神の使いの異世界修復   作:ダイヤモンドリリー

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8280字。

秋田編です。
久しぶりにカリヤくん個人の戦いを書いてみました。


暴風結界の突破口

「暴風のハウリングねぇ...思ってたより、厄介かも...!」

 

俺たちは今、秋田県の攻略をしていた。県庁に一番近い港に接岸し、秋田城跡の近くの国道7号を南下、山王大通りを進んで真っ直ぐ県庁に向かっていた。

 

八代の予知によって判明している秋田の壱式のハウリングは、暴風を操るというもの。以前...今となってはもうだいぶ前の話だが、福岡戦で県庁前を防衛していた時に延岡を暴風で浮かせようとして水を巻き上げてしまい自滅したアンチと同じハウリングだ。

 

下位個体でも人を吹き飛ばしかねないほどの力を持ったハウリング...上位個体はその比じゃなかった。

 

県庁の方向から襲ってくる暴風は、まるで超大型台風が直撃しているのではないかと思わせるほどの風量で俺らを薙ぎ払おうとしてきていた。

 

「冷気が楽勝だったからこっちもいけるかと思ったが、そもそも近づくことすら出来ねぇ...!」

 

青森のハウリングは冷気を操るものだ。操り方によって多少の風を吹かせることは出来るものの、人を吹き飛ばすほどの気流を作り出すことは出来なかった。ただ空気が冷えるだけだから、熱さえ保ててしまえれば容易に近づくことができた。

 

しかし、これはどうしようもない。常に吹き荒れる暴風は俺らの身体を押し戻し、県庁に近づくことを許さない。この風を何とかして打ち消すか、風の影響を受けない形で近づくしか方法はない。

 

「炎と冷気で風を作り出せれば良かったんだがな...」

 

延岡の炎と古宇利の冷気。二つのハウリングを合わせて気温差を生み出せば多少なら風を生み出すことが出来るだろう。しかし、ハウリングを手にしたばかりの古宇利は冷気を正確に操ることができない。よしんば風を作れたとしても、この暴風を打ち消すほどの風は起こせないだろう。

 

「となると、反対側からも攻め込むしか...」

 

風は空気の動きだ。こちら側に暴風が吹き荒れているということは、空いた空間を補うように県庁の向こう側では県庁側に風が吹いているはず。そちら側から攻め込むことができれば、暴風が追い風となって俺らを導いてくれることだろう。

 

両方向に向かい風を発生させることは一応可能だが、それをするには県庁に向けて下降気流を発生させる必要がある...が、そうなれば上からの侵入を考えればいいだけのこと。いずれにせよ、全ての方向に暴風を吹かせることはできない。あらゆる方向から攻撃を仕掛けることができれば、近づけるはず...!

 

『羽州街道ダメです!アンチどもが暴風を吹かせながら守りを固めてます!』

 

通信機から、県庁の向こう側へ回り込もうと動いていた別働隊から連絡が入る。

 

『川もダメだ。暴風で渡りゃしねぇ』

 

「そっちもダメか...壱式の奴も、回り込まれちゃマズイって分かってるようだな」

 

アンチたちはしっかり弱点を理解しているようで、部下のアンチたちを展開させて暴風を吹かせることによって別働隊が回り込むのを阻止しているようだ。

 

「この感じじゃ、市街地からは県庁東側に回り込めない...となると、最初から東側からも攻撃を仕掛ける必要がある...だが、そっちは山なんだよなぁ」

 

どうも誘い込まれているような気がしてならない。東西からの同時攻撃を仕掛けるならば、東から攻め込む部隊は山の中を進んでいく必要がある。だが、そこにアンチたちが隠れていたら?そもそも、秋田の東側はまだ攻略していない岩手が隣接している。岩手のアンチも山の中に紛れている恐れがあるから、無闇に突っ込ませるわけにはいかない。

 

「こりゃ、秋田は後回しにして先に岩手を潰したほうが良いか...?」

 

「その必要はない」

 

「へ?」

 

この場にいないはずの声が肉声で聞こえて、俺は一瞬戸惑った。何でここにお前が...?

