小樽救出、山口攻略回。
地の文の思考パート多めで戦闘描写自体は少ないです。
「到着!!」
葉山の連続転移によって、ハウリング能力者だけが集められた部隊は山口県庁の屋上へと出現した。
小樽の身体があとどれだけ持つのかわからない。そのため、短期決戦も短期決戦だ。俺以外なら誰が壱式を殺しても良い。殺せる奴が殺して、すぐさま小樽の毒を抜き取る。最短最速でそれをやり遂げなければならない。
「天井ぶち抜くぞ!」
門川が生み出した武器が県庁の屋上をぶち抜き、中へ入れる穴が出来上がる。
「降ろすよ!」
波佐見が重力を操り、全員を穴から県庁の中へ下ろす。
「知事室は四階!このまま降りるぞ!!」
山口県庁の知事室は、二つある本館棟のうちの低層棟四階に位置している。そのため、もう一回床をぶち抜いて四階までそのまま重力操作で降り立つ。
「っ、攻撃来るぞ!」
降り立った瞬間、廊下の両側からアンチたちが走ってくる。いずれも毒のハウリングを持ったアンチ。小樽の治癒では治せない天敵...!
「撃ち殺せ!!近づかせるな!!」
銃弾が、炎が、冷気が、アンチに向かって打ち出されその命を奪っていく。
この場には現状攻略済みの全てのハウリング能力者が集結している。
転移の葉山、炎の延岡、武器生成操作の門川、予知と物質透過の八代、重力操作の波佐見、透明化の鳥栖、障壁の中津、死体操作の春野、冷気の古宇利、そして俺が知らない間に攻略された香川の物質固定──空気を紐状に固定していた奴──を持った白峯、徳島の影操作を持った板野...そして治癒の小樽。
現在進行形で毒に侵されている小樽を連れてきて良いのかという疑問を持つ人がいるかもしれないが、小樽は連れてこないとまずい。なぜなら、毒の壱式を倒してハウリングを奪い取った直後に小樽の毒抜きをしなければならないため、すぐ近くにいなければならないからだ。それに、もし他の隊員が毒を喰らってしまった時に、治癒による延命処置ができなければ終わりだからだ。
一応、常に治癒の力を使うことで、小樽は動ける程度には回復する。毒によって壊れる身体を常に治し続けているようなものなため、いつ崩壊してもおかしくはないが、こうする他ない。なんとか持ち堪えてくれとしか言いようがない...マジで、耐えてくれ...!
このあまりにも過剰な戦力を持って、一瞬で壱式を狩ることが今回の目的だ。ただひたすら攻撃してアンチを討ち滅ぼす。接近を許して毒を喰らうといったことはもう起こさせない。
小樽が毒を喰らったのは、その場にいたハウリング能力者が小樽、八代、中津といった攻撃能力を持たない人しかいなかったためだ。突然の奇襲、八代の予知による攻撃の未来の伝達と中津の障壁発動の間にあるタイムラグによって、接近を許して毒を打ち込まれてしまった。
もし攻撃系のハウリングを持っていたならば、すぐさま攻撃して毒を打ち込まれるより前に弐式を倒せただろう。なまじ防御特化の能力を持っていたがために、一度後手に回ってしまった。それが敗因。
それゆえに、今回はフル投入。全ての戦力をぶつけられる。攻めも守りも穴はない。何がこようと全て対応し切れるだろう。
まぁ、流石に過剰過ぎる気もするが...もし何人かを待機させた場合、小樽はこっちに来るのだから待機組が襲撃を喰らった時に治すことができなくなってしまう。そうしてハウリングを奪われるのが一番まずいため、過剰戦力だとしても一箇所にハウリング能力者を集結させたのだ。
「防御は...っ、任せな!」
そして今回、俺が責任重大だ。特に防御面。
実は、ハウリング能力者は他のハウリングを間借りすることができない。予知を持つ八代が、障壁のハウリングを間借りして発動させることはできないのだ。複数のハウリングを一人で持つこと自体は可能だが、他者から借りることは出来ないらしい。
よって、ハウリング能力者ではないために複数のハウリングを間借りすることができる俺は非常に貴重なのである。俺に与えられた役割は、主に予知と障壁。予知で攻撃を受ける未来を見て、そのまま自分で障壁を貼ることができるため咄嗟の防御が可能だ。小樽の時みたいな伝達遅れは起こり得ない。
そのため、俺は攻撃には参加せず、予知と障壁に全力を注ぐ。どこから毒を打ち込んでこようが、全て防ぎ切ってやる...!
