「………。」
昨日、コハルちゃん告白された…はずです。
「…あら、浦和ハナコさんですわね。……最近はあまり変なことはしていないみたいですが……?」
「…………。」
……ただ、あまりにも突然のことすぎて。本当に記憶が曖昧で。もしかしたら、夢だったのかもしれないと思っている自分がいます。
「…えっと、大丈夫でして?」
だから、その時には上手く返事が返せなくて。
「……………。」
「ハナコさん…?」
────あ、あの。ハナコのこと、えっと、好き……なの。友達じゃなくて、こ、恋人として!!
────だから、その。
────私と付き合ってくださいっ!!
…ぷしゅう。
「……ハナコさん!?お顔が真っ赤でしてよ!?」
「あ、あら。ごめんなさい。気がついていなかったようです。」
考え事に夢中になりすぎて、周りの様子も分からない状態。…分かってはいましたが、私、かなり動揺していますね……。
「なにかありましたの…?体調が悪いのであれば救護騎士団へお付き添いいたしますわよ…?」
「…そう、ですね。」
何方かはご存知ないのですが、わざわざ声をかけてくださったこの方にお礼を伝えて、1人で救護騎士団へ向かおうと思っていた時でした。
「────救護が必要ですか?」
救護騎士団団長の蒼森ミネが背後に立っていました。音もなく、突然。
「ひゃあ!?…み、ミネ団長…!?……こほん。丁度いい所に。浦和ハナコさんを救護の程、よろしくおねがいいたしますわ!!」
そう言って、そそくさと去っていきました。
平然を取り繕ったつもりなのでしょうか…?少しだけ素が出ていて……からかいがいのあるお方ですね…♡
「…ふむ。……目立った外傷なし、脈拍正常。」
そうくだらないことを考えている間に、私の検診を手早く行って、隅から隅まで♡確認されていきました。
……心の中で茶化しても、もやもやは晴れません。
「…なるほど、浦和ハナコさん。悩み事がありますね?日常生活での注意が散漫になるほどのお悩み、救護対象ですが……」
…流石は救護騎士団団長です。何もお伝えしていないのに、そこまで正確な判断を下せるのは見習わせて頂きたいです。
「私で良ければ力になりましょう。私に伝えにくいのであれば、それ相応の対応をいたしましょう。」
そう仰ってミネ団長は私の瞳をまっすぐ見つめて。あなたの味方です。そう言われているようで。
…本来であれは、恩を売ってしまうことになるのでお力添えは遠慮しておくのですが。…そうも言ってはいられない程に私は動揺している、のでしょうね。
「…では、少しだけ聞いていただけますか?」
「ええ。」
腰を据えず、簡潔に、手短にお伝えしました。
お友達のコハルちゃんに想いを伝えられてしまったこと。
その想いに答えられずに曖昧な返事をしてしまったこと。
その想いに、私はどう答えたらいいか分からないこと。
私の悩みを聞き終えたミネ団長は、上品に微笑んで。
「ハナコさん。貴方にも乙女らしい所があるのですね。ふふ、学生らしい一面もあって安心しました。」
……自分の事のように、嬉しそうに言いました。
「……学生らしい、なんて。」
「思い悩まれていた時期を見ていた私からしたら喜ばしいことです。良いお友達を得ることができたのも理由の1つでしょうか。」
「……。」
……実のところ、あまり実感はありませんでした。自分をさらけ出せる環境となっていた補習授業部ですが、結局はその範囲だけと思っていました。
学生らしい私。……今の私には分からないことでした。
「さて、単刀直入に聞きます。ハナコさん。」
威圧感。救護対象に突っ込んでいく時のミネ団長の雰囲気に、私は少しだけ息を飲みました。
その様子を見ていたミネ団長は一呼吸おいてから。
「貴方は、下江コハルさんのことが好きですね?」
私が逃避していた事実を、逃がさないように正面からぶつけてきました。
「…はい、好きなんだと、思います……」
…しりすぼみに声が小さくなってしまいました。……いざ実感すると恥ずかしくなってしまいます。
「そもそも、今までのハナコさんであれば、このように悩むことは無かったはずです。容赦なく切り捨て、自分だけの世界に閉じこもったでしょう。」
「では、何故悩んでしまうのか。コハルさんを大切に思っているから。…どう答えたら傷つかないか、私で本当に良いのか、後悔しないのか。」
「…おおよそ、このように思っているのではないですか?」
……その通りです。
…私は、他者からの評価を酷く嫌っていますが、私による自分自身への評価も嫌悪しています。
自分を隠して、ただ利用されてしまったら?
自分をさらけだして否定されてしまったら?
…そんな感じで怯えて過ごしていたらいつの間にか何も分からなくなってしまいました。
だんまりと考え込んでしまっている私を見て。
「不安になる必要はありませんよ。…高嶺の花、と言う言われ方は好ましくないかもしれませんが、そんな貴方に勇気をだして寄り添いたい。なんて言い出してくれたのですから。」
「…あくまで推測で根拠はないのですが。」
ミネ団長は困り顔で少し恥ずかしそうに。言葉で私の背中を押してくれた。
「…ありがとうございます。」
「いえ、当然のことをしたまでです。…ふふ、少しだけ良い顔になりましたね、ハナコさん。……あとは貴方次第です。」
ご健闘を祈ります。最後にそう一言だけ私に伝えるとゆったりとした足取りで去っていきました。
「……。」
スマホを取り出して、コハルちゃんとのモモトークの画面を開きます。
『放課後、教室で。待ってるから。』
あの日、私を誘った文面がまだそこにあって。
鼓動が速くなって。
入力する文章を考えて。
もっと鼓動が速くなって。
「……ふー…。」
深呼吸して。
「…いったん、お部屋に帰りましょうか。」
ヘタレてしまった私は、そそくさと落ち着ける場所に帰っていくのでした。
「……救護の信念は貫けたでしょうか。私なりの救護で、ハナコさんを救えたでしょうか。」
「……彼女の背中を、押せたのでしょうか。」
「…私らしくないですね。全く。」
「…きっとコハルさんはどんな貴方でも受け止めることでしょう。例えそれが、最高の結末でも、最悪の結末でも。」
「…すこし羨ましいですね。コハルさんがハナコさんを愛しているからこそ、ハナコさんの気持ちを第一に考えるのですから。」
「そんな想いをぶつけられているのです。」
「とっても素敵な恋、ですね。ハナコさん。」