 

「苦戦の予知を見て馳せ参じたぞ。感謝しろ」

 

「八代...⁉︎」

 

「力、貸してやるよ」

 

「物質透過の力を...?いや、それじゃ暴風に立ち向かうのは無理だ。仮に風をすり抜けられたとしても、解除の瞬間に死ぬぞ」

 

思わぬ援軍に驚いたが、冷静に考えて拒否する。もし仮に、物質透過の対象として風...空気を選択できたとしよう。それをしてしまうと、風だけでなく全ての空気もすり抜けてしまう。ハウリングを解除するまで呼吸が出来なくなるし、かといってハウリングを解除してしまうと、すり抜けていた空気と干渉するようになり、身体と空気が重なっていた箇所が押しのけられ...結果的に全身が爆散する恐れがある。そんな危ないことするかよ。

 

「俺じゃねぇよ。協力するのはアイツだ」

 

「風強すぎだろここ...北なのもあって寒いし...」

 

「葉山...!そっか転移...!つーか、それならそうと早く言いやがれ!」

 

「俺がここにいるのは葉山が連れてきた以外にありえないだろ。その時点で気づいとけ」

 

「んなこと言われても...!そんでやるならさっさと飛ばせ!」

 

「わかった。だが、飛ばすのはお前だけだ」

 

「なんでぇ⁉︎」

 

「そろそろ、奴らの攻撃が来る。だからあまり戦力は裂けなくてな。お前なら単独で十分戦えると予知で証明済だ。お前が壱式を叩いて気絶させれば、承認が取れなくなるから他の個体も暴風のハウリングは使えなくなる。殺さず気絶に止めろよ」

 

「やる前提で話が進んでるし...しかもかなり難題だし!やってやるけど相当な無茶を要求していることを自覚しろよ!オイ!」

 

「言質取ったんで飛ばすぞ。頑張れよ〜」

 

ゆるーくそう告げた葉山に苛立ちを覚えた瞬間、俺の視界が一変する。一瞬の浮遊感ののち、スタッと地に足がつく。

 

「はぁ...屋上か、ここ」

 

どうやらここは県庁の屋上らしい。そこそこ風は吹いてはいるが、さっきまでいた場所ほどではないな。あくまで、ハウリングによって生まれた暴風に引っ張られる形で空気が動いているだけのようだ。

 

「一人で突っ込めとか無茶言いやがるが...やるしかないよなぁ」

 

俺は自分に言い聞かせるように呟いてから、扉を開けて塔屋の中に入り階段を降りていく。

 

「知事室は三階...んで、六階建てだから...っと」

 

出来るだけ足音を出さないように、なおかつ最速で階段を降りていき知事室のある三階を目指す。アンチたちはあまり上の階からの侵入を想定していないから、降り切るまではそうそうアンチと鉢合わせすることはないはず...!

 

「……っ、護衛がいるか」

 

三階に降りた俺は、壁から顔を出して知事室のある廊下の向こう側を覗く。知事室の扉の前には、二人の人型アンチが立って警備をしていた。面倒だな...近づくにはアイツらを何とかする必要があるが、バレると暴風が飛んでくる。暴風に耐えながら廊下の一番向こう側まで歩くのは困難だろう。

 

バレずに接近して一気に仕留めるか、ここから仕留める策を考えるか...ここは...

 

「さっさと...やる!」

 

俺は勢いよく床を蹴り、階段そばから廊下に躍り出た。そして廊下の一番向こう側へと向かって全速力で走り出す。

 

「っ、侵入者か...!」

 

勢いよく走り出した俺に気付いた上位個体たちは、俺に向かって暴風を吹かせようとする。だが俺は、それよりも先に持っていた銃を適当にぶっ放していた。

 

放たれた弾丸は上位個体たちへと吸い込まれるように...飛んでいくようなことはなく、そこそこ大きく逸れて上位個体から一、二メートル前方の床に命中しようとしていた。走りながら、そして狙いを定めるよりも前に適当に撃ったのだからそうそう当たるわけがない。そのため、即座に上位個体たちは銃弾から意識を逸らした。

 

それが、間違い。ライフリングによって刻まれた摩擦熱が俺の力によって増幅され、銃弾は膨大な量の増幅熱を蓄えていた。銃弾が床に着弾した瞬間、そこで生じた摩擦熱と増幅熱も含めて消費して銃弾の軌道を捻じ曲げ、上位個体の頭部へと銃弾をめり込ませる。

 

「っと、流石に貫通はしないか。跳弾で銃弾変形してるしな...まぁ、逆に被害増大しているが」

 

歪んだ銃弾が突き刺さって体内に残ったことで、上位個体どもはそのまま死に至った。そのおかげで暴風に見舞われることもなし。妨害無しで知事室の前に辿り着く。

 

「さーて、失礼するぜ...って、開かない?」

 

ドアを押して入ろうとするが、扉はびくともしなかった。

 

「中から押さえられてる?突っ張り棒...いや、もしや風で押してる?面倒なことを...」

 

今度は脚で蹴破ろうとしてみるものの、これでも扉はびくともしない。足の方が腕よりもパワーあるって話あるし、これなら開くと思ったんだが...そんな優しいもんじゃなさそうだな。

 

「しょうがない...感じろ」

 

俺は扉に耳を当てて、意識を集中させる。感じ取るのは、音と振動。壱式が吹かせている暴風が扉に当たった際に生じる風切り音と、カタカタと扉を揺らす振動。それをしかと感じ取る。

 

俺の幻痛の熱で増幅させられる摩擦熱は、俺が認識できたもの全て。扉から音や振動がしていれば、それは摩擦熱が生じている証拠である。それさえ感じ取ることができれば、俺は幻痛の熱を発動可能...!

