神の使いの異世界修復   作:ダイヤモンドリリー

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8162字。

長崎編です。


重力アンチの先制攻撃

「クッソ、乗り込んで来やがった!」

 

俺らを乗せた船は、長崎市を目指していた。鹿児島宮崎の次がなぜ長崎なのかと問われれば、それは熊本攻略の足がかりにするためと言えよう。

 

熊本市に船で近づくには、天草と島原のある有明海に入る必要がある。だが、そこに入るには熊本と長崎の未攻略の地のすぐ近くを通る必要があり、危険だと判断された。そのため先に長崎を攻略し、島原の地を押さえることで安全に有明海に入って熊本に近づこうという魂胆だ。

 

というわけで、長崎県庁の直ぐ近くにある港に向けて船を走らせていたのだが...その最中だった。

 

船が女神大橋という巨大な橋の下を通ったその時、突如として上からアンチが降ってきたのだ。橋から飛び降りて船を直接襲いに来たアンチたちは、準備の出来ていない隊員目掛けて襲い掛かる。

 

「そおぃっ!!」

 

船には人がハウリングを奪い取ったことを知らない隊員がいるため、延岡から間借りしている炎の力は使えない。武器もまだ装備していないため、こうやって襲い掛かってくるアンチを海に向けて放り投げるのが、この場での最適解だろう。

 

……そして流石は自衛隊員、多少慌ててはいるものの、突然の奇襲にも関わらずしっかりアンチたちの攻撃を回避し、海に放り投げていく。どいつもこいつも下位個体であるがゆえに人型ではないのだが、それでもここまで戦えるんだな...と妙に上から目線で考えてしまう。

 

獣と戦う訓練なんてアンチ騒動前じゃ当然やってないだろうし、騒動が起こった後でもそんな訓練はほとんどしていないだろう。基本は武器を使うことを想定しているからな。それなのに徒手空拳でアンチと戦えるのは普通に凄いな。

 

「悪い参謀!助けてくれ!」

 

……っと、そんなところにアンチに追いかけられている古宇利を発見。身体能力自体はずば抜けているものの、訓練不足のせいで素手で戦うことは出来ないみたいだな...まぁ仕方あるまい。これが正規の隊員と臨時雇用の隊員との差だ。

 

「しょうがねぇ...なっ!」

 

古宇利に飛びかかるアンチを蹴り飛ばし、海に叩き落とす...

 

「っ⁉︎」

 

「なん、だと...戻ってきやがった!」

 

海に叩き落としたはずのアンチが飛んで船まで戻ってくる。どいつも空を飛べる動物ではないから、何かしらのハウリングが起こっていることしかわからない...クソッ、通信機を装備してないせいでハウリングが発動されたことに気付かなかった...!

 

「警戒しろ。おそらく大体がハウリングの使えない六式以下なんだろうが、伍や肆も混じってやがる...いつどんなハウリングを使われても良いように気をつけな」

 

「それよりも、つい炎使っちまわないかって方が怖いぜ俺は...!」

 

「そんなこと言えるうちは余裕だろ、頑張れ!」

 

そう言いながら俺は前に飛び出す。そして、飛んで船まで戻ってきたアンチの顎に拳を叩き込む。海に叩き落とせないのならば、殴り殺すしかない。もしくは気絶させて行動不能とすることで、誰かのハウリングで船まで戻されたとしても動けないようにしてやればいい。

 

おそらくしばらくすれば、船の中から装備を整えた隊員が出てくることだろう。そうなればこの奇襲は返り討ちで終了だ。それまでに出来るだけ動けるアンチの数は減らしておきたい。

 

「……ってかそうか。海に落ちない自信があったからこいつらは船にまで乗り込んできたのか」

 

水を嫌うアンチが水に囲まれた船の上に飛び乗ってくるなんておかしいと思っていたけれど、落ちない算段がついていたから攻めてきたわけだ。そして、乗り込んでくるはずないと思い込んでいたがためにこうやって攻撃を受けたわけで...一回でもこういうことが起こると、これから先もずっと警戒しなきゃいけないのが非常に面倒...!

 

「まぁ、下位個体しかいなくて良かったぜ。これで上位個体も来てたらと思うとヒヤッとする」

 

独り言を呟きながらアンチの首筋にハイキックを叩き込む。

 

……その時だった。

 

「ありゃ?」

 

足が滑り両足が浮く。忘れていたがここは船の上。当然多少揺れるし、ハイキックの体勢からして転びやすくなっていたのかもしれない。

 

まぁ仕方ないと思考を切り替え、甲板に手をついてうまく受身を取ろうと試みるが...

 

「……っ⁉︎」

 

手が空を切った。船に落ちない...俺の身体が浮いている⁉︎

 

「うわ嘘だろ...引っ張られてる!」

 

俺の身体は浮いたまま真横に向けて落ちていった。なんとか船のヘリを掴んでしがみつくが...

 

「クソッ、耐え切れ...ねぇ!」

 

引っ張る力が強すぎて耐え切れねぇ...が、気張れ!限界超えて耐えきろ...!!

 

「っ、おい待てお前やめッ⁉︎」

 

ヘリを掴んでいた手をアンチに攻撃されてしまい、俺の手は船から離れ、真横に引っ張られて落ちていく。

 

「クソッ...引っ張られるっつーか、重力操作...?抵抗は無理か...!」

 

船から落ちてしまった以上、このままなすすべもなく引っ張られることしかできない。できることは、せいぜい頭から落ちないように落下方向に足を向けることしか...

 

「っ、あれは...!」

 

横に落ちる最中、空中に何かが現れるのが見えた。一瞬アンチの攻撃かと思ったが、その正体が分かった瞬間にそれに向けて手を伸ばし掴み取る。

 

「通信機...!葉山が転移で送ってきてくれたのか...!」

 

水はないが、これがあるだけで対アンチ戦には天と地ほどの差がある...!

 

「サンキュー葉山!これでやってける!」

 

『やってける、じゃない!何としてでも生還しろ!アンチとはなるべく戦わずに逃げろ!準備が整い次第帰還援護をする!』

 

葉山の声が通信機越しに聞こえて来る。そこまで言ってくれるだなんてな、かなりの戦力として認められてるようで嬉しい。

 

「焦りすぎだ。こっちは何とかしてやる。何としてでも港まで辿り着いてやるから、気楽に待っとけ。じゃあな」

 

そう言って俺は周波数をずらして通信を切る。これから一人になるわけだが、そうなれば神様からもらった能力をバレる心配なく使うことができる。だが、俺の独り言が暴走して能力のことが漏れないとも限らないので、葉山との通信を切ったのだ。電源さえ入っていれば、ハウリングの予兆のノイズは検出できる。連絡は必要な時だけ取れればいい。

 

「……っと、そろそろか!」

 

横向きの重力に引っ張られていると、海上から陸地まで飛ばされる。少し浮上し、いくつかの建物の上を通り過ぎていき...急に重力が下を向いた。

 

「よっ...ほっと!」

 

地面を駆けるようにして着地し、横向きの勢いを少しずつ殺していく。

 

「ここは...グラバー園か」

 

なんとか着地に成功した俺は、周囲を見渡し自分の居場所を特定する。到着予定だった港まではそこそこの距離...徒歩で三十分かからないくらいの距離であろう。しかし、それは何事もなかった場合の話。アンチの襲撃がある以上、もっと時間はかかると見ていい。

 

つーか、ここに引き寄せられたってことは...居るよな、俺をここに引っ張り出したアンチが...!

 

「っ...正面から姿を見せるとはな。正々堂々のつもりか?」

 

人型のアンチが近くの建物の中から出てきた。上位個体...まぁ、こいつが俺を引っ張り出した相手であるとは限らないから、周囲にも気を配りながら最大限の警戒を...!

 

「……チッ、ダンマリか。まぁ良い」

 

喋れない参式なのか、それとも弐式だが黙っているだけなのか...情報アドバンテージが少なすぎるな。無理矢理コイツのテリトリーに引き寄せられたのだから、仕方なくはあるが...

 

「俺だけをここに引き寄せたっつーことは、お前らも俺のことを十二分に警戒してるってわけだ」

 

ジリ...と足で地面を踏み締め、走り出す体勢を取る。

 

「なら、纏めて鏖殺されることも織り込み済みだよなァ!」

 

ダッと地面を蹴り、人型アンチに向かって走る。その全ての挙動によって生じる小さな摩擦熱を極限まで増幅し、熱を蓄えていく。

 

「そおらっ!!」

 

膨大な増幅熱を込めた蹴りを人型アンチの側頭部目掛けて放つ。

 

「っ!」

 

だが、重力がそれを許さない。人型アンチを中心として重力の向きが変わり、後ろに引っ張られてしまって蹴りは空を切った。

 

