VS壱式です。
そういえば前々回と前回で日田の口調が変わっていましたが、作戦中は指示出しをする関係上、「っす」の口癖を意図的に抑えているという設定がありまして...まぁ、もう死んでしまっているので今更ですが。
「くっ...!」
通信を終えた俺は、歯が痛むほどにギリギリと噛み締めながら障壁の壱式を睨む。
「そんな目をするな。こっちは、奪われたものを取り返させてもらっただけだ」
「うるせぇぞ新人類!お前はここで潰す...!」
ダッと床を蹴り、一瞬で最高速度に至る走りをして壱式に近づこうとする。
だが、現れた障壁に阻まれてしまい、近寄ることは叶わなかった。
「透過無き人類に、私は倒せない。さぁ、ゲームを始めようか。この閉ざされた空間内で、どれだけ逃げ回れるか見せてみろ!」
物質透過を失ったため、俺らは県庁の外を取り囲む障壁の結界の外に自力で出ることができない。葉山の転移ならば内外を行き来できるものの、肝心の連絡手段が無いし、日田が死んだことも知らないはずだからおそらく助けに来ることはよっぽど時間が経たない限り無いだろう。
ゆえに、ゲーム。このクローズドサークルの中で、あの新たなアンチが置いていったアンチたちに永遠と追われるという最悪だ。ゲームマスターは絶対に突破されることのない障壁の中でのんびり鑑賞しながら襲撃者への攻撃を障壁で守ってくるだろう。こちらの勝ちの目がないデスゲーム...
「そんなのに、乗ってやる道理はねぇ!」
走りながら増幅させていたため、既に相当量が溜まり切っている増幅熱を蹴りと共に障壁に流し込む。実体のない増幅熱は障壁に一度宿ってから壱式側の空間に移動し、空気を経由して壱式の身体を包み込む。
「アッツ...!!??」
実体のない、幻覚の熱が壱式に偽物の痛みを叩き込む。全身が焼けるような熱さ、とてつもない痛み...それを、直接神経に流し込み痛覚を刺激する。
「これ、が...例の...!」
「これ耐えるかよ、人外め...!」
普通の人なら耐え切れないほどの痛みだろうに、何で耐えれるんだよ...障壁のハウリング持ちは痛みに慣れてないと思ったのだが、当てが外れたか...!
「大した根性だよ...」
これまで戦ってきたアンチは幻痛の熱を喰らった直後にはもうハウリングを解除していた。もしコイツもそうだったとしたら、天井を覆う障壁が消えて堰き止められていたスプリンクラーの水が降ってきてジ・エンドだったのだが、そう簡単には事は進んでくれないらしい。
「どう、やら...お前だけは、今ここで、殺さなければならないらしいな...」
偽りの熱にもがき苦しみながらも、壱式はこちらを睨みつけてそう言った。物質透過を持たないにもかかわらず、障壁を貫通して攻撃できる俺のことを脅威だと思ったのだろう。
「やってやれ!」
壱式がそう叫ぶと、先ほど生まれたばかりの弐式が動き出す。真っ直ぐこちらに向かって走ってくるが...俺の目の前には障壁が貼られている。だというのにこのまま来るってことは、日田から奪い取った物質透過のハウリングをこいつも使えるのか...!
「っ、消え...だッ⁉︎」
走ってきた弐式の姿が消えたかと思えば、脇腹に衝撃が走って横に蹴り飛ばされる。
「透明化...!忘れてたがなんでこの力を...!」
日田が殺されてハウリングを奪われたことで頭がいっぱいになっており、そもそもの日田が殺された原因である透明化の謎が解けていないのをすっかり忘れていた。
蹴られた瞬間に摩擦熱を増幅させたため、透明になっている弐式の位置は補足できるようになった。それを活用して一旦距離を取り、思考の時間を割く。
なぜアンチたちが透明になるのか...可能性はいくつかある。
一つ目は、佐賀の透明化とは違う別のハウリングによって擬似的に姿を消しているという可能性。しかし、これは透明化のアンチの下位個体と同じ奴がこの場にいることで否定できる。
二つ目は、知らない間にこちらの透明化ハウリング持ちの人間が殺されてしまい、日田と同じようにハウリングを奪われてしまったという可能性。指揮が落ちるのを防ぐために死を隠蔽されており、俺らにまでその情報が伝わっていなかった...は、流石にないか。そんなことがあればハウリング能力所持者たちには通達が行くだろうし、延岡や日田経由で知ることができたはずだ。俺らが結界内に入った後に起こった可能性もあるが、にしては下位個体が生まれるのが早すぎる。おそらくこれも違う...
