神の使いの異世界修復   作:ダイヤモンドリリー

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8623字。

高知編の続きです。


物質透過の復讐劇

「ったく、面倒な奴らだ...!」

 

枯れた水堀から這い上がってきたアンチに銃口を向けながら俺はつぶやく。パンッ!と火薬が弾け、額を貫かれたアンチはドサリとまた堀に落ちていく。

 

「さっさと全員片付けるぞ!」

 

周囲のアンチやゾンビどもに銃弾を浴びせていく。水堀が枯れているのを見て、おいそれと水を使うことは出来なくなってしまった。県庁の中で補給できるかわからないためだ。持っている水は、物質透過の壱式を倒すために残しておかなければならない。だから銃弾で敵を倒して、水の節約を...

 

「……っ⁉︎お前倒したはずじゃ...!」

 

堀から這い上がってきたアンチの頭がちょうどいい位置にあったので蹴り落としたのだが、蹴った際の足の感覚と、落ちていくアンチの頭を見て異変に気がついた。

 

そいつの頭には銃創があった。先ほど俺が頭をぶち抜いた奴で間違いない。どう見ても死んでいる。

 

「っ、死体操作の仕業か...!」

 

クソッ、ただの致命傷だけでは死体操作を許してしまう。ただ殺すだけではまだ動き続けて永遠と攻撃をし続けてくるだろう。止めるには、水で身体を破壊するか大きく死体を損壊させて身動きを封じる、もしくは死体操作の対象外とさせるしかない...が、俺の力では時間がかかりすぎる。

 

「死んでるから熱も効かねぇしよォ...!」

 

死体と化したアンチはたとえ上位個体であっても痛覚を失っている。俺の能力が一切通用しないため、これじゃ一般人と何ら変わりない。

 

「すまん!任せた!」

 

ひとまず近くのアンチとゾンビを蹴り飛ばして堀に突き落としてから後退する。

 

「任された!」

 

代わりに前に出た延岡が炎を撒き散らし、アンチもゾンビも皆焼き尽くす...が、燃え尽きるまでには少々時間がかかる。まだ生きているアンチは炎から逃れようとして後退するも、痛覚を失っている敵たちはたとえ体が燃えていようとも俺らに攻撃してこようと近づいてくる。

 

「撃ち抜け!」

 

そういう奴らは門川が生成した銃の餌食となる。接近した側から無数の銃弾によって全身を貫かれ、死体損壊によってその動きを止める。

 

「っ、来る!」

 

八代がそう呟くと、銃の流れ弾に当たらないようにしながら門川の前に出てその場で構えた。

 

その直後、炎と銃弾の雨の中からアンチが飛び出してくる。物質透過のハウリング...だが、予知によって接近を察知しており待ち構えていた八代の拳が即座に突き刺さった。

 

「面倒な奴は私が...!」

 

アンチは後ろによろめき倒れそうになる。その瞬間に波佐見が重力を操ってアンチだけを引き寄せる。

 

「そーれ!」

 

そして重力で引き寄せたところに顔面に拳を叩き込んだ。引き寄せる力と、拳を叩き込むと同時に放たれた反発の力が双方同時にアンチに作用し、頭が潰れた。

 

「透過してきたアンチは任せて。私が全て引き寄せる」

 

そう言いながら波佐見は炎と銃弾の雨から逃れようとして横に散らばったアンチたちを前方に重力で引き寄せた。その結果、逃げようとしていたアンチたちも皆死へと一瞬で誘われた。

 

「……コイツら、ヤバいな」

 

隣にいた、死体操作のハウリングを手に入れる予定の春野がポツリと呟いた。これまで相槌だとか任務に関すること以外ほぼ一言も発してなかったのだが、目の前で繰り広げられている戦いはそんな彼が思わず呟いてしまうほど凄まじい光景だと言えよう。

 

「もうしばらくすれば、アンタもこれの仲間入りだ。今のうちに慣れておきな」

 

「これに?あまり慣れたくはないな...人でない何かになってしまいそうな気がする」

 

「お?それは俺らが人じゃないみたいに言ってるのと同じだが分かってるか?」

 

「ええ、こんな異能の力を持ってたらただの人とは到底言えない。人は人だから良いというのに...」

 

……なんかコイツ怖いんだけど!言ってることが、人を愛してるとは言ってるがめっちゃ歪な愛ゆえに悪である敵役みたい!コイツに死体操作を持たせるのめっちゃ不安なんだけど...

