碧山さんは地雷系?いいえ、爆弾系です   作:姫之尊

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爆弾少女とファッションショー

「とりあえず、柿谷さんの依頼は今は保留です。今私達が即座にできることはありません」

 

 明久里がそう言ったので、とりあえず柿谷羽月の事は頭の片隅に置いておくことにした。

 たしかに、これは学外のことであり、しかも人気タレントに関することだ。迂闊なことは出来ない。

 

 だが、正直なところ俺は柿谷羽月をはめようとしたのは、やはりマネージャーだと思うし、きっと明久里そう思っているはずだ。

 

 きっと、犯人の思惑では、柿谷羽月に恥をかかせ、俺たちにその事を意識づけたかったに違いない。

 そうして、噂が広がるのを待つか、それが焦れったくて嫌なら、自分からメディアにでも暴露系にでも情報を売り込み、信憑性を高めるため、俺たちのうちの誰かに話を聞きに来ればいいのだ。

 

 

 

 

 ────

 

 

 などと一昨日は考えたりしていたが、今ではすっかり考えなくなった。今思い出したから考えてしまったが。

 

 俺と明久里は、ゴールデンウィークの最終日、ショッピングモールに来ていた。

 

 明久里が服を買いたいというので、その付き添い⋯⋯もとい荷物持ちとして強制的に駆り出されたのだ。

 

 まったく、せっかくのゴールデンウィーク最終日なんだから家でゆっくりさせてくれ。

 

 

 当然と言えば当然だが、施設内は人混みでごった返している。

 家族友人恋人おひとり様、あらゆる属性の人間達が勢揃いし、館内を人の熱気でほんのりと温めている。

 

 俺は、女性向けファッションブランドの店の前で座っている。

 明久里は俺を着いてこさせたが、別に服の意見を聞くつもりは無いようだ。

 

 まあ、俺もアドバイスなんて出来ると思ってないので有難いのだが。

 

 明久里が服を選んで戻ってくるのを、通路に設置された椅子に座って待つ。

 やはり、人が多いと椅子も空きが少ないが、何とか座れてよかった。

 

 時刻は朝の11時過ぎ、そろそろお昼ご飯を食べないと、フードコートも飲食店も満席になってしまうだろう。

 

 明久里には早く服を決めてもらい、昼食と夕飯の買い物を済ませて帰りたいのだが、さっきからいくつかの店を回っては、服がしっくり来ないのか、何も買わずに出てきている。

 

 俺なら、値札とサイズを見て即決するのだが、やはり明久里も女子の端くれなのか、そこはこだわりが強いようだ。

 

 明久里には申し訳ないが、俺はあいつのことを、ファッションなんて気にしないズボラな女子だと思っていたので、意外で驚いている。

 

 何しろ、外国から荷物が届くまで、俺の母や父の服を何となく着ていた女子だ。こだわりがあるなんて考えつくわけが無い。

 

 何気なくSNSを見ていると、スマホ画面に影ができた。

 顔を上げてみれば、明久里が目の前に立って俺の所へ影を作っている。

 

 やはりというかなんというか、明久里の手に買い物袋の存在は確認できなかった。

 

「はざめさん。お腹すきました。先にご飯にしましょう」

 

 明久里はボソボソと、少し機嫌を損ねたように呟いた。

 

「わかった。俺もその方が助かる。早い方がいいしな」

 

「ハンバーガーがいいです」

 

「一昨日食べただろ⋯⋯まあいいけど」

 

 俺はその場から立ち上がると、明久里を伴ってフードコートの方へと足を運んだ。

 まだお昼時と言うには少し早いが、それでもフードコートの中は人が多く、席も随分と埋まってきている。

 

 だがまだ空きは十分にあったので、とりあえず俺たちは先に席を取ることにして、たまたま目についた4人用の席についた。

 

「じゃあ先に買ってきていいぞ。俺はお前が帰ってくるまでに何を食べるか考えとくから」

 

「わかりました」

 

 明久里が背中を向けて立ち去るのを見ながら、ぐるりとフードコート全体を見回す。

 

 ハンバーガーの他にも、唐揚げ定食やたこ焼き、ラーメンやうどん、さらにはローストビーフ丼なるオシャレな物や、その他ステーキやちゃんぽんなど、ジャンルは様々で頭を悩ませる。

 

 とりあえず、ステーキとローストビーフ丼は候補から外した。

 

