神の使いの異世界修復   作:ダイヤモンドリリー

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8428字。

愛媛戦ですが、戦闘描写はほぼ無くて大体会話か思考です。


重力操作の罠回避

「異世界人とか言われても、すぐには納得できねぇよ。どう見たって普通の日本人じゃんか」

 

愛媛へと向かう船の中で、古宇利はそう言った。基本的に上層部やあの場にいた人間以外には俺が異世界人であることを公表することはしないが、ずっと前から行動を共にし続けていた古宇利にだけは、上の許可を取って話した。いずれ、全てが終われば別れることになるからな。その時にややこしくしないためにも、今のうちに話しておいた。

 

「そりゃ当然だ。異世界つっても、全てが全てファンタジーな世界なわけではない。そりゃもちろんあるにはあるが、俺は普通の地球がある世界の日本生まれ。見ただけじゃわからん」

 

「妄想じゃ...ねぇんだよな?」

 

「ああ。こうして能力も持っている。妄想じゃ断じてない」

 

熱を増幅させて付与させた石を浮かせて、幻痛の熱の存在を示す。

 

「……まぁ、そんなに動けることへの理由って意味では納得できるんだがな。そりゃ異世界でドンパチやってる経験があれば、こんな戦い楽勝だろうよ」

 

「楽勝ってほどでもないんだけどな。今回は能力が能力だから、普通に苦戦することもあるし。一度死にかけてるし」

 

「なぁ、今度その異世界での話聞かせてくれよ。どんな漫画とも違うリアルなんだろ?」

 

「わかった、暇な時に話してやるよ。漫画より面白いかは知らんがな」

 

古宇利の適応力もなかなかのもので、完全な納得にまでは至っていないようだが俺が異世界人であることは大方飲み込めたらしい。意外と理解力あるなこの世界の人たち...やっぱ、ハウリングという超常現象に触れてきたからなのかな?

 

「にしてもよ、まさかハウリングのことを全部隊に公開しちまうなんてな」

 

……福岡戦の前、福岡に移動する前に葉山がそんなことを言ってたが、それは実際に実行に移された...少し、真実とは違う形で。

 

「そん中に、お前も入ってるとは思ってなかったがな」

 

「そりゃカバーストーリーだ。実際にはハウリングじゃない」

 

俺が異世界人であることは流石に明かせない。だが、幻痛の熱という上位個体特効の能力を使わない手はない。なんとかして俺を能力者であると開示する必要があり...その結果、俺はハウリング能力者として公表された。

 

だが、攻略済みの都道府県は一道八県。よって、自衛隊が手に入れたハウリング能力の数は九つということになる。一つアンチに奪い返されて八つにはなっているが、新たに壱式が生まれている以上この数を誤魔化することは出来ない。日田の分を俺に当てはめると、壱式の数で矛盾が生じてしまう。しかし、ただ俺を数に含めるだけでも矛盾は生じる。

 

よって、一人だけハウリング能力者から除名した。その枠を俺に当てはめることで、奪った能力が元々この力だったように見せかけるのだ。福岡以降、壱式を倒しに突入するのは事前にハウリング能力のことを伝えられた部隊だけだったため、壱式の能力と奪った力が違うと気付かれることもない。こうして俺は、自由に能力を使えるようになった。

 

ちなみに、除名されたのは八代だ。予知能力はサポート向きであり、能力的に八代一人が使えれば十分であるため、間借りをする必要がない。自衛隊にとっても先を見通すことのできる力は切り札であるため、上層部のみの秘匿事項とされて公表対象から外れた。

 

ハウリング能力者でない扱いになったため護衛をつけることができないというデメリットはあるものの、本人は前線で戦えるようになったため喜んでいることだろう。予知があれば自らが傷つく未来を回避することも容易いはず。使っても周りにバレることはないし、戦闘面でも自衛隊全体の補佐としても活躍することだろう。

 

「……その、ハウリングじゃないってのが困るんだよな」

 

「困るって、何にだ?」

 

「間借りが出来ないんだよ。今のところ断る形でやり過ごせてはいるが、いつまでこれでやり過ごせるか...」

 

上層部は積極的にハウリング能力を間借りさせるように指示した。強力なハウリングを、多少性能が落ちるとはいえ複数人で扱うことができれば優位に戦いを進められるからな。

 

だがそのせいで俺の立場がヤバい。当然だが、俺の能力はハウリングではないため間借りさせることは不可能。そして、上位個体に対してめっぽう強いこの力を貸さない理由がない...微妙に詰んでいるわけだ。

