【速報】朝チュンしちゃったニヤニヤ幼女がワルモノだった。俺、どーすんの?【助けて】 作:群缶
導入です。
EP1:自分のことを探偵だと思い込んでいる一般高校生の日常
D.U.区内から少し離れた位置に存在する、寂れた繁華街の裏路地にあるボロい……否、雰囲気のある小さな事務所の一室にて。
『……などの経緯から、アビドス自治区で起きた一連の事件は、新設された連邦捜査部
「ほーん。うげ、にが……」
一昔前のテレビから流れるニュースをぼーっと眺めつつ、椅子にふんぞりかえって“かっこいいから”という理由だけでブラックコーヒーを啜る男がいた。
「なぁ〜にが良くてこんなの飲んでるんだかなぁ、大人ってのは」
自分でわざわざ豆から挽いて淹れたコーヒーにぶつくさと文句を言いながら、ピンとたった寝癖が特徴の彼は“
歳は16、誕生日は1月6日。キヴォトスでは高校2年生で学生という立場ながらも、(自称ではあるが)探偵として細々と活動している少年だ。
探偵と聞けば、創作物の影響で難解な殺人事件や怪盗との華やかな対決を想像する人は多いと思う。何せ、彼もこの職に憧れたきっかけ、原点はソレだから。
だが現実はこれ。仮にも探偵を名乗っている少年の素の姿は。
「あ〜、朝日が眩しいぃ〜〜」
バカでかいあくびをかましながら、黒と灰色の中間のような色合いの髪をガリガリと掻いて、だるそうに古ぼけたソファーにダイブ。
実に自堕落的な朝を謳歌している男の姿が、ここにあった。これがたまたまならば、まだ言い訳の余地が残っているが……ほぼ毎日、朝はこんな感じなのだ。
目を半開きにしてテレビをつけっぱなしにしたまま、ぐで〜んとスマホをいじる弛み切った自称探偵。
だが、一本の電話がこのダメそうな男の姿勢をピンと整わせた。スマートフォンに表示された名前は。
「お、お疲れ様です、カンナさん」
『その声は寝起き……いや、ダラけていたな?』
「なっ……んのことですか? 今はしっかり朝の支度中ですよ」
『そうか』
思わず“なんでわかるんだよ!”と叫びそうになったのを抑えて、至って冷静に受け答えする。
まともに学校へ通っていた時から、ずっと目につけられていた厄介な人であり、勘違いでなければそれなりに(良い意味でも悪い意味でも)可愛がってくれた先輩であるカンナさん。
電話をかけてきた相手は、そんな尊敬できるヴァルキューレの現役公安局員。顔を合わせていないとはいえ、寝そべりかえったまま話すことなんてできない。
決して、訓練時代の鬼のような先輩をイメージしたからではない。ほんとに。
ダラダラと流れる背中の汗を無視して、平常心を保つ。動揺していることを悟らせず、常にポーカーフェイスでいることの重要性は、この電話相手からみっちりと仕込まれている。
「で、なんです。また何かの手伝いですか?」
『ああ。いつもの案件……依頼だ。捜索と代理を頼みたい』
「げ……また雑用じゃないですか」
『曲がりなりにも探偵なら市民の“困り事”を解決するべきじゃないか』
痛いところを的確に突いてくる狂犬な先輩に思わず眉を顰めて、ため息を吐く。
あまりにもごもっともな意見だし、自分の通りを曲げられずに迷惑をかけてしまったカンナさんに、こう言われてしまえば俺は断れない。
「そう言われると弱いんですけどね。はぁ……ひとまず引き受けます」
『そうか、なら頼む。……あー、ところでユウキ』
「はい?」
珍しく言い淀む、というか気まずそうな声で名前を呼ばれて、気の抜けた返事を返すと同時に、謎の緊張が自分の中に生まれる。
なんだろう。思春期の子どもと、父親の会話の雰囲気と例えるのが一番近いのかな。
ぶっちゃけると何を言われるのかは、察しがついている。でも、この雰囲気で妙にソワソワしながら、カンナさんの言葉を待っていると。
『戻って来るつもりはないのか』
「はい。ないですよ」
『……あくまで休学扱いだ。お前の意思さえあれば』
「カンナ先輩」
『……久しぶりだな。ユウキからの先輩呼びは』
あえてカンナさんの言葉を遮って、それ以上を言わせないようにする。
呼び方も当時のものを選ぶ。今の依頼人と請負人という関係性ではなく、あくまで後輩としてあの学校へと募らせた想いと悩みを伝える。
「今はあえてです。俺は、少なくとも“上があのまま”なら戻るつもりはないです」
『そう、か。急に悪かったