神の使いの異世界修復   作:ダイヤモンドリリー

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8155字。

戦闘はだいぶ少なめです。


凍結不能の極低温

「うぅ〜寒っ」

 

船の上で俺は震えながら呟く。

 

「やっぱ急に北の方に出ると寒暖差が凄いな...」

 

何と俺たちは今、津軽海峡横断中である。つい先日まで四国にいたというのに、なぜか俺たちは日本の北側にいた。

 

なぜこんなところにいるのかというと、高知での戦いによって、ハウリング能力者が集まって行動するとあまりにも過剰戦力であると判断した上層部が、戦力の分割を提言したのだ。

 

俺含め十二の能力...一人で二つ持っている八代がいるため人数では十一人だが、それらを一塊にして攻撃に使うのは、確実に作戦を成功させるという目的には合っているが一度に一箇所にしか攻撃することができず非効率的だ。これでは全ての壱式を倒すのにどれだけの時間がかかるかわかったもんじゃない。

 

時間がかかってもいいじゃないかと思う人もいるかもしれないが、そうはいかない事情が出てきた。それは、高知で見た水堀が枯れていたあの一件。雨がアンチのハウリングによって長らく降っていないため、各地の川の流量が低下したり湧水が出なくなったりといった現象が見られるようになっていたのだ。

 

このままでは山が蓄えた水すらも全て消えて完全に地上から水が失われるのも時間の問題だ。そうなると、各地の貯水施設の水もなくなり、戦闘中の水の補給であったり、消火栓を使っての攻撃なども出来なくなる恐れがある。水の補給はアンチとの戦闘において欠かせない。出来れば、水が失われる前にアンチとの戦闘を終わらせたい。

 

戦闘をなんとかして早く終わらせたい。そのために、戦力を分割する。二つ、または三つのグループに分かれ、それぞれ別の県を攻略するのだ。もちろん一つに纏めるよりも一グループあたりの戦力は落ちるものの、八代の予知があればどの県にどんなハウリングを持ったアンチがいるかはある程度知ることができる。相性の良いハウリング能力者をそこに当てれば、必要最低限度の戦力で効率的に戦えるってわけだ。移動も葉山の転移のおかげで多少は楽だからな。十分成立する戦法だ。

 

もちろん、ただ相性が良いだけでは簡単には壱式は倒せない。けれど、俺はこの作戦にそれなりに希望を見出している。それは、アンチたちの不意をつけること。

 

これまでは一県ずつ総力を上げて挑んでいた。そのせいで、アンチたちも次に狙われるであろう県に戦力を投入して守りを固めるといった待ち構え方をしてきていた。予知が俺らの手に渡ったため完璧に待ち構えることは出来なくなっただろうが、次に攻められる県は隣県である確率が高いからそこを守ろうとするはず。

 

そこを、別行動によって別の県も同時に攻撃することで攻略する。守りを固められた一県は苦戦するだろうが、そこ以外の県は油断しているところを同時攻撃によって容易に攻略することができるわけだ。

 

同時攻略にはもう一つメリットがある。それは、上位個体の討伐によって他県の戦況が良くなる可能性があること。以前にも起こっていたことだが、別の場所で誰かが弐式を倒したことにより、そこから生まれた参式以下が全て死滅するため目の前のアンチが突然死するということがあった。そのトリガーを別の県での戦闘で引き起こせる可能性があるのだ。

 

その県に根付いているハウリング持ちにはほぼ影響しないが、他県から出張してきているアンチたちはまとめて消える可能性が高い。一気にアンチたちの戦力ダウンを狙うことができるのもあり、俺はこの作戦をとても良いものだと思っている。

 

……だからって、まさか初っ端から青森攻略に駆り出されるとは思ってなかったがな。ずっと南側にいたから、寒暖差で普通に風邪をひいてしまいそうだ。

 

「やはり北はいいな。これくらいの気温が過ごしやすい」

 

「そりゃ、北海道出身の小樽はそうだろうけどさ...」

 

心なしか小樽がウキウキとしていた。普段はクール系だから少し珍しい。

 

「にしても寒くないか?もうすぐ夏になるはずだろ?」

 

手を擦り合わせながら延岡は呟く。俺、小樽、延岡、この三人が今回の青森攻略に関わる能力者だった。

 

「それもそうさ。ここの壱式は予知によると冷気を操るものらしいからな。君たちが選ばれるわけだ」

 

そう、小樽の言う通り、青森にいる壱式のハウリングは冷気の操作であった。そのハウリングに対抗するために、熱を上げることができる俺や延岡がカウンターとして抜擢され、北海道出身で寒さに強い小樽がその補佐を務めることになった。冷気を操るというのがどの程度かまでわかっていないため、一瞬で凍傷にされて身体が破壊されるということも考えられるので重要な治療役だ。

 

「つっても、俺の熱は基本偽物だから冷気対策が出来るわけじゃないがな。体感温度は保てても実際には体温は下がってるから脳がバグ起こして余計悪化するかも」

 

「なるほど、発熱時に悪寒に襲われるのと似たような事象が起こる可能性があると...」

 

「正直、俺の力も体温維持には向かないと思う。そこまで精密に体温を保てるような炎を出し続けることは出来ないだろうから」

 

「まぁ直接熱を操るような力じゃないからな。正確に保つのは難しいだろうよ。大雑把でいいんだよ大雑把で。適当に炎ばら撒いて周囲全体の気温を上げちまえば問題ない」

 

「それはそれで火事の危険があるから避けたくはあるが...」

 

「対抗するにはこれしかないんだから仕方ないだろ。それに、そこさえ対処できてしまえばあとは楽勝なんだから、パパッと終わらせちまおうぜ」

 

青森の壱式のハウリングは冷気を操る...ただそれだけだ。雪を使ったり氷を放ってきたりといったことはせず──そもそも水が含まれる雪や氷をアンチが使うわけがないのだが──ただ温度を下げるだけという至極単純なもの。単純ゆえに厄介でもあるが、一度それを無効化出来てしまえばもう壱式に手数はない。他県から来たアンチのハウリングにさえ気をつければ、残るは討伐のみである。

 

「仕方ない...か。まぁたしかに、どうせ戦闘で町はある程度ボロボロになるだろうから少しくらい燃やしても構わないだろうが...」

 

「短期決戦しなきゃなんだから、腹括っておきな」

 

「……わかった」

 

「よし、そんじゃ俺はアイツ連れてくるわ。すぐに出れるように準備していてくれ」

 

そう言って俺は小樽と延岡から離れる。もうすぐ港に着く。作戦開始が近い...にも関わらず未だに部屋にいるバカを迎えに行くのだ。

 

「おーい、古宇利!もうすぐだぞいい加減出てきな!」

 

部屋の中にいるバカに向かって呼びかける。

 

「……もうそんな時間か。わかった。今行く」

 

そんな声が返ってきてしばらくすると、装備を整えた古宇利が部屋の中から出てきた。

 

「……ふっ、緊張しすぎだバカ。何だその顔、ガチガチじゃねぇか」

 

「だってよぉ、今回小樽さんいるんだろ?それに、何だから知らないうちに重要な役回りを任されてるしさぁ...」

 

前者はまぁ古宇利らしい理由だが、後者はなかなか可哀想な理由だった。まぁ、その原因の一端は俺にもあるのだが...

 

というのも、今回青森の壱式を討伐するのは古宇利なのである。最初は延岡が倒して冷気と炎の二つの力を得ようという話が出ていたのだが、正反対の能力を一人で扱うことのメリットが薄いのと、これからも複数同時攻撃を為すのならばより多くの人がハウリングを持っていた方が戦力の分散をしやすいということになり、話が流れた。

 

その後、ならば誰が討伐するかという話が二転三転し、結果的に古宇利が倒すことに落ち着いたのだ。なぜ古宇利かというと、以前から延岡のもとでハウリングを間借りして使っており戦闘経験を積めていること、そして俺の能力や事情について既に伝えており、説明が楽であったことが理由として挙げられる。一番の理由は延岡の推薦があったことだがな。

 

もちろん上層部も、最初は反対した。延岡と同じ元一般人がハウリングを手に入れて問題ないのかという話が出た。けれども、延岡の熱い説得が功を奏して認められることになったわけだ。ハウリングについて口外禁止の期間中に一言も外に漏らすことなく、俺の出自に関しても漏らさずにいたりして秘密を守れる奴だと上層部に認識されてくれたのが良かったのかもしれない。こんな奴だが、そういうところはちゃんと真面目なんだよな...

