比企谷 八幡の異世界漂流記(沈黙)   作:Lチキ

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IS インフィニット・ストラトス

痴漢冤罪で捕まり、詐欺師になり10年以上。ここまでの年月詐欺師として生きてきた俺の人生は碌なものではなかっただろう。得る物はただの金と恨み、失う物は見ず知らずの人の人生と人としての何か。

 

まったくもって釣り合わないし、割に合わないしくだらない人生だった

 

 

だが、そんな下らないものでも少しは役に立つこともある。例えば今の状況なんかがそうだ。

 

詐欺を働くにおいて大切なのは情報でも、うまいやり口でも、騙しやすい人の選別でもない。どんな状況においても常に冷静に物事を考えられ、その都度場合に会った対応をする適応力と判断力である

 

 

最初の頃はボッチスキルをフルに発動し、ところどころでキョドっていたがもはやベテラン詐欺師となった俺は大抵の状況で取り乱すという事はなくなった

 

 

なので、つい今しがた事故に会い絶命したはずの俺の体が傷一つない状態である事にも動揺はないし、その体が異様なまでに小さくまるで中学生のような体型であった事にも全く驚かない

 

 

さらに、そんな俺が今いる場所はどこかの民家であり知らないうちに姉と弟がいる事にもさほど思うことはない

 

 

終いの果てには俺の性がなぜか比企谷から織斑に変わっている事に対してもどうという事はない

 

 

さて…ではとりあえず状況を整理しよう。まず俺の名前は比企谷 八幡、御年38を迎えるおじさんで、車に引かれて恐らく死んだはずだ

 

 

だが、死んだ俺は天国‥‥は端から無理だろうが、地獄に落ちることなく気が付けば見ず知らずの家の子供になっていた

 

 

ついでに言うとここにはISという女子にしか扱えないパワードスーツが存在しており、そのせいで世間は女尊男卑が当たり前という事だ

 

 

このISは世間で知らぬものはいないというほどの知名度だが、その存在は俺は知らないしそもそも死ぬ前の世界にそんなものは存在していない。つまり俺は異世界に来てしまったという事だ‥‥‥‥‥‥‥ふぅー

 

 

「落ち着いていられるかァァ――!!」

 

 

いやいや流石にないわ、いくらベテランの詐欺師でもこの状況で平然といられるわけがないだろ!

体が縮んだとかまではまだ分かる。コナン君でもおなじみだしな、名前が変わっているのも受け入れよう。そもそも職業上の都合でいくつもの名前を使い分けていたことに比べるとさほど気にすることはない

 

死後の世界とかあんまし信じてないし輪廻転生の概念も希薄だが起こってしまった物はしょうがないと、生まれ変わった事も問題ない。むしろどんなにクズな人生を歩んでも決して自ら命を捨てようとは思わなかったしどんな形でも生きている事に感謝しよう

 

 

でも、異世界とか意味わかんない、そんな経験した事ないし。

よしんば外国に行ったと思えば受け入れられなくもないがそもそも生前約40年あまりの人生で日本の土地を離れたことがないので無理だ。

 

 

俺はどんなことでもそれが必要なら冷酷な判断を冷静にするという事で関係各所から忌み嫌われているが、それも全ては長い年月に培った経験からなせる業だ。

逆説的に言えば、経験したことがないならどんな些細な事でもキョドるということだ。

 

 

しかも、この世界なんだか胸糞が悪い。それも世の女尊男卑の風潮のせいだ。

歩道の端の方を歩いていたところに前から来た女子グループの一人と肩がぶつかった。俺は端を歩いているし非はない。逆にむこうは道に対して横並びで歩いてきて端から見ると凄い迷惑だ。

 

しかし、肩がぶつかり俺が軽く会釈して立ち去ろうとすると

 

 

「ちょっと!ぶつかっといて謝りもしないわけ!」

 

 

「そうよ!男のくせに謝りなさいよ!」

 

 

などといちゃもんをつけられた。しかもこの世界ではこういうことが割と日常で起こるらしい。まったくもって胸糞が悪い

 

 

まったく、前の世界でも世界は俺に厳しかったがここではそれ以上に俺に厳しいとか、贅沢は言わないからせめて人並みくらいには寛容でいろよ世界

 

 

 

「八兄いきなり大声出してどうしたんだ?」

 

 

小町でさえ俺の事をそんな呼び方したことないのに俺の事を八兄呼ばわりするこの少年

見た目は葉山みたいなイケメンリア充風味で性格はよくも悪くも男の子という感じで俺との関係で言うなら弟だ

 

弟だが俺が三月生まれでこいつが四月生まれなので同い年という事になる。

名前は織斑 一夏だ

 

 

「別になんでもねーよ。それより姉貴はどうした?」

 

 

「今、大会の打ち合わせがあるとかでもう少しかかるって」

 

 

「あっそ、それじゃあ適当にぶらつくか」

 

 

さて、いくつか聞きなれない単語が出てきたところで今現在の状況を説明しよう。こういうのは簡潔に初めの内に言っておいた方がいい。それは詐欺師として、というか俺自身が無意味に面倒な事を先延ばしにするのが嫌いだからだ

 

 

先に言ったとうり、この世界の俺には天使のような妹がいない代わりにイケメンの弟とさらに上に一人姉がいる。

姉の名前は織斑 千冬、見た目は年相応以上に成熟したお姉さん系でその性格も年上といった感じだ。それも、織斑家の事情によるものからだろう

 

 

織斑家には俺達三人しかいない。それは両親がある日突然、姿を消したからだ。要は俺たち三人を捨てて2人で逃げたという事だ。それからは一番上の千冬が弟2人の面倒を見るため女手一つで育て上げた雪ノ下さん並みにハイスペックな人だ

 

 

大会というのはIS、正式にはインフィニット・ストラトスの世界大会に出場している。驚くべきことに第一回目の大会を優勝し今大会の優勝候補ということらしい

 

 

イケメンの弟に文武両道、天下無敵な姉、それに挟まれる生前の中学時代と姿形が変わらない俺‥‥‥世界は残酷だ

 

 


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