「クソッ、面倒...!」

 

後方に少し引っ張られたところで重力は元に戻り、俺は冷静に地に足をつけて体勢を保つ。

 

「けど、タネは少し割れたな」

 

重力に引かれて横に落ちている際に気がついた。周囲の草木は横に引っ張られている様子が一切無いのだ。つまり、俺に対する重力だけを操っていると考えていい。周囲全体の重力を丸ごと操っているわけではなく、対象を指定して変更する類のもののようだな。

 

「それはそれで厄介...!」

 

ここから船の上にいる俺を狙ってハウリングを使えたのだから、射程距離はかなりのものだ。ここから逃げようとしても、先程のように引っ張られるのがオチ。引っ張られる際に何か物を巻き込んで自滅を誘うっていうのも、対象指定であるがために不可能。

 

こちらの攻撃手段は一つだけか...それなら、一撃で殺すか気絶させられるほどの火力を貯める...!

 

俺はアンチの周囲を走り回る。地面を踏み締める際に生じる摩擦熱を増幅させ、足と地面両方に熱を蓄積させていく。こうすれば、もし他のアンチが接近してきたとしても地面に触れれば察知できる。空を飛んでこられたり、重力操作で浮遊させられたら困るが...考えてもどうにもならんものは無視!

 

「……って、マジか⁉︎」

 

どうやって重力操作で攻撃してくるのだろうと走りながら考えていたのだが、急に近くの建物の窓ガラスが割れたかと思えば、こちらに向かって飛んできた。重力で引っ張って破片で突き刺す...厄介だな。

 

「くっ...そりゃ避けても追尾するわな...!」

 

飛んできたガラス片を回避するものの、ガラス片は再度俺に向かって突っ込んでくる。俺を中心とする重力に引かれているような挙動だ。こりや、アイツを倒してハウリングを解除させなけりゃ永遠と追ってくるぞ...!

 

「そろそろ...良いだろ!」

 

方向転換し、アンチに向かって走る。熱のロスを減らすためにも、出来るだけ近くに寄る...っ!

 

「まずっ...!」

 

俺の身体が浮き出し、後ろに向かって落ち始める。俺の重力も操って、ガラス片と引き合わせて突き刺すつもりか...!仕方ない、この距離から熱を放つ!

 

地面や足に蓄積された増幅熱を全て物体から取り出す。そうして実体を持たない不可視の増幅熱をアンチの元まで向かわせ、重力操作の影響を受けずに熱を接触させる。

 

その直後だった。アンチは一瞬ビクッと身体を震わせると、そのまま地面に倒れ込んだ。

 

増幅された幻痛の熱の温度はおおよそ千℃に近い。それが皮膚表面、ないしは身体の内部や脳に直接触れることで、絶大な熱への刺激を脳に叩き込んだ。それゆえに意識を保つことができずに倒れたのだろう。もしかしたら、それが引き金となってショック死を起こした可能性もあるな。

 

「よっ...と、危ない危ない」

 

後ろ向きへの重力は消え去ったが、勢いはまだ残っている。ガラス片もこちらへまだ向かってきているはずなので、手で地面を押してバク転の要領で飛び上がりガラス片を回避する。

 

「さて、と。一応死亡確認を...ペッ!」

 

少々汚いが、周りに水がないので唾を吐くことでアンチに水をかける。すると、唾を吹きかけられた部分を溶かされていく最中もアンチは身動きひとつしなかった。こりゃ死んでるな。

 

「よし、ひとまず危険はさったか。そんじゃ、まずは準備だな」

 

近くにある建物に入り、ゴミ箱を漁る。こういった観光施設なら、ペットボトル専用のゴミ箱もある。そこからいくつか綺麗なものを拝借し、トイレの手洗い場で水を汲み上げる。

 

「これで少しはやりやすくなるだろ...」

 

ペットボトルの蓋をキュッと閉め、建物を出る。

 

ガブッ!!

 

ペットボトルを持っていた右腕に痛みが走った。何か動物に噛まれたかのような感覚。けれど、姿は見えない。

 

「ぐ...クソがッ!」

 

傷口から血が滲み、それによって俺を襲った透明なアンチの牙が溶かされる。それによって見えるようになったアンチに拳を叩き込む。

 

「チクショウ、透明化がいやがったか...!」

 

倒れたアンチに少量の水をかけて頭を溶かした俺は建物の中に戻りながら傷口を抑える。そこまで深くはない...が、久しぶりの傷のせいか痛みが強い...!

