碧山さんは地雷系?いいえ、爆弾系です   作:姫之尊

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 1日に2回も関節キスをした現実は気にしないようにしようとしても、純朴な俺には難しい話だ。

 顔の熱が引こうが、手汗が治まろうが意識する脳を止められない。

 昼からは6人で回ろうということになったが、俺は無意識のうちに明久里と紅浦から距離を取っていた。

 

 傍に西澤君でも居てくれたらよかったのだが、すっかり回復した彼は富山君や紅浦と談笑し、俺と反対側にいた。

 明久里もその中に混ざってはいるものの、会話に入るつもりがないのか入れないのか、黙って話を聞きながら相槌を打っていた。

 その代わりと言ってはおかしいが、俺のすぐ斜め後ろを、花咲さんが歩いている。

 なぜ彼らの会話に混ざらないかという疑問は浮かぶが、とにかく俺の手の届く範囲に彼女はいる。

 まあ、元々クラスメイトとはほとんど話すらしなかったのだ、ああ言った輪の中に入れないのも無理は無い。

 俺はただ今は身を引いているだけだが、花咲さんにとってはあの輪に入るだけでも疲れるだろう。当然俺はそんなことでは疲れないが。

 

「なあ花咲さん」

 

「はっ、はい⋯⋯」

 

 突然振り返ったせいか、花咲さんは肩を跳ね上げた。

 

「そういえばさ、友達はできた?」

 

「え⋯⋯?」

 

 こんなことは、直接聞くようなことでは無いのかもしれないが、あの日部室を訪ねてきた彼女が語った依頼は、俺達の組に入りたい。そしてこの機会に友達を作りたいということだった。

 西澤君を連れてきて、メンバーが決まったあと、紅浦は時々花咲さんに話しかけるようになっていたが、俺を含め他のみんなにその様子はなかった。

 だが、残念ながら今日も、俺と明久里は別行動を取っていた。

 ということで、花咲さんの依頼が成就しているのかどうか、今の段階では全く分からないのだ。

 もう普通に気兼ねなく話しているのだから友達でいいじゃないかとも、俺のような人間は考えるが、彼女や皆が友達というものをどう考えているのか分からない以上、言い切ることは出来ない。 

 

 だが、まさか紅浦や富山君達に、

 

「花咲さんとは友達になれた?」

 

なんて野暮なことは聞けない。

 

 それに、花咲さんが皆を友達だと認識していて、それを否定するような人間はこのグループにはいないだろう⋯⋯明久里を除いて。

 

「そ、そうですね⋯⋯」

 

 花咲さんは4人に目配せしながら口を開いた。

 

「馴れ馴れしいかもしれませんが⋯⋯わ、私は⋯⋯皆さんのこと⋯⋯大切な友達だと思っています⋯⋯」

 

 相変わらず緊張した様子だが、その語気には自信のような物が含まれているように感じた。

 皆が自分を受け入れてくれたという、感謝によって生まれた自信。

 

「それはよかった⋯⋯じゃあまた明久里に伝えておくよ。依頼達成だって」

 

「はい⋯⋯お願いします」 

 

 この花咲さんが、あのクソゲーのクソヒロインと同じ苗字だということが忌々しい。

 花咲さんの名を呼ぶ度に、便器の黒ずみのように俺の脳にこびりついたあのクソヒロインが輪郭を表す。

 

「ど、どうしたんですか業平さん⋯⋯」

 

「え?」

 

「なんだか⋯⋯苦虫を噛み潰したような顔してましたけど」 

 

「そんな顔してた⋯⋯?」

 

 頬に手を当ててみたが、それ自体に意味は無い。

 俺自身が気づかないうちに、俺の表情筋が意志を持ってあのクソヒロインへの拒否反応を表したのだろうか。それにしても厄介すぎる。

 

「な、なあ花咲さん⋯⋯」

 

「はい?」

 

「俺も一身上の都合で、志乃さんって呼んでもいい?」

 

「えっ!?」

 