「上か...!」
五階からアンチが、ぶち抜かれた天井の穴を使ってこちらに毒を飛ばしてくる予知が見えたため、俺はすぐさま障壁を貼ってその攻撃を防ぐ。
「第二陣、来るぞ!」
ひとしきり毒のハウリングを持つアンチを倒し終えると、今度は人型の上位個体がゾロゾロと現れてきた。上位個体は見た目ではどのアンチか判別がつかない。毒のハウリングでは無い可能性も大いにある...が、ハウリングを使われる前に殺せばいいだけ...!
「っ、あの刀...!」
上位個体たちはそれぞれ別の行動を取り始める。一人は、これまでにも何度か見た雷を身にまとう身体強化。別の奴はこちらに手を向けており、そのまた別の奴は指パッチンをする直前のような仕草をしている。そして最後の奴は、刀に手を添えて構えていた。
「攻撃やめ!!」
俺はそう叫び、攻撃が止んだその直後に障壁を展開した。攻撃をやめさせたのは、廊下全体を塞ぐ障壁に俺らの攻撃が当たり、その余波で俺らが傷つくことを防ぐためだ。
その次の瞬間、障壁にいくつか衝撃が走った。過程省略による刀での斬撃、身体強化による突進の衝撃...そして、聖杖世界の音撃のような音の塊が障壁を叩き、振動した障壁は空気を震わせて俺たちに襲い掛かる。
「あぐッ...!いい力持ってんじゃねぇかクソが...!」
そして、音とは別に俺らを蝕んでいる攻撃がもう一つ。
「動け...ない...!」
手足が思うように動かず、身動きが封じられてしまっているのだ。おそらく、こちらに手を向けているあの上位個体のハウリングの仕業だろう。行動の抑制の力...厄介極まりない。
「ハウリングは使える!障壁を解除しろ仮谷!」
「いやダメだ!解除すれば過程省略の斬撃が飛んでくる!!」
身動きができないため、俺らの攻撃手段はハウリングしかない。しかし、障壁を解除しなければ門川の銃撃は届かない。延岡の炎はそもそも手のひらを向けられないので封じられてしまっている。
かといって障壁を解除すれば、過程省略の上位個体が刀で攻撃を仕掛けてくるだろう。しかし、解除しなければこのまま身動きを封じられたまま障壁を貫通できる音の攻撃でじわじわ削られる...!
「っ...来るぞ!」
またしても上位個体は、聖杖世界の俺のように指パッチンで音の塊を打ち出してきた。障壁じゃ止められない...どうする⁉︎
「攻撃の正体が音だというのなら、私の力で止められる...!」
白峯がハウリングを起動した。物質固定の力...その力のおかげか、音はいつまで経ってもやって来なかった。
音は空気の振動。空気を丸ごと固定することで、音が伝わるのを防いで攻撃を遮断したのだろう。
「ナイス...!」
「波佐見さん、重力いける?」
今度は板野が動くみたいだ。
「遠いから直接倒すのは難しいよ」
「天井の明かりを壊すのと、アンチを奥の角まで吹き飛ばしてくれれば良い」
「それならお安い御用...!」
波佐見が重力を操り、天井の照明を破壊していく。それと同時に、上位個体を引っ張って奥の角のところまで追いやる。
「それで良い...これで、倒せる」
照明が破壊され、窓がすぐ近くにない廊下の角は周りと比べてやや薄暗かった。その影が、板野のハウリングによってまるで生き物かのように動き出し、上位個体たちを引き裂いていった。
「いい奴から死んでくれたな...トドメは彼にやらせよう。同士討ちだ」
春野がハウリングを起動し、真っ先に死んだ身体強化の上位個体を操る。そいつにハウリングを発動させ、残る三人の上位個体を板野の影と共に痛ぶり死に至らしめる。
「……よし、動けるようになったな」
行動規制のハウリングを持つ上位個体が死んだため、自由に身動きができるようになる。過程省略も死んだため、障壁も一度全解除だ。
「というか、今思ったんだが春野の力で毒のアンチの死体を操れば、毒を抜き取ることもできるのでは...?」
「おそらく無理だ。死体の使えるハウリングはだいぶ強度が下がる。小樽に毒を打ち込んだのは弐式...よって、最低でも弐式以上の力がなければ毒は抜き出せないが、死体にはそれは無理だ」
「なるほど...やっぱ壱式をぶっ飛ばしてハウリングを奪うしかないってわけだ」
「先に進むぞ。一刻も無駄にはできん」
アンチを倒し終えたので、廊下を進んで知事室へ向かう。物質透過で最短距離を進めればよかったのだが、あれは他者も透過させるには手で触れる必要があり、全員を透過させるのは流石に無理があったため断念している。少しでも時間短縮したいってのに...
