ご主人様に忠実な氷属性を操るTSダウナー系メイドさん 作:TSしか書かないマン
どうやら俺は異世界に転生していたらしい。
自分に前世があったことを思い出したのはいつもの様に洗濯物を外に干していた時だった。それは丁度気持ちのいい昼下がりの時であった。
そして、同時に今の自分が前世の性別とは異なることに気づく。
というのも、今世での俺は女であるようだ。
近くの水たまりを覗き込んでみると、そこには三白眼の灰髪の少女がいる。
顔は……そこそこいい。
というか、まぁ、結構いい方なんじゃないか?
目の下のクマが大きくて若干ダウナーな雰囲気なのだが、そこもまた好みによりけりってところだろう。
個人的には……かなり好きな見た目だ。
このジトっとした目つきがなんともたまらん。最高だ。
ま、自分で言うのもなんだがな。
……うん、容姿についてはそんな感じだ。
と、水たまりに移りこんだ自分の姿を評定しているとふと自分がまだ仕事の途中だったことを思い出してしまった。いかんいかん、まだ仕事は終わっていないんだった。さっさと洗濯を終わらせなければ……と急ぎながら再び洗濯物へ手を運ぶ。
なにせ今世での俺は
ご主人様に使え、己の持てるすべての力で奉仕する。
それが今世での俺の仕事なのだ。
……とは言っても本心からそんなこと思ってるわけじゃないぞ?
そりゃ、あれじゃ。
使えないメイドだと思われて主人に解雇されてしまうと困るからなのじゃ。
と言うのも、この異世界では”メイド”なんて言う素晴らしい仕事なんてそうそうないんだ。
基本的にこの異世界では、安心して働くなんてことが出来ない。
農民なら常に天候に怯えなければいけないし、冒険者ならば魔物に怯えなければならない。このように、この世界の仕事と言うのは常に不安にさらされるものだ。
だが、その点このメイドと言う仕事は素晴らしい。
これと言った外敵もなく、塀に囲まれた安心安全な屋敷の中でご主人様のお世話をするだけ。さらには、安定した賃金まで出るではないか。
うっひょー、ご主人様ァ!最高ですな、一生ついていきやす!
……そういう訳で出来ればこのメイドと言う仕事を辞めたくないのだ。
だから、最大限ご主人様の役には立とうと思っているし、無能だと思われたくないのだ。
▽▲▽▲
さて、そうして洗濯を終えたころにはすっかり疲れてしまったのでいったん屋敷の中に戻り休憩することにした。屋敷の広間では、一先ず午前の仕事を終えたメイドたちがたむろっている。
そんな中をすいすいと進んでいき、丁度よい腰掛に腰を下ろす。
このようなメイドたちが集まる場所では噂話が飛び交う。
というか、そういう物が彼女たちにとっての娯楽なのだろう。
だからこそ、自然とメイドたちの噂声のようなものが耳に入ってくる。
「ねぇねぇ、聞いた?最近屋敷に良くない者が忍び込んでいるって噂」
「知ってるわ!この前だって、フードで顔を隠した不審者を見かけたって噂で聞いたわ!」
「そうらしいの、怖いわよねぇ。もしかしたら暗殺者だったりするのかしら」
「新しい坊ちゃんは、事情が複雑ですからねぇ。でも、どういう訳かまだ犠牲者が出ていないのよ。どうしてなのかしら」
「確かにそうですわね。ねぇ、あなたはどう思います──?」
とメイドたちの噂話に聞き耳を立てていると噂話をしていたメイドたちが不意にこちらの方へ話を振ってきたではないか。うお、マジでびっくりしたやんけ。
が、それを知られるのは恥ずかしいのでびっくりしたことは顔には出さずなんともないみたいな感じで返事をする。
「……実は夜中こっそり誰かが起きていて、その暗殺者とやらを退治していたりするんじゃないでしょうか」
「えー!その発想はなかったわ!」
