碧山さんは地雷系?いいえ、爆弾系です   作:姫之尊

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中々更新出来なくてすみません…(なのに別作上げたりして尚更…)

ぼちぼち頑張らせていただきますのでどうぞお付き合い下さい。


8

「んー。まあちょっと」

 

 

 上手い言い訳が見つからず、俺はしどろもどろにその辺の地面や民家をキョロキョロと目で追っては、明久里がひとりでに店内に戻ってくれないかと期待したりしていた。

 

 だが明久里は全く目を逸らしもせずに俺を凝視していた。

 明久里の双眸に、焦る俺の姿がくっきりと映し出される。

 

 あのアラームは、明久里の爆弾のタイマー音が聞こえる前に発動し、俺は対処した。

 つまりもう少し時間を置けばタイマーが作動し、俺は自然に明久里を連れ出せたのだが、はやる焦燥を抑えきれずに連れ出してしまったせいで、明久里はまだ心臓の爆弾がピンチだということに気がついていない。

 

「少し話がしたいというかなんというか」

 

 ここはもう、頭をフル回転させてはぐらかす他無いだろう。

 とにかく、連れ出した言い訳を考えるのだ。

 

「うん。あれだ聞きたいことがあったんだよ」

 

「いったいなにをですか?」

 

 別に怒ったりしている訳では無いと思うが、声には妙な迫力があった。

 カエルを睨むヘビのような、そんな相手を捉えて逃がさない圧力が。

 

 俺の問いかけに違和感があれば、すぐにでもそこを攻めてきそうな、そんな雰囲気がある。

 

「どうしてあの人⋯⋯柿谷羽月の依頼を引き受けたんだ? 言ってしまえばあれだが、あの人学校関係ないし」

 

 これなら自然だろうと心の中でガッツポーズした。

 まあ、これに関しては後で尋ねるつもりではあったのだが。

 

 明久里は僅かに頭を傾けると、顎に手を当てて俯いた。

 

「べつに⋯⋯大した意味はありませんよ。その為に呼び出したんですか?」

 

「ああ。普通に気になってな」

 

「あんな誤解されるようなタイミングで?」

 

「誤解はされないだろ⋯⋯従姉妹って説明したんだし」

 

 なんだか雲行きが怪しくなってきた気がする。

 

「でも従姉妹って別に結婚できますから付き合っててもおかしくないですよ?」

 

 明久里は特に顔色も変えることなく、顎に手を当てたまま言った。

 俺の前を通った自転車に乗った女性と目が合った気がしたが、明久里は相変わらず俺を見たままだ。

 今はスマホが鳴っている様子は無い。

 

「おかしくは無いって言っても、あんまり一般的じゃないし従姉妹って説明したらあの人も俺達のことそんな風には思わないだろ」

 

「さあ? そうとも限りませんよ? あの時そのまま留まればそうでしたでしょうけど、いきなり私を連れて飛び出せばいくらあまり賢くなさそうなあの人でも色々勘繰ると思いますが」

 

 言い方が酷いのは置いておいて、実際のところ、俺は別に付き合ってると言われて動揺したわけじゃない。

 スマホが振動し始めたから慌てて連れ出したのだ。

 このままでは、柿谷羽月に誤解されるのは間違いないし、明久里にも俺がそれで動揺したと思われてしまいそうだ。

 

 それはなんだか癪に障る。 

 そして今は冷静な明久里にもなんだかむかっ腹が立つ。

 

「はじめさん。ほんとうのこと言ってください」

 

 刺さるような言葉が突如襲いかかってき、俺の心臓が跳ねた。

 

「だから、依頼を受けたことを聞きたかっただけだって。タイミングはあれだ。なんかあんなこと言われると気まずかったからだ」

 

「気まずいって、あの人とですか? おかしくないですか? 私と交際してると勘違いされてあの人と気まずくなって私を連れ出したんですか? 私と気まずいとしてもあの人と気まずいとしても、それならひとりでトイレにでも行ったらよかったんじゃないですか?」

 

 そんなに食いつかなくてもと額に汗をかきながら、歩み寄ってくる明久里に対してしどろもどろになりながら、目を逸らした。

 

「そこは別にいいだろ⋯⋯なんとなくお前と出たかったんだよ」

 

 言い訳としてはかなり不出来なものだったが、なぜだか明久里の動きは停止した。

 明久里は何度も瞬きをしながら、スカートを掴んで俯いた。

 

