第三章 模倣の傷 最終回です。
「ふははははは!!!!」
宵闇を形成していた魔力を全て取り込み、完全に仮谷幸希の身体を乗っ取った魔王は大きな笑い声をあげる。
「ようやくだ!ようやく堕とせたぞ!!ふはは!ははははは!!」
「なんて邪悪な気配...貴様が、再誕の言っていた別世界の魔王か」
ヲルは魔王を睨みつける。
「そういう貴様はこの世界の魔王なんだってな。人の身にして魔王を名乗るとは笑わせてくれる」
「貴様も今は人の身ではないか。何かに縋り付いていなければ存在できない哀れな存在よ」
「ほう、言わせてみれば随分と面白いことを宣うものだ...さて、この世界に魔王は二人もいらん。これからは余が世界を征する。貴様は死ぬが良い」
魔王の手の上に閃光魔法が現れる。この世界の防御魔法では防ぐことの出来ない必殺の攻撃...いや、そもそも今のヲルは魔力切れ状態だ。ただの防御魔法すら貼ることは出来ない。
閃光が放たれる。防御手段のないヲルは、ただそれを喰らうのみ...
と魔王が思ったのも束の間、ヲルの目の前で閃光があらぬ方向へと進行方向を変えてしまう。
「貴様...魔法は使えないはずだ。何をした?」
「神の加護ってやつさ...この世界に必要だと神が定めたものを、神がみすみす殺させると思うか?」
ヲルは死ぬことはない。魔王モードで死んでも人の身に戻り、人の身では神が全霊をかけて防御するためヲルは不死である。この世界を管理する者としての責務をこなせるように、神が与えた魔力に頼らない力がヲルにはあった。
「……どの世界の神も、つくづく余の邪魔をする...だが、今の貴様に余は止められまい。そして、これからも止められることはない。この力があれば...な」
そう言いながら魔王は仮谷幸希から奪い取った力を起動する。
速度操作...範囲内のありとあらゆる速度を操作できる無敵の能力を展開し、この世界全域を覆い尽くした。そして、聖杖世界でもやったように、全ての動きを減速させていく。
今の魔王は、速度操作も創造の銃も衝撃の剣もフルで活用することができ、そしてまだ不完全であるものの模倣の傷もその手中に収めようとしていた。この四つの力があれば...いや、そのいずれか一つでも魔王ならばこの世界を牛耳ることは可能だろう。
速度操作を展開したのは、目の前の障害を抑え込むことの他に、世界を征するのはこの魔王であるということを主張する目的もあった。圧倒的な力の差を見せつけ、反抗すら許さない。こんな恐怖を撒き散らそうとしていた。
しかし...
「……なぜ動ける」
世界の全てを止めたというのに、ヲルは動いていた。
「これは...世界丸ごと全ての動きを止めたのか?」
まるで何も影響を受けていないかのようにヲルは動き続けていた。それを見た魔王は、とある男が脳裏に浮かぶ。
「……これも神の加護とやらか...忌々しい」
魔王の脳裏には聖杖世界の勇者の姿が思い浮かんでいた。女神の加護によってありとあらゆる悪影響を跳ね除ける勇者と、目の前のヲルの姿が重なる。
「どうやら...貴様の奥の手も届かないようだな。この不可侵は貫けないらしい。となれば、すべきことは一つ。魔力を取り戻してから、貴様を滅するとしよう」
まずいか...?と魔王は一瞬思うものの、すぐに問題ないだろうと結論づける。どれだけヲルが強かろうと、速度操作による光速移動には追いつけまい。魔力を取り戻してもなんら問題はないだろう。
「……と思ったが、どうやら世界を救う者はもう動き始めているようだ。人類を見守る者として、ここは静観させてもらおう」
そう言ってヲルはその場を歩き去る。攻撃を仕掛けようかと魔王は思ったが、どうせ無駄だろうと魔法を撃ち込むのをやめる。そして、ヲルが最後に言ったことについて考える。
世界を救う者がもう動き始めているとはなんだ?この静止空間で動ける者が他にいるとでも?
魔王は速度探知に意識を向ける。
そして、気が付いた。
遠く離れた場所にて、これまた平然と動き続ける者が一人いることに。
「ヲルはともかく、なぜ他に動ける者が存在する...!なぜ速度操作が弾かれる!」
減速に対抗して加速したとしても、それをさらに上回る減速わかけることは可能なので、ただ加速するだけでは逃れることは出来ない。魔法拡散でも無効化は無理だ。神が与えた力である速度操作に対抗するには、それこそ神の加護といった神の力が必要なはずだが...