「でも、聞いたわ!噂話で夜中に館を徘徊するメイドがいるって!そのメイドの事なんじゃないかしら」
「それ、すごくカッコいいわね!夜中にこっそりご主人様を守るために暗殺者と戦う、なんていいシチュエーションなのかしら」
「憧れますわねー、私もそんな風になってみたいわぁ」
と、俺が提示した話がかなり気に入ったのかうっとりとするメイドたち。
ま、まぁ、気に入ってもらえて何よりだ。
……うーん、ちょっとだけ気まずいな。
流石に冗談めかして、アレを言ってしまったが……結構恥ずかしいな。今度からは流石に自分の事は言わないようにしよう。うん、そうしよう。
そうして俺は新たに教訓を得たのであった。
▽▲▽▲
すっかり日が暮れ、屋敷の中が闇に包まれたころ。
一つの明かりが屋敷の中に入っていった。
するするとそれは滑らかに屋敷の中を進んでいく。
まるで、何か目標があるかのように。
それは……フードを被った男だった。その右手には、月夜に輝く刀剣が握られている。
そして、それはとある蝋燭の光が漏れるとあるドアの前でその足を止めた。
ゆっくりと、そのドアへ手を伸ばす。
と、その時だった。
ヒュン!
何か、鋭い物が高速で飛来してきた。
男はとっさに避けたが、先ほど男の心臓があった場所にナイフが刺さった。
そして、そのナイフを見て男は気づく。
それはナイフではなく氷なのだ、と。
「こんばんわ」
闇の中からぬるり、と灰髪のメイド服を着た少女が現れた。
少女はめんどくさそうにその大きなクマがある三白眼を男の方へ向ける。
「な、何者だ!」
男は、その少女に問いかける。
明らかにその少女の纏っていた雰囲気がメイドのそれではなかったからだ。
そして、そのメイドは何てことなさそうにその質問に答えた。
「私ですか?……ご主人様に使えるただのメイドです」
「……そうか」
「ところで、あなたは暗殺者の様ですが……何か言い残すことはありますか?」
「殺す相手に残す言葉など、ない」
「なら、さよならですね」
そうして、ひっそりと戦闘が始まった。
が、戦闘と言うのはあっけないほどすぐに終わってしまった。
ビュ
なにか、空を裂く音と共に暗殺者の首が落ちる。
「は?」
世界がひっくり返ってしまったことに暗殺者は戸惑った。だが、すぐさまそのメイドが手元にある氷の刀で彼の首を両断したことを理解した。なぜならば、自分の胴体が目の前にあったからだ。
「あーあ、だから言いましたのに。なにか言葉を言い残しましょうって」
彼女の操る氷魔術により周囲の温度がとても低くなっているため、彼女の吐く息は白い。
そして、気だるそうに彼女は後始末を始めた。
▽▲▽▲
あー、めんどくせぇな、これ。
めっちゃ血が飛び散ってるんだけど、ああもう滅茶苦茶だよ。
一応凍らせといたからまだマシなんだが、それでもイチイチ掃除するのはめんどくさい。
いやー、ね?
こちらも雇用主が死んだら困るんだ。そうなってしまったら安定した収入源と言うのがなくなってしまう。
本当は毎晩暗殺者の相手なんてしていられないんだが、向こうが勝手に襲い掛かってくる以上放置すると言う訳にもいかない。
あー、もうめんどくさい!
こっちだって寝たいっつーの!ああ、もう!
死ぬなら勝手に死んでくれ!
だが、これもメイドと言う仕事を続けていく上では仕方がない事だ。嫌でもやらなきゃいけないんだよなぁ。
まぁ、つってもこういう暗殺者は許せんが。
出来ればもう二度とこないでいただきたい。
いや、本当に。マジで。
だってさぁ、もうかれこれ3か月はまともに寝てないんだよ?
回復魔術でごまかしてはいるけど、それでも限度ってものがある。
マジで来ないでほしい(泣き)
と、そんな感じでぶつくさと不満を垂れながら後処理をするのであった。