放課後と言えば多くの学生は部活道に興じる時間帯だ。入学したばかりの新一年生はそれぞれの部活見学や仮入部などで、教室に残っている者はほとんどいない
一年一組もそれに同様で、生徒は他の場所に行っている
ただし、少しだけ他のクラスと違うと言えば終わりのHRが終わったと同時にクラスのほとんどの生徒が一斉に教室から出て行ったくらいだ。
その生徒たちは、教卓の方に険しい目を向けたり、あからさまに不機嫌な顔で、今にも舌打ちでもしそうな勢いだ。思うところはそれぞれだが、どうやら皆さん不機嫌なご様子だ
逆に、その教卓の前では我がクラスの副担任がやたらキョドリながらオロオロとしている
HR中も今にも泣き出しそうな感じで進行しているもんで、一歩間違えればR18的な物にも見え、特別な性癖持ちならストライクと大声を出しそうな危ない雰囲気だった
もっとも俺にそんな性癖はかろうじてないので幸いだ。見ている男が俺でヨカッタナ
その場にいるもう一人の男も伊達に爽やか系イケメン風朴念仁をしているわけではないので問題はない。実はそういうのが大好きな変態で、過激な少女マンガ風な展開になる可能性もなきにしもあらずだが、あまり深く考えない方が無難だろう
んで、もう何を言ってるのかほとんど分からない山田先生の話が終わりHR終了から2分後の現在、1年1組の教室に残っているのは俺達兄弟2人だけとなった。
「夕日がきれいだな‥‥」
窓から外の景色を眺めながら不意に口から出る言葉。
ここが海に囲まれた島とという事もあり都会ならほとんど聞く事のないカモメが鳴いている
といっても以前は割と見る機会が多かったので物珍しさはない
色々な地域を周ったが夕暮れ時の空は何処にいても同じようにきれいだ。茜色に染まる空、地平線に消えていく太陽、長く伸びた影、荒んだ心でもそれを見ると、いつの日か少女と共に見たあの夕日を思い出す‥‥
だからだろう、俺は夕暮れが好きなんだ―――――――――――
「いやいや、まだそんな時間でもないから!ていうか八兄、なにやってんだよ」
ッチ
せっかくいい感じに黄昏ていたというのに無粋なツッコミ入れてくるなよ。まったく家の弟はもう少し空気を読んだ方がいいぞ。マジで
「何って見ての通り、外を眺めながら感じた事をありのまま言ってるだけだろ。他に何をしてるように見えるんだ」
「今やってる事じゃないよ!それに、ありのままでもないじゃん。外なんてまだ日は沈んでないし!」
「想像力を働かせろよ。眼を閉じて瞑想してみろ、段々と夕日が見えるだろ」
「それもう外すら眺めてないよね!?って、そうじゃなくて、セシリアの事だよ」
「なんだ、あの貴族(笑)の金髪縦ロール(爆)がどうかしたのか?」
「(笑)ってなに、(爆)って何!爆笑の事なの、確かに俺もあの髪型は珍しいとは思ったけど八兄的にそこまでツボってたのかよ・・・爆笑してる八兄なんて見た事ないんだけど」
「舐めんなよ爆笑くらい4年に1、2回はするんだぞ」
「めちゃくちゃレアじゃん!?」
豆知識だが、この世界にはオリンピックが存在していないらしい
その代わりにモンド・グロッソみたいなIS競技が盛んなんだそうだ
ただ、オリンピックとは違うがスポーツ競技も各国で定期的に開催されているので、そこまですたれているわけではない。単純にレア度が2段階ほど下がってるだけだ
そのためか、近年ではスポーツ特待生や補助などを大幅に削減し、その代わりにIS関係の特待生が増えている