「……やはり、乗っ取られてしまっているようだね」
魔王の前に、一人の少女が転移してきた。
その名は三枝湊...又の名を、大賢人フォルス。
「魔力接続が切れた時点で動き始めて良かったよ...でなければ、何をされていたかわかったもんじゃない」
フォルスは、模倣の傷の魔力接続が切れたことによって魔王復活を感じ取っていた。仮谷幸希の中に魔力が入り込むと模倣の傷は解除されてしまう。魔力を取り込むことは絶対にしないと予め決めていたため、模倣の傷が切れた瞬間にフォルスは準備を進めることが出来たのだ。
「貴様はなぜ動ける?」
「なぜ...か。それは、見てみればわかるのではないかな。聖杖世界に存在する、魔素と聖素とやらをな」
この世界に魔素と聖素は存在しない。なので魔王は訝しんだが...やがて気付いた。
なぜか周囲に魔素が生じていた。そして、フォルスの元に聖素が大量に集まっていた。
魔王は、フォルスの中に勇者を見た。
「幸希の中にいたのならば、この事象を引き起こせる魔法を知っているはずだ」
「……伝承の語り手⁉︎だが、発動条件が...っ!」
「そう、満たしているのさ」
フォルスが扱う伝承の語り手という魔法の発動条件は二つ。一つはその物語に対する深い理解。そしてもう一つが、その物語を知っている者が発動者以外にも二人以上いること、つまりは三人以上が物語を知っていることだ。
此度再現される物語を知っているのは、発動者であるフォルスと、その話をフォルスに語った本人である仮谷幸希、そしてその語りを仮谷幸希の中で聞いており、尚且つその物語の重要人物である魔王...合計三人だ。発動条件は満たされている。
「名付けよう。この物語は...止まりし時の決戦。幸希の身体を乗っ取り世界を止めてから、勇者が魔王を撃ち倒すまでの戦いを記した物語...既に、この物語は始まっている」
フォルスは手を前に伸ばした。何かを掴み取るように。
「魔王、お前は自らの意思で世界を止めたと思っているだろうが、それは違う。全ては私が物語を読み始めたことにより動き出したのだ」
フォルスの前に光が集まる。この世界には本来存在しない、だがこれが無ければ物語は成立しない、そんな物品が伝承の語り手によって作り出される。
「馬鹿な...聖剣だと...⁉︎」
フォルスの手の甲には、いつのまにか鳥の紋章が刻まれていた。そして、その手には聖剣が握られていた。
「これが聖剣か...」
聖剣を手にしたフォルスは、生み出された聖剣を見ながら一言呟き...キッと魔王を睨みつける。
「『聖剣展開』!」
フォルスの呪文詠唱により、聖剣の鞘が変形する。
「忌々しい剣だ...だが、そのようなものは今の余には効かぬ!奪った神の力の前に平伏すがいい!!」
魔王は叫びながら、衝撃の剣を発動させようとした。
……しかし、何も起こらなかった。
「な、なぜだ...⁉︎」
今度は創造の銃を発動させようとするも、これも不発に終わる。ならばと魔法を発動させようとしたものの、魔法すら発動しない。発動できるのは、速度操作と、極一部の魔法のみだ。
「魔法は一部を除いて使用禁止だ。それもそうだろう?神との契約によって、速度操作発動中は契約以前に覚えた魔法を使用することが禁じられている。今はどうなのか知らないが...状況は全てあの時のままだ。当然、それ以降の世界で手に入れた力も使わせない」
魔王が他の能力を使えないのは伝承の語り手による影響だった。この魔法は、何がなんでも物語を再現する。極めて近似した事象が起こっていない限り発動できないものの、発動さえしてしまえばその後は全て物語に沿った事象が再現される。それ以外の行動は封じられ、結末に向けて修正可能な範囲でしか行動は許されない。