 

「……燃えろ」

 

蓄えられた熱が一定量を超え、木製の扉が自然発火する。扉はボロボロと少しずつ崩れ落ち...慌ててその場を離れると、崩壊した扉の隙間から暴風が吹き込んできて扉の破片が吹き飛んでいった。その後、扉丸ごと吹き飛び、反対側の壁へと叩きつけられる。離れてて良かった〜

 

「って、風ヤバすぎ...!吹っ飛、ばされ⁉︎」

 

知事室の中からとてつもない勢いで暴風が吹き荒れ、まるで風自体が意思を持っているかのように俺だけを狙って吹き込み後方へと吹き飛ばしてきた。なんとか知事室の隣にある副知事室の扉のドアノブを掴むことでそれ以上吹き飛ばされることから逃れるものの、俺の身体は暴風に襲われてバタバタと靡く鯉のぼりの鯉のようになってしまっている。キツすぎこれ...!

 

「一人で乗り込んでくるとは、無謀なのかそれとも勝算があったのか...」

 

そう言いながら、知事室から壱式が出てきた。

 

「どちらにせよ、間抜けなことには変わりないな」

 

「ハッ...間抜けはどっちだ。のこのこと出てきて、タダで済むと思うな...よ!」

 

左手で銃を抜き、めったやたらに撃ちまくる。軌道は後から増幅熱の消費でどうにかなる。今はとにかく攻撃して、暴風を止めさせる...!

 

「悪いな。風で何言ってるか聞こえないもんでね。こちらには、何も届かない」

 

暴風の強さがまた一段と強くなる。なんとかドアノブにしがみ付いて飛ばされまいとするが...そこで俺は衝撃的な光景を目にする。

 

「ウッソだろ...!」

 

先程放った銃弾が、風で押し戻されて動きを止めたかと思えばそのままこちらに戻ってきた...⁉︎そんなのアリかよ!

 

「あまりにも非現実的...厄介なハウリングめ、俺じゃなきゃ死んでるぞ」

 

込められた増幅熱の消費によって戻ってきた銃弾の軌道を捻じ曲げてなんとか回避する。

 

「ほう、今のを避けるか。面白い。だが...」

 

「っ、向きが...⁉︎」

 

急に風向きが変わり、俺は副知事室側へと押し流されてしまう。押された拍子にドアノブが捻られ、部屋の中へと突っ込む羽目になる。

 

「私の敵ではない」

 

「ど、どうだかな...!」

 

向かい風のせいで壱式に俺の声は届かないが、自らを鼓舞するためにも壱式の言葉を否定する。

 

「熱さえ撃ち込めれば...!」

 

増幅熱をどうやって壱式にぶち込むかだけ考えろ。空気を媒介に熱を伝える方法は、暴風によって増幅熱を伝える空気が押し流されてしまうため不可能。銃弾に宿す方法は先程失敗した。となると、残りは罠的な運用しかない。

 

「来やがれ...!」

 

床に這いつくばって暴風の影響を少しでも減らしながら壱式が来るのを待つ。暴風のせいで足音が聞こえないため、今か今かと扉の辺りを凝視する。

 

「……っ!」

 

足が見えた。出てきた足は無防備かつ無警戒で副知事室の中へと踏み入れる。

 

その瞬間、扉に溜まっていた増幅熱を床経由で壱式へと叩き込む。この熱に耐えれるものなら耐えてみろ...!

 

「ッ、グアアッッヅ!!」

 

増幅熱を叩き込まれた壱式は暑さに悶え苦しみ、床に倒れてのたうち回る。はは、いい光景だ。そのまま床を転がる際の摩擦熱も増幅させて追い討ちをかける。ほら、さっさと暴風を解除しな!

 

「……あ、れ?」

 

そこで俺は気付いた。こいつ、壱式じゃない...?見ただけでわかる、壱式との差異。壱式よりも人間から離れているような、そんな感覚。床に這いつくばっていて足しか見えていなかったさっきとは違う。アンチが倒れ込んで全身が見えたからこそ気付ける違和感。さっき見た壱式とは確実に何かが違う...!