「ここだ、突入するぞ。入ったら、即座に一斉に攻撃だ。殺した奴がハウリングを回収し、すぐさま毒抜きを行う...準備は良いな?」
知事室の前で、全員頷く。それを見た門川は、指向性を持たせた設置型爆弾を生み出し、中津が障壁で俺らを包んだ瞬間に爆破させて知事室の壁を崩壊させる。
すぐさま全員が知事室の中に飛び込んだ。味方に攻撃を当てないように知事室全体に攻撃系ハウリングを持つ人らが散らばり、一斉にハウリングを発動させて...
……そこで、俺の背中にゾクリと嫌な予感が走った。日田が殺される直前にも感じた、この悪寒。何かが...まずい。
「「攻撃を止めろ!!」」
俺と八代の声がダブった。しかし、みんなは止まらない。既に攻撃体勢に入っており、各々のハウリングが、知事室内にいた壱式に向かって飛び出す。
「ッ...!」
俺は咄嗟に障壁を発動させた。毒の壱式を覆うように一つ。そして、障壁に攻撃が当たった際に生じる余波から俺らの身を守るために、もう一つ俺らの前にも貼る。
「なっ...なんで壱式を守った!仮谷!!」
古宇利が怒った様子で俺に詰め寄る。
「待て古宇利!そして全員攻撃を止めろ!このまま壱式を殺せば小樽は助からない!!これは予知だ!!」
八代が叫んだ。それを聞いて、全員手を止めて俺と八代の方を見る。
「……お前もその予知が見えたのか...?」
「予知は見てない。だが、あのまま攻撃してはいけないという予感がした。だから、障壁で防いだ」
「だが、なぜ殺してはダメなんだ。殺さないとハウリングは手に入らないのだぞ!」
「それはわかってる。だが、これではダメなんだ...けど、小樽が助からない予知しか見えなくて、なぜ助からないのか、肝心の過程がわからない...!」
「……よくわからんが、仲間割れか?なら、今のうちに...」
「そこ、動くんじゃねぇぞ...!壱式!黙って止まってろ!!」
そそくさと逃げようとしていた壱式の周囲を障壁で囲み、身動きを封じる。これで、こちらに攻撃をすることも逃げることもできなくなった。ひとまず、考える時間を稼ぐ。
「このまま殺すんじゃ小樽は助からない...なぜ?何がどうなって助からないんだ?壱式を殺せば、ハウリングが手に入る。それを使えば、毒抜きを行うこともできるはずだ」
思考を声に出しながら、ひたすら頭を回転させる。作戦失敗の要因は必ずある。どこかにある間違いを見つけなければ...!
「殺してハウリングを奪って、それで...あれ?」
俺は気づいた。
「この作戦...はなから破綻してたのか...!」
「おい、どういうことだ説明しろ!」
「何で忘れてたんだ俺たち!壱式を殺してハウリングを手に入れた者はしばらく意識を手放す!意識を取り戻すには少なくとも数時間はかかる!だから起きる前に小樽が限界を迎えてしまうんだ!!」
小樽に命の危機が迫って、俺たちはすっかり動揺し切ってしまっていたのかもしれない。少し考えれば気付けたはずのミスに、俺たちは誰一人として気づくことができずにいた。
「なっ...完全に忘れてた...!」
「とにかく、この方法じゃダメだ!八代の予知にも出たのだからこれは確定事項!他の方法を探すしかない!」
「他の方法って何だ⁉︎」
「今考える!!まず、死体操作はダメ。死体の扱うハウリングは効力が落ちるってさっき聞いたばっかだし、だからといって壱式の死体にハウリングを使わせるのはそもそも無理。ハウリングの使用許可申請は壱式を殺した奴に出す必要があるから、気絶している間はハウリングを他者が使うことも不可能...」
まずは不可能を洗い出す。不可能を全て切り捨てていき、最後に残った答えが事態の解決札になることを信じて思考を続ける。
「俺らがハウリングを手にしたり、間接的に操ることは不可能...なら、壱式に毒抜きをさせる...?いや、そんなの無理だ協力してくれるわけがない。じゃあ、どうにかして小樽を延命させる...?毒の壱式を殺してハウリングを手にした者が目覚めるまで、どうにかして小樽の意識を持たせ続けるか、小樽の気絶後も毒で身体が蝕まれるのを防ぐことができれば...無理だ、それが出来る能力も設備もない!」
何かないのか⁉︎小樽を救う方法は...!