三つ目の可能性は、目の前にいるあの弐式...ないしは物質透過の壱式となった元弐式のハウリングによって佐賀の透明化のハウリングを再現しているというものだ。コピー能力のようなものならば可能だろう。
……三つ目が一番それらしいな。従えているあの透明化の下位個体に似たアンチが既に死んでいるように見えることも踏まえると、奴のハウリングは...
「……死体の操作...か」
パッと思い浮かぶ中で一番可能性があるのはこれだ。
アンチはそいつを産んだ親が死ぬと同時に死を迎える。これにより、壱式を失った透明化のアンチは皆一斉に死を迎えたことだろう。しかし、死ぬだけだ。身体がひとりでに溶けるようなことは一切起こらない。雨が降れば勝手に溶けるだろうが、それさえ起こらなければ死体は残るのだ。その死体を操ることで、透明化のハウリングも使えたとしたら...
……いや、これじゃ変か?今、死んでさえいなければ透明化のハウリングは自衛隊の誰かが所持しているはずだ。ハウリングの主導権が人間に移っているのに、死体を操ってハウリングを発動させることはできるのか...?
その疑問は残るものの、死体操作だと考えると合点がいくことが多い。よくよく考えると、雨が降っていないのにアンチの死体が福岡市内に一体も転がっていないのはおかしい。これまで壱式を七体も殺してきたのだから、その下位個体たちの死体が落ちてる方が自然だというのにだ。死体が一切落ちていなかったのが、死体操作のハウリングで動かしていたからだとすれば、辻褄が合う。
「面倒な力持ちやがって...!」
この力があると、これまで倒してきたアンチのハウリングも使われてしまう。もうこの力は使われないと思考から除外してしまっているため、奇襲の成功率がぐんと上がってしまう。早めに対処しなければ...!
「っと、その前に...!」
俺は床に向けて適当に水の弾丸を放つ。狙いは必要ない。撃ち出される際の摩擦熱や床との衝突による摩擦熱を増幅させ、放った水に増幅熱を蓄積させる。そして、床との衝突によって水は細かく弾けた。その状態を利用し、増幅熱を消費して水を空中まで浮かせる。微細な水の粒を周囲に浮かせることで、透明化したアンチの攻撃を防ぐという算段だ。
まだ俺には弐式の位置しかわかっておらず、同時に姿を消した透明化下位個体たちの位置はわかっていない。奇襲を防ぐためにこうして結界を張ったのだ。どうせ水の弾丸は障壁で止められるので、出し惜しみの必要はない。バンバン消費して、無くなる前に透明化をなんとかする!
「まずはお前から...!」
水を周囲に浮かせながら俺は透明化中の弐式に向かって走る。俺の死体操作という読みが正しければ、こいつを倒すことで下位個体たちはただの死体に戻るはずだ。位置の特定できてない奴を一体ずつ探し出してチマチマ倒すより、こっちの方が何倍も早い...!
「クソっ、バレてやがる...!」
弐式は姿を隠していても無駄だと悟ったのか、自身の透明化を解除させて姿を現すと、すぐ後ろにあった壁をすり抜けて部屋の中へと入る。
「敵に回すと面倒だな...!」
急いで俺はすぐそばにあった扉に近づき、中に入ろうとする。
……だが、ドアノブが回らなかった...というか、掴めなかった。ドアノブを固定するように障壁が貼られていたのだ。
「つくづく面倒な...!」
仕方がない、ここは作戦変更だ。一旦逃げに徹しよう。
一瞬で俺は扉の前から飛び退き、南棟側へ続く道へと滑り込んで壱式の視界から外れる。こうすれば、逃げ道を塞ぐように的確に障壁を貼られる心配はない。透明化の下位個体が追ってくるだろうが、迎撃の用意も出来ている。しばらく逃げ回りながら増幅熱を蓄え、攻撃の機会を探るぞ...!
