比企谷 八幡の異世界漂流記(沈黙)   作:Lチキ

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セシリア編終了です

次回はリンリン編ですが、その前に番外編をやります

見なくても本編には関わらない話なので気が向いたら見ていただけると嬉しいです




IS インフィニット・ストラトス 18

俺は試合を終わらせた後、早々に自分が出てきたピットへそそくさと戻っていった

 

その理由は、今なお続くアリーナの静寂だ

 

拍手喝采が巻き起こった一夏の試合とは大きく違い、葬式にでも出てるかのように皆静まりかえっている

 

うん、なんだか懐かしい感じがする

 

中学時代とか、俺が何かを話す度こんな風に皆静まりかえってたっけか

 

 

この試合は公式的に見てもルール違反を犯したわけでもなく、むしろ代表候補生相手に碌にISを動かした事のない人間がノーダメージ、ノー被弾での完全勝利を収めたのだ

 

普通に考えれば大いに褒められる場面だろうが、そうはならない

 

まあ、当たり前と言えば当たり前だけどな。

残念かどうかと聞かれると、たいして残念とも思えないのでどうでもいいけどな

 

 

別に奇襲とか不意打ちも作戦の内でありそれに引っかかったオルコットが悪いのだが、思春期の女子集団ともなればはいそうですかとこの試合結果を受け入れる事ができないのだ

 

女は男よりも強い、自分たちは狭き門であるIS学園に入学したエリートである。

 

そんな自尊心を多大に持つ彼女たちにしてみれば、この試合結果は不愉快の一言に尽きる

 

男である俺がオルコットに勝ったことで、彼女たちの持つ自尊心は穢された

 

しかも、お世辞にも正々堂々とは言えない卑怯な手を使っての勝利だ。

本当なら罵詈雑言のブーイングの嵐が巻き起こっても不思議ではない。ただ、先ほども言った通りこの試合において不正は、一切行っておらず責めようがない

 

女子高生とかだと、少しくらい理不尽でも自分達が良いように解釈した事実を盾に一方的な、マジウザい、キモイ、ありえないなどの事を言ってきてもおかしくはないが

 

生憎なことに、この学園に通う生徒は2人の例外を除いてみんな優秀なのである。

(例外:男でISを動かしてしまい、裏口入学でやってきた俺と一夏)

 

心が受け入れなくとも頭の中では、この結果を理解しているのだ

 

 

それでも、納得しきれないのならオルコットが勝手にやって勝手に負けた事だと割り切るなんて考えもあるかも知れないが、やはりそれも駄目だろう

 

 

 

女という生物は、男には理解できないいくつかの生態を持つ

 

そのうちの一つがカースト制度である

 

一人の女王を筆頭にピラミッド型の巣を作る。その巣の名前を仮にグループとしよう

 

グループは一番上の女王が選んだ数人が加入でき、それから弾き飛ばされた者はまた違う女王を筆頭に新しいグループを作る

 

そうしてできたグループは他のグループと基本的には別物だが、クラスカースト上位者がいるグループは必然的に他のとこより上と認識されるの

 

つまり、同じグループでも違うグループでも関係なくカーストが上の者は他より優位な立場にあり、カーストが下の者達は基本的に上の人間に逆らわない

 

 

ただ、カースト上位者になるには色々と条件があり、誰でもなれるという訳ではない

 

例えば、容姿が優れているだとか、イケメンの知り合いがいたりとか周りからの信頼があるとかだ

 

では、このIS学園のカースト上位者とはなにか?

 

答えはISだ

 

 

人間関係、学校の一般成績、運動クラブ活動の有無、それら全てを置いてもISの操縦技術は何より優先させられる

 

 

国の代表候補生だとか専用機持ちだとかはそれだけで、この学園のカースト上位者となれるのだ

 

その証拠にあんな失言のオンパレードだったオルコットは今まで虐めや無視の対象になっていない。

 

気に入らない相手でも自分よりカーストが上のもには逆らえないのである

 

 

そんな自分達より優れているオルコットをいくら斬り捨てたとしても、それで現状が変わるわけではない

 

自分より上の者が今まで下に見ていた男に敗北した。

 