 

「えっと、それはどういう思想?」

 

「なに、ただ平凡な人であることが好きなだけだ。だからこそ、人の姿でありながら人でないアンチが嫌いだ。死んだら非人間としてこき使ってやる」

 

こ、怖ぇ...たまたまアンチを倒すという目的が一致してるだけで普通に悪だろコイツ。本当に正規の自衛隊員か...?俺や延岡、古宇利みたいな一般人上がりだったりするのかな...いやでも、そういう人にハウリングを得る役目を与えないよな...

 

……ちょっとコイツがやべー奴すぎて全然戦況を見てなかった。今どんな状況?

 

「無理矢理道を作った!今のうちに橋を渡るぞ!」

 

いつのまにか大多数の敵が倒されており、かろうじて橋が渡れそうになっていた。皆が移動し始めていたので、俺らも慌ててついていく。

 

「つーか、堀が枯れてんならどこからでもやろうと思えば通れんじゃん!俺らもアンチも!」

 

「そうじゃん⁉︎」

 

橋を渡り終えてから即座に罠を貼り始めていた西条が俺の叫びに呼応するように反応した。橋を渡って罠を貼っておけばもうアンチはこちら側には来れないものだと考えていたが、水堀が枯れているせいで普通に堀を乗り越えてアンチたちが追いかけてくることが出来てしまう。

 

事前に決めていた作戦が水堀が枯れていただけでだいぶ崩れてる...!クソッ、こうなったら...!

 

「中津!県庁全体を取り囲むように障壁を貼れ!福岡の奴みたいに!出来るか⁉︎」

 

「あ、ああ!やってやる!」

 

アンチの接近を防ぐにはもうこの方法しかない。福岡の時に壱式がやっていたように、県庁全体を覆うように障壁を貼って出入りを封じてしまうのだ。

 

「葉山!こっちは結界を作る!狙撃援護が通らなくなるから本隊の援護に回ってくれ!」

 

障壁が展開され切って通信が途絶してしまう前に、通信機に向かって叫んで葉山に指示を送る。

 

『了か』

 

途中で音声が途切れた。障壁が県庁全体を包んだのだろう。

 

「つ、疲れた...」

 

中津が膝をついて座り込む。ハウリング能力者となってからまだそこまで経ってないのにここまで大規模な能力行使をしたために疲労が溜まったのだろう。

 

「だいぶ...ハードだな」

 

延岡や門川も若干疲れ気味のようだった。無理もない。ずっとハウリングを使って敵を倒していたからな。それも、普段以上に出力を上げて行使していたから、中津ほどまでとはいかないものの消耗したことだろう。

 

「落ち着いてはられないぞ。忘れたか?この壁は、奴らなら突破できる...!」

 

西条の罠にやられたり、罠を潜り抜けても障壁の結界によって阻まれるアンチたちに紛れて、何体か壁をすり抜けてこちら側に入ってきた。物質透過の前では、どんな壁もないようなもの。無条件で侵入を許してしまう。

 

「つくづく面倒だ...な!」

 

壁を越えてきたアンチたちに近づき、増幅熱を込めた蹴りを浴びせる。増幅熱は実体のないもの。すり抜ける云々の前にすり抜ける対象がないため回避することはできない。そして、上位個体であるがために熱はアンチたちを蝕む。

 

「ふっ、軟弱者め...!」

 

蹴り倒したらアンチは結界に背中をぶつけた。それが意味することは、物質透過のハウリングが切れているということ。俺は即座に銃を向け、脳天と脚を撃ち抜いて死に至らしめる。

 

「よし、次!」

 

一体に対処している間に俺の背後に回り込んでいたアンチを後ろ回し蹴りで蹴り飛ばす。

 