 

現状は、以前能力を貸したら極端なほどに性能が落ちたなどと嘘をついたり、俺にしか扱えないような力であると事情を知る仲間たちに噂を流してもらい、間借りを断りやすい雰囲気を作って対処してはいるものの、いつまで逃れられるかは不明だ。出来れば、面倒なことになる前に全て終わらせてしまいたいところだ。

 

「……ってわけで、古宇利も俺の能力について何か言われたら、借りてみたが全然扱い切れなかった、延岡の力を借りた方がよっぽど有益だ、とか言っておいてくれ」

 

「わかった。それくらいならお安い御用さ」

 

「助かる...!そんじゃ、俺色々と準備あるから行くわ!」

 

「おう!大変だろうが、頑張れよ!」

 

古宇利と別れる。愛媛までもう少し。俺も準備をしなければ...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっ、会うのはこれで二回目か。といっても、あの時は一言も話してないから記憶にないかもしれないが...」

 

愛媛上陸直前、俺は今回共に行動するハウリング能力者に会っていた。

 

「あの場にいた人は全員覚えてるよ。配られた資料も読んでるんで、バッチリだ」

 

この人の名は波佐見。長崎の壱式を倒し、重力操作のハウリングを手にした女性だ。

 

「そうか、なら良かった...私はあまり印象に残らないと前から言われていてね。覚えていてくれていて嬉しいよ」

 

なんか、ちょっと変な人かも...?まぁ確かに、普通というか、地味めというか、見た目じゃ印象に残りやすいようなタイプではないわな、うん。

 

「作戦は頭に入っているかい?」

 

「もちろん」

 

今回の愛媛上陸作戦、県庁内に入るのはこの波佐見部隊と俺だ。なぜこの部隊になったのかというと、波佐見の重力操作によって愛媛の壱式の能力に少し対抗できることが八代の予知によって判明したからだ。

 

愛媛の壱式のハウリングは、地面や壁、天井などに様々な罠を仕掛けるというものだ。ワイヤートラップなどもあるが、そのほとんどは触れたら作動する感圧式。重力操作によって浮いて何にも触れずに移動することができれば、多くの罠は素通りすることができる。そのため、波佐見部隊が突入の足掛かり、戦力として俺が投入されたわけだ。

 

あとそれに加えて、武器生成能力を持つ門川の部隊の人も何人か混ざっている。浮くだけでは避けられない罠を遠くから解除したり、武器の補給ができるようにするためにいる。こうして考えると、武器を作れるってはちゃめちゃに強いよな...

 

「私の力でも攻撃できなくもないが、なにぶん制御が難しい。攻撃は任せたぞ」

 

「任せてくれ、そのために俺はいる」

 

「そんじゃあ、そろそろ飛ばしても良いか?」

 

近くにいた葉山が問いかける。

 

「問題ない。頼む」

 

「なら行ってこい。着地は任せるぞ」

 

葉山の転移によって、県庁上空へと転移する。そして、地球の重力に引かれて徐々に落下を始める。

 

「マジで...落下は任せたからな...!」

 

自由落下で県庁へと降りていく。ゆっくり降りると途中でアンチに迎撃される恐れがあるため、パラシュートといった器具は装備していない。俺らの命は、波佐見の能力に全てかかっている。

 

正直狂った作戦だとは思うが、地上付近に正確に俺らを転移させることは葉山でも距離的に難しい。物の中に埋まってしまう事故を避けるには、こうして上空に出るしかなかった。奇襲のためにも致し方なし...!

 

「俺は俺にできることを...!」

 

落下中の空気抵抗による摩擦熱、それを永遠と増幅させ続ける。俺の装備は特注品で耐火耐熱性能を可能な限り引き上げている。このまま着地まで増幅させ続けて本物の摩擦熱が蓄積したとしても、装備が溶け落ちることはない。溜め込んだ力で、アンチどもを一瞬で仕留める...!

