俺の手元に残る2枚のカード、スペードのAとジョウカーは行き場を失い空中にただずむ。持っている俺の手は微振動を繰り返し、机の上または机から落ちた数枚のカードを虚しくも見つづけている
「‥‥‥ふう」
まあ待て落ち着け俺、まだ慌てる時間ではない。冷静に状況を把握しよう
俺の手にはカードが2枚、机の上には崩れたタワーの残骸が散乱し、先ほどまでざわざわと遠巻きから見ていた女子たちはなぜか無言
いや、どこからかうわぁー‥‥とかあー‥‥とか言う声が聞こえる
その視線は俺ではなく崩れたトランプに向けられ、俺の目の前は金髪縦ロールの外国人が一人
うん、どう考えてもアウトだわ、慌てる時間なんてとっくに過ぎてた‥‥
「そこの貴方!返事くらいしたらどうですの!!」
「あ‶あ‶ん?」
悲観してる俺に向かい金髪はさらにまくしたてるように話しかけるが、なにぶん今は虫の居所が悪いのでやや乱暴に答える。ゆわずもながらだが、機嫌が悪い理由は目の前にいるこいつである。
「まあ!なんですのそのお返事は!」
なにやらオーバーなリアクションでおどけるが、こちとら今それどころではない。俺の八幡スパイラルタワー(トランプタワー)崩壊の影響で心が凄く荒んでいる
理由は目の前にいるこいつである。
「私に話しかけられるだけでも光栄なのですからそれ相応の態度という物があるのでないかしら!」
フンと鼻を鳴らしながら偉くご立腹の様子だが、人が丹精込めて建てた塔をぶち壊した奴に対する相応の態度なんてこれでもまだ寛大な部類だろう
「そいつはすまねーな。名も名乗らない奴に話しかけられたらガン飛ばすのが俺なりの相応な態度てやつなんで」
ちなみにこれはマジである。裏世界とか舐められたら終わりだし虚勢を張り続けなくては一流の詐欺師とかやってられないし生きていけないので礼儀知らずにはそれこそ、ガンも飛ばすし声だって低くする
それが俺なりの処世術だ
というかこいつ、目の前で八幡スパイラルタワーが崩れてるのを見て謝罪の一つもないのかよ?あん?
「なっ!わたくしを知らない⁉セシリア・オルコットを!イギリスの代表候補制にして入試主席のわたくしを知らないと言うのですか!!」
バンッと机をたたいて顔を怒りで赤らめたオルコットが怒鳴ってくる。
その時カードが何枚か床に落ちるが知らぬ存ぜぬで話を続けるこいつに先ほど以上の怒りを感じる
他人の物を大事に扱わないとかそれでも貴族かこいつは?
正直な話、俺はこいつセシリア・オルコットの事をすでに知っている。IS学園に入学する事が決まり何をおいても率先して行った行動は情報収集である
情報は時にどんな武装より強力な武器なる。それは世界を巻き込む戦争も、企業同士のいざこざも、子供同士の喧嘩でさえ効力が発揮される。
俺自身、情報という力にいつも頼ってきてたので折り紙つきで言える。詐欺にしても警察の網の目を掻い潜るにしても何より情報がなくては成功しない
それ故、できる限りの情報網(ネットや雑誌)を駆使して集めた結果、そう難しくなくセシリア・オルコットにたどり着いた
イギリスの代表候補制で第3世代型IS『ブルーティアーズ』をもつ専用機持ち
名門貴族のお嬢様であるが両親はすでに他界しており、幼いながらも両親の遺産を周りの大人達から守ってきたやり手
今会話した感じだと、育ちのためか口調が上品ではあるが、プライドが高く自信家。いちいちオーバーリアクションを取ることから役者気質か形から入るタイプだろうと予測できる
そしてもっとも重要な情報はこのIS学園内でもオルコット家の誇る富は1、2を争う金持ちである。
