非常部隊としては早々に最後の仕事となります。
これくらいスピーディーにやらないといつまで経っても終わらないのでね...
「これが終わったら九州〜」
講習会から数日が経ち、陸式以下のアンチの討伐実践もある程度積んできた俺たち非常部隊は、大規模な掃討作戦に加わることとなった。
沖縄で確認されている全ての上位種...参式以上の討伐により全てのアンチを掃討することを目的としているこの作戦は、現自衛隊の総力を挙げて行われることとなる。これの成功が後に続く九州上陸作戦の要であり、自衛隊にとっても、そして俺にとってもとても大切な作戦であった。
「お前はもう九州行きを決めているんだな」
俺の呟きを聞いた延岡が話しかけてくる。
「ああ、アンチは全員殺すって決めてるんでな」
「じゃあ何にしても、この作戦を生き残らなきゃな」
「にしても...もう既に死にそうな奴がいるんだが大丈夫か?」
今俺たちは、船の上にいる。伊是名島という島に向かっているのだ。そこが、俺ら非常部隊第二の戦場だった。二分された片割れの第一は別の島へ向かっている。どちらにも本職の自衛隊員も同行しているから完全単独作戦というわけではないが、主力は俺たちだ。これまでの訓練の成果を見せなくては。
……そしてそんな時だっていうのに、地元沖縄であるにも関わらず船酔いでグロッキーになっている男が一人...
「は、はは...沖縄県民が皆船に強いと思うなよ...」
「ああもう喋んな大人しくしてろ」
あの男の名は古宇利。身体能力はずば抜けているのだが、おちゃらけた性格からしてあんまり頼りにはならなそうな男だ。この様子ではちゃんと動けるのかもわからないな...
「へいリーダー...」
「ったく、先が思いやられるぜ」
なぜか俺はこの非常部隊第二のリーダーを任されてしまっている。一番優秀だったからと言われれば悪い気もしないが、リーダー適正は俺にはないと思うんだよな。どっちかっていうと、人に指示を出して導くよりもその場その場での自己判断と遊撃が得意なタイプだし...
「……もうそろそろ到着だ。接岸次第、車両の運搬と海水の補給をするぞ」
「了解!」
船が港に接岸する。海辺であるためか、目視で確認できる範囲内ではアンチは見当たらなかった。
船から必要な資材や車両などをどんどん下ろしていく。中でも一番重要なのが...
「改めて見るとスゲェなこの車両」
3トン半水タンク車...本来は給水車として災害派遣で役立つ車両であるが、最大積載量5000Lという圧倒的な運搬能力を活かして対アンチに使用する水を運搬するという重大な役割を持った車両だ。
あらかじめ海水が補給されているものの、重さも考慮して満タンまでは入れられていない。そのため、強力ポンプを数台稼働させて海水を汲み上げてタンク車の中にぶち込んでいく。
「溜まり次第出発だ。装備は問題ないな?」
「詰まり無し。圧力も問題無い。撃てるぞ」
各々、技術班製作の強力水鉄砲を試射して故障や破損が無いか調べる。背中に背負っているタンクにも異常は無いようだな。これでいつアンチが来たとしても問題ないだろう。
「……補給完了しました!」
「よし、出発だ!まずは平地を進むぞ!」
この島は大半が田畑であり見晴らしが効く。一部ある小さな山は後回しとし、まずは目についたアンチをひたすら狩ることにする。そのためにも、まずは港から村の中へと移動だ。
「ドローンでの調査によると、屋外にて確認できたアンチは皆肆式以下らしい。だが、参式以上が隠れている可能性も大いにある。注意するように!」
「了解!」
「……っと、早速お出ましだ」
村の中へ入ると、住居の影から犬のような姿をしたアンチが出てきた。身体の大きさからして...伍式か?
「ここは俺がっ!」
船酔いからもう回復した古宇利が飛び出してアンチに近づく。周囲への警戒無しに突っ込むとか、安易にも程がある...が、その判断の早さと思い切りの良さがアンチに超能力の発動を許さない。
「とぅっ!」
古宇利はアンチの目の前で跳躍すると、牙の届かない高さから水鉄砲を真下に向けて発射する。
放たれた水の弾丸はアンチの頭に命中し、その身体を溶かした。
この水鉄砲は市販の物とは比べ物にならないほどの威力を誇る。本物の銃のように、一度引き金を引くと一発、固定量の水が銃弾の如く発射されて標的を貫くのだ。まぁ、貫通するほどの威力はないにせよ、アンチの身体に深く突き刺さり溶かしていくため致命傷を負わせやすい。
どういう原理でこの機構を成し遂げているのかは知らないが、まるで本物の銃であるかのように扱えるこの水鉄砲は、銃の扱いに慣れている俺からしたらとても使いやすかった。それでいて水であるがために反動もほぼ無く、連射も可能。味方に誤射してしまっても、痛みとほんの少しのアザくらいで済むため初心者でも安全に運用ができる...ほんと、どうやってこんなん作ったんだ?
