神の使いの異世界修復   作:ダイヤモンドリリー

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8081字。

人魔憑依編 第四章 幻痛の熱 開幕です。


人魔憑依編 第四章 幻痛の熱
新人類の日本支配


「ほう、これがお主が次の世界に持っていく能力か...これまでと比べるとかなり控えめじゃのう。汎用性も無さそうに思えるが、これで良いのか?」

 

俺のイメージした能力を読み取った神様はそんなことを言った。

 

「これで良い。強すぎると魔王に乗っ取られた後が怖いからな。それに、初めて見た時にちょっと使ってみたいと思ってたんだ」

 

今回持っていく能力は、過去に別の世界で魔法として使われていた力を自分なりにアレンジしたものだ。かなり弄ったが、原型は変わらずにうまくバランス調整が出来た気がする。

 

「そうか、お主が良いのならそれで良い。では、次の世界じゃが...これにしようかのう」

 

「どんな世界だ?」

 

魔王復活が起こらないように魔力が存在しない世界にすると言っていたが、一体どんな世界だろうな...

 

「舞台は地球。お主のいた地球と限りなく近いものの、魂の初期化によって生まれた巨大な歪みが世界を一変させてしまっておる。そんな地球の、日本に向かってもらう」

 

「……え?地球?日本⁉︎異世界じゃねぇの⁉︎」

 

「お主のいた世界とは違うのじゃから、紛れもなく異世界であろう。もちろん、魂の初期化さえなければほんのわずかなズレしか無くほぼ同じ世界と言っても良い世界じゃがな」

 

「……ま、まぁそういうこともあるか...」

 

この世にどれほどの数の世界があるかわからないが、中には似通った世界も当然あることだろう。

 

「んで?その世界の歪みってのはなんなんだ?」

 

「この世界で魂の初期化を受けた人物はただ一人。じゃが、その一人の魂が重大な変質を引き起こしてしまったのじゃ」

 

「一人でってヤバいな...その変質ってのは?」

 

「特異な能力の会得と、一部の性質を受け継いだ子を生み出す増殖能力の会得...それらが組み合わさることで、その者は日本を脅かす存在に変わり果ててしまった。いわば新人類とでも呼ぶべきその存在は、日本を取ろうと増殖を繰り返して子を全国に撒き散らした。おかげで日本は大混乱。一部地域を除いて日本は人が安全に住める場所ではなくなってしまった」

 

「な、中々エグいこと起こってるな...この流れ、俺にその人を殺せってことか?」

 

「概ねそうなるな。じゃが、お主が必ずしも殺す必要は無い」

 

「というと?」

 

「日本も抵抗はしておる。現に自衛隊が総力を上げて反抗作戦を行ったことにより、北海道と沖縄は取り返しておるからの。この世界でお主がすべきことは、自衛隊へと入隊し能力を使ってのサポート、そして新人類の絶滅じゃ」

 

「……自衛隊に入るってどうやってさ。無理だろ」

 

「自衛隊は常に人手不足じゃ。対新人類用の武器は一般人にも容易に扱えるため入隊条件は通常より緩い。お主の身体能力ならば即戦力として簡単に入り込めるじゃろう」

 

「そういうもんか...ん?能力を使ってサポートって言ったけど、普通の地球ってことは魔法も能力も無いよな?能力なんて使ったら、新人類だと勘違いされて殺されるんじゃ...?」

 

「……その可能性は大いにある。一応言い逃れできる術もあるにはあるが、バレないに越したことはないじゃろう。幸い、次のお主の能力は傍目から見ただけではバレにくい能力じゃし、お主なら上手いことやってみせるじゃろう」

 

「丸投げっすか...まぁ、やるしかないか」

 

「現状話せることはこれくらいじゃのう。新人類の具体的な説明は自衛隊に入隊した際に聞くといい。その方が自然な反応ができ、妙な疑いをかけられることも無かろう」

 

「りょーかい」

 

「それでは、転移させるぞ。転移先は沖縄にあるとある洞窟内。お主は沖縄旅行中に新人類騒動に巻き込まれて、洞窟内で一人隠れて過ごしているという設定じゃ。身分証は無いが、今の日本では戸籍を調べることも難しいじゃろうから問題ないはずじゃ」

 

「そっか、日本だからこれまでみたいにどこで生まれたかもわからない身元不明者状態で動くのは無理があるのか。戸籍制度が崩壊してるなら良かったが...あれ?この世界に仮谷幸希が二人いる、みたいなこと起こっちゃったりしない?大丈夫か?」

 

この世界の地球にも俺が生まれていたとしたら、そこから綻びが生じて面倒なことになってしまうのでは...