「ここから先は既定路線だ。もうお前に勝ち目はないんだよ、魔王よ」
「そんな...そんなふざけた話があってたまるか!!」
魔王は自らの左腕を右手の爪で引っ掻くと、出てきた血がナイフのような形をとってフォルスの元に飛んでいく。
フォルスはその血のナイフを聖剣で弾き飛ばすと、魔王に向かって走り始めた。
それを見た魔王は弓をつがえるような動作をとる。
「贄の弓」
一瞬の詠唱。そして、魔王の矢を掴んでいる腕が粉々に砕け散った。肉が、血が、骨が、矢の形へと圧縮されて放たれる。
「少々端折るとしようか。このままでは結末まで長すぎる。斜め読みだ」
贄の弓を避けたフォルスは、聖剣を持っている方とは反対の手に羽ペンのようなものを持っていた。
「『雷装』!!」
魔王に手で触れると、フォルスの全身に流れ出した雷装が魔王に流れ込む。それと同時にフォルスは羽ペンで魔王の左手に印を書き込んだ。
「っ、隷属の印か!」
魔王は隷属の印が書き込まれた左腕を切り落とし、即座に魔法で治癒する。
少しずつ、端折られた箇所はあるものの着実に物語が進んでいく。
「次は脚の破壊...!」
気が付けば魔王の脚は義足にすり替わっていた。フォルスは魔法を使いその義足を凍結させると、その直後にどこからともなく魔法が飛来して凍りついた義足が破壊される。飛んできたのは、フォルスが魔王の元に転移する前から放っていた魔法だった。物語の強制力により、速度探知で気付くことは不可能であった。
「くっ...!」
魔王は失った脚を取り戻すため、魔力を使って脚を形成する。
だが、その次の瞬間には腕輪を持ったフォルスがその脚を消しとばしていた。魔力を吸収する腕輪を、魔力体の脚にぶつけたのだ。
「『聖剣納刀』」
次なる再現のためにフォルスは聖剣を鞘に戻す。
「『聖域展開』...!」
そしてすぐさま、魔王のすぐそばでフォルスは聖域を展開した。
その直後、物語の強制力によって魔王の速度操作が解除された。
そしてどこからともなく降り注ぐ天の怒り...!!
「ぐああッ!!??」
「ハァッ!!」
魔王よりも一手早く動いたフォルスが、魔王の左腕を切り飛ばした。グルグルと腕が宙を舞い、少し離れたところにボトっと落ちる。
「き、さま...!!」
魔王は斬り飛ばされた左腕を治す...まるで、これから起こることを忘れてしまったのかのように。
その隙を見逃さず、フォルスは聖剣を魔王の左手に握らせた。
勇者以外を拒む聖剣の反発力が魔王に流れ込み、その反射で魔王は柄から手を離す。
「もう夢は終わりだ。さっさと起きて世界を共に救うぞ!幸希!!」
フォルスは魔王の中に眠る仮谷幸希に向かって叫んだ。
『湊ォッ!!』
そして、それに呼応するように幸希は目を覚まし、翻訳の力を通してフォルスに語りかけた。
『お前すげぇよマジで!このまま全てを終わらせろ!細部の端折りのおかげで権限の一部奪取は完了している!続きをやれ!!』
仮谷幸希は魔王から速度操作の権限の一部を既に取り戻していた。世界の静止は止められなかったものの、魔素による魔王の魔力回復を阻害し、雷装魔力による足の形成によって魔王の身動きを封じる。
「わかった。今すぐ終わらせる」
フォルスは聖剣を腰の高さで構える。そして...魔王を討ち滅ぼす詠唱を開始する。
「世界を分かち 魔を滅する剣 されど本質は光 聖剣は剣にあらず 光の奔流 魔を反転し浄化す 名もなき杖よ その姿を今取り戻せ!『聖杖』!!」
光の奔流が放たれ、圧倒的な物量の聖素が魔王を襲う...そういう幻覚が魔王には見えていた。
だが、二度目だ。流石の魔王もそれが幻覚であると理解している。
しかし、回避しない選択肢を、物語の強制力が許さない...!