「……っ⁉︎」
走っていると、だ。廊下に人間の死体が落ちていた。それも、首から下だけ。ギョッとして上を見上げると、そこには夥しい量の血の跡と、天井に貼られた障壁に突き刺さっている頭が見えた。
……おそらく、物質透過で下の階に降りようとした瞬間に日田が殺されてしまったがために、透過中にハウリングが解除されてしまい身体が物体に押しのけられて切断されてしまったのだろう。下手すりゃ俺もこうなってしまっていたのかと思うと恐ろしい...
「くっ...誰だか知らんが、お前の無念を晴らしてやる...!」
俺は死体のすぐそばに駆け寄ると、背中に背負われていたタンクと手に持たれていた剣を拾い上げて装備する。そして、元々もっていた水鉄砲とタンクは捨て、残っていた水はぶちまけて周囲に浮かせる。お前の武器で、アンチの奴らをぶっ殺してやるからな...!
「……っ、そこか!」
床に響く音から後ろにアンチから近づいてきていることを察知した俺は、浮かせた水や死体から滴る血を増幅熱の消費で移動させて襲撃者たちにぶっかける。
「……よし、全員死んだな」
溶けていくアンチたちの数を数え、最初に確認した奴らが全員消えたことを目視する。他にも隠れてる奴らがいたらちと困るが、とりあえず全て倒したものと見て話を進めよう。念のため水の結界も貼っておけば十分なはずだ。
「次はアイツを...!」
順番は前後したが、次は推定死体操作の弐式を狙う。出来るかはわからないが、壱式を先に殺しても死体操作で戦闘続行となる可能性があるからだ。他に手駒がいるかもしれないという恐れも、アイツさえ倒してしまえばその可能性は消える。障壁の壱式が最後に残る分には、攻撃手段が壱式側には存在しないため勝ち確定。この順番を間違えるわけには行かない。
だが、弐式が逃げ込んだ部屋の扉は障壁で固定されているため入ることができない。壁越しに幻痛の熱をぶつけるのもアリだが、できれば壱式相手に残しておきたい。となると、無理矢理ではあるが直接乗り込んで倒す他ない。
俺は南棟を駆け抜けてもう片方の北棟へ向かう廊下まで辿り着き、北棟へと移動、顔を出して様子を伺い、壱式が場所を移動していることを確認する。壱式に撃ち込んだ増幅熱の反応からして動いているのは確定だったが、これで安心してことに移れるな。
俺は弐式が逃げ込んだ部屋の一つ隣の部屋に入る。そしてすぐさま窓を開けて窓枠に足を乗せると、隣の部屋の窓枠に向けて跳躍する。溜め込んだ増幅熱を持っている剣に集めて剣を浮かすことで窓の目の前で浮遊し、そのまま窓を蹴破って室内に入る。
「は、ハァ⁉︎」
思いがけない場所から飛び込んできた俺を見て驚く弐式は、慌てた様子で近くの壁に向かって下がり出す。物質透過で避けられては面倒だ。速攻で...潰す!
「アヅッ!グオォッッッ!!」
壁に片腕を突っ込んだ瞬間に俺が放った増幅熱が弐式の身体を包み込んだ。どうやら生まれたばかりのこいつにはその痛みに耐えることはできなかったようで、物質透過のハウリングが解除されたのだろう。壁に埋まっていた腕が押しのけられた結果、首が切断された隊員のように切断という事象を生み出した。
「クソッ、どうして俺が、こんな...ヒッ⁉︎」
「恨むなら、日田を殺してお前を生み出した壱式に言え。あとで絶対あの野郎も送ってやる。仲良く地獄で罵り合え」
トリガーを押して水を纏った剣を弐式の首に振り下ろし、切断して息の根を止める。
「……これで、残るは壱式だけ...」
この部屋の扉は障壁で固定されているため、窓に戻り隣の部屋に飛び移って廊下に出る。
「……見つ、けた...!」
廊下を反時計回りに歩いていると、廊下の向こうに壱式を見つけた。だいぶ離れた距離だな...角でバッタリ遭遇するのが一番だったが、仕方ない。
「お前の矛はもう無い。諦めて投降することだな」
俺はゆっくり歩きながら壱式に話しかける。ザリ...ザリ...と靴底を床に擦るようにして歩き、増幅熱をガンガン溜め込んでいく。