そこでいくら騒ごうが、結果は変えられない。自尊心が保たれるわけではない。プライドは傷ついたままだ

 

 

故に沈黙、分かっているけど認められない。

 

俺は何も悪くはなく、オルコットを責める事も出来ない。

 

やり場のない感情が彼女たちの動きを止める、口を閉ざさせる

 

これがもし賞賛に与えられる試合なら彼女たちも何らかのアクションができたのかもしれないがそれもできない

 

 

まあ、これが数日もたてば陰で陰口を叩かれたりするのだろうけどな

 

そんなの別に気にしないからどうってことはない

 

 

 

 

 

ピットに戻ってきた俺を出迎えたのは、4人の男女

 

なにやら呆れた顔と悲しい物をみるような顔の中間ぐらいの顔をしている千冬

 

引き攣った笑顔・・・というより完全に苦笑いの山田先生

 

特にこれと言った顔ではないが、とりあえずイケメンフェイスの一夏

 

んで、最後にポニーテールで明らか様に軽蔑の眼差しを向ける少女

 

確か名前は、ほ・・・ほ・・・・・・・・・モップだったか?

 

なんか掃除用具系の名前だった気がするがよく覚えていない。多分モップかなんかだろ、うん

 

 

4人の内で一番初めに話しかけてきたのは一夏だった

 

 

「お疲れ、八兄・・・って言っても対して疲れてる訳でもないか」

 

 

と、微笑んでくるイケメン・・・なにその顔、殴りたい

 

 

「何言ってんだ疲れてるし。一仕事終えた兄をいたわりやがれ」

 

 

「ほとんど動いてなかったじゃん。それに、攻撃も受けてないしシールドエネルギーだって減ってないだろ」

 

 

停止結界のせいで多少は減っている。まあ、微々たるものであることは確かだが

 

 

 

そんな風に一夏(イケメン)と俺(イケメン(笑))が話ていると、次に千冬が声をかける

 

・・・おい、(笑)てなんだよ。別に笑われるようなツラしてねーだろ、してないよね?

 

 

「よくやった‥‥‥…なんていうと思うか?」

 

 

腕を組みながら仁王立ちしている千冬の後ろに何やら鬼が見える気がする。

 

‥‥幻覚かな?

 

 

「お前のしたことはルール上問題はない。が、人としての行いとしては大いに問題がある。今回は致し方ないとして認めるが、今後このような真似をしたらそれ相応の罰があると思え」

 

 

「えー」

 

 

「あ゛?」

 

 

「何でもないです」

 

 

一瞬抗議しようと思ったがやめた

これ以上なんか言うと本気で怒りそうだ

 

千冬がいくら怒ったところで逃げ切れる自信はあるが、面倒だしな

触らぬ神にたたりなしという事で、ここは素直に従っておこう

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

試合後次の日の夜

 

学生寮の一室では1年1組の面々がお菓子やジュースを持ち寄ってパーティーを開いている。

 

パーティー内容は、クラス代表決定祝いとのことだ。そんな事で一々パーティーなど馬鹿らしいと思うが、このクラスの事だし本音はただ騒ぎたいだけなのだろう

 

現にこのパーティーの主役である一夏の周りを囲んで騒ぎまくってるし

 

この分だともうしばらくはこのどんちゃん騒ぎが続きそうなので、時間潰しにあれからどうなって一夏がクラス代表になったかを説明しよう

 

 

 

 

 

俺とオルコットが戦い終わり、これで3人全員が一度は戦ったことになる。これまでの戦績はこうだ

 

 

まずオルコット

 

・一夏 勝  八幡 負  一勝一敗

 

 

 

次に一夏

 

・オルコット 負    一敗

 

 

最後に俺が

 

・オルコット 勝    一勝

 

 

となる。これで俺と一夏が戦い俺が負ければ引き分けサドンデスにでもなるのだが、俺の機転によりそんなめんどくさい事にはならずに済んだ

 

俺が何をしたかと言うと、至って簡単

 

一夏との試合をバックれたのである

 

 