 

「問題ない。この世界ではまだお主は産まれていないからのう」

 

「あっそうなんだ。その世界って今西暦何年?」

 

「2030年の秋じゃな」

 

「なるほど、じゃあまだ産まれてないわな。それなら一安心...ん?産まれる前に世界の歪みが起こったってことは、俺ってもしかして産まれてこない可能性ある...?」

 

「あるにはあるが、お主の考えるべきことはそこではない。転移させるぞ...の前に、能力の付与じゃな」

 

「お、おう」

 

光の球が俺の中に取り込まれ、魂と融合して俺は能力を会得する。

 

「待たせたな。では、行って参れ」

 

いつものように足元に穴が開き、自由落下が始まる。

 

新たな世界...それは、人と共に歩む物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっ...と。洞窟内だから暗いな...」

 

着地した先は、神様が言っていた通りの洞窟だった。暗い...が、なぜか近くにアウトドア用のランタンのようなものが置いてあり、そのおかげで少しばかりの光源を確保できていた。どうやらここは洞窟の一番奥地のようだな。

 

「なんか色々あるなぁ全部ボロボロだけど...ってうわっ、服もボロボロじゃん!なんなら靴も...」

 

リュックサックが置いてあったので中身を覗こうと思ってしゃがんだら、自らの服が視界に入りそのボロさ加減に驚く。かなりボロボロだぞ...新人類から一人で隠れてしばらく経ってるって想定だからこんな感じになってるのかな?

 

「……ん?おっ、スマホ入ってる」

 

しゃがんだ際の感覚から、ズボンのポケットにスマホが入っていることに気がついた。

 

「電源は...ギリか。でもソーラー充電器付いてるから外に出れば使えそうだな」

 

電源は付き、電池が少ないことだけ確認した俺はリュックの確認に移る。

 

「リュックの中は...固形栄養食とペットボトルの水か。周りにはそのゴミ...色々凝ってるな。しばらくここに俺がいたっていう痕跡を作ってるのな」

 

そこまでやる意味あるのかな...?と思いながら、俺はランタンを持って洞窟の出口の方へと向かう。

 

「出口方向のはずなのに降っていくんだな...ん?あれは...」

 

緩やかな坂道を降っていくと、ランタンの光が反射する何かがあった。

 

「水溜まり?雨でも溜まってるのかな?」

 

そこには水溜まりがあり、その向こう側は上り坂になっていた。この洞窟は緩やかなV字を描いているためにここに水が溜まっているのだろう。

 

「水深は...そんなに深くはなさそうだな。破れて裾短くなってるし、靴さえ脱げば...」

 

靴と靴下を脱いで水溜まりの中を進んでいく。足首程度のところまで水に浸かるものの、奥行き自体はそこまででもないため数歩歩くだけで乗り越える。

 

「よっほっ、と」

 

足を振って水滴を飛ばし、袖で足を拭いてから靴下と靴を履く。

 

「おっ、出口近いな。そこまで深い洞窟でもなかったのか」

 

少し坂を登るだけで俺は洞窟の外に出ることができた。

 

「うーむ、山の中か...とりあえず地図アプリでも開くか」

 

空を見上げると快晴だったので、ソーラー充電器を取り付けたスマホを開き地図アプリを開く。いやー、やっぱ便利だね。

 

さしもの新人類も人工衛星は破壊することは出来ないらしく、地図アプリは正常に起動して周囲の地図を映し出す。そういや電波の基地局とかも生きてるんだな...あまりそういうインフラ系を破壊したりはしてないのかな?

 

「なるほど、沖縄本島ではあるのか...市街地もそこそこ歩くけど近くにあるし、一旦向かってみるか」

 

新人類がどのようなものなのか知らないが、ここにずっと止まっていても何も始まらない。今人がいるかはわからないが、地図によれば近くに市街地があるらしい。自衛隊の人たちがいるかもしれないし、ひとまずそこを目標にして動き出すことにする。

 

「……何気に普通の動物に出会ったとしてもそこそこまずい気がするんだよな...沖縄来たことないから何いるのかわからねー」

 

能力が能力なのでそこそこ戦えるとは思うけど、野生動物に襲われるのは普通に嫌だな...何にも出会わないことを祈ろう。

 

「ハブは夜行性でマングースは昼行性ってことしか知らないな...っと、早速何かお出ましか?」

 

茂みがガサっと揺れたのを見て、俺は警戒態勢に入る。さて、何が来る...?