「倒したぜ〜」
「無駄な動きをして無駄に体力を使うんじゃない。次からはもっとスマートにやれよ」
俺たちの背中には、水鉄砲とホースで繋がっているタンクが背負われている。保持している水量は1.5リットル...そんな物を背負ったままそうそう飛び跳ねたりできるような重さではない。俺は一応これでも跳んだり走ったり出来るし、古宇利の身体能力なら同じくらい動けることだろう。だが、それでも無駄な動きで体力を消耗するのは避けたいところだ。
「スマートにって言われてもよ、倒せれば良くないか?」
「後が続かなくなるからダメなんだよ。山狩りも控えてるんだから、少しは派手な動きを控えてくれ」
「親みたいなこと言うなぁうちのリーダーは...」
と、古宇利がぼやいたその時だった。
ザ、ザザ...
皆が装備している通信機から、僅かながらノイズのような雑音と甲高いモスキート音にも似た音が漏れ始めた。
「っ、ハウリング...!総員警戒!!」
近くにいるアンチが超能力を発動しようとすると、なぜかは分かっていないが通信機からノイズとモスキート音が聞こえ始める。そうした現象を起こすためアンチの使う超能力はハウリングと呼称されており、通信機から聞こえる音によってアンチの接近と攻撃を察知することができるため、危険が迫っている合図であり警戒態勢を取る合図でもある。
「……アンチ発見!」
隊員の一人が住居の中で待ち伏せていた犬型のアンチを発見した。アンチは割れている窓から住居の外に飛び出すと、雷のようなものを体に纏わりつかせながらこちらに向かって走ってくる。
「近寄られる前に撃て!!」
隊員たちは横並びになり、迫ってくるアンチに向けて水の弾丸を放つ。だが、アンチは脅威的な身体能力で水の弾丸を避け切り、そのまま隊員の一人に飛びかかる。
「オラァッ!!」
飛びかかった瞬間なら避けられまいと、ドロップキックでアンチを側方に思い切り蹴り飛ばす。雷を纏っていようが、地に足をつけていない俺に流し込むことは出来ない。仲間を守るにはこれが最適解だ。
「怯むな!撃ち続けろ!」
地面に落ちて横たわった状態のまま俺は指示を出す。即座に水鉄砲を向けて引き金を引く隊員だったが、アンチもすぐさま体勢を持ち直し水の弾丸を回避する。
あの雷...外に流すためのものじゃなくて、雷装のように自身の身体能力を強化する類のもののようだな。雷で直接筋肉を刺激することであの反応速度を実現しているのだろう。
「見た目に騙されるな!ただ速いだけで感電はしない!逃げ道を潰すんだ!」
俺はそう叫びながらベルトに取り付けている水風船を手に取り、斜め上に向けて放り投げる。そしてその水風船に向けて水鉄砲を撃ち込み、破裂させる。
破裂した水風船から水が周囲に飛び散る。飛び散った水はアンチの頭上から点ではなく面で落下し、その身体を溶かさんと降り注ぐ。
「今だ撃て!!」
降ってきた水を浴びたアンチの身体が溶け、機動力を失う。そこに延岡の狙い澄ました一撃が放たれ、頭に命中、そのまま溶けて死んでいった。
「ナイスだ延岡良くやった!」
「おう!...って、仮谷は大丈夫か?蹴り飛ばしていたが感電とか...」
「さっきも言ったろ、感電はしない。こいつのハウリングは雷で筋肉を刺激することによる身体強化だ。まぁ等級が上がれば雷の体外放出とか他のこともできんのかもしれないが...こいつはこれが限度らしい」
「な、なるほど...」
「この犬型のアンチのハウリングがこれってこと、しっかり頭に叩き込んでおけよ。そんじゃ、水の補給を終えたら先に進むぞ!」
タンク車の側面に付いている蛇口を捻って貯蔵した水を背中に取り付けているタンクに移す。一戦終えたらしっかり補充、これは基本だ。1.5リットルは意外と心許ないからな...連戦や奇襲に備えて、補給できるタイミングがあれば消費をほとんどしていなくとまた補給すべきである。
そうして補給を終えた俺たちは、村を抜けて畦道へと進んでいくのだった。
「お前らー体力は平気か?」
ひとまず一区切りついたところで皆に確認を取る。
アンチとの戦闘を交えながら反時計回りに歩くこと三時間。ようやく俺たちは島の反対側までやってきた。