「矛は無くとも、こちらには最強の盾がある。お前が勝つこともない。この場で、お前が餓死するまで遊ぼうじゃないか...いや、違うな」
壱式はこちらに向けて手を伸ばしながら言った。
「窒息するまでだ」
「っ...⁉︎」
バンッと見えない障壁にぶつかった。よろけて後ろに下がっても、また障壁にぶつかる。横に手を伸ばしても、障壁。
「俺を閉じ込めた...か」
なるほど、こうして障壁で密閉して、俺が酸素を使い切って窒息するのを待つって寸法か。
「閉じ込めたところで、ここから攻撃すればいい話だ...!」
溜め込んだ増幅熱を床に流し込み、壱式にぶつける。
「グッ...無駄、だ。この熱は、死には至らない...!」
壱式は多少よろめきながら、近くにあった窓に近づいた。そして、窓を開けて身を投げる。
「クソッ...!」
障壁で道を作れば、落下死は避けられる。このまま別のフロア...もしくは県庁の外に出てしまって俺の視界から消えれば、新たな増幅熱を叩き込むことは出来ない...そう考えたのだろう。
位置は特定できる。増幅熱の位置を辿れるから。しかし、新たな熱を送り込むことは距離が離れると困難になる。物に宿った熱は少しずつ冷めていくが、物に宿っておらず移動中の増幅熱の場合、冷める速さは高速。壱式のもとにたどり着くまでに消滅してしまう。
「っ...やるしか、ない...!」
俺はガンガンと障壁を叩く。障壁はびくともしないが、摩擦熱の増幅により徐々に熱が溜め込まれていく。
「無理矢理、動かす...!」
障壁にひたすら熱を溜め込み、摩擦熱の消費による移動で無理矢理障壁の位置をずらしにかかる。俺なら出来る。神様の力なら、こんくらい余裕だろ...!!
「オ...ラァ!」
超高温の増幅熱の蓄積、そしてそれにやる増幅前の本来の摩擦熱の蓄積によって障壁は他人には到底触れられないほどの温度になっていた。その熱を全て使い、障壁を動かし押し退ける。
「ふぅ...距離を取ったのは間違いだったな」
もし壱式が目の前にいれば、また新たな障壁を貼られて終わりだっただろう。距離が離れていなければ、障壁を維持する力が弱まることもなかった。逃げたこと、それがお前の敗因だ...!
「生きてる者に告ぐ!壱式は屋外に逃走!総員外に出て壱式を仕留めろ!!」
通信機に向かって叫びながら、俺は背中に背負ったタンクを外して剣を握る。そして、壱式が逃げた窓からそれらを投げつけた。
纏わりついた増幅熱がトリガーを引いており、剣には水が纏わりついていた。それを壱式が見逃すはずもなく、障壁が貼られて剣は弾かれていった。
そしてすぐさまその場を離れ、階段を駆け降りる。摩擦熱を増幅させながら階段を駆け下り、踊り場の壁を蹴って最高速度を維持して誰よりも早く下へ降りていく。
「逃すかよ!!」
壱式は県庁南東側にある東公園に逃げ込んでいた。そこに俺は叫びながら踏み込む。
「な、なぜここに...!」
「閉じ込めようたって無駄だ!お前は絶対に殺す!!」
俺が公園に足を踏み入れると、芝生に火が燃え移る。大量の増幅熱を溜め込んだ靴底は本物の熱も相当量抱え込んでおり、その熱によって芝生が燃え出したのだ。
「クオラァッ!!」
「んぐっ...⁉︎」
俺の放った跳び回し蹴りが壱式の肩に突き刺さった。障壁を貼ってこない...?もしや、もう咄嗟に障壁を貼れるほどの体力が残っていないのか...?
「なら、何度も叩き込む...!」
熱を溜め込んだ蹴りを連続で壱式に叩き込む。二、三度叩き込んだタイミングで、熱と衝撃に耐え切れなかった靴は破損したがそれでもなお蹴りを叩き込む。
「最強の盾だァ?あるなら出してみろよ!でなきゃ死ぬぜェ?」
蹴りを叩き込むたびに壱式の動きが鈍る。増幅熱に耐え切れなくなる時も近いだろう。
「く、そ...リソースが...グフッ⁉︎」
壱式の顎を蹴り抜くと、壱式は後ろに倒れ込んだ。すぐさま追撃を...