 

「……うわっ、なにこれ...」

 

茂みから飛び出してきたのは...なんとも奇妙な生き物だった。いや、生き物と言っていいのか?どこか、生き物としては欠陥があるような見た目をしていた。

 

「半分溶けた犬...?知識はないけど、流石に野生動物とは違う...!」

 

となると、おそらく新人類絡みだろう。特異な能力を持ってるって話だし、キメラ的な謎生物を作り出せる能力でも持っているのだろうか?

 

「……どう見ても敵対行動だな。戦闘開始ってか?」

 

半分身体が溶けている犬は俺に向かって数回吠えていた。仲間を呼ばれてるとかだと面倒だけど...正体不明な相手だ。先に攻めるよりも、動くのを待って見てから動いたほうが安全なはずだ。

 

「……っ、と」

 

溶けた身体とは思えない跳躍力で俺に飛びかかってきた犬を回避する。

 

「触れていいかは知らんが...ほれっ!」

 

犬に蹴りを叩き込み、遠くへと蹴り飛ばす。あの溶けた身体が毒とかになっていなければいいけど...うん、なんともないな。触れても問題なさそうだ。

 

「さて...軽くではあったが条件は満たした。早速試運転と行きますか...!」

 

俺は神様からもらった力を行使する。

 

「能力名『幻痛の熱』、起動!」

 

神様から貰った能力は、摩擦熱の増幅とその操作。法術世界にて、死ぬことを拒んでいた死印付きが扱っていた魔法と同じ...しかし、そのままではない。それだとサーマルのエネルギー増幅能力の完全下位互換になってしまうからな。

 

まず、増幅できる摩擦熱に制限はない。どれだけ小さくとも増幅出来るため、俺が僅かな擦れでも認識できれば摩擦熱を増幅させることができる。

 

……しかし、その増幅された熱は偽物である。痛覚を刺激するだけの偽物の熱であり、いくらその熱を増幅させたとしても、物を燃やしたり焦がすことも出来ない。この増幅熱自体には直接的な殺傷力は無いのだ。

 

増幅熱が込められている物は、その熱を消費することである程度操作することができる。といっても物を動かす際は、少し力を加えて移動方向を捻じ曲げたり、持ち上げてゆっくり動かすことくらいが関の山なのだが...増幅熱を抽出することもできる。抽出した熱は目に見えない形でそのまま飛ばすことができ、相手にぶつけて幻覚の熱を与えることも可能だ。

 

そして、増幅熱は時間が経つと自然に出来た熱のようにだんだんと冷まされていく。ここで重要なのは、この増幅熱が消えない限り、本来生じていた摩擦熱は冷めないことだ。冷める順番は増幅熱から摩擦熱...よって、増幅熱を切らすことなく増幅させ続ければ、本来の摩擦熱を疑似的に増幅して保持することも可能である。

 

時間はかかるものの、きりもみ式火起こしのように物を燃やせる本物の熱を作り出すことが可能なわけだ。熱は目に見えない。偽物の増幅熱で攻撃を加えて相手を怯ませ、トドメとして溜め続けた実体を持った本物の熱をぶつけて勝つといったことができる。まぁ、増幅熱の熱さで神経がやられるとかするだろうし、本物の熱をぶつける前に勝てる場合がほとんどだろうけど...!

 

「熱さに悶え苦しみな!」

 

犬を蹴り飛ばした際の摩擦熱や、犬が地面を転がった際の摩擦熱を増幅させ、幻覚の熱で包み込む。

 

俺は能力を最大限に扱えるように貰った耐熱能力によって、偽物だろうが本物だろうが高温を感じないようになっているから正確にはわからないが、おそらく体感温度は五、六十度くらいになっているんじゃないだろうか。もう動けまい...!

 

「……って、普通に立って来んのかよ!」

 

犬はすっくと立ち上がると、再度俺に向かって走り出した。幻痛の熱が効いていない...?