 慌てた花咲さんの首が高速で旋回する。

 困惑の色を隠せないその顔に、俺は発言の撤回を決めた。

 知らない間に、俺達一行は空中ブランコに並んでいた。

 空中ブランコ、そこそこの速度は出るが、別に恐怖を感じる程のものでは無い。

 なんなら、ここの空中ブランコの対象年齢は1桁年齢だ。

 明久里でも平気だろう。というか、実際問題明久里はジェットコースターで心拍を変動させるのだろうか。ジェットコースターに乗らないようにしているのは、心臓が弱いという設定になっているからという部分が大きい。

 花咲さんへ若干引かれるような発言をしたことへの現実逃避か、明久里をジェットコースターに乗せてみたいという衝動に駆られた。

 

「別に構いませんっていうか⋯⋯是非そうしてもらいたいんですけど⋯⋯碧山さんも言ってましたよね。一身上の都合って」

 

「あっ、えっ。そうだっけ」

 

 頭を掻きながらとぼけたが、たしかに明久里も同じことを言っていた。

 

「あの⋯⋯なんなんでしょう⋯⋯その都合って⋯⋯」

 

「あーいや⋯⋯」

 

 クソゲーの殺したいほど嫌っているヒロインと名前が同じだから、なんて正直に言っていいものだろうか。

 

「俺や明久里が個人的に知ってる嫌な人間と⋯⋯同じ苗字だから」

 

 ある程度濁したつもりだが、これでは花咲さんに不快感を抱かせるに違いない。

 だが言われた花咲さんの気に触った様な雰囲気は無い。花咲さんは少し考えるように目を見開きながら下を見ている。

 

「あの、間違ってたらあれなんですけど⋯⋯もしかしてそれ、ゲームの話ですか」

 

「えっ──」

 

 

 並び始めてすぐ、俺達の番が来た。

 俺は明久里や紅浦の後方に位置するブランコの安全ベルトを閉めた。

 ゆっくりと上昇し、遠心力によって外側に振り回されながら、俺は花咲さんがあのクソゲーを知っていた事に困惑していた。 

 

 景色が回る。俺自身が回っているのだから当然だ。

 前の明久里は足を投げ出しているが、後ろからでは楽しんでいるのかどうか分からない。

 ただやはり、この程度で恐れを抱くようなやわな少女ではないのか、俺のスマホは震えなかった。

 

 

「いやあ、結構楽しかったね」

 

「そうですね。あれくらいなら私も楽しめますし」

 

 子供向けジェットコースターと空中ブランコ、どっちが怖かったかひとりで考えながら、次にどこ行くか話している4人を横目に、花咲さんとさっきの会話の続きをした。

 

「あのさ、もしかしてそのゲームって」

 

「転生姉妹9のことだと思ったのですが、違ってましたか?」

 

「あ、あれ転生姉妹って呼ばれてるんだ⋯⋯合ってるよ。ていうか⋯⋯知ってたんだな」

 

「はい。だから私もおふたりの気持ちはよく分かります⋯⋯だからどうぞ下の名前で呼んでください」

 

「あ、ありがとう⋯⋯し、志乃さん」

 

「はい。エースさん」

 

「ぶふっ!?」

 

 突然の呼び名に吹き出してしまう。

 からかうような笑みを浮かべ、三つ編みのおさげを揺らした花咲さん⋯⋯もとい志乃さんが、小悪魔のように見えた。

 吹き出た音に反応した4人がこっちを伺っているが、気にしないでと手を振る。

 すると紅浦が明後日の方向を指さした。

 紅浦が示す先には、コーヒーカップがあった。

 コーヒーカップでグロッキーになっても、心拍には影響しないだろうか。

 まあ、いざとなれば全力で叫んで止めよう。

 コーヒーカップへ赴くのを頷いて了承すると、4人は先に歩き出した。

 その後ろを俺と志乃さんは続くが、どうにも彼女が恐ろしい。

 

「あの⋯⋯その呼び方は勘弁してください⋯⋯」

 

 彼女にへりくだりながら言うと、やりすぎたと思ったのか、肩を縮こまらせて俯いた。

 