全員が一勝一敗状況になったが、ここでクラスの中から疑問が出始めた

オルコットとの試合もそれなりに問題だが、試合をバックれるなど素行に問題がありすぎる俺がクラス代表になって大丈夫か、という物だ

 

この疑問は実際正しく、端からクラス代表なんていうめんどくさい事を引き受けるつもりはない

 

そもそも、推薦されたのは一夏だけであり俺にクラス代表になってほしいと思っている人間なんて誰もいないのだ

 

それから、時間がないという事もあり千冬も渋々ながら俺の推薦を取り消した。そもそも俺推薦なんて入っていないんだけどな

 

 

 

 

残る2人一夏とオルコットから選ぶことになるの

 

普通で考えれば一夏に勝利したオルコットがクラス代表となる。何よりオルコットは俺ら2人と違いやる気があるわけだし、端からお前がやれよと言いたいが

 

 

そのオルコットだが、クラス代表を辞退した

 

なんでも

 

 

「…わたくしは、技術はもちろん精神的にもまだまだ未熟という事を思い知らされました・・・少しの間、自分を見つめなおそうと思います‥‥」

 

 

とのことだ

 

 

人生には一度や二度、自分と向きあうべきときがある。いや、なければいけない。

人は成功と勝利だけでは前に進めない。本当の意味で前に進むには失敗と挫折を味わい今までの自分を見直さなければいけない。

 

そうして立ち止まり後ろを振り向くことで学べることもある。例えそれが無駄に終わろうとも、自分で考えたその時間は決して無駄にはならないはずだ

 

 

これを期に、高慢な態度を改めて物静かなお嬢様にジョブチェンジしてもらいたい

 

 

 

 

 

その結果、参加者2人が失格と辞退となり必然的に残った一夏がクラス代表となった。

 

これには、クラス中が歓喜しそのままパーティー開こうぜ!みたいなノリになって現在に至る

 

 

 

今、一夏は新聞部の腕章をつけた恐らく先輩にインタビューを受けている最中だ

 

そんな、我が弟を見ながら俺は買っておいたMAXコーヒーを口に運び、屋上の手すりにもたれかかる

 

すると、いつの間にか背後に現れた影から声がかけられる

 

 

「こんなところにいたのか」

 

 

「…織斑先生こそ、こんなところに何の用ですか」

 

 

「なに、生徒に見つからんようにこれを飲もうと思ってな。場所を探してた」

 

 

隣りに移動した千冬の手にはビニール袋に入ったビールが二,三本入っていた

 

すると、そこから一本取り出し封を開ける

 

 

「教師が学校でんなもん飲んでいいのかよ・・・」

 

 

「今は、もう仕事は終わってる。プライベートにまで口出しされるいわれはないだろう」

 

 

最もらしいが、恐らく間違っていると思う

別に指摘はしないが多分間違っているだろそれ

 

 

「お前こそ、こんなところで何をしている。あっちに行って騒いで来ればいいだろう」

 

 

千冬は、飲み終わった缶を片手で潰しながらクラスがパーティーをしている部屋を指さす

 

飲み終わるのはっやッ、それとつぶすな色々と怖いから!?

 

 

「生憎と騒がしいのは苦手なんで、それに俺が行っても微妙な空気になるだけでしょ」

 

 

「それが分かってるなら、あんなことしなきゃいいだろ‥‥‥お前は相変わらずだな」

 

 

ふと隣に目を向ければ、千冬は何処か悲しげな瞳で夜空を眺めている

 

こういう瞳を俺は何度も見てきた。千冬が考えてることは分からないが、思っている事はなんとなく分かってしまう

 

彼女も、違う世界の彼女たち同様にこんな俺の事を少しは思っていてくれてるらしい

 

ただ、彼女の言う相変わらずとは、何を指すのか・・・入れ替わる前のこの世界の俺の事か

 

それともここ数年一緒に暮らしてきた今の俺の事か・・・その答えはおそらく一生分からないのだろう

 

でも、別にそれでいい

 

 

誰がどう思おうとも今ここにいるのは俺なのだから

 

 

こうして、俺の日々は過ぎていく

例え世界が変わろうとも、俺が俺である事には変わりはない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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