 

「ようわからんが喰らえ!」

 

俺は後ろに下がりながら、自身の服の擦れや地面との摩擦熱を増幅させる。そうして増幅させた熱を抽出し、犬にぶつける。

 

「っ、無反応⁉︎くそっ...!」

 

犬が飛びかかってくる。能力が効かなくてひどく驚いていたものの、俺は冷静に攻撃を回避し、犬の首根っこを掴んで思い切り地面に叩きつけた。

 

「とぅらッ!」

 

地面に叩きつけたその直後に足を振り下ろし、踵を延髄のあたりに叩き込む。すると、犬はピクリとも動かなくなった。どうやら死んだらしい。魔物とは違って塵になったりはしないようだな。

 

「はぁ...なんで能力が効かないんだ?増幅熱は神経に直接作用するからただの耐熱能力じゃ防御は不可能なはずだし...まさか痛覚が無い?」

 

色々と考えられる要因はあるが、確証を得るのは無理だな...自衛隊の奴らはその辺の情報を持ってるのかな?

 

「て、手応えはあんまりなかったが、とりあえず能力はそこそこ使えるな...っと、次のお出ましか?」

 

草が揺れる音がした。鬱蒼とした茂みの揺れが少しずつ近づいてきて、その姿を表す。

 

「おっとぉ...親御さんでしたか?」

 

先程の犬が中型犬だとすれば今度は大型犬だ。それも、大型犬の中でもデカいよりの方。だが...何故だろうな。見た感じはそうとは思えないのに、何故かこいつも生物として欠陥があるように思えてならない。目には見えてない何かを感じ取っているのか、それともフォルスの矯正認識のように無理矢理そう思わされているのかはわからないな...

 

「こいつにも能力は...効かないのかよ」

 

犬が歩く際に地面との摩擦で生じた熱を増幅させてやるも、犬は全く反応を示さなかった。

 

「こうなったら本物の熱をぶつけてみるしかない...が、まずは逃げる!」

 

武器を何一つ持っていないこの状況で大型犬サイズの敵に立ち向かうのは得策ではないだろう。一旦逃げに徹しながら摩擦熱を増幅貯蔵し、リアルな熱で焼き尽くすしかない。

 

「まぁ追いかけてくるわな...!」

 

犬は全速力で追いかけてくる。速度勝負は、ギリギリあちらに軍配が上がるか...けど、細かい切り返しや木で一瞬視界が遮られる瞬間に方向転換したりなどのテクニックでなんとか逃げ続ける。

 

「あそこに逃げ込むしかないか!」

 

出てきて早々洞窟の中に戻ることになったが、土地勘のない場所を永遠と逃げ回ることは難しいし、この中で決着をつける算段はついている。濡れるのは仕方ないと割り切り、水溜まりを突っ切って向こう側に渡る。

 

「そんで増幅...!」

 

水溜まりを渡った際の摩擦熱を増幅させ、服の擦れによる熱も増幅し全て抽出する。その熱を足付近に近づけると、濡れた表面がみるみるうちに乾いていく。熱量は十分だな。

 

「あとはこれを当てるだけ...!」

 

近くにあった石を二、三個拾い上げ、手の中でゴリゴリと互いを擦り合わせる。抽出した熱はその石たちに込め、擦り合わせによる熱量も増幅させて超高温の石をいくつか作り出す。殺したりするのは難しいかもだが、この石を投擲すれば火傷は確実に起こるため犬は必ず怯むだろう。逃げていけばそれで良し。逃げないのなら怯んでいるうちに直接殴り込みに行こう。

 

「さぁ、来い...!」

 

犬は坂道を下ってくるのが足音で分かる。天井は低いし、水溜まりの長さもそこそこあるから飛び越えることは難しいだろう。あの足の長さなら水の中を歩くのは難しく、泳ぐことになるだろう。その隙に石を投げ込もう。

 

「……止まった?」

 

走ってきた犬は、水溜まりの前で足を止めた。こちらを睨みつけて唸りはするものの、水溜まりを渡ってくることはしない。

 

「なんで来ないんだ?...ってうわっ!増殖した⁉︎」

 

犬の身体表面からずずずっと何かが飛び出してきたかと思えば、先程殺した中型犬サイズの半分溶けた犬が生み出された。まるで、自身を劣化コピーしたかのような...そういや神様が、新人類は一部の性質を受け継いだ子を生み出す増殖能力を持っているって言ってたな。それがこれか?