幸か不幸か間違いなく不幸ではあるが、この俺に目をつけられたかわいそうな少女(カモ)ただし今現在は憎たらしいカモにグレードアップしている。大事な事だから3回言うがその理由は目の前にいるこいつである。
ここで俺には3つほどの選択肢が存在する
1つはこのまま友好的な態度で親睦を深めいずれ金を騙し取る
2つ目はとりあえず様子を見て、お互いが冷静な時にまた話をしてから詐欺にかける
そんで俺が選ぶのはその2つではなく3つ目の選択肢‥・・・
「ああ知らないな‥‥代表なんちゃら?だか、なんだかお前みたいな礼儀知らず全・く・知らないな」
むしゃくしゃしたのでとりあえず泣かせてから金をぶんどり詐欺におとすだ、こんちきしょう
「な!代表候補制をしらないなんて信じられませんわ!!日本の男性という物はこれほど知識に乏しい物なのかしら!常識ですわよ常識」
オルコットは両手をあげヤレヤレといった感じで答え、両腕を組み換えはあとため息交じりにこちらを睨んでくる
ちなみにこいつ曰く常識という代表候補制の存在はぶっちゃけ世界規模で認知度があまり高くない。特に男の方で国家代表くらいなら知っているが代表候補制までは知らないという者が結構いる
そもそも男にとってISなんぞただのスポーツという認識がほとんどだろう。なんせ動かすことができないのだから自然と興味も薄くなる、世界大会連覇という事もあり日本では割と世間一般から認知されてる方だが他の国とかじゃ関係ない男はせいぜいテレビ中継を見るくらいである。
逆に女子の場合は、操縦者になれる可能性があったり整備科として就職したりなんかという堅実な将来のために幼いころからそういった勉強に触れるのでIS関係の知識で男女の間に差が生まれるのも致し方ないのだ
女子では常識、男子にはなんだそれ?それが代表候補制の世間的認識といっていいだろう
さらにこれは必要か分からん情報だが、ISの操縦者は比較的美人が多いので純粋にスポーツとして楽しむ意外に邪険な気持ちでやたら詳しいやつがいたり、一部の男達の間では本人もびっくりなくらいの個人情報が出回っていたりするらしい
「それじゃあその常識とやらを教えてもらえるか、セシリア・オルコット」
「フン、いいですわよ下々の者の要求にこたえるのも貴族の務めですもの」
なんだろう?今にも片手を口元に持っていきオーホホホホみたいな笑い方をしそうなこの雰囲気は?一々嫌味ったらしい奴だ
「代表候補制とは――――――」
「国家代表IS操縦者の候補生の事で一言で言えばエリートと言うわけだな」
オルコットは瞳を光らせ意気揚々と話そうとするが、途中から俺が代わりに言い唖然とした表情で一瞬固まる。が、すぐに顔を赤くして詰め寄るように声を上げる
「あ、あなた!知っていましたの!!」
「なに言ってんだよ、仮にもIS学園に通うならそのくらい知ってて当然、常識だろ?じょ・う・し・き」
上から見下ろす様にあからさまな嫌味ったらしい笑顔を向け様子を伺うが、予想どうりにオルコットはかんかんに怒っている
「先ほどまでは知らないと!!!」
「は?俺は別にそんなこと言ってないだろ」
「わたくしを知らないと―――――――――」
「ああ、お前の事は知らんよ。でも代表候補制ってもの事態は知ってんだよ。俺が知らないのはあくまでお前の事を、だからな」
「なっ!あ、貴方このわたくしを愚弄するつもりですか!」
「ベッツにー俺はただ、事実をありのまま述べただけだぜ?それともまさかお前‥‥自分の事は学園中の全員が知ってるものだとでも勘違いしてたわけ?」
「なっ!!?!」
「うっわその反応まさか図星かよ‥‥恥っず」
「馬鹿にしてますの!?」
キイ――といった感じで物凄い怒り心頭の彼女を尻目に内心ではYESめっちゃしてますと頷く