目の前には伊是名浜という島の名を冠したビーチがあり、コバルトブルーの海と白い砂浜が広がっていた。
「この景色を見たら、疲れも少しは吹っ飛ぶなぁ」
「少しかよ...」
「なぁ仮谷、あの奥の島も調べるべきかな?」
そう言いながら延岡はビーチの向こうに見える島を指差した。
「えーっと、あれは...屋那覇島か。人の住んでない無人島だし、アンチも居ないんじゃないかな?念のため、この島を調べ終わった後に時間があるなら行ってみることにしよう」
「了解」
「そんじゃ、トイレ組も戻ってきたことだし、出発するぞ」
ビーチ併設のトイレに行っていた者たちが帰ってきたので出発する。次なる目的地は山...ここからすぐ近くにある、島南東に位置しているチヂン山だ。
この山はこの島の他の山と違い、山道が車が通れるほどに整備されており、なおかつ展望台があったりと人の出入りも多い観光名所であるため、人を襲う習性を持つアンチも集まっている可能性が高い。車が通れることを活かし、タンク車を引き連れた状態で進むことができるのもグッドだ。
伊是名浜を出発して、まずは集落の中を通る。国指定重要文化財らしい住宅の前を通り過ぎ、集落内にアンチがいないことを確認してから集落を出る。漁港の近くを通り、しばらく進めば...
「ここが麓か」
山道の麓にたどり着いた。
「右の道は島の外周を回るルートか...海辺だし後回しでいいだろ。山登るぞ」
山道に入る。車一台走れる程度の幅なので、タンク車は俺らの後ろをゆっくりついてくることになった。囲むようにして歩くこれまでのやり方では、普通に轢かれかねないからな...
「……山の中だが、思ったより見晴らしがいいな」
「背の高い木が少ないからだろうな。流石は観光地、景色が見れてナンボだ」
「おかげでアンチが近づいてきてもすぐにわかるな」
陸ギタラという岩山の横を通り過ぎながら話す。もう少し歩けば、展望台へと繋がる横道のある分かれ道があるはずだ。
「……っと、そんなこと言ってたらおいでなすったようで...!」
通信機からノイズが聞こえてくる。アンチがハウリングを使っている証拠だ。周囲への警戒を最大限にし、索敵をする。この見晴らしの良さだ。前方と後方から来ていないことは一目瞭然。となると、左右の木や茂みの影から飛び出してくるはず...!
「……来ない?」
「遠距離攻撃出来るタイプのハウリングか?空...でも無いし、まさか地中?」
動物の種類によってはあり得るな...と思い下をチラリと見たその時だった。
「ぐあぁっ!!」
男の叫び声が聞こえた。声質からして、最後尾を進んでた浦添がやられたか...!
バッと後ろを見る。そこには、膝から崩れ落ちて痛みに悶絶している浦添の姿...しかない⁉︎浦添に攻撃したはずのアンチの姿がどこにもないだと⁉︎
「何をされた浦添!答えられるか⁉︎」
「せ、背中を...刃物か何かで斬られて...」
「刃物...だと?」
爪とかじゃないってことか?何かしらの刃物ってことは道具を使ったことになるわけで、となると襲ってきたのは人型である参式以上である可能性が...!
「あぐっ!!??」
浦添を心配して駆け寄った糸満の腕がバッサリ切られ、血が噴き出る。
その時だった。噴き出た血が何もない場所で急に止まった。まるで、そこに何かあるかのように。
「グゥッ...!」
そしてうめき声が聞こえた。空中で止まった血がぼたりと落下する。何かの肉片のようなものと一緒にだ。
そこに、何かがいる...!
「透明化のハウリング...!」
俺は咄嗟に水鉄砲を向けて引き金を引いた。だが、放たれた水の弾丸は空を切り何も命中しなかった。
「バレたか...」
何もない場所からヌゥッと人のような何かが現れた。先程の返り血を浴びた影響か、身体の表面が一部溶けている。紛れもないアンチであろう。その手には、浦添と糸満を斬りつけたであろう包丁のようなものが握られていた。
「総員周囲警戒!相手は弍式!参式以下が透明化のハウリングで潜伏している可能性が高い!怪我の手当ては最小限で周囲を警戒しろ!」
人の言語を喋った時点で、このアンチは弍式で確定だ。壱式がこんな島にいるわけがないから除外したが、流石に無いよな...?