 

「そろそろ...うん、多分ここらへん...!」

 

波佐見がそう言うと、若干だが上に引っ張られるような力を感じた。それに伴い、落下速度が少しずつ落ちていっているように思える。うん、上向きの重力で減速させてるんだろうけど、多分って言うのやめてもらえる?ものすごい不安になるから。

 

「とーまーれっ!」

 

落下中の俺らの身体は、あと少しで県庁の屋上に足がつくといったくらいの場所で静止した。めちゃくちゃ正確に止めたな...これは計算なのか、それとも感覚でビタ止めしたのか...どちらにせよ凄いな。

 

「それじゃあ行くよ。移動は私が全部制御するから、足だけ床に触らないように気をつけて」

 

アンチたちが侵入経路として想定していないであろう屋上に来ることはできたが、ここに罠が設置されていないなどと楽観視することはできない。波佐見の重力操作で俺らの体にかかる地球の重力を打ち消して擬似的な無重力状態とし、横向きの重力で移動することによって床に足を触れずに移動し罠を回避する算段だ。

 

「ここを破るぞ。やってくれ」

 

波佐見の力でスィーッと室外機の設置されている屋上を進み、知事室のある場所のちょうど真上辺りに移動すると、波佐見は門川の部下に指示を出した。

 

部下たちはハウリング能力を起動すると、手元に指向性の爆弾のようなものを作り出し、天井に向かって落とす。それが天井に触れると、ドカンと爆発して天井に穴を開けた。爆風や破片は重力操作で全て叩き落としているためこちらへのダメージは一切無し。これで、安全に屋内に入れそうだ。

 

「……よし、入るぞ」

 

「ちょっと待て。死体操作経由で透明化が使われている可能性がある。念のため鉛玉をぶち込んでやれ」

 

「了解」

 

門川の部下たちは今度はマシンガンを生み出すと、それらを天井の穴から撃ち込み始めた。一瞬銃の反動によって身体が上に浮きかけるも、すぐに波佐見が対応してその場に止まらさせ、そのまま銃弾を叩き込んでいく。

 

「……やっぱ居たな」

 

撒き散らされた銃弾に撃ち抜かれたアンチたちが姿を表す。見たところ、どいつも透明化の下位個体のようだな...既に死んでるのに撃たれてハウリングが解除されるのはちと妙だが、ある程度死体が損壊すると死体操作で操れなくなったりでもするんだろうか?

 

「次はペイント弾でやれ」

 

俺が指示を出すと、門川の部下たちは油性のペイント弾が込められたペイント銃を作り出した。

 

実は、武器生成操作のハウリングでは水を生み出すことができない。水と水鉄砲が武器であると認識していてもだ。おそらく、ハウリングが元々アンチのものであるがために、自らを溶かす水を生み出すことができないのだろう。

 

しかし、全ての液体を作れないわけではない。ガソリンのように、ほぼ水分が含まれていない液体であれば生み出すことができる。壱式がガソリン入りの火炎瓶を生み出していたことからもそれは明らかだ。そのため、油性であればペイント弾を生み出すことも出来るわけだ。

 

ばら撒かれたペイント弾は床や壁に当たって弾ける。それによって床や壁が塗りつぶされ、感圧式の罠による他の場所との僅かなズレなどが可視化されていく。

 

見えたのはそれだけじゃない。廊下に張り巡らされたワイヤートラップも一緒に浮き彫りになっていく。

 

「だいぶ仕掛けられてんな...ワイヤーの解除は任せろ」

 

床に降りないことで対処できる感圧式の罠は無視していいが、どうやっても避けられないように張り巡らされているワイヤートラップは対処するしかない。

 

俺は先ほど放たれたペイント弾の熱を増幅させており、その熱を使ってワイヤーごと弾けたペイントを動かす。それによってワイヤーは切れていき、引っかかることのないように壁に張り付かせていく。

 

「作動しない...?」

 

「あそこにいたアンチや、落ちた天井の瓦礫が触れても罠は作動していなかった。おそらく、人間が触れない限り作動しないのだろう。もしくは、生きている奴が触れるかだな。アイツらが死んでたから動かなかった可能性もある」

 

「どちらにせよ、私たちが触れればアウトなわけだ」

 

八代の予知によって、罠にかかると身体を切断されたり串刺しにされたり、炎で焼かれたり雷に撃たれたりなどと、様々な方法で殺しにかかってくるらしい。壱式の罠は触れたら一発アウトだっていう思考のもと行動する必要がある。

 

「目に見える罠は処理したね?それじゃあ進もうか。もう一つ下に降りる。各員準備」

 

波佐見の力で身体が動いていき、各々が強制的に配置につかされる。動くにはこうしないといけないとはいえ、身を全て任せないといけないのは怖いな...

 

「……っと、俺は俺のやることを...!」

 

持ち物の中から水の入ったペットボトルを取り出し、増幅熱を付与させてから中身を撒き散らす。ばら撒いた水は増幅熱を消費して周囲に浮遊し、俺らの周囲を囲んでアンチの接近を防ぐ。

 

パシャンッ!