 

「お前ずっとハウリング欲しいとか言ってなかったか?良かったじゃん願いが叶って」

 

「それは言ってたけどよ、正直間借りでだいぶ満足してて...それに俺が冷気の力を手に入れたら、お前や延岡と一緒になること減るんじゃねぇか?それは嫌だぞ」

 

「あー...たしかに、ハウリング能力者になったら戦力分担の対象になるから、別れる可能性は大か...実際にやってないからわからんが、冷気と炎じゃ相性悪いだろうし別行動になるかもなぁ」

 

「だろ?やらなきゃならないってのはわかるが、いかんせんやる気が出ん...」

 

「まぁ俺とは一緒になれる時が来るさ。冷気と偽りの熱なら感覚のバグを引き起こしやすいだろうし相性が良い。やる気は出ないかもだが、上手くやっていこうぜ」

 

「おう...」

 

やや元気はないが、ひとまずついてきてはくれた。この調子でちゃんと戦えるかどうかはちと不安だが...まぁ、小樽の前に出たらシャキッとするだろう。

 

「連れてきたぜー」

 

「これで揃ったな」

 

今回の県庁突入組は、俺と延岡の部隊、そして小樽だ。小樽の部下は各々別の部隊に一人ずつ配属されて治癒にあたるため、小樽のみがこちらについてくることになっている。おかげで、どんな傷だとしても即死しかねない致命傷でなければ治してくれるため、やや思い切った行動に踏み切れるな。あんまりやろうとは思ってないけど。

 

「……着いたか。行くぞ、短期決戦だ」

 

船からタラップが伸ばされ、そこを渡って陸地に降り立つ。ここから県庁まで一キロ強。駆け足ならば十分もかからない...邪魔が入らなければな。

 

「おっ、早速お出ましか...!」

 

降り立ったクルーズターミナルから少し離れると、すぐにアンチと遭遇した。見たところ下位個体のようだが...ハウリングを使えるかわからんがとりあえず先手必勝!

 

「どぅらッ!!」

 

近かったので俺は即座に接近してアンチの頭部を蹴り飛ばす。そして横に倒れ込んだところを、首めがけて踵を叩き落としてその命を絶つ。

 

「水は節約っと」

 

水はこの先、後から準備を終えてやってくるタンク車が来るまでは補給を行えない。容易にどれだけ時間がかかるかわからないため、出来るだけ水を消費せずにアンチを倒す必要があった。

 

「ってか寒い!!動いてんのに!!延岡炎を!!」

 

「了解!」

 

延岡は炎を手のひらから放射して周囲に撒き散らす。その炎はハウリングによって生み出された特別な炎であるため、アスファルトの上でもその存在を保って周囲に暖かな熱を放出してくれる。

 

「ちょうどいいな、操作上手いぞ延岡」

 

「いや、結構暑いが...?お前平気なのかよ」

 

そう言って古宇利は手で顔を扇ぐ。そんなに暑い...?と思って小樽の方を見ると、そちらも苦言こそ漏らしてはいないがそこそこ暑そうにしていた。じゃあ延岡は?と思って見ると、こっちは飄々としていた。

 

「……あっ、熱耐性...」

 

延岡は炎を操るハウリングを手に入れたことで副次的に熱に対する耐性もついていた。そして俺も、熱への耐性がある。そのせいで、実際には暑いらしいこの環境でも平気なんだな...

 

「すまない。これからは火力を抑える」

 

そう言って延岡は進行方向に弱目の炎を撒き散らしながら歩み始めた。そうだ、ここで立ち止まっている場合ではない。先に進まねば。

 

「……体感だが、アンチ少ねぇな。全然見当たらねぇや」

 

駆け足で県庁に向かっているのだが、アンチに遭遇する頻度があまりにも低すぎる。無警戒なところを奇襲した形であるとはいえ、ここまで居ないものなのか...?

 

「出会わないってそれはそれで超不気味...って寒っ!アンチ発見!」

 

炎で多少中和されているが、その状態でも極寒と感じるほどの冷気を浴びてしまう。冷気の流れる大元の方を見てみると、そこには人型の上位個体のアンチがこちらに手を向けていた。あいつが元凶...!