「毒を打ち込まれた部分を切り離して毒を切除、その後治癒の力で一気に身体を治す...これがギリ可能か...?毒はどこに打ち込まれた?」
「胸の辺りだ。かなり奥の方まで打ち込まれたから、内臓に到達していると見ていい」
「じゃあ流石にリスクが高すぎる...これも無理か...!クソッ、他に手段は...!」
ダメだ、俺に思いつく方法は全部実現不可能だ。どれだけ考えても、小樽を救う方法が見つからない...!
「無い...のか?そんな、馬鹿な...!」
「……方法が無いのなら、誰か私を殺すと良い」
小樽が急に、そんなことを言い出した。
「なっ...何を言って...」
「このまま私が死ねば、私の持つ治癒のハウリングは死の原因である毒を打ち込んだ弐式に移る...が、その弐式は既に死んでいる。壱式に移る可能性もあるが、どちらにせよ最悪だ。治癒のハウリングが消えるか、壱式に移るかの二択...どちらも避けなければならない」
「だ、だからって小樽を殺せと...⁉︎」
小樽を手にかければ、たしかに治癒のハウリングは残せるだろう。人から人へ移すことができるのかはわからないが、アンチからアンチへ移るのは確認済みだからおそらく人同士も可能だろう。治癒が消えるのも、壱式に移って治癒の力を行使されるのもどちらも嫌だ。けど、そんなこと出来るわけ...!
「馬鹿言うな小樽!!そして仮谷幸希!!」
八代がバシンと俺の背中を叩く。
「俺は確かに見た!小樽が助かる未来を!小樽を助けるとお前に伝えたあの瞬間に!そして今もまだ見えている!可能性はまだある!!俺が見た予知は不鮮明も良いところだが、可能性だけはまだ残されている!!」
「ッ...!そう、だったな。まだその予知が見えるってんなら、最後まで足掻くしかねぇ...!小樽!お前も、さっさと諦めてんじゃねぇぞ!」
絶対に諦めるな。日田の二の舞にはさせない。救える予知が見えているのなら、必ず救ってみせる...!
「……っ!おい八代!お前、俺に伝えた瞬間に小樽が助かる未来が見えたって言ったか⁉︎」
「えっ...あ、ああ。その通りだ」
「今も見えてるってんなら、その予知は俺がいるところでしか見えないってことになる。ってことは、俺がいなければその未来は起こり得ないってことだ。つまり、俺にしか出来ないことが、小樽を救う鍵になっている...!!」
「なる...ほど!その通りだ!鍵はお前!少しずつ予知が鮮明になってきているぞ!」
「その予知はその未来の実現に近づくほど鮮明になっていくってことでいいんだよな⁉︎答えに近づくほど予知は鮮明になる...つまり、俺に出来ることを列挙していき、より未来が見えやすくなった物事が答えに近いってわけだ!頼むぞ八代、全てを俺に教えろ!」
「おう、了解!!」
この場で小樽を救うことができるのは、おそらくもう俺と八代だけ。死力を尽くすしかない...!
「まず、未だ不鮮明ということはこれまで挙げた方法は全てダメってわけだ。その上で、俺に出来ることとなると...幻痛の熱?だが、偽物の熱では毒を焼いて変質を促すことなんて出来ないぞ...」
「ああ、そうじゃない。熱で毒をどうにかすることは無理だ」
「他に俺にできることっていえば...ハウリングの間借りくらいだぞ?」
「ッ、それだ!また少し、予知が見えるようになってきた!」
「マジで⁉︎だが、ハウリングの間借りつったってどのハウリングを?どの能力も、毒をどうにかできるものはない。複数個のハウリングを扱えたところで、毒を抜き取ったり無効化することはできないはず...」
「俺らのハウリングじゃ無理そうだ。ハウリングの掛け合わせも無駄だ。それでは失敗する」
「じゃあ他に何がある?この場のハウリングは、俺らのと毒のみ。毒のハウリングの間借りは、小樽が限界を迎える前にハウリングを手にした者が目を覚ますことができないから不可能だぞ」
「……なん、だと?予知が見えた...お前が、毒のハウリングを使ってこの場で小樽を治している...⁉︎」
「ハァ⁉︎なんで俺が使えるんだよ!まさか、俺は壱式を殺してハウリングを手に入れても気絶しないとか⁉︎」
「……いいや、違う!壱式は死んでない...⁉︎」
「クソッ、どういうことだよ...!何が何だかワカンねぇ...!」
どうして俺が毒のハウリングを使えるんだ?しかも、壱式は死んでいないだと?壱式は死んでないってのに、どうやって俺がハウリングを間借りするんだよ。まさか、壱式から直接ハウリングの間借りが出来るわけじゃあるまいし...