 

「っ、そこ!」

 

設置した水が弾けたため透明なアンチの接近を感知、すぐさま水に含まれていた増幅熱をアンチに付与して位置を特定し、持っていた銃で撃ち抜き排除する。

 

「……透明化が解除されないってことは、別のアンチか...?」

 

先程撃ち殺したら透明化が解除されたのは、そいつが透明化を発動させていた本人だったからだ。動かなくなってもこいつの透明化が解けないということは、こいつ自身は透明化ではなくて別のハウリング持ちであることがわかる。

 

「ペイント銃借りるぞ」

 

爆弾で床を破壊しようとしている門川部隊の一人からペイント銃を受け取り、倒れたアンチに向けて撃ち込む。インクで塗り潰せば、見た目から何のハウリング持ちであるかわかるはず...

 

「……この形、私の...!」

 

露わになったアンチの姿を見た波佐見が反応した。ということは、こいつは重力操作の下位個体か...やっぱり、透明化以外のハウリング持ちアンチの死体も操作してるよな。流石に一種類だけでは無かったようだ。

 

「……他にもいないか調べておくか」

 

せっかくもらったことだし、ペイント弾を廊下の向こう側に乱射する。

 

「おっ、意外といるもんだな」

 

ペイント弾によって透明なアンチたちがどんどん塗りつぶされていき、目に見えるようになっていく。俺が水を周囲に漂わせているせいで近づけていないようだな。このまま牽制して接近されないようにするか...つーか、どいつも重力操作だな。透明化はどこにいんだ?

 

「……っ、危ない危ない」

 

一瞬俺らの身体がぐらついた。やっぱ波佐見の力だけで何とかしてるのって不味くないか?今回は精密操作が必要だからっていって間借りもしてないから万が一のセーフティーも無いし...

 

「大丈夫か?」

 

「ちょっと誰?能力使用申請出してきたの。今回は貸さないって言ったはずだよ」

 

と、波佐見がうざったそうに言う。誰かが間借りしようとしたのか?

 

「僕やってないぞ」

 

「私も何も」

 

……などと、波佐見部隊の人たちが口々に言う。

 

「え?じゃあ誰が...」

 

「……もしかして...!波佐見さん!使用申請全部無視して!多分、あの死体のアンチが申請を出してるんだ!」

 

県庁に近づいてから、常に通信機からはハウリングによるノイズが聞こえてきていた。だが、俺らの身体がぐらついた瞬間...波佐見が誰かからの能力使用申請を受け取った瞬間、そのノイズ音が少しだけ強まった気がしていた。

 

これは仮説だが、ハウリングによって生じるノイズは、アンチたちの能力使用申請とやらなのではないだろうか?いやまぁ、まず俺はハウリング持ちじゃないからその使用申請がどんな感じなのかもわからないから合っている保証はないが...

 

俺らはハウリングを手にした者から能力を借りることができる。もしこの仕組みが、アンチたちも同じだとしたら?弐式以下のアンチたちが皆、壱式に能力使用の申請を出して能力を間借りして発動させていたとしたらどうだろう。下位になっていくにつれて少しずつ能力が弱まっていくことも、ノイズの時間が長引いていくことにも説明がつかないか?上の個体へと申請をリレーしていくせいで、ノイズの起こりから発動までに時間がかかる...そして、本来の持ち主である壱式からはノイズが起こらない...!

 

なんてことだろう、仮説が見事に当てはまってしまう。もしそうだとしたら、死体であるアンチたちがハウリングを使えることにも説明がつく。ハウリング能力者を壱式と見做して使用申請を出し、味方のと判別がつかないため許諾が返ってきてしまいそのまま能力発動...あり得ない話ではない。

 

検証が必要だ。作戦が終わったら、透明化のハウリング能力者である鳥栖に話を聞いてみよう。

 

「わ、わかった!全部拒否!ハウリングは使わせない!」

 

波佐見がそう言うと、ノイズ音が少し小さくなった。申請拒否の影響か?とにかく、また申請が来て波佐見の集中が乱れる前にアンチたちを銃で撃ち抜いておく。

 

「準備完了!」

 

爆弾の用意ができたようで、即座に床が破壊されてもう一つ下の階層へと降りられるようになる。

 

「索敵開始!」

 