 ステーキは確実に明久里にスティールされるであろう。

 あの女は人の食べ物を奪うことを屁とも思わない悪女だ。俺が悔しい思いをするのは目に見えている。

 となると、唐揚げ定食やたこ焼きも危険だ。あいつなら奪う。誰かに見られていても奪う。

 

 そしてローストビーフ丼だが、これに関してはそもそも俺があまり好きではない。

 

 ローストビーフのことは好きだ。ひとり暮らし時代も、わざわざ炊飯器や鍋、オーブンなどいくつかの調理法を試して作るくらいには好きだ。

 

 だが、全国全世界のローストビーフ丼ファンの方々には申し訳ないが、ローストビーフと米の相性というのはなんとも微妙なのだ。

 お互いの味がぼやけるというかなんというか、とにかくあれを食べると、「これ別々に食べればよくね?」という考えで頭が支配されてしまうのだ。

 

 麺類に絞られると、俺は即決でラーメンに決めた。

 ここのラーメンは有名チェーンの豚骨味だ。

 味は普通に上手いし、うどんとちゃんぽんより満足感は高い。

 

 決まったら即座に買いに行きたくなるが、明久里がまだハンバーガー店の前で並んでいる。

 流石は大人気ハンバーガー店だ。子供の数が他の店の前とは違う。

 

 そういえば、今は子供向けセットを頼んだ時に付いてくるオマケが大人気商品になっていて、転売も横行しているとネットで見た。

 

 まさか、明久里が子供向け玩具に手を出さないかと、俺は不安になっていた。

 

 

 しばらくしてから、トレーを両手で持って戻ってくる明久里を確認し、俺は安堵の息を吐いた。

 

 どうやら杞憂だったらしく、明久里は普通のハンバーガーセットを注文していて、玩具の姿はどこにも無い。

 サイドメニューにはポテトではなくサラダが選ばれているのが吃驚だった。一昨日の復讐で少し奪ってやるつもりだったのに。

 

「お待たせしました」

 

 一声かけるのと共に、席に座る明久里。

 

「じゃあ行ってくるから」

 

 俺はポケットの中にスマホをしまいながら立ち上がると、明久里がそっぽを向いてじっと目を固定しているのに気がついた。

 

 何を見ているのかと思って明久里の視線の方向へと顔を向けると、そこには見知った顔がいた。

 

「恵梨と⋯⋯紅浦」

 

 なぜかふたりとも似たようなパーカーを来ていて、紅浦は黒、恵梨は青だった。

 そして、ふたりとも膝丈ほどのスカートを履いている。ほとんどおそろいファッションだ。

 いや、服装のことはどうでもいい。

 

「あ、やっぱり明久里ちゃんとはじめだったんだ」

 

「おやおや⋯⋯おふたりは今日も⋯⋯コレ⋯⋯ですかねぇ」

 

 ニヤニヤと右手で電話の形を作りながら近づいてくる紅浦に腹が立ったのはさておき、それは何のジェスチャーなのだ。

 

 恵梨と紅浦は、ふたり揃って席の前に立った。

 まさかこの連休に2回も会うことになるとは。しかも始まりと最後に。

 連休の始まりと締めがこの美少女たちとの思い出で終わるなんて、俺はいったいどこのハーレム系主人公だ。ただし、若干2名は性格に難アリ。

 

「デートなわけないじゃないですか。はじめさんは荷物持ちに来てもらったんです」

 

 ストローからジュースを啜り、明久里は言った。

 もしかして、あの電話や、もしもし亀よ亀さんよで親指と薬指を両方伸ばした時のようなジェスチャーは、デートを表しているのか。後で調べてみよう。

 

「まあそんなところかぁ⋯⋯それにしても業平、無理やり駆り出されたわけ?」

 

 悪どい企みでもしているかのような顔で、紅浦は俺の肩に手を置いた。

 俺をからかう気なのは分かるが、若干嬉しそうなのはやはりあの告白が所以なのか。

 

「断ると後が怖いからな⋯⋯で、お前らはふたりで何してるんだ?」

 

「何って、ただブラブラしてるだけだけど。あ、ここ座っていい?」

 

 俺と明久里の返答の前に、紅浦は俺の隣に座った。

 4人用のテーブルを選んだことが仇になった。

 

「どうぞどうぞ。恵梨さんもどうぞ」

 