というか面白いくらいに挑発に乗ってくるな、もういっそちょろいといってもいいレベルだ。俺の調べでは貴族の家を守ってきたかなりのやり手といった印象だが‥‥こんなんで良く家を守ってこれたものだ
ある意味、彼女自身に関心しそれと同時に将来が心配である。悪い男に引っかかったり、一人の男をずっと思うあまりに婚期を逃したり、詐欺師に騙される情景がありありと見える。
特にそのうち1つは、そう遠くないうちに現実のものになるのだから‥‥まあ、その詐欺師は俺なんだがな
「おいおいそんなわけないだろ?仮にも国を代表するエリートを馬鹿にするなんて恐れ多い。俺みたいな凡人にはミス・オルコットのような存在はまさに雲の上の存在。なにぶんコミュニケーションというのが元来苦手でな、不用意な発言で気分を替えしたんだったら謝る」
さきほどまでの態度を急変し目細めながら会釈する俺にオルコットは一瞬困惑の色を見せるが、すぐに胸を張り某時間をループする魔法少女のように長くきれいな金髪をファサ―とかきあげながら体の方向を後ろに向ける
「ふん!わたくしは優秀ですからあなたのような粗暴な相手にでも優しくしてさしあげますわよ。分からない事があればまあ、膝を付き泣いて頼べば教えて差し上げない事もなくってよ」
感情の起伏が激しいのか先ほどまでの怒り心頭から打って変わって高慢な態度を誇らしげに自慢してくる。
そんなオルコットを見る俺の目が酷く冷ややかな物になっているが本人は気が付いていないらしく、私って優秀なエリート自慢大会を一人で続けている
「なんせわたくし入試で唯一、教官を倒したエリート中のエリートですから」
「ワースゴイデスネ」
本来は機密になっている情報だが今年の入試で教官を倒したのは全部で3人、まあ倒したといっても教官らはある程度手を抜き、生徒の基本動作や操縦技能、戦略の構築などを確かめるような動きをしており決して本気ではなかったがな
で、3人ののうち一人は先ほど自分から申告したオルコットであるが残りの2人は俺と一夏である。
俺達の場合は色々とイレギュラーが重なっているので、本来受けるはずではなかったIS学園には特別枠として入学している。そのため俺達2人の入試データは、本来存在していない
オルコットはイレギュラー(俺と一夏)を除けば唯一教官を倒したエリート(笑)である
ちなみにだが、俺らは筆記試験を受けておらず実技試験だけを受けている。そもそもIS学園とは女子の中でも優秀な成績のもののみが入学できるエリート校であり、その倍率は年々増えていき一説ではすでに東大より上という話だ
そんな学校に、今まで就職率を見据えた学校に行く予定だった俺達が正規の方法で受かるわけもなく致し方のない配慮といえる。
つまり政府公認の裏口入学である。ただ、データ収集の意味合いが強い実技試験を形だけ受けたらなんやかんやで勝ってしまっただけなので誇れるかどうか分からない話だな
一夏は日本純正の訓練機、打鉄を使用し、俺は訓練機ラファール・リヴァイヴ使いオルコットは自分の専用機を使っていた。こちらも誇れるかどうか分からない話だ
「まあ、もっともわたくしの教えを受けたいのあればまずその腐った目を洗浄してからいらっしゃいな」
そのまま自分の席にまで戻るオルコットに向け俺は満面の笑みで答えた。
「それじゃあな、自意識過剰の代表候補制ハズカシ・チョロコット」
「あ!!貴方ッ―――――――」
顔を真っ赤にして振り向くオルコットが何かを言うと同時にチャイムが鳴り先生らが教室に入ってきて、オルコットは顔から蒸気が発せられるほどの怒りを持ったまま自身の席に戻る。その時ドカッ!という大きな音をたてながら乱暴に座る彼女に隣の生徒は恐々としていたのは言うまでもない