ペイント弾が撃ち込まれ、ワイヤートラップが見えるようになる。そのワイヤーを俺が能力で剥ぎ取り、廊下中に銃弾を撃ち込んで見えないアンチたちを殲滅しながら下へ降りる。すぐそこの部屋が知事室だ。

 

「マスターキー用意!撃て!」

 

マスターキーという名のショットガンが知事室の扉をぶち破る。即座に重力が破壊された扉に作用し、真横に薙ぎ払われる。

 

「壱式発見!!」

 

「っ、そりゃアリかよ...!」

 

空中に浮いたまま攻めてきた俺たちを見て、壱式は思わず呟いた。

 

そして次の瞬間、重力によって壱式が部屋の中心へと吸い寄せられ身動きを完全に封じてしまう。

 

「逃がさないよ」

 

「クソッ、なら...!」

 

壱式はこちらに手を向ける。ワイヤートラップでも貼って罠にかけるつもりか?

 

「遅すぎんだよ!!」

 

既に俺の放った見えない熱は壱式の全身を包んでいた。

 

「アッ、ヅァ...!!??」

 

県庁落下中に溜め込んだ膨大な増幅熱は壱式の精神を焼き殺すには十分だったようで、壱式はガクンと意識なく項垂れる。

 

「これで新たに罠を貼ることはできないはずだ。トドメを刺せ」

 

「ほら、やってきな西条」

 

「……了解」

 

予め決められていた波佐見部隊の西条が水鉄砲を手に取り、動かなくなった壱式に向ける。

 

「近づくのは...ダメですよね」

 

「ああ。新たな設置は防げたが、既に設置済みの罠は作動する恐れがある」

 

「そうですよね...」

 

西条の手は震えていた。水鉄砲...銃に自信が無いのか?

 

「……震えて、当てられる気がしない」

 

「大丈夫?銃苦手だったっけ?」

 

「いや...見れば見るほど、人と変わりないなと思ってしまって...見たら違うっていうのもわかるんですけど、見た目はあまりにも人と同じで、訳分からなくなって...怖いです。もしあれが、本当に人だったらって思うと...」

 

……この西条という男は、だいぶ感性が普通寄り...というか、これが普通だ。人の形をしていたら普通は攻撃を躊躇してしまうものだ。アンチを見ると人ではないと直感でわかるけども、壱式の場合姿は人間と相違ない。手が震えてしまうのもわかる。

 

「……大丈夫。あれはアンチであって人ではないよ。それに、かけるのは水。水で人は死なない。友達と遊ぶ時のように水鉄砲を撃てば良いだけだよ」

 

波佐見はスゥーっと移動すると西条の肩に手を乗せる。

 

「手が震えるのなら、私が支えてあげる。重力での固定と、手、どっちが良い?」

 

「……気恥ずかしいので、重力で」

 

「わかった。あとは引き金を引くだけだよ」

 

西条の手の震えが、重力操作によって強制的に止まる。

 

ピタッと銃口が壱式を向く。そして、引き金が引かれて水が飛び出す。

 

飛び出した水は壱式の頭に命中し...そのまま溶けていった。

 

「ミッション完了...だね。よっ、と」

 

重力に引かれて壱式の身体がこちら側に向かってくる。

 

「……それ出来るなら、最初からやってくださいよ」

 

「ほら、いつ起き上がってくるかわからなかったから。そんなことに言ってないで、パパッと継承して」

 

壱式を引っ張ってきたのは、部屋に入らずにハウリング能力を手に入れさせるためだったようだ。これまでのを見た感じ、倒した壱式に触れる必要があるみたいだしな。懸命な判断だ。

 

「……これが、ハウリングの光...」

 

手を伸ばした西条が意識を失う。元々重力操作で支えられていたため、気絶した西条はさっきの壱式のようにプカプカと浮いていた。

 

「離脱するよ」

 

「念の為、壁や床には触れるなよ。死体操作経由で、死んだ弐式以下が罠を再設置しないとも限らん」

 

先の仮説が正しいかも、気絶している状態の西条に能力使用申請を出したらどうなるのかもわからないため、念には念を入れて浮遊したまま県庁を離脱した。

 

こうして、ほぼ予知のおかげではあるが、ほぼ損害なく愛媛戦を切り抜けることができたのであった。




今回は色々と繋ぎの回でした。
まぁ、予知があったらこんだけ楽勝になるよね...といった感じです。
これから先相性の良い能力が無ければ苦戦すると思うので、これからの戦いに期待ということで...
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