしまわない限り何度でも魔法を引き出すことが可能...!
「無限の魔力なのはこっちもだ!」
魔力を引き出し、異なる種類の魔法を魔王の四方八方から撃ち込む。引火の槍、雷撃、水の超高圧射出、風の斬撃などの属性攻撃に加え、重力の増加による魔王の妨害なども魔王を襲う。
「ハッ、無駄だ!」
魔王は重力をものともしない跳躍力で攻撃を避ける。そんな魔王に向けて次なる魔法の照準を定めるが、魔王の持つ剣の切っ先から光が漏れ出した。咄嗟に俺は魔物の魔力を引き出し、上方向に向けて防御魔法を発動させる。
その次の瞬間、魔王の県の切っ先から放たれた光線が無差別に地表を襲った。なんとかして自分の身を守ることは出来たものの...
「クソッ、魔力器官が...!」
解き放った魔力器官の三割ほどが防御魔法の範囲外にあり、光線に焼き尽くされて消滅してしまった。
……けど、これも利用してやる...!
「最後まで役に立ちやがれ!!」
光線に撃ち抜かれた魔力器官に残っていた魔力を無理矢理操り、魔王の周囲に漂わせる。
周囲に他者の魔力が大量に立ち込めていると、自身の魔力と反発してしまい魔法使いは苦痛と共に魔法の発動を制限される。その状態を引き起こさせ、治癒魔法を使えない間に攻撃を叩き込めれば...
「この魔王に、二度目は通用しない」
「っ...!」
自身の魔力を放出して周囲の魔物の魔力を上書きしやがった...!クソッ、これじゃあ先の戦術は使えない。魔法を封じるには魔法拡散を使うしかない...だが、魔法拡散のための魔力を引き出すとその間湊が魔法を使えなくなってしまう!魔法を使うタイミングしか教えてくれないから今あっちがどれくらい余裕があるのかもわからないし...
「……っ、攻める一択しかねぇ...!」
こうなったらひたすら時間稼ぎしかない。攻める様子を見せながら、回避の用意だけはいつでもしておく。攻めっ気が弱いことを勘付かれる恐れはあるけど、結局俺の勝利条件は魔王の魔力を枯渇させて治癒を封じてから倒すことだ。湊たちがまず魔力供給を絶ってくれることが前提条件。
原点に戻れ。攻めすぎるな。手数の多さを幻でも良いから出来るだけ多く見せて、魔王が防御による見から攻撃に転じてくるのを防げ。時間さえ稼げば...
「ふむ、流石にこのワンパターンには飽きたな。状況を変えるとしよう」
そう言い放った魔王は指をパチンと鳴らした。
その次の瞬間だった。俺が銃を取り出そうとして開いていた次元収納の裂け目が消失した。そして、凍結していた足元の地面も元の泥沼に戻っていた。魔力へと変換され、魔法が解除されたのだ。
「この魔法...魔法拡散...⁉︎」
なぜ魔王が使える?俺からの記憶の読み取りと、目の前で何度か使ってみせたところから魔法を再現したのか?そんな馬鹿なと言いたいが、魔王ならやりかねない。魔王はこの世界の魔法を知り尽くしている。その知識をフル動員して全て除外することで見つけ出せる空白部分と照合させれば、この世界でも使える聖杖世界の魔法を見つけ出すことは可能かもしれない。
……いや、もうそんなことはどうでも良い。実際に魔王は魔法拡散を使ってみせたのだ。それ以外の何でもない。
「……詰みか?」
湊のだろうが魔物のだろうが魔法は使えない。銃を取り出そうとしていたタイミングだったせいで、今俺が使える武器は常に携帯している元々持ってた銃しかない。槍は次元収納の中だ。とても近接戦闘が出来る装備ではない。加えてこの泥沼と化した地面...魔法も使える上に素の身体能力も高い魔王と戦うにはどう考えても無理があった。
……正直俺はこの戦いを舐めていた。魔王は初見の攻撃を必ず受け止めてくれるため、もはやこの戦いは戦闘ではなく試練のようなものだという認識になっていたからだ。魔王を倒すという条件を満たすことで終わる試練...当然反撃も来るだろうけど、きちんと対処すれば命の危険は無いと思っていた。
だが、今は違う。試練から、死の危険がすぐそばまで迫っている戦闘に戻ってしまった。
死ぬかもしれない...もう何度も死んでいるというのに、その事実に身体が震える。
この局面を打開するには、あれを通すしか無い。だが、それは可能なのか?
「今の人類は魔法を使えない。今の貴様と同じというわけだ。さぁ、勝負を続けようじゃないか」
……迷ってる暇はない。それしか道がないのなら、ただそれをやるだけだ...!
魔王復活の予兆を見せながら、魔王ヲルとの戦闘に突入...そして大ピンチです。
気になる勝負の行方は...といったところで次回は湊視点に移ります。