ザシュッ、と仮谷幸希の首筋が切り裂かれ、中から黒いモヤが出てくる。
「はは、強制力のせいとはいえ、二度も同じ手に引っかかるとは間抜けだなぁ?魔王さんよぉ!」
飛び出した魔王を仮谷幸希が完全に静止させる...だが、強制力によって魔力が異常消費されてしまい、魔力は限界に近かった。止められるのはほんの数秒。
だが、それで十分だった。
「「これで...終いだ!!」」
仮谷幸希の魔力切れにより、世界全てが動き出す。
首からの出血が再開し、仮谷幸希は地面に倒れ込む。
だが、結末は変わらない。
眩い光の奔流が、魔王の黒いモヤを飲み込んだ。
「……幸希!」
反転聖素の眩い光が消え、魔王の姿が消えたのを確認したフォルスは、仮谷幸希の元へと駆け寄ろうとした。
「あぐっ...⁉︎」
だが、物語はその行動を許さない。強制的にスタミナ切れが起こり、それと同時に魔力切れも起こしてしまう。
「ぐっ...幸希、すまない...」
「何に対して謝ってんだよ、湊」
仮谷幸希はその場に座り込んでいた。首からの出血は止められず、死へのタイムリミットが迫る。
「この魔法を使えばこうなることはわかっていた...けど、私の手札ではこれが最適解で、これしか道がなかった...!」
「……なるほど、そのことか」
伝承の語り手は物語を再現する。フォルスが名付けた止まりし時の決戦という物語の幕切れで、仮谷幸希は死ぬ。この結末を変えることは絶対に不可能である。つまり、魔法を発動させたその時点で仮谷幸希の死も確定してしまっていた。
「謝らなくていいさ。元々、この世界での目的を果たしたら死んでこの世界を脱出する必要がある。死ぬ手間が省けて助かるくらいだぜ」
「だが、君の中には魔王が残ったまま...一時凌ぎしか私は出来なかった...!」
再現によって、魔王の一部は聖杖から逃れて再度仮谷幸希の体内に戻っていた。この結末も変えることはできない。仮谷幸希の中の魔王はいつかまた力を取り戻し、身体を乗っ取ろうとしてくることだろう。
「それで十分さ。魔王は過去一番弱っていた状態に戻ったんだからな。これでまたしばらくは魔王のことを考えずに動ける。魔王を倒すのは俺がいつか必ずやるから、湊が気にする必要はない」
仮谷幸希は真にそう思っている。フォルスの謝罪を受け入れることはないだろう。それを悟ったフォルスは、色々言いたかった思いを胸のうちにしまった。
「なぁ、湊」
「……なんだ?」
「この世界の魔王...ヲルはちゃんと倒したぞ。多分、呼べばいつでも姿を現してくれることだろう。準備が出来たのなら、呼んで約束を果たしてもらうと良い...良かったな、これで魔法の誤解を解けるはずだ。魔王の言うことを信じる人がどれだけいるのかはわからないが...チェルスの町の住人や、クルイガの力を借りれば多分なんとかなるだろう」
「……そうか、そうだな...これで、私の目的が果たせる...幸希も、ありがとう。やるべきことが他にあったというのに、私のしたいことに協力してくれて嬉しかった」
「いいってことよ。つーか、正直そっちは俺あんまり何も出来てないからな。せいぜい、別世界の魔法を教えたり、魔王を倒したりとかそれくらいさ」
「ふっ、そのせいぜいというのが一番役立っているんだがね。さては、わかってて言っているな?」
「はは、バレたか」
二人は笑う。最後の時を、笑顔で終わらせようとするかのように。
「そろそろ、だな...湊、ここまで本当にありがとう。これからも頑張れよ」
「ああ、当然だ!幸希も、頑張れよ...くれぐれも、心を病むことがないようにな」
「大丈夫...かはわかんねぇけど、頑張るわ...って、それしか言ってねぇな。まぁ、なんとかしてみせるさ。困った時は、誰かに頼って一緒に抱えてもらうよ」
仮谷幸希はそう言うと、フォルスに向けて手を差し出した。
「さぁ、物語を終わらせよう」
「そう...だな」
フォルスも這いずって仮谷幸希に近づきながら手を伸ばす。この物語は、最後の握手が叶わないことで終わりを迎える。
……だが、魔王も最後まで諦めるつもりはなかった。
魔王は仮谷幸希から奪った能力を持ったままフォルスの身体に乗り移ろうとしていた。仮谷幸希の身体はこの世界の法則で魔力を生成することができないからだ。フォルスの圧倒的な魔力生成は魔王にとってとても魅力的なものであり、それを手にすれば全てを手中に収めるも同然だった。
握手が空振り仮谷幸希が死ぬその瞬間に、伝承の語り手は終わりを迎える。仮谷幸希の肉体がこの世界から消失する瞬間に抜け出し、乗り移ることが出来れば...