「……っ、無駄に足掻きやがって...!」
現れた障壁が俺の接近を堰き止めた。だが、今回はぶつからなかった。目に見えないはずの障壁が、目に見えるようになっていたからだ。透明に出来ないほど壱式も限界が近いということだろう。
「いたぞ!壱式だ!」
背後からゾロゾロと日田の部下たちがやってくる。十数人くらいはいたはずだが、今はもう五人か...壁や床への減り込みであったり、死体操作が操った透明化アンチに攻撃されてるここまで減ってしまったのだろう。
「地面が燃え...状況は?」
火の元なんて無かったはずなのに何故か燃えている芝生を気にしながらも、隊員の一人が聞いてきた。
「追い詰めたが、また壁を貼って守られた。今からトドメを刺すところだ」
「無駄だ!いくら雁首を揃えようと、俺を殺すことは出来ない!」
俺の返答を聞いた壱式が叫んだ。
「っ...日田さんの力が無ければ、あの壁は...」
隊員たちは剣ではなく水鉄砲を構えていた。近づけないためこっちの方が良いと考えたのだろう。しかし、壁がある以上水の弾丸を撃ち込むことも不可能だった。
「奴は十分弱っている。全員で周りを取り囲んで攻撃し続ければ、いずれは体力切れで突破できるかもな」
「っ...!」
不透明な障壁は壱式の前方側にしか貼られていなかった。それを突けば、倒せるかもしれない。
だが...俺は別の道を選んだ。
「……ガフッ...⁉︎」
壱式の腹に、剣が突き刺さった。
「な...」
壱式は膝から崩れ落ちる。
「剣...?なんで勝手に...」
県庁内から壱式目掛けて投げた剣は、弾かれた後も熱を蓄えていた。俺は壱式を攻撃しながら剣の落ちた場所付近へと誘導し、障壁の貼られていない背後から動かして突き刺したのだ。
もう、他の隊員らにバレても良い。覚悟は決まった...なんなら、遅すぎた。
この覚悟をもっと早く決めていれば、日田は死ななかったのだから...これは贖罪。この後どうなっても良い。たとえアンチ扱いされようと、ここでコイツは殺す。
「……この中で、一番階級の高い奴は誰だ。もしくは、日田に一番近しかった奴。名乗り出ろ」
「こ、この中だと俺だが...」
隊員の一人が名乗り出る。
「名前は?」
「中津だ」
「じゃあ中津。奴にトドメを刺すのはお前だ。腹に刺さってる剣動かして、最後のトドメを刺せ」
「俺が...?別に、あんたがやれば...」
「日田を殺したのはコイツではないが、間違いなく要因の一つだ。これは敵討ち...コイツのハウリングを奪い、真の仇を取れ。そして、日田の力を取り戻すんだ。これは俺ではなく、日田の直属の部下だったお前らにやる権利がある」
コイツらに仇討ちをさせたいという気持ちが半分、俺がハウリング能力を持つと絶対ややこしいことになるからというのが半分...とにかく、早めに決心して欲しい。まだ死んではないけど、いつ死んでもおかしくない。トドメを刺す前にポックリ死んで、俺にハウリング能力が移るといったことは避けたい。
「……わかった。やってやる」
中津はそう言うと、壱式の背後に回った。そして、腹に突き刺さった剣を手に取る。
「その剣は日田の物だ...意志を受け継げ」
「ああ...!」
トリガーを押し、中津の持った剣は水を纏い始める。噴き出た水は壱式の身体を溶かし...縦に振り上げられて両断した。
「これ、で...終わり...!」
壱式の死亡とともに、県庁周辺を囲っていた障壁が消滅した。遮断されていた音が入ってきて、戦闘音や車の走る音が聞こえ出す。
「っ、これが...」
中津は死んだ壱式に向けて手を伸ばした。殺した者にのみ見える光...ハウリング能力の継承だ。
「よっ...と」
中津が意識を失い倒れそうになったので、身体を支えてゆっくり地面に横たわらせる。
そして俺は、外に繋がるようになった通信機に呼びかけた。
『障壁の壱式、討伐。継承による意識不明者1、救護班を頼む」
福岡での戦いはこれで終わり。
だがしかし、中津たちにとっては、復讐の戦いの始まりでもあった。
被害者多数ですが壱式を討伐、物質透過を奪った新壱式は逃亡しました。
進展的にはプラマイゼロになりますね...