 

「あー、こちら仮谷。透明化した下位アンチに噛まれて右腕を負傷。深くは無いが、こちらの装備では止血が難しい。そして、透明化アンチがいる以上迂闊に動けない。救助を要請する。場所はグラバー園。少人数で良いから寄越してくれ」

 

通信機の波長を合わせてから通信を取る。

 

『了解した。今部隊を向かわせる。その場を動くなよ』

 

「りょーかい、建物の中で籠城しておく」

 

返ってきた葉山の声に応えて通信を終える。

 

「……さて、どうしたものか」

 

建物の中に逃げ込んだはいいものの、この中が安全である保証はない。クリアリングしておくべきか、それとも壁端に寄ってアンチが来る方面を一方向に絞るか...あんまし動きたくないし、後者にしておくか。

 

「クソッ、炎の力が使えてればな...」

 

延岡との距離が遠すぎるのと、最後に間借り宣言をしたのがそこそこ前であるため、延岡の持つ炎のハウリング能力は今は使えない。それがあれば、牽制も出来るし透明アンチの炙り出しも出来たのだが、無いものは仕方ない。他の方法で索敵をするまでだ。

 

「よっと...そんじゃ、アレやってみますか」

 

水の入ったペットボトルを上下に激しく振る。それによって中身の水は激しく揺れ動き、ペットボトル容器と擦れ合う。それに対して摩擦熱の増幅を発動させ、ある程度の量を溜め込ませたところで蓋を取り水を周囲に撒く。

 

すると、増幅熱の消費によって水は小さな水玉状を保ったまま空中に浮き出す。水の結界だ。これらに触れずに俺の元まで近づくのは難しいだろう。

 

そして、それだけではいずれ増幅熱が尽きて結界が壊れてしまう。そこで俺はまたペットボトルを振って中身の水を暴れさせ、摩擦熱を増幅させていく。

 

そうしてまたペットボトルの中身をぶちまけ、既に撒いていた水を移動させてペットボトルの中に戻す。そしてまたかき混ぜて熱を蓄えて...これを繰り返すことで、永遠と水を再利用する。自然蒸発によって失われる水を除けば消費はほぼゼロだ。これで透明なアンチが迫ってきても問題はない。

 

「来るならきやがれ...!」

 

水をかき混ぜながらそう吐き捨てる。

 

その時だった。

 

「うぐっ...⁉︎」

 

背中をザシュッ!と爪のようなもので引き裂かれた。後ろは壁なのに、どうして...!

 

「っ、物体透過のハウリングか...!」

 

壁から離れて振り返ると、そこには壁を貫通して建物の中に入ってきたアンチの姿があった。すぐさま滞空させている水の一部をぶつけて頭を溶かし、死に至らしめる。

 

「面倒な力多いな全く...!」

 

壁を透過できる奴がいるとなると、もう安全圏はどこにも無い。壁を抜けられるなら天井も抜けられるだろ?なんなら地面の中から襲ってくるってことも十分考えられる。そんな中、どうやって攻撃を凌ぐ...?

 

「……これもう気合いで何とかするしかねぇか...?来たやつ全員ぶっ潰す...!」

 

周囲に水を展開しながら建物内を見渡す。

 

バリンッ!

 

「っ、窓の割れる音...!」

 

建物二階の方から窓が割れる音が響いてきた。上から潜入ってわけね。重力操作のアンチが窓を割っていない建物を選んで正解だった...!

 

「……来た...!」

 

上階からやって来たのは、猿のような姿をしたアンチ五体。そいつらは何も無い空中を掴み、そこに綱があるかのように飛び交っていた。空気を固定する力...?広めに見積もって物質の固定ってところか。

 

出来れば水はあまり消費したくない。危なければ惜しみなく使うが、出来るだけ物理と幻痛の熱で...!

 

「ちょわっ⁉︎」

 

一歩踏み出そうとしたその瞬間だった。まるで、そこにロープのようなものが張られていて、それに引っかかってしまったかのように体がつんのめってしまう。遠隔での妨害も出来んのか...!