…しかし、魔王にそれが出来るだけの力は残されていなかった。
「っ...」
フォルスの伸ばした手は仮谷幸希の手には届かない。仮谷幸希の身体が力なく倒れ込むと、どこからともなく現れた光に包まれてしまいそのまま消滅してしまう。
「……わかっていたとはいえ、掴めなかったのは心にくるな...っと、忘れずに宣言しなければ」
フォルスは開いた状態の本を片手で持っているようなポーズを取り...パタンと閉じながら唱えた。
「伝承の語り手─止まりし時の決戦─読了」
「っ...戻ってきたか」
死亡したことにより、俺は再誕世界から神様のいる空間に戻ってきた。
「いい仲間に巡り会えたな、仮谷よ」
「ああそうだな、それは良かった...だが、なぁ...!」
俺は神様を思い切り睨みつけ、怒気を露わにする。
「本来なら転生してきてない人間だから死んでも問題ないっていうあの発言!あれだけは許さねぇぞコラ!死んでもいいに類する発言は全て取り消しと謝罪を要求する!」
「……お主、忘れておるのか?」
「あ?何をだよ」
「この世界の管理者から、魔王や人類の国王などの重要人物以外ならば、誰がどれだけ死のうと別に構わないと許可は取っている...そう伝えたはずなのじゃが、見事に忘れておるようじゃな。いや、その後の魔物は殺してオーケーという都合の良い部分だけ記憶してしまったのか...?」
……そういや、そんな話をされていたような気がしないでもないような...
「いや、それでも!死なないに越したことはない!軽率に死んでも構わないと言うのはやめてもらおう!でなけりゃこの仕事は降りさせてもらうぞ!」
あれから考えたが、おそらくこの仕事、替えが効かない。俺が辞めると言い出せば、神様は要求を呑むしかなくなるはずだ。この唯一の立場を最大限に利用し、脅しをかけてやろう。
「……わかった。お主が拒むのならば、仕方あるまい。発言を撤回しよう。そして、これからは任務外の行動は自由に決めると良い。だが、任務は絶対だ。そこだけは譲れない」
「良いぜ。誰を傷つけることになろうと、任務ならやってやるよ」
よし、とりあえず最低限の要求は通せたな...
「……そんで、魔王はどうなってる?」
「聖杖世界離脱直後の状態に近い。じゃが、ちゃっかりと模倣の傷の力は奪い取っているようじゃな」
「そっか...けど、付けられた傷さえ治してしまえば問題ない。衝撃の剣ほどヤバいことにはならないはず...」
魔力の強奪による回復魔法の阻害はあるものの、魔王ヲルがやったようにやりようによっては魔法を使うこともできる。魔王が模倣の傷を使ってきたとしても、十分対処可能だろう。
「……聖杖世界にはまだ行けないのか?」
「そうじゃな。あと少し...お主があと一回別の世界に向かっている間には準備も終わるじゃろう」
「そうか、もうそろそろか...んで、次の世界はどんなのだ?」
「ひとまず、魔王の状態を鑑みて魔力の存在しない世界にしようと考えておる。源流世界のように魔力が無ければ、能力で魔力を生み出しさえしなければ魔王の復活は抑えることが可能じゃからな。その上でどの世界に向かわせるかは、これから考えるところじゃ」
「なるほど、魔力の存在しない世界か...じゃあ、こっちも魔力を生み出す方法がどうこねくり回しても無いような能力にしなきゃな」
再誕世界の余韻はもう無い。
次の世界へと向かう用意が、早速始まっていた。
これにて第三章 模倣の傷は完結です。
毎度のごとく解説を挟んでいくと、今回事前に書くと確定していたことは、相棒となる転生者の魔法使いと出会うことと、人類が魔法を失った云々の設定、これまでの人殺しや魔物殺しによる精神崩壊とその回復、魔力過剰症患者の治療シナリオ、そして魔王の復活とそれの解決の五つでした。
当初は他の魔法使いが出てくることはなかったのですが、転生魔法があるなら他にも転生者居るのが普通じゃね?となり追加されました...結果的に魔法使いとの戦闘を少しかけたのでいい設定変更だったかも。
それ以外の細かい設定は全てその場、もしくは先を見据えて書きながら追加したものです。
魔王戦の際、湊は魔王に魔力を供給している地脈を逸らすことで妨害をするシナリオだったのが自然界には魔力が存在しないという設定により破綻し、ほかの転生者や魔力過剰生成者からの供給を断つというシナリオになったりと、その場で設定追加したことによる弊害はありましたが、最終的になんとかまとまったものになったのではないでしょうか?
ちなみに宵闇周りの設定や伝承の語り手も書きながら考えたものです。
もちろん、設定を作った段階で最後にも活用すると決めてはいましたがね。
この方式で続けるのは一抹の不安がありますが、これからも頑張って書いていきますので、何卒よろしくお願いします。
次回からは、第四章 幻痛の熱をお送りします。
ストックは少ないですが、休載期間は設けずにこのまま投稿していくつもりです。
次回投稿は4/16!
お楽しみに!!