そして、弐式がこの島に来たのは那覇の転移能力持ちアンチが死んだ時よりも前だから、それまでに最低でも二回は劣化複製をしているはず。だから、最低でも人の形をした参式アンチが二体、そしてそれ以下の下位個体はもっと多い...!
そんな奴らにこんな山道で囲まれたらどうしようもない。しかし、通信機から聞こえるハウリングによるノイズは、ハウリングを使われた証拠ではあるものの、使用者の位置や数を示してくれるものではない。既に囲まれていると考えた方がいいだろう。もう既にだいぶどうしようもない状況だ...そう仮定しよう。
だが、たとえ透明化出来たとしても、消せるのは自分の姿だけ。足音は消せないし、踏み締めた地面のへこみや触れた木の揺れなどは誤魔化せない。透明な敵がいるとわかっていれば、そんな些細な異変にも気付きやすくなる。
だからこそ、目の前の弍式だけに注視しない。全員に全方位を警戒させる。目の前の弍式を倒せばこいつから生まれた参式以下がもろとも消えるとしてもだ。先走っては思う壺、考えすぎでもいいから最悪を想定しろ...!
「ほう、少しは頭が回るようだな」
「そりゃどうも...!」
姿を現したアンチに水鉄砲を撃ち込む。
しかし、放たれた水の弾丸はアンチの目の前で何かに防がれた。空いている左手で何か盾のようなものを持っているのか...?自分を透明にするだけじゃないってわけか。
「弾切れしない程度に山道に水を撒け!そうすりゃアンチは左右からしか来れなくなる!」
皆に指示を出しながらアンチに攻撃を仕掛ける。山道を水浸しにすることで、アンチはそこを通ることができなくなる。前方後方から近づかれることを防ぐことで、接近方向を左右に絞り、迎撃をしやすくなるわけだ。
「俺は弍式を追い込んでタンク車までの道を開く!総員行動に移せ!!」
アンチに近づき、持っているであろう盾に真正面から蹴りを叩き込む。緩やかな斜面で真っ向から蹴りを受け止めたアンチは体勢を崩し、山道を転がっていく。そして、浦添が攻撃されてからずっと停車していたタンク車にぶつかった。
……つーか、こいつタンク車を素通りして俺たちを攻撃してきたのか。運転手を襲うとかしないんだな...まぁ、水がたっぷり入っているタンク車を攻撃しようとはあまり思えないのかもしれないな。
というかこいつどっから湧いてきた?草木の揺れる音がしなかったから、おそらく透明化したまま山道を歩いて近づいてきたはずだ。どっちから来たかはわからないが、わざわざぐるっと回って浦添に攻撃するとは思えないから、おそらく俺らの後ろから来たのだと思われる。
となると...集落の辺りから跡をつけてきていたのかもしれないな。人の多いところにアンチは現れる。だから集落に誰一人アンチがいないのはおかしくはあった。通信機がノイズを拾わない距離から透明化した状態で俺らのことを監視し、山に入ったところをつけていたのかもしれない。
……ってことは、子分の奴らもそっち方向から来てる可能性が高い!!
「そこを退きやがれ...!」
水風船を斜め上に放り投げ、撃ち抜いて破裂させる。そしてすぐさまアンチ本体にも水の弾丸を撃ち込む。
上と前からの同時攻撃。アンチが持っている透明な盾で両方を受け止めることは不可能だ。それゆえ、アンチは盾を真上に向けながら真横に跳び水の弾丸を回避し、そのまま後ろに下がってタンク車の裏に回る。
これで射線を切ったつもりなのだろう。ついでに俺の死角に移動できたから完全透明化を再度かけて襲いかかってくるかもな。
だが、アンチの場所はこの位置からでも把握できる。アンチが斜面を転がりタンク車にぶつかった瞬間の摩擦熱を僅かに増幅させていたのだ。その熱はどこにあろうと俺なら捉えられる。これで透明化してようと無意味だ。
増幅が僅かなのは、痛覚がある弐式相手に全力で増幅させてしまうと、熱いという反応を出させてしまうからだ。急に熱がるアンチを見た仲間たちが不審がる恐れがあるため、僅かに増幅させることしか出来なかった。そのせいで増幅熱を探知出来る時間は短い...今のうちに全てやりきる!