 何故か率先してふたりを呼び込む明久里に、俺は何も言えず無言で訴えかけたが、当然そんなもの明久里には通用しない。

 

「お邪魔しまぁす」

 

 遠慮がちに恵梨はスカートの皺を伸ばしながら明久里の隣に座った。

 

「しかし、恵梨達も暇なんだな。女子ふたりでブラブラか」

 

「別にいいじゃん。昨日と一昨日試合だったんだから」

 

「まあ別に悪くは無いと思うけども」

 

 このふたりが合流してしまったのはいいとして、俺も早くラーメンを買いに行きたい。

 明久里は既にハンバーガーの包みを剥がしてひと口目を食べようとしているのだ。

 

「じゃあ俺お昼買ってくるから、お前らここ頼んだぞ」

 

「あ、待って」

 

 逃げ出すように立ち上がると、恵梨がほぼ同時に立った。

 

「僕も行くよ。お腹すいたんだ」

 

「ん、ああそうか⋯⋯じゃあ、紅浦は?」

 

 何故か気を使い、紅浦を確かめる。

 恵梨とふたりになるのが何となく気まづかったのか、紅浦を明久里の元に残しておくのが不安だったのか、どっちなんだろう。

 

「あー、私はもう少し考える。ていうか恵梨はなに食べるか決めたの?」

 

「うん⋯⋯もうはじめといっしょでいいかなって」

 

「なるほどぉ⋯⋯」

 

 紅浦は顎に手を当てると、良からぬ顔でニヤリと笑った。

 何を詮索しているのかは不明だが、こいつは外でも揺るがない人間なんだなと、何故か感心してしまった。こいつに感心するのは果たして何回目だろう。

 

「じゃあ行こっか」

 

「ああ」

 

 恵梨に誘われ、俺たちはラーメン屋の方へと向かっていった。

 ラーメン屋の前にも、少しだけ列が出来ている。

 俺は店の天井付近に設置されたメニュー表を見ながら、チャーハンと餃子はどうするか考えた。

 

「ねえはじめ?」

 

 看板を見ていると、恵梨が声をかけてきたので振り返った。

 

「なんだ?」

 

「ほんとに碧山さんの荷物持ちなの?」

 

「なんだそんなことか⋯⋯その通りだぞ。今朝叩き起されたら服買いたいから荷物持てって言われたんだ」

 

「あはは⋯⋯碧山さん強いね」

 

「そうだな⋯⋯あいつならジャングルでサバイバルすることになったら、平然と動物の餌を奪ってケロッとしてそうだ」

 

「なんだろう⋯⋯何故か想像できるよ⋯⋯申し訳ないけど」

 

「別にいいんじゃないか⋯⋯実際あいつそういう所あるし」

 

「やっぱり⋯⋯一緒に暮らしてるから詳しいんだね」

 

 そう言いながら、恵梨は恥ずかしそうに俯き、モジモジとしているようだった。

 

「まあ、よく言うじゃないか⋯⋯愛し合ってるカップルも同棲するとお互いの嫌な所ばかり見えてそのうち嫌いになるって⋯⋯俺たちはただ仕方なく一緒にいる訳だから、尚更相手の嫌なところばっかり見えるんだよ」

 

「うーん⋯⋯なんか夢が壊れちゃうなぁ」

 

「同棲とか興味あるんだな」

 

「そりゃあるよ⋯⋯僕だって」

 

 これ以上は何だか気まづくなりそうだと思ったところに、俺たちの順番が回ってきてくれた。

 ラーメンを注文しながら、恵梨のことを何度もチラ見してしまった。

 恵梨は俺の方など見もせず、ラーメンを注文していた。

 

 なんの考えもなしに、同時に注文したので、とりあえずお会計は全部俺が払うことにした。

 恵梨は少し申し訳なさそうにしていたが、心配しなくていい。ちゃんと席に戻ったら請求する。 

 

「ごめんねはじめ。後で払うから」

 

「ああ。頼んだ」

 

 俺があまりに素直だったからか、恵梨は笑を零した。

 世の中では奢り奢られ論争なんてものがあるが、俺の予想では、恵梨は割り勘派だと思う。

 

 そして明久里は確実に奢られ派だ。

 直接口には出さないが、相手に奢らせるよう無言の圧力をかけるに違いない。

 

 

 そして紅浦だが⋯⋯これに関してはさっぱり分からない。

 

 

 

 

 

 

 

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