「もういっちょ...!」

 

「動きすぎ。一度休んでいなさい」

 

俺がアンチに追撃を仕掛けようとしたその瞬間、アンチは何かに引っ張られているかのように後ろに引き摺られていった。

 

波佐見が重力操作でアンチたちをある一点に引き寄せ始めたのだ。壁を通り抜けたアンチたちは皆一点に向かって引き寄せられ、互いにぶつかり合い傷ついていく。

 

生物はすり抜けられない。それは、アンチ同士であっても一緒。そのまま引き合い続け...互いに押し潰しあって死んでいく。

 

「え、えげつねぇ...」

 

ま、まぁなんにせよひとまず入ってきた奴らは倒せたな。潰れたあいつらは問題ないとして、俺が倒した奴も脚を撃ち抜いて動かないようにしてやったので死体操作で動かそうとしても何もできないだろう。追加が来なければ、一旦背中は気にしなくていいはず...

 

「……追加は来ないな。みんな疲労してるし、一旦休憩にするか...」

 

「みんなって言うが、君は平気なのか?」

 

「俺は平気だぞ。これくらいの運動量は慣れっこだ」

 

「化け物か...?」

 

ボソッとなんてことを言ってくれてるんだ春野の奴は。化け物呼ばわりとは失礼な...

 

「一応治癒は出来るが、疲労に関しては気休め程度だ。しっかりゆっくりと呼吸をして、心拍を安定させろ。短時間で効率的に身体を休めるんだ」

 

小樽がやっと出番だとばかりに治癒を施していく。

 

「平気そうにしているが、君もきちんと身体を休めろ。体力に自信があるようだが、疲労は目に見えない。ここぞという時に、積もりに積もった疲労が襲いかかってくることもある。一番動いているのだから、一番休め」

 

小樽に念押しされながら治癒の力をかけられる。何で俺にだけ...たしかに運動量は少しみんなより多いけど、幻痛の熱は能力使用の負荷といったものが存在しないからみんなと比べりゃ全然疲れてないのよな。

 

「水の量は?」

 

身体を休めながら、必要事項を確認していく。

 

「ちょっと使ったが、物質透過を倒すには問題ないだろう。死体操作分が残るかは分からないな」

 

「そっちはハウリングで蹴りを付ければいい。水は使い切ってしまっても最悪構わん」

 

「なら体力消耗はどうだ。ハウリングを使えるほどの体力は残さないとまずいぞ」

 

「そこは主力を俺と八代にすれば良い。あと、透過できようが重力で引っ張れる波佐見。延岡と門川は温存だ」

 

「了解。では、休憩はここらで止めにして突入するぞ」

 

入口から中に侵入する。

 

「まぁ、そりゃいるわな...!」

 

県庁内部は無数のゾンビたちが蠢いていた。そいつらはまるで波のように俺たちに向かって雪崩れ込もうとしてくる。

 

「短期決戦だ!波佐見!中津!」

 

「「了解!!」」

 

波佐見が重力を操り、ゾンビたちを全員天井に叩きつける。そして即座に中津が障壁を展開し、階段までの安全な道を作り上げる。

 

物質透過では生命体は透過できないため、こうすればゾンビに埋もれてアンチも近づけないはず...ん?待てよ?ゾンビってことは生きてないからすり抜けられるんじゃ...⁉︎

 

「そんまま天井に押さえつけろ!」

 

障壁の展開が終わったためハウリングを解除しようとした波佐見に向かって叫ぶ。

 

上を見ると、ゾンビたちをすり抜けながら天井を駆けるアンチの姿があった。あのまま重力操作を解除していたら、ゾンビや障壁をすり抜けながら俺たちの真上から落ちてきていたことだろう。

 

「多すぎ、辛すぎ...!」

 

「階段までの辛抱だ!耐えろ!」

 

大量のゾンビを一人で上に押し付けているため、波佐見に疲労がみるみるうちに溜まっていく。知事室副知事室共に二階...階段にさえたどり着いてしまえば、ターゲットはすぐそこ。それまで耐えろ...そして走れ!