 

「やはり、罠を仕掛けていたか」

 

「っ!」

 

扉の外から声が聞こえた。やはり、今目の前にいるこいつは壱式じゃない...弐式!本物の壱式は隠れて、弐式を攻撃に向かわせたのか!

 

「にしても、お前の力はなんなのだ?我々のどの力とも違う。何故ただの人間がそのような力を...」

 

チッ、余裕ぶりやがって...けど、音の発生源からして扉のすぐ横の壁の裏にいることは大体予測ができる。ここから遠隔で熱をぶつける...!

 

ザッ!と床を手で払い、能力でその摩擦熱を増幅させるとその熱を床を伝わらせて壁まで送り込み、すぐ裏にいるであろう壱式に向けて流し込む...

 

「……いない...!」

 

クソッ、風で音の流れる方向を捻じ曲げて位置を誤認させたのか!ここからでは、壱式の位置を特定できない...!

 

「まぁ良い。殺して奪ってみれば良いだけのことだ」

 

そんな声が聞こえた瞬間だった。フッとガラス片のようなものが副知事室の扉の前にどこからか投げ込まれると、それらは暴風に流されて部屋の中に入り、乱気流のように吹き荒れる暴風に従って部屋中に撒き散らされる。

 

「クッソ...!」

 

なんとか増幅熱を消費して軌道をずらすことで飛んでくるガラス片に対処しようとするも、全てを逸らせることは出来なかった。それはわかっていたので、大きい破片を優先的に逸らし、小さなカケラは当たるのを覚悟で対処していく。

 

「ッッ〜!!」

 

小さなガラス片は俺の皮膚を切り裂き、時には突き刺さって痛覚を脳に刺しこんでくる。

 

「ッ...打開するには、これしか...!」

 

次なるガラス片が放り込まれる前に、俺は行動に出る。俺に攻撃されることを避けるため、壱式はこちらの様子を伺うことができていない。見られてないうちに、この場を脱出する...!

 

俺は暴風吹き荒れる中窓を開けた。開ける音は、暴風にかき消されて壱式には届かない。俺はバレる前に窓枠に足をかけ、跳ぶと同時に窓を閉める。そして増幅熱の消費によって窓の鍵を閉め、窓から出た痕跡を消す。

 

「ほっ...と!」

 

県庁の二階には議会棟へ続く廊下があり、三階にある副知事室からギリギリその渡り廊下の屋根に飛び移ることができた。俺はすぐさまその屋根のヘリに手をかけてぶら下がり、渡り廊下の窓を蹴破って中に入る。

 

「今度こそ追い詰める...!」

 

渡り廊下を駆け足で進んで県庁舎の二階へ戻る。辺りを見渡してアンチがいないことを確認してから階段まで近づき、三階へと移動する。

 

「なっ...消えた、だと⁉︎」

 

三階に戻ってきたその時、焦るような壱式の声が聞こえてきた。俺が副知事室から姿を消していることに気が付いたのだろう。俺を見失ったためか、暴風も起こしていないようだ。これはチャンス...

 

壱式の目となれる上位個体が周囲にいないことをしっかり確認してから、俺は階段のそばから副知事室に向かって移動する。足音を立てずに、慎重に...

 

「まさか、アイツが物質透過の力を...?いやでも、だとすればもっと早く使っていてもおかしくないはず...」

 

副知事室まで辿り着いた俺は、バレないようにちらりと開いた扉から中を覗き込む。そこには、窓や壁、床などをキョロキョロと見渡している壱式の姿があった。

 

ちゃんと壱式本人だな。上位個体に代わりに確認させているわけではなさそうだ。そして、無防備も良いところ...!

 

俺はポケットからいつものように小石を取り出す。そしてその小石を、音を出さずに壱式に向けて投擲する。

 

「ッ...うあ゛ッッツ!!」

 

コツッ、と小石が壱式の首筋に当たる。なんだ...?と壱式が振り返ろうとしたその瞬間に、小石に溜め込まれた増幅熱が壱式に伝わってのたうち回った。

 

「はい逆効果!」

 

地面を転がる壱式に追い討ちを仕掛けるかのように摩擦熱を増幅させてやる。ほんと、このコンボ便利だな。

 

増幅熱を浴びた時の一番の対処法は、一切動かず、増幅させる元となる摩擦をそもそも起こさないこと。けれど、初めて幻痛の熱を喰らった者は大抵熱さに苦しんで動き回る。熱された部分を振って空気に触れさせることて熱を覚さそうとする一種の本能なのだろう。それが、さらに自らを苦しめることになる自殺行為だということも知らずに。