……落ち着け。頭を落ち着かせろ。一旦全ての前提を洗い流せ。八代の予知で見えたことは、これから起こる真実だ。壱式は生きていて、俺が毒のハウリングを使うことは事実。そこにつながる道筋を築き上げろ...!
ハウリング、間借り、能力使用許可申請、承諾、ノイズ...
……アンチは、上位個体に能力使用許可申請を出し、それが承諾されることでハウリングを使うことができる。ハウリングを持っているのは壱式だけで、弐式以下は皆そうして承諾をもらってハウリングを使っている...そして、その能力使用許可申請ってのが、俺たちの通信機にノイズとして現れる...それが、俺が過去に出した考察だった。
もし、そのノイズが、俺らには理解できない、アンチにだけ通じる言語が通信機によって聞こえるようになった音だとしたら?アンチは肆式以下...下位個体になると人の言語を失うが、もし人の言語とは別にアンチ固有の言語があったとしたら...?
「……いける、かも...しれない」
これは賭けだ。だが、俺の想像が正しければ、これはとても分の良い賭け...けれど、最終的には壱式に俺らの勝利の鍵を委ねる形になってしまっている。果たして成功するのか...そもそも理論が破綻している可能性もある。だが、もはやこれしか方法はない。八代が見た、小樽が助かる予知だけが希望だ。
俺は成功を祈りながら能力をオンにし、口元を手で隠しながら声を出した。
「猛毒...承認要求」
俺がそれを口にした瞬間、通信機からノイズ音が聞こえ始める。
「……了承...?」
困惑したような様子で、アンチの声が返ってきた。この声は、この場で俺にしか聞こえていない。
俺は、賭けに勝った。
「は、はは...間抜けすぎるぜ、壱式さんよォ!!」
これ以上ないほどの笑いを見せながら、俺は小樽の体に手を触れた。
「これで...救える!!」
壱式から間借りした猛毒のハウリングを操り、小樽に打ち込まれた毒を操る。壱式からの間借りなため、このハウリングは弐式相当。これなら毒も引き抜ける...!
「な...なぜ俺の力を...お前が使っている!?」
「お前が貸してくれたんじゃねェかよォ忘れたかァ?」
この世界に来て、方言の翻訳によって生じる問題を回避するために一部を除いて解除していた翻訳能力。それを再発動し、アンチの言語を翻訳できるようにしたのだ。そしてアンチの言語でハウリング能力の使用申請を壱式に出すことで間借りを成立させたのだ。
死体操作によって死体がハウリングの使用申請を出してきたとき、みんなはそれが味方によるものなのかアンチによるものなのか判別がついていなかった。よって、俺が申請を出したとしても、壱式からすればアンチが出したものと違いが分からない可能性が高い...一応口元を隠してばれないようにしたが、その甲斐もあって俺のたくらみは見事成功し、猛毒のハウリングを借りることができたわけだ。
「さて...小樽は治せた。もうお前を生かしておく理由はない。誰でもいいから殺してやれ」
「お、おう...」
壱式を囲んでいた障壁を解き、攻撃できるようにする。
「な、舐めんな...!」
壱式は最後の抵抗とばかりに毒を放ってきた。
「無駄だ」
その毒を、猛毒のハウリングを発動させることで軌道をそらす。消すことはできないが、軌道をそらすことくらいはできる。もう奴の攻撃は俺らには届かない。
「……誰がやる?」
急いで殺す必要がなくなったため、誰が殺すかを決める時間が生まれていた。個人的には早くしてほしいところだからさっさと決めてほしいな。
「……それなら、私にやらせてくれ」
「小樽...!?」
「毒の抜き取りもできるなら、治癒で治せないものも治せるようになる。そして、万が一の時にも最低限戦えるようになる...それに、こいつには礼をしなくちゃならないからな」
そう言いながら小樽は壱式に銃を向けた。
「散々苦しめてくれたな...治してやらないからな」
引き金が引かれ銃弾が放たれる。銃弾は猛毒の壱式の額を打ち抜き、その命を壊した。
「……ありがとう、八代、仮谷。諦めかけた私を救ってくれて」
小樽は死んだ壱式に近づき、手を伸ばしながら言う。
「もう、私は諦めない」
小樽にしか見えないハウリングの光を掴み、小樽はその場で気絶するのだった。
小樽が毒で負傷する回と、カリヤくんが翻訳能力でアンチからハウリングを間借りできることに気付く回をそれぞれどこかで書くことは決まっていたのですが、上手いこと噛み合いそうだったので一話に合体させてみました。
かなりいい話になったのでは...?