「ご、ごめんなさい⋯⋯つい調子に乗っちゃって⋯⋯あれ最初は(エース)ではなく(はじめ)だと思ってたので」

 

「俺もそう思ってたよ⋯⋯」

 

「だからちょっと呼んでみたくて」

 

「まあ、俺は平仮名なんだけどね。まあそれよりも⋯⋯あのゲームを知ってたことが驚きだよ」

 

「私もです⋯⋯それに⋯⋯碧山さんも知ってますよね? ニュアンス的に」 

 

「あ、ああ⋯⋯」

 

「そういえば、親戚なんでしたっけ」

 

「うん⋯⋯たまに遊ぶんだよ⋯⋯それであいつがそのゲーム持ってたから」

 

「なるほど、やっぱり仲良いんですね」

 

「うーん⋯⋯いいのだろうか」

 

「私の目から見たら仲良さそうに見えますけど⋯⋯そもそも一緒にゲームしてる時点で」

 

「それもそうだなぁ⋯⋯」

 

 考えてみれば、別に仲が良いことを否定する必要は無い。

 俺と明久里は友人であり、秘密を共有しているなにかだ。

 と言っても、明久里の秘密を握っているだけで、俺の秘密は何一つ握られていないのだが。

 

 コーヒーカップには、男女それぞれ3人ずつ別れて乗ることになった。

 男3人が特に楽しそうな雰囲気を出さないのとは対照的に、女子ふたりは和気藹々としている。

 白を基調とし、鮮やかな青いペンキで花柄の模様が彩られたカップに入った。

 カップの中央の鉄丸出しの回すやつを中心に三角形を象るように座り、スタートするのを待った。

 

「ところでさあ」

 

「どうした?」

 

 俺が口を開くと、いち早く斜め前に座る富山君が反応した。

 開いていた入口を、係員が閉めて去った。

 

「いや、絶叫に乗らないのはいいんだけど、空中ブランコにコーヒーカップって、西澤君のこと苦しめに来てないか」

 

「た、たしかに⋯⋯」

 

 富山君とほぼ同時に昼食前まで瀕死状態だった西澤君に目を向けた。

 完全に復活していた西澤君は、俺達を交互に見比べ、爽やかな白い歯を見せた。

 

「大丈夫だよ。もう平気だから」

 

「じゃあ⋯⋯思いっきりこれ回してもいいか」

 

「えっ、それは勘弁してくれ」

 

 俺が真ん中の回すやつに手を置いて、悪戯心で笑うと、西澤君は困り顔で首を振った。

 

「冗談だよ」

 

「顔が冗談に見えなかったぞ⋯⋯」

 

 真ん中の回すやつから手を離し、西澤君と見合って笑う。 

 

「ちなみにそれ、遊星歯車機構(ゆうせいはぐるまきこう)ていうんだよ」

 

「へえ。そうなんだ」

 

 などという雑学を富山君が語ると、カップが動き出した。

 地球が公転するかのように、円形の台座が回転し始め、同時に緩やかにカップ自体も自転を開始した。 

 

 昔から、コーヒーカップが楽しいと思ったことは1度も無い。

 ただグルグルと回るだけで、景色が移り変わる訳でもないこの遊具のどこを楽しめば良いのだろうか。

 どこかのカップでは女子達がキャーキャー言いながら真ん中の遊星歯車機構を豪快に回しながらはしゃいでいるが、そんなに騒がしくできるものなのか。

 義務教育を終えたのにコーヒーカップで盛り上がる連中なんて、もはや砂浜で砂山作り騒ぎ、きなこ棒の赤い爪楊枝を当てて歓喜し、コマーシャルで好きな作品が流れただけで歓天喜地(かんてんきち)が湧き上がるだろう。

 

 せめて、そんな愚かな女子共を心の中で嘲笑い、この無意味に回転させられるだけの時間を、有意義なものに変えてやろうと思った。

 はしゃいでいたのは、明久里達だった。

 

 

 

 

  

 

 

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