「こうすりゃ...!」
俺は急いでタンク車に近づくと、蛇口を捻って水を垂れ流しにした。流れ出た水は車体を伝って地面に落ち、斜面に従って流れ落ちていく。
「後続は来れまい!」
反対側に周り、そちら側の蛇口も捻る...と、そのタイミングで俺の行動を妨害しようとアンチが透明のまま近づいてきた。この位置は皆の死角...なら思い切った攻めもできる!
透明アンチに水鉄砲を向けて引き金を引く。放たれた水の弾丸は、至近距離なこともあってアンチに避ける時間を与えずに命中する。
「ア...グッ...!!」
透明化が解除され、水の弾丸は肩に当たったことが確認できた。右肩は完全に溶け落ち、刀を握っている右手は肩が溶けた影響で腕ごと落ちていた。
「なぜ、居場所が...!」
「消え去れ」
回し蹴りを放ち盾を蹴り飛ばすと、銃口をアンチの額に押しつけながら引き金を引いた。
水の弾丸はアンチの頭を貫き、溶かし尽くして絶命させた。
その瞬間、この弐式アンチから産まれた全ての下位個体たちが死を迎え、透明化も全て解除される。見えなかった敵が、続々と現れ始める。
「……あれ?死んでない奴がいるな」
坂の下を見ると、死んでいるアンチに混じってまだ生きているアンチがいた。
「犬っぽい見た目してるし、身体強化の方か。他者の透明化も出来たのか...まっ、あとは雑魚ばっかだしさっさと駆逐しよう」
生きている個体も、坂道に水を垂れ流しにしたおかげで足から順番に溶かされている状態だった。ほっとけば死んでいくだろうが、タンク車の水を温存するためにも一体ずつ仕留めに行く。
「……とりあえず、これで全部か」
目に見える範囲のアンチの頭に水を撃ち込み絶命させた俺はタンク車まで戻り、開きっぱなしの蛇口を閉める。
「そっちは大丈夫かー...っと、そうでも無さそうだな」
皆の元に戻ると、戦闘自体は終わっていたものの負傷者が何人かいるようだった。透明な敵に襲われればそうなるか...他者透明化があったことを考えると、透明な身体強化アンチが襲ってきたってこともあり得るのか。となると、死者ゼロで負傷だけで済んでいるのは幸運かもしれないな。
「急に透明化が解除されてアンチが死んでいったんだが...一人で弐式を倒したのか?凄いな」
「たまたまさ。ってなことより前に応急処置だ。それが終わり次第下山するぞ。港に戻って本職の指示を仰ごう」
ひとまず透明化の弍式は倒せたため、この島にいるアンチはここまで見た感じではもう身体強化のアンチしかいないだろう。それもおそらく、高くとも参式までだと考えられる。ここまで肆式以下しか見ていないため、肆式が何体も連れてこられたか、参式一体が複数の肆式を生み出したかの二択になるからだ。
それがわかっているだけで大収穫。後のことは港で待機している本職自衛官や、本部との通信で指示を仰ぐことにする。
「わかった...一つ報告なんだが、あそこを見てくれ」
延岡の指差した方を見ると、そこには人型のアンチが溶けていた。
「透明化が解除されてから仮谷が戻ってくる前に一斉掃射で倒したんだが、どう思う?等級は何だろうか...」
「……でかした。おそらく身体強化の参式だろう」
透明化が一緒に解除されたということは、こいつのハウリングは身体強化だとわかる。人型だから参式以上が確定していて、俺の推理も合わされば、もうこの島にはアンチはいないのでは...?
「何にせよ下山だ。念のため来た道を戻って、外周を回って港に戻るぞ。もしアンチが残っていたとしても、潮風が守ってくれるはずだ」
そうして俺たちは下山し、港まで戻った。
その後行われたドローンによる調査によると、どの場所でも生存しているアンチは目撃されず、またどの場所でも通信機器にノイズが乗らなかったため、アンチは全滅したと結論付けられた。
完全にいないことを証明するのは悪魔の証明である。よって、これ以上の調査は切り上げ、掃討完了として引き上げることとなった。
負傷者は出たものの、死者は無し。
こうして、非常部隊としての仕事は終わりを迎えた。
そして、少ない希望者のみが九州上陸作戦へと加わることとなったのだった。
能力を何も持たない者が味方にいる状況って何気に初めてなんですよね...戦闘が単調になってしまわないように頑張ります...