 

「くオラァ!」

 

攻撃の隙を与えないために、俺はそのままわざと前に転がり、足を伸ばして踵を一体のアンチに叩き込む。そしてすぐさま手に持っていたペットボトルを投擲する。

 

ペットボトルは蓋を閉めているため中身の水が漏れ出ることはない。だが、何度も振ったことでそのペットボトルには増幅熱が溜め込まれている。アンチに当たって跳ね返るペットボトルの軌道を増幅熱の消費によって捻じ曲げて別のアンチにぶつけ、また軌道を変えて当ててを繰り返し、俺の体勢が整うまでアンチの接近を拒む。

 

「消えろッ!」

 

ちょうど蹴りの届く範囲にいた怯んだアンチを蹴り飛ばす。

 

「次!...んぐっ⁉︎」

 

突如として暴風が吹き荒れ、俺の身体は後方に吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。

 

「アイツか...!」

 

猿のアンチの向こう側に別のアンチがいた。鳥型のアンチ...鹿児島で延岡の身体を暴風で浮かそうとして、水を巻き上げてしまい自滅したアンチと同型か...!

 

「クソッ、水が...!」

 

空中に浮遊させていた水も一緒に吹き飛ばされてしまい、壁や地面に叩きつけられて染みていく。俺の能力では、染み込んだ水を抽出することはできない。残る水はペットボトルの中身のみ...けど、風で吹き飛ばされて遠くに行ってしまった。蹴りの後に回収するために、近くに戻ってくるように計算して投げて軌道操作をしたってのに...!

 

「あぐっ...⁉︎」

 

壁から離れようとした瞬間、またしても背中を切り裂かれる。また物質透過のアンチにやられたのだ。そして、今度の傷は先程のよりも深い...!

 

「く、そ...!」

 

どいつもこいつも下位個体ばっかで、幻痛の熱は効きやしない。水も武器も無し。そんな俺をあの手この手で攻撃してきやがる。俺を狙うにしても、ここまでやるか...!

 

「ふんっ!...っ、まず...」

 

蹴りで壁から出てきたアンチを蹴り飛ばしたはいいものの、身体がふらつく。何とか持ち堪えるものの、意識は若干揺らぎつつある。思っていたよりも失血量が多かったか...?

 

「っ...!」

 

またしても鳥のアンチが暴風を吹き起こした。今の俺にはそれに抗うことができず、またしても吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。

 

「うぐっ...!」

 

壁には、先ほど叩きつけられた際に出来てしまったバリが存在しており、そこに叩きつけられてしまったために木片が身体に突き刺さる。

 

「た、助け...」

 

通信機に呼びかけるが、返事は返ってこなかった。

 

……しかし、だ。建物の外から、特製水鉄砲特有の射撃音や複数人の足音が響いてきた。

 

「『悪い、だいぶ待たせちまったな』」

 

通信機と開いた建物のドアの方の両方から同じ台詞が聞こえた。

 

「遅い、ぞ...転移があるんだからもっと早く来やがれ...!」

 

「すまんな。ハウリングの件を知らない奴らに悟られないようにするにはこうして車で直接出向くしか無かったんだ」

 

葉山はそう言いながらアンチのすぐそばに転移し、水の弾丸を叩き込んでいった。アンチとの間に見えない空気の綱が張られていようが、過程を無視して近くに移動してしまえば引っかかることはなかった。

 

「……かなり傷が深いな。応急処置を頼む。最低限で良い。すぐに小樽のところに搬送する」

 

「了解しました」

 

葉山の近くにいた人がこちらに近づいてきて、手をかざす。すると、少しだけではあるが俺の身体に刻まれた傷が癒えていく。小樽のところの救護班の一員か...

 

「これで、本部に着くまでは持つはずです。すぐに搬送を」

 

どうやら間借りによる力では傷を完全に癒すことは出来ないらしい。小樽との距離が遠いのもあるのだろうな。だから、小樽のいる本部まで搬送すると。

 

「担架用意!移すぞ、1、2、3!」

 

用意された担架に乗せられる。

 

「歩ける、ぞ。足はやられてない...」

 

「お前は一旦寝ておけ。しっかり休んでろ。起きる頃には、作戦も終わらせておいてやる」

 

「俺、は...まだ...」

 

そのタイミングで、緊張が解れてしまった。視界が揺らぎ、意識が途切れそうになる。

 

仕方ない。

 

俺の中に眠る魔王が出てこないことを祈りながら、俺は意識を手放すのだった。




長崎編と言っておきながら、壱式との戦いはやらないというね...

最後に不穏なこと書きましたが、魔力の無いこの世界で魔王が復活することはないでしょう...多分。
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