例えばIS技術師特別手当とか整備士育成補助金というものだ
国的にも男の進学率の低下や失業率の増加に伴い出したものなのだろうがIS学園で直にISに触れている人間とそうでない人間とでは学べるものにも差が出てしまい成果があまり出ていない
税金の無駄遣いという声も上がっているので近々改正と見直しが予定されている模様だ
「俺も頭にきて色々揉めたからそんなに言えないけどさ‥‥女の子を泣かせるのは良くないと思う」
あらやだイケメン
憂いを秘めた顔でそういう一夏はどこからどう見てもイケメンだ。
自分や日本をあそこまでコケにされたにも関わらずそういう風に擁護できるのはある意味凄い事だろう。現に俺では絶対に真似できない
言っている事は正しい事だし何も間違ってはいない。もっとも、今の女尊男卑の世の中ならこれを自分たちの事を軽視していると難癖つける輩もいるだろうがな
イケメンと言うと、元同級生であり弁護士として何度も法廷で敵対した皆仲良し主義のあいつを思い出すが、一夏のこれは根本的にあれとは異なっている
葉山が男も女も皆仲良し、皆は一人のために一人は皆のためにみたいな感じなら一夏は単純にフェミニストなのだろう
フェミニストと言えば女性を特に尊重する男性、女性を大切にする男性、女性をちやほやする男性といったものを意味する
この世界で言えばどうか知らんが、こういう考え自体はいい物だろう。どんな形であれ他者を大切にして尊重することは尊い行いだ
もっとも‥‥この場合は女を甘やかすという意味合いなんだろうがな
「間違ってんぞ、あれは別に泣かせたんじゃなくあっちが勝手に泣いただけだろ。むしろ目の前で急に泣き出されてこっちが迷惑してるくらいだ。ボッチは人付き合いが苦手なんだから、あんな場面どうすればいいか分からんしな」
「‥‥その割には、饒舌だったじゃん」
「テンパってたんだよ。お前と同じで俺も頭にきてやっちゃっただけだろ?それに、そもそもの原因はオルコットにあるしな」
「‥‥‥‥‥‥‥‥はあー・・・分かったよ、今回は俺も八兄を止めなかった同罪なんだしそれでいいよ」
なにやらかなりの不満顔の一夏だが、今回の事は俺だけに非があるわけでもないのでそれ以上の追及はしないようだ
なんだろうな・・・こいつは15の餓鬼なんだからしょおがないんだろうけど、こういった世の摂理を無視した青い事を面と向かって言われると喉の奥が痒くなってくるんだよな
社会に出れば否が応でも周りから評価される。それは自分の努力次第で生活態度次第でいかようにも変わることができる。しかし、なんでか世の中というものの中で正しい意味での正当な評価をもらう事は実に難しい
どうしたって自分以外の要素が絡まり自分じゃどうすることもできないレベルでこじれる事も珍しくはないだろう。俺はそういうのが嫌いだ、大嫌いだ
どこぞの誰がどうなろうが知った事ではないがせめて自分に起こるこういった理不尽は断固として阻止するのが俺の心情だ
一夏の言いたいことは、あっちも悪いが女の子を泣かせるのは良くないみたいな事だろうが、今回オルコットの言った暴言の数々は名誉棄損、侮辱、人権否定、人種差別に男女差別などにあたる。
これは明らかな犯罪であり、生前の俺では数千万と言った慰謝料をふんだくれるレベルの失言だ。今は未成年で、裁判一つ起こすにも大変なのでやれないが本来ならしかるべき罰を受けることが今回のオルコットに対する正当な評価というものだろ?