 

「っ、あと少し...!」

 

俺らを止めようと、ゾンビたちに紛れていた物質透過以外のアンチたちがハウリングを使って攻撃してくる。光線のようなものが飛んできたり、周囲にあった物がポルターガイストのように飛んできたり、重力に逆らって跳躍して殴りかかってきたり...しかし、それらは全て中津の障壁によって遮られる。

 

「ついた!障壁と罠を!!」

 

階段にたどり着いた俺たちは、踊り場まで即座に駆け上ると障壁と罠をひたすら何重にも張り巡らせて下階からゾンビやアンチたちが登ってくることを防ぐ。そして、負担軽減のために波佐見の重力操作は解除される。

 

「ふぅ...階段に誰もいなくて助かったな」

 

「それはそれで不気味だがな。肝心の二階に人っ子一人いやしない...」

 

壱式たちがいる二階にゾンビもアンチもいないってのは相当に不自然だ...何が目的だ...?

 

「戦力一極集中でそもそも登らせないような作戦だったのか?だとしても、突破してくることを想定しないわけがない...何故こんなことを...」

 

透明になれるハウリングが鳥栖の持っているもの以外にあって、姿を隠しているのか...?それとも、ただ単純に一階で仕留められるとたかを括っていたのか...

 

「……っ!マズイ!物質透過が逃げ始めるぞ!」

 

「なに⁉︎」

 

「床を抜けて一階に降りた後、壁も障壁も抜けて逃げ出すつもりか...!」

 

「クソッ、一階に集めてたのはこのためか...!」

 

大量のゾンビで埋めることで倒して進む選択肢を俺らに排除させ、倒さずに突破してきたところをゾンビたちに紛れて逃げる作戦...!死体を貫通できる壱式は難なくゾンビの波を抜けられるが、俺らはそうはいかない...!

 

「八代!波佐見!俺らだけで追うぞ!他のみんなはこの隙に死体操作が逃げ出さないか監視!」

 

「りょ、了解!」

 

「障壁消せ!」

 

中津に障壁を消してもらい、階段を降りて一階に戻る。

 

「俺らを天井に!!」

 

俺の指示で波佐見は俺らにかかる重力のみを上向きにする。それにより、俺らは天井を走ってゾンビたちの上を通り抜けられるようになった。

 

「そこだ!」

 

天井を照明を時々飛び越えながら走っていると、物質透過の一式が天井をすり抜けてゾンビの波の中に落ちていった。八代の予知通り...!

 

「っ、出遅れた...!」

 

波佐見が嘆くように言う。壱式単体の重力操作を試みたが、すぐにゾンビたちの中に埋もれてしまったため失敗してしまったのだろう。

 

「位置は俺が熱で捕捉する!八代は攻撃の予知を頼む!」

 

壱式が落ちていった時、天井やゾンビたちはすり抜けたため摩擦熱が生じなかったが、床をすり抜けるわけにはいかないため壱式は必ず透過せず着地する。その瞬間の摩擦熱を、一点を狙っての増幅は難しいため大雑把に周囲にいるゾンビたちの床との摩擦熱も含めて増幅させていたのだ。

 

上昇温度は微弱。あまりにも高温にしすぎると、その熱の痛みによってハウリングが解除されてしまい、ゾンビたちと重なっている壱式の身体が破壊されて俺がハウリング能力を手に入れてしまうからだ。そのため、すぐには冷めない程度の温度上昇にとどめ、場所を突き止められる程度にしておく。あとは、それを辿っていけば良い。

 

「っ、後方四時の方向!」

 

「了解...!」

 

後方からアンチがゾンビの頭を足場として俺らに向かって飛び掛かってきた。それを波佐見が重力の増幅によって叩き落とし、真下にいたゾンビと共に押しつぶす。

 

「次前方二時!」

 

「任せろ!」

 

八代の示した方向を見ると、ゾンビに紛れてこちらに手を伸ばしているアンチの姿を見つけた。そこに俺は銃弾を撃ち込む。銃弾はバレルを通る際に摩擦熱を抱える。その熱を増幅させれば、銃弾が致命的な箇所に命中すれば万々歳、そうじゃなくとも増幅熱を纏わせてハウリングの発動を妨害することはできる。ゾンビだらけかつ走りながらでも、当たりさえすれば...止めれる!