「言ってる意味がよく分かりません」

 

「俺も分かってないけど⋯⋯要するにあんなこと言われたらなんとなくふたりきりになりたくなったんだよ」

 

 もはや最初の質問するためという言い訳はどこ行ったのか、自分でも何が何だか分からないが、これはこれで効果がありそうだ。

 明久里は俯いたまま顔を横に向け、小さく呟いた。

 

「⋯⋯ならそれでいいです。さ、戻りますよ⋯⋯言い訳ははじめさんが考えてください」

 

 そう言って俺の前を横切り、店に戻っていく明久里の頬はほんのりと赤らんでいて、スマホが僅かに振動したが、すぐに止まった。

 ショートメールでも来たのかとスマホを開いてみると、なんの通知も来てはいなかった。

 

 明久里の後に続いて席に戻ると、柿谷羽月はハンバーガーを食べ終え、スマホを触りながら俺達を待っていた。

 

「おかえりなさい。どうしたの? 急にふたりで出ていって」

 

「あ、いや」

 

 俺が頭を掻いて言い訳を考えていると、明久里は平然と席に座って残っていたポテトを食べた。

 本当に全て俺任せにするらしい。

 

「俺の携帯に明久里の親から何故か電話が来ててそれで連れ出したんです。なんか明久里がスマホの電源切って繋がらなかったから、俺の方にかけてきたみたいで」

 

「そうなんだぁ」

 

 それほど興味もなさそうに、柿谷は頷いて視線をスマホに戻した。

 我ながら、咄嗟に素晴らしいデキの言い訳を思いついたと賞賛したい。

 

 明久里も特に不満はないのか、黙って俺のポテトまで食べ尽くしてしまった。

 結局ポテトのほとんどを食べられてしまい、俺は氷が解けて薄くなったコーラを虚しくもストローで啜った。

 ほんのりと香辛料の風味と、薄い砂糖の甘みを感じながら喉を湿し、汚れてもいない指をナプキンで拭った。

 

「ご馳走様でした」

 

「ご馳走様です」

 

 俺が手を合わせると、明久里も続いた。

 

「じゃあ出よっか」

 

 柿谷羽月は颯爽と伝票を人差し指と中指で挟むと、席を立ってレジへと向かった。

 狭い店内なので、俺と明久里は先に外に出てから、柿谷羽月が会計を終わらせるのを待った。

 ガラス戸の向こうでは、柿谷羽月が細かい小銭を財布の中からちまちまと取り出しているのが見えた。

 

「美味しかったですね」

 

 明久里が不意につぶやく。

 かなり満足したのか、微かに鼻の穴が膨らんでいる。

 

「そうだな。やっぱり高いハンバーガーは違うんだよ。まずバンズが違う」

 

「そうですね。なんならポテトですらも違いましたよ」

 

「ほとんどお前に食われて味わってないんだが」

 

 目を細めて明久里を睨むと、バツが悪いのか目を逸らして沈黙してしまった。

 

 まあ、明久里のすることに目くじらを立てても仕方がないのだ。

 深呼吸して気持ちを切り替えると、会計を済ませた柿谷羽月が外へ出てきた。

 

「お待たせー。ふたりともほんとにありがとね」

 

「いや、こちらこそ。ご馳走になっちゃいまして。ありがとうございました」

 

 軽くお辞儀をし、感謝を述べる。

 

「気にしないで? むしろごめんね。食べ物で釣ったみたいな感じになってない?」

 

 そう言いながら、柿谷羽月の視線は隣の明久里へと向けられらる。

 明久里は瞬きをしながら、ゆっくりとした動作で口を開いた。

 

「お気になさらず。別に奢っていただかなくても、

依頼されたらお引き受けしていましたから。むしろ得した気分です」

 

「そう言って貰えると助かるよ」

 

 にこにこと笑顔を浮かべる柿谷羽月と、生真面目な顔つきの明久里が対照的で、何度もその顔を見比べた。

 明久里は普段、というか俺に対してはかなり図々しく、傍若無人に振舞っているが、こうして依頼などの話になると、急にその性格はなりを潜める。

 

 考えようによっては、それは俺相手なら素を出せるということなのだろうか。

 だとするなら、家族もいない新しい地で暮らす明久里のため、俺は受け止めてやるべきなのだろう。

 

「じゃあ。私は用事あるからふたりは気をつけて帰ってね。あ、そうだ忘れるところだった」

 