だが、生憎ここは日本でさえ不可侵のIS学園内で相手は国の代表候補生だ、IS学園はもちろん日本でさえイギリスと事を構える気はないだろうし、いくら問題にしてもよくて相手側を謹慎、最悪的には握りつぶされるのが落ちなのだからやるだけ徒労に終わる
なら仕方ない。どうせ握りつぶされるんならしっかりと罰を与えてやるしかないだろう
罪には罰を、これぞマイ・ジャスティス
むしろあの暴言で泣きの一つで許してやるんだから感謝されたいほどだ
まあ、許す気はないがな。
模擬戦が楽しみだ
「それじゃあ帰る?ついでに夕飯の買い物したいんだけど」
「おう‥‥マッカンも忘れるなよ」
「八兄は本当にあれ好きだよな。千冬姉のビールも買ったほうがいいかな」
鞄の中に教科書を詰め込んで帰る支度を整える。
IS学園は全寮制だが、俺達は事情が事情なので1週間は自宅から通う事になっている。その送り迎えには政府から護衛が付くって話だ
買い物に護衛が付きあってくれるかという、何気ない疑問を抱いたと同時に扉の隙間から声が聞こえた
「お、おお織斑君!ちょっとととと、おおお話がッ」
扉の隙間からひょこっと顔を半分出して震えながらそういうのは山田先生だ
警戒・・・というより単純に恐怖心を抱いてるのかこの上から読んでも下から読んでもヤマダマヤはあれからずっとこんな感じだ
しかし、何もここまで怖がる必要はあるのだろうか?
女としてはどうかしらんが、教師としては落第点もいいところだ
相手が不良でもなんでも生徒であるからには真正面から時には拳で語るくらいしなくてはいかんだろ
まあ、実際じゃあ平塚先生みたいなのは稀な部類なんだろうがな
「‥‥えーっと、どうかしましたか山田先生?」
「えええええと、ですね!りょりょうのことでッお話がああああります」
うん、すごく聞き取りずらい
もう何を言ってるのか辛うじて分かるかどうかというレベルだ
話している一夏も困った表情でこちらを見てくる
‥‥あれを、俺にどうにかしろとでも言うのかこいつは?
「おおおりむららくんたちののっりょりょうのへへへやがですねっ!あkhwづふs@fにうhふぁf」
「せ、先生落ちつて!日本語になってませんよ」
一夏は先生のもとに駆け寄り優しく話しかける
っち イケメンかよ、イケメンだったわ
話を要訳すると、警護の都合上、自宅から通うのは危ないので今日から寮に泊まる事になったという感じだ
なんで分かるかって?
日本人は、外国人からすると超能力とまで言われるほど人の空気が読める人種なのだそうだ
思ったことを素直に口に出さず、内に蓄積する傾向がある日本には生きてくために必要なスキルだから伸ばされたんだろう
そこに俺の持論であるコミュニケーションの7割は会話以外を組み合わせて使用すると、何を言ってるか分からなくても言いたいことが分かる
つまりなんとなくだな
しかし、寮暮らしとかぶっちゃけ嫌なんだよな‥‥
元々家からあんまし出たくない系の人間だし、枕が変わると寝れなくもないがなんとなく違和感を感じてやなんだよな
最終的には寮で暮らすのも致し方なしと分かっているが、せめてこの1週間は家でねたかったんだよ
‥‥‥‥よし、ばっくれるか
「深呼吸して、大丈夫ですか?」
「は、はい、ありがとうございます織斑君・・・」
「それで、どうしたんですか」
「えっとですね・・・実は織斑君達の寮の部屋が決まりましてそれをつたえに」
「え?確か1週間は自宅からって話じゃなかったでしたっけ」
「はい、そういう予定だったんですが、やはり防犯の都合で寮の方がいいという事になりまして」
「でも、俺達荷物も持ってきてないんですけど‥‥」
「それなら心配するな」
声と同時に一つのカバンを投げ渡され、それを辛うじてキャッチする
「千冬姉!」
「しばらくの着替えと携帯の充電器が入ってる。それ以外の必要な物は後日取りに行け」
千冬姉は肩にもう一つのカバンを下げ、逆の手には、枕を握っている。
スーツ姿に枕を引っさげた姿はなんともアンバランスだ
あの枕は八兄の愛用で、枕が変わると眠れないという変なところで繊細な
兄のために持ってきた物だろう
本当、千冬姉も千冬姉で変なところで優しいんだよな
ちなみに俺と千冬姉は別に枕が変わっても普通に眠れる
「‥‥ところで八幡はどうした?」
「え?八兄ならそこに‥‥」
さっきまで八兄がいた所に目を向けるが、そこに人影はなく
あたりを見渡してもいるのは俺と千冬姉に山田先生の3人だけだった