 

「熱で苦しめ...!」

 

アンチに向けて小石を投げ込む。その小石は冷気を浴び続けるも、表面に霜がつくといったことが起こることもなくアンチに命中して溜め込んでいた増幅熱をアンチに流し込んだ。

 

その熱にやられたのか、アンチはハウリングの発動をやめてしまう。その瞬間に俺は近づき、射程圏内に入ったところで拳銃を抜いてアンチの額に鉛玉をぶち込んだ。

 

「ふぅ...あー寒。今見た感じ、冷気は水に対して少したりとも作用しないようだな」

 

小石が凍りついたり表面に霜がついたりしなかったのは、増幅熱が中に溜め込まれていたからではない。おそらく、ハウリングによる冷気では水蒸気を凍らせることはできないのだろう。

 

これを知れたのはそこそこデカイな。水の弾丸を撃ち込んでも空中で冷気に曝されて凍らされるといったことが起こらないことが分かったわけだからな。素直に水をぶっかければ、アンチは回避する以外で防御する術を持たない。案外、出会ってみれば決着は一瞬かもしれないな。

 

「けど、気温自体はどんどん下がってる。延岡の炎のおかげで何とかなってるが、これ、氷点下を余裕で下回っているぞ」

 

寒そうに身体をさすりながら古宇利はそう言った。たしかに、さっきよりも一段と冷気が強まっている気がする...

 

「……そうか、上位個体に見つかったから俺らの接近に壱式が気づいたわけね...」

 

壱式は上位個体が見聞きしたことを知ることができる。先ほど倒した上位個体が俺らに気づいたことで、壱式は奇襲攻撃を受けていることに気がついたのだろう。そして、俺らを妨害するために冷気を一気に強めたのだろうな。

 

「……はは、肺まで凍りそうだな」

 

延岡の炎が無ければ、極限まで冷やされた空気を吸ってしまい肺にダメージが入っていたことだろう。かなり寒くはなってきたが、まだ何とかなる範疇ではある。

 

「凍死する前にさっさと終わらせるぞ」

 

吐いた息が白くならないのを見て、やはり水蒸気を凍らせることはできないのだなと考えながら俺は前進を再開した。

 

「っ...もっと強めないとダメか...!」

 

県庁に近づくにつれてどんどん冷気は強まっていく。その冷気に耐えるためにも、延岡はドンドン炎の火力を上げていく。

 

「うわぁ...見ろよあれ、温泉だってよ。猛烈にあったまりてぇ...」

 

「やることやったらな...」

 

こんな状況だというのに温泉施設に心惹かれている古宇利を引っ張って進む、県庁まであと少し...

 

「……なるほど、アンチがいないのはこのせいか」

 

道を歩いているとアンチを発見した。しかし、動かない。この極低温に晒されて死んでしまったのだろう。周囲全てを巻き込むがために、冷気に耐性のないアンチたちは皆死んでしまい、そのせいでアンチと遭遇する頻度が低くなっていたのだろう。耐えられるのはおそらく、同じく冷気を操るハウリングを持つアンチのみ。

 

多分、急な攻撃に焦って冷気をばら撒きすぎたんだろうな。冷静に準備ができていれば、他県から来たアンチも攻撃に参加できていたことだろう。敵が冷気以外にいないのならば、攻略ハードルは限りなく低くなる。

 

「まぁ一応注意は必要だが...っと、注意といえばだ。延岡、いつでも炎の解除をできるようにしておけよ」

 

「どうしてだ?」

 

「壱式を倒した瞬間に解除しないと、ハウリングが解除されて冷えた空気が戻った瞬間に俺らは熱に晒されて死ぬ。なんなら、壱式はいつどのタイミングでもハウリングを解除することができるわけで、奴がそれに気づいてしまえば俺らは自滅させられかねない。だから、パッと炎を消せるようにしておいてくれ」

 

「了解した」

 

可能性がないわけではないから、一応忠告をしておく。俺だったら絶対冷気を一瞬で解除して、自ら炎の熱で焼け死んでもらうことを選ぶもんな。その方が自ら手を下すよりも圧倒的に楽だし。壱式に気づかれないことを祈ろう...

 

「さて、到着だ。知事室は二階だよな?」

 

「ああ。南棟の二階だ。奥っ側の入り口から入るぞ」

 

南棟の入り口から県庁の中に乗り込む。

 

「中鬼寒いな...延岡、天井を焼き払え。真上が知事室だから階段登るより早い」

 

「……わかった」

 

延岡もさっさと早く寒さから解放されたいのか、普段なら断るなり少し悩みでもしそうな俺の提案をすんなり受け入れて、天井に向けて炎を噴き出し始めた。

 

天井は炎に曝されて徐々に溶けたり燃え尽きていく。穴が開いていき、知事室の床が崩壊していって...