 

「く、そ...!」

 

壱式はこちらに向けて暴風を放ってきた。それをやられる前に近づきたかったのだが、思っていたよりも発動までが早かった。

 

しかし、俺の歩みは止められなかった。暴風の威力が目に見えるほどに落ちていた。強めな向かい風だが、吹き飛ばされるほどでは到底なかった。少し遅延はされたが、問題なく壱式に近づいて腹に蹴りを叩き込み、マウンティングの体勢に移る。

 

「さーて、さっさと気絶してくれるんなら助かるんだがね...熱に苦しみな」

 

壱式の頭と首にそれぞれ手を当て、ただ擦る。その摩擦熱を増幅させることにより、壱式の脳と喉に走る神経に直接熱による痛みの感覚を刻み込む。

 

「ア゜...」

 

脳に直接痛覚を流し込まれたことで、脳が意識をシャットダウンさせた。壱式はジタバタともがくのをやめ、口から泡を噴き出す。

 

「よし、気絶したな...こちら仮谷。壱式の沈黙に成功。そっちはどうだ?」

 

通信機に呼びかける。

 

『こちら延岡。あれだけ吹いていた暴風が嘘だったみたいに一瞬で消えた。やったんだな、仮谷』

 

「ああ、ちょいと手間取ったがなんとかな。怪我はちょっとあるがほぼ無し。そっちは怪我人出たか?」

 

『基本は防戦に徹したから負傷者はゼロ。予知の八代もいたし、葉山の転移もあったから問題なかったよ』

 

「良かった良かった...そんじゃっ、葉山に討伐予定者を連れてくるように伝えてくれ。場所は、県庁三階、知事室の一つ隣にある副知事室だ」

 

『了解』

 

……さて、しばらくしたら葉山たちが来る。まだ壱式を殺してないから弐式以下は普通に動けるが、ハウリングの承認が出来ないからザコ同然。倒すことは簡単だろう。そもそも転移で一気に時間短縮してくるから、ここに辿り着くまでの心配は必要ないだろう。

 

流石にないとは思うが、葉山たちが来るまでコイツが起きてこないか一応見張っておくか...

 

などと考えたその時だった。

 

バリンッ!!と窓の割れる音がした。副知事室の窓が割れたのだ。しかし、何かが投げ込まれた様子はない。なぜ割れた...?

 

「……っ!下位個体⁉︎」

 

割れた窓から二体の下位個体のアンチが飛び込んできた。コイツら...暴風の下位個体とは見た目が違う。別の県のアンチか...!

 

「っ...これは...!」

 

アンチのうちの一方が、こちらに向かって走ってきた。その瞬間、俺の足にかすかな違和感が走った。なにか、少しずつ力を加えられているような感覚。嫌な予感がしたので足をその場から離すと、その数瞬後、足のあった床付近がベコッとへこんだ。なにか、とてつもない力で押し潰されたかのようなへこみようだった。

 

「空間の圧縮...たしか、岩手の...!」

 

今度は顔付近に違和感を感じたので、後ろに下がってハウリングでの攻撃を回避する。

 

そして、その直後に顔めがけて飛びかかってきたアンチの首根っこを掴み、すぐ近くの壁に押しつけながら拳銃を引き抜いて顔面を撃ち抜く。

 

「もう一体...!」

 

ドシュッ!

 

肉の弾けるような音がした。

 

振り向くと、そこには喉や胸の辺りが抉れている壱式の姿があった。まさか、もう片方のアンチが気絶した壱式を襲ったのか...⁉︎

 

「お、おい待て!!」

 

窓から逃げようとするアンチを追おうとするも、間に合わない。

 

窓から外を見ると、そこには落下中に人型へと変形していくアンチの姿があった。壱式を殺して、あのアンチは新たな暴風の壱式になりやがった...!

 

「うぐっ...⁉︎」

 

飛び降りて追いかけようとしたが、こちら側にとてつもない暴風が吹き荒れ、後ろに吹き飛ばされてしまう。追いかけることもできない...!

 

「……クソッ!!逃げられた!!」

 

俺は、苛立ちに身を任せて床を踏みつけることしかできなかった。




人とアンチがハウリングを奪い合うなら、死にかけの壱式から別のアンチが奪っていくこともあるよね...ということで、秋田の攻略は成功ですが、暴風の奪取は失敗です。
シンプルゆえに強い暴風のハウリング...再戦はしばらく先になるでしょう。
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