 

「……っ、こっちだ!」

 

壱式の足裏に纏わせた増幅熱を追っていると、急に方向転換したことがわかった。俺らもそれを追う。

 

「そっちは壁...通り抜けて逃げるつもりか!」

 

「壁は私がぶち抜く...!」

 

そう波佐見が言った瞬間だった。ゴシャッ!!と破壊音を鳴らしながら壁にヒビが入り、すぐさま壁が建物外に向けて弾け飛んだ。ちょうど人一人が難なく抜けられる程度の大きさであり、下にいるゾンビたちが外に出れるような位置ではなかった。この破壊をこの精度でやるって凄すぎ...!

 

「サポート頼むぞ波佐見...!」

 

俺は全速力で壁の穴に向かって走り、飛び出す。上を見ると、そこには壁を通り抜けて地を走る壱式の姿が見えた。

 

俺は空中で身を捩って体勢を立て直し、波佐見のサポートを待つ。重力は未だ上向き。けど、俺は信じて頭を天に向け、足は地に向けて天に向かって落ちる。

 

「来た...!」

 

重力が下を向く。上に落ちる俺の身体は減速し、やがて地上に向けて落ち始める。その落下点には、物質透過の壱式...!

 

「オラァッ!!」

 

落下しながらの跳び回し蹴りを、壱式の右肩に叩き込む。骨を砕く感触、そして俺の足にもピシリと嫌な感覚が走る。

 

「グアァッ...!!」

 

「んぐっ!」

 

右肩を押さえて叫ぶ壱式と、なんとか両足で着地したものの右足の痛みでバランスを崩して地面に倒れ込む俺。

 

だが、俺は倒れ込んだ状態からでも攻撃ができる。なんなら、それを逆手に取る。地面に倒れ込んだ際に生じた摩擦熱を増幅させ、壱式に差し向けるのだ。

 

「ア゛ッ...!!」

 

なんとか逃げようとしていた壱式が膝から崩れ落ちる。なんか障壁の壱式には耐えられてしまったが、普通はこの熱に耐えられる奴なんかいない。このまま動きを封じる...!

 

「封じ込めご苦労」

 

県庁から出てきた八代が近づきながら俺に言う。

 

「さて...お前が、日田を殺したアンチだな?」

 

水鉄砲の銃口を向けながら八代は壱式に向かって問いかける。

 

「ひ、日田...?誰だそいぶふッ⁉︎」

 

壱式の顔面に蹴りが叩き込まれた。

 

「テメェが福岡で殺した男だ。忘れたとは言わせねぇぞ」

 

ゴス...ゴスッ...!と蹴りが壱式の脇腹を叩く。

 

「本当はじっっくりテメェを痛めつけて、自ら殺してくれと懇願するまで殺さずに嬲るつもりだったが...時間が許してくれねぇから、手早く嬲り殺してやる」

 

バシュバシュッ!と水の弾丸が放たれて、壱式の四肢に命中する。身体が溶け出し、全くの身動きが不可能となる。

 

「この武器くらいは見覚えあるよなぁ?お前が日田を殺すために使ったアイツの剣さ」

 

そう言いながら、八代は水を纏うことのできる剣を取り出した。

 

……ちょっと、気まずい。あの剣は、八代が物質透過の壱式を倒すと決まった時に中津から渡されたものなのだが、それは元々俺が障壁の壱式を倒す時に渡したものだ。

 

そして...だ。あの時俺はこの剣を日田のものだと言って手渡したが、よくよく考えるとあれって透明化したアンチから逃げている時に見つけた日田の部下の死体が持っていたものなんだよな。その場のノリで、日田の意志を継ぐという意味で適当なことを言ってしまったのだが、それがこうして八代のもとまで勘違いされたまま伝わってしまって、非常に後悔...