 

ガチャリと音が聞こえた。

 

「扉を開ける音...!逃げたか!」

 

俺はポケットから小石を取り出しながら、すぐ近くの壁に向かって走り始めた。

 

「延岡!間借りするぞ!!」

 

「わかった、承認する!」

 

能力使用申請が受諾され、炎のハウリングの力を行使できるようになる。これで、壱式を追いかけられる...!

 

「とぅっ!」

 

小石を真上に放り投げてから俺は壁に飛びつき、壁を蹴って斜め上へと跳躍する。そして、先ほど投げた小石を増幅熱の消費を利用して空中に止まらせ、それを足場としてさらに上に跳んで焼け落ちていく知事室の床の上へと着地する。

 

「俺は上から追う!みんなは階段登ってこい!」

 

そうみんなに叫んでから俺は返事を待たずに開いている扉から知事室を出る。

 

「うおさっむ...けど、ハウリングがあれば...!」

 

炎を前方に飛ばしてなんとか暖を取る。延岡のよりも火力が落ちてるからまだ寒いけど、動けないほどじゃなければ問題ない。俺の脚なら...追いつける!

 

「オラァッ!!」

 

階段の前を通り過ぎようとしていた壱式を追い越し、真横から蹴りを叩き込んで階段側へ叩き飛ばす。

 

「サクッと...」

 

階段を転げ落ちていく壱式を追いかけるように走って、勢いよく踏み切って階段を飛び降りる。

 

「仕留める!」

 

ゴスゥッ...!と壱式の腹に飛び蹴りが突き刺さる。

 

「ッグ...はっ、まだ意識あるたぁ大したもんだ」

 

やや蹴りを叩き込んだ脚に痛みが走る中、まだなんとか意識を保っていた壱式を睨みつける。

 

「だが、もうすぐ終わりだ」

 

水鉄砲を手にし、壱式の脚を撃ち抜いて機動力を奪う。あとは古宇利が来るのを待つだけだ。

 

「ま、マジかよ...!」

 

壱式がポツリと呟く。

 

「こうなりゃ...!」

 

「っ、延岡!」

 

壱式が不穏な動きを見せたので通信機に向かって叫ぶ。

 

……次の瞬間、壱式は俺の想像通りの行動で俺らを殺そうとした。ハウリングの解除...それによる冷気消滅で炎による気温上昇を急激に加速させて俺らを焼き殺す、半ば道連れのような行動だ。

 

だが悲しいかな、それは予測済みだった。俺と延岡は壱式がハウリングを解除した瞬間に、ここまで生み出してきた炎を全て消した。これで焼け死ぬことはない。

 

「裏の裏をかくことも出来ないんじゃ、俺らには敵わないぜ」

 

あそこでの負け筋は、俺らが炎を消し、尚且つ壱式がハウリングを解除しなかった場合のみ。壱式がブラフを張って冷気を保っていたら、俺らは即座に低体温で死んでいただろう。オツムが弱くて助かったぜ。

 

この壱式はもう助からない。冷気を解除してしまったため、また一からこの空間全体を冷やすことはそう簡単にできることではない。隙だらけだった。

 

そのため、壱式が抵抗しようとするよりも前に古宇利が到着した。

 

「フッ...!!」

 

古宇利はその類まれなる身体能力で一気に階段を駆け上がると、すぐに銃口を壱式に向けてそのまま引き金を引いた。

 

放たれる水の弾丸。冷気を出して身を守ろうとする壱式だったが、水に干渉することはできず水の弾丸は冷気を貫通して壱式の頭目がけて飛んでいき...

 

パチュンッ、と水が弾けて壱式の頭に穴が空いた。

 

「……呆気ないな」

 

最後の引き金を引いた古宇利がポツリと呟いた。

 

「まぁ、そういうもんさ。さっさと継承を済ませておきな」

 

「お、おう...これだよな」

 

古宇利は死んだ壱式に向かって手を伸ばし...そして意識を手放した。

 

「さて...こちら突入部隊。被害ゼロで壱式討伐完了」

 

『了解。護衛しながら本船へ帰還せよ』

 

「了解」

 

上との通信も終えた。これにて此度の任務は完了...奇襲作戦が完璧に功を奏したのだった。




水を凍らせられない冷気使い...目に見えない攻撃だから普通なら強いのですが、炎を操る延岡とは相性が悪かったですね...まーた薄味の戦いになってしまった...
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