 別れの挨拶をするのかと思いきや、柿谷羽月は不意にポケットからスマホを取りだした。

 

「連絡先教えてくれる? 手伝ってもらうのに色々と話すこともあるだろうから」

 

 確かにその通りだと、俺はスマホを取り出そうとしたが、すんでのところで取りやめ、明久里に目配せをした。

 別に俺が連絡先を交換してもいいのだが、有名人気タレントが連絡先として追加されるなんてどうも落ち着かない。

 

 俺のメッセージアプリの友達は、クラスメイトと親だけで十分なのだ。

 

 俺の意を察した明久里はスマホを取り出して電源ボタンを押したが、不自然に十数秒ほど、じっとスマホを自分に向けたまま動かなかった。

 そして急に指を動かし始めると、柿谷羽月とアプリの連絡先を交換した。

 

「ありがとう。じゃあ帰ったら連絡するね?」

 

「はい。周りの人の情報とか色々お待ちしてます」

 

「うん。じゃあ碧山さんも業平くんも、今日はお疲れ様」

 

 悩みがある人間とは思えないほど、柿谷羽月は溌剌と手を振って離れていった。

 

 俺達も特に用事は無いので、駅まで戻って帰るだけなのだが、明久里はなぜか、柿谷羽月の背中をじっと眺めていた。

 そして柿谷羽月が道を曲がって見えなくなると、無言で俺を注視してきた。

 

「どうしたんだ⋯⋯」

 

「いえ、感謝の言葉はないのかと?」

 

「感謝?」

 

 俺が何を感謝したらいいのか。頭を掻きながら考えていると、ひとつの答えが浮かんだ。

 

「ああ。さっきありがとな。スマホの電源入れて立ち上げるフリしてくれたんだろ?」

 

「ご名答です。鈍感なはじめさんじゃはっきり伝えるまで気づかないと思ってました」

 

「一言余計なんだよぁ⋯⋯感謝が薄れたわ。ていうか俺って鈍感か?」

 

「鈍感ですね。そういう所がもう」

 

 溜息をつきながら吐き捨てるように言うと、明久里はそそくさと駅に向かって歩き出してしまった。

 

 いったい明久里は俺に何を言いたいのか。足りない頭で考えながら、なぜ鈍感と呼ばれるのか考えてみると、何故か知らないが観覧車の中での紅浦の姿が浮かんだ。

 

 まさか、明久里は持ち前の第六感か女の勘でも使って紅浦が俺に少なからず好意を抱いていることを見抜いたのだろうか。

 

 だが生憎ながら、その事なら俺も知っている。

 

 なにしろ直接告白されて現在保留中だ。

 

 未だに答えをどうしたらいいのか分からずにいる。

 

 

 帰りの電車に乗りながら、ゴールデンウィークの大仕事はこれで終わったと安堵した。

 すると途端に肩が重く垂れ下がるような感覚とともに、瞼が落ちそうになった。

 夜更かしをした訳でもないのに、眠気が少々襲ってきている。

 やはり今日は有名人気タレントが傍に居るということで気を張っていたのだろうか。

 

 もしかしたら、年頃の男子高校生として柿谷羽月の前で格好悪いところは見せまいと無意識のうちに振舞っていたのかもしれない。

 隣から肩を寄せて頭を乗せてくる明久里の重みを深く感じながら、女性タレントってやっぱり肌から綺麗なんだよな。などと俗物そのものなことを考え、同時に明久里も容姿に関しては決して引けを取らないものだと改めて考えた。

 

 

 だが、明久里が芸能界にとか、インフルエンサーに、なんてものはまず無理だろう。

 

 もしどこからか目をつけられ、テレビ番組やイベントに出ることになったら、そこで日本史上最悪の爆破事件が起きてしまう可能性は高い。

 しかも、犯人が見つからない迷宮入りだ。

 

 カメラで爆発の瞬間でも見れば、明久里の体から爆発していることが判明するかもしれないが、果たして日本の司法はそうなった時誰を捌くのだろうか。

 

「はじめさん⋯⋯難しい顔してどうしたんですか?」

 

 明久里は肩に頭を添えたまま、顔をこちらに向けて囁いた。

 

「ああ、日本の司法について少々」

 

「そうですか⋯⋯」

 

 全く興味を持たなかったのか、明久里は顔を前に向けると、更に俺の肩に身を預けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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