 

おそらく...というかほぼ確実に、真実を告げると俺は八代に殺されるのでこのことは墓場まで持っていくことにする。全てが終わって、八代が俺を殺すってなった時に言うのもありだが...うん、言わないでおこう。クズみたいな保身だが、これで八代は満足しているのだから、わざわざそれをぶち壊すようなことを言う方が無粋だろう。

 

「死ね。そして、地獄で懺悔しろ」

 

そう言って八代は、壱式の体を蹴って仰向けにさせると、剣の先端を壱式の喉に突き刺した。

 

水は出さない。ただ、剣を金属の塊として壱式の喉をひたすら押しつぶすために使う。喉の肉を、潰し、貫き、抉り、剣をめり込ませていく。

 

「か...カフ...コ゚」

 

貫かれていく喉から空気の漏れる音がしだす。ジタバタともがき苦しむ壱式の動きが徐々に弱まり...そして、動かなくなった。

 

「……チッ。すぐ死んで楽になってんじゃねぇよクソが...!」

 

ゴスッ...!と壱式の頭に蹴りを叩き込む八代。それを受けても壱式は身動ぎひとつしなかった。どうやら死んだようだな。

 

「……日田。仇は取ったぞ。そして、取り返したからな...!」

 

八代は壱式に向けて手を伸ばし、何かを掴み取るような仕草をしながらそう言った。

 

そしてその直後、フッと意識を絶ってその場に倒れ込もうとする。

 

「よっ...と。日田のハウリングを取り戻せてよかったな」

 

八代が壱式を痛めつけている間に、痛む右足を引き摺りながら近づいていた俺は倒れ込んだ八代を受け止めながら呟く。

 

「さて...こちら仮谷。八代が壱式を討伐。そっちも攻撃開始だ」

 

『了解』

 

通信機から延岡の声が返ってくる。

 

「よし、あと俺らに出来るのは気絶した八代を守ることだけだ。アイツらが壱式を倒すまであと少しの辛抱だ。耐えるぞ、波佐見」

 

「もう結構、限界近いんだがな...やるしかない、か」

 

県庁の扉が開かれ、ゾンビたちが俺たちに向かって歩いてくる。奪われたハウリングを、他の能力も含めて取り返そうって魂胆だろう。

 

八代が気絶しているため、予知は使えない。重力操作と幻痛の熱でどこまで耐えられる...?

 

と、そんなことを考えていたその時だった。

 

ダン!ダダダダ!!ボンッ!!

 

破壊音が立て続けに鳴ったかと思えば、知事室が吹っ飛んだ。延岡と門川のハウリングの仕業か...?流石にやり過ぎなような...

 

「……あっ、壱式だ」

 

知事室から出ていた煙が晴れると、そこには破壊された壁からだらんと体が垂れ下がって今にも落ちてしまいそうな壱式の姿があった。もう死にかけなようで、動く気配はない。

 

「……はは、やり過ぎだし、早すぎ」

 

そんな壱式に春野が水鉄砲を向け、頭部を撃ち抜いて溶かし消滅させた。

 

壱式が死んだことによって、俺らに近づこうとしていたゾンビたちは動きを止め、そのままぐったりと地面に倒れ込んだ。突然動かなくなって将棋倒しになったため、ゾンビたちの中に紛れていたアンチたちは埋もれて動けなくなってしまう。

 

……そんなわけで、高知での戦いは幕を閉じたのだった。なんというか...これだけハウリング能力者が集まると、過剰戦力だなぁと思わされた。




なんやかんやあり、無事に高知編終幕。
前回の後書きで書いたようには上手くいかなかったですね...やはり、これだけ多くの能力が揃っているとサクッと勝ててしまう...

それと一つ報告なのですが、ほぼ確実にこのペースでは26話で収めることができないので、制限を撤廃します。
あともう残り10話なのにまだ11県しか攻略してないのは流石に巻けないため、ここからは普通に書いていきます。
制限撤廃したからといって、すべての県を描写するわけではないので悪しからず...
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