 

「……でも、そいつもこっちに来る気配は無し...か」

 

待ち構えてみるものの、犬がこちら側に来ることはなかった。そのまま踵を返して洞窟を出て行こうとする始末だ。

 

「どういうことだってばよ...とりあえず攻撃してみっか。ほれっ!」

 

水溜まりの中に入り、帰ろうとする犬に狙いを定めて熱を込めた石を投げつける。狙いは正確だったため、熱の操作による軌道変更の必要もなく石は命中し、蓄えられた熱は全て犬に移る。

 

「おっ、熱で身体がボロボロになり始めた。リアルな熱はちゃんと効くんだな...相変わらずの無反応ではあるが」

 

犬は熱によって皮膚が焼け付き、火傷が全身を覆っていった。無反応なまましばらく歩いたのち、急に力尽きてその場に倒れた。

 

「死んだ...か。そんで隣の奴も死んだ?なんで?」

 

大型犬の方が倒れた瞬間、先ほど生まれた中型犬の方も倒れて動かなくなってしまった。親が死んだから子も同時に死んだ...ってことなのだろうか?

 

「結構特殊な生態してそうだなこいつら...」

 

バシャバシャと水溜りの中を歩き、坂を登って犬に近づく。

 

「……っ、溶けた⁉︎」

 

近づいたら犬の肉体の一部が溶け出した。さっきは消えなかったのになんで急に?俺何かした?

 

「な、なんで溶け...も、もしや...?」

 

水溜りのところまで戻り、水を手で掬う。溢さないように慎重に水を運び...犬に水をかける。

 

「うわおっ!マジで溶けやがった...水に弱いのかこいつら」

 

水に触れた部分は溶け、そのまま霧となって霧散していった。どうやらこいつらは水に弱いようだ。だから水溜まりを渡ろうとしなかったんだな...

 

「……なるほど、だからこの場所に転移させたのか」

 

この奥に向かうには水溜まりを越える必要がある。水を苦手とするこいつらには渡ることは不可能だから、この洞窟の奥は絶対安全地帯となる。一人で隠れて生き延びていたことの説得力が増すというわけか...

 

「とりあえず、この死体は消し飛ばしておくか...」

 

水溜まりに戻り、バシャバシャと水をかき混ぜる。そうして摩擦熱を封じ込め、その熱量を消費して水を持ち上げる。浮遊させた水をゆっくり運び、犬の真上に持っていくと能力による制御を解除して真下に落とし、犬にぶつける。

 

すると犬は水によって完全に溶けて霧散した。落ちた水は坂道に従ってゆっくり流れていき、水溜まりへと戻っていく。

 

「よし、これで自衛隊に見つかることはない...」

 

火を起こした痕跡もないのに焼け死んだ犬の死体を自衛隊の奴らが見つけたら面倒なことになるだろう。能力の存在がバレないように焼け死んだ犬の死体を消す必要があったので、水で消えるってのはなかなか便利だな。

 

「さて、と。能力があまり意味なくて、水が有効となると話が変わってくるな...準備はちゃんとしておくか」

 

そう言いながら洞窟の奥に戻る。

 

「どれくらい移動することになるかわからないし、少しは食料も持っていくべきか...」

 

リュックを拾い上げ、中身を選別していく。流石に数日分の食糧はいらないため一日分を残して外に出す。

 

「これは飲み水だとして...かける用の水も欲しいな。それじゃあ...」

 

既に空となっていて近くに捨てられているペットボトルを手に取る。それをいくつか持って水溜まりに向かい、ペットボトルの中に水を詰めていく。

 

「よいしょっ...と。ちょっと動くには重い気もするが、まぁ平気だろ」

 

襲われた際にぶっかける用の水をリュックに詰め込み、手にも一本持っておく。これだけ水があれば、市街地の方まで持ち堪えてくれる...はずだ。

 

「本当なら雨が降るまで待った方がいいんだろうけど...いや、そもそも雨が苦手とは限らないか。この水溜まりに溶け出した何かの成分が苦手ってこともあるかもだし...ここで何日も待つわけにはいかないしな。行くか」

 

意を決して、俺は洞窟の外に再び出るのであった。




毎度のことながら、この能力の説明でちゃんと理解してくれるかな...?と心配になりますね。
そしてあまり効いていないように見える今回の能力ですが...神様がこの世界を選んだということは、活躍の場面は必ずあるということになります。

この世界でカリヤくんがどんな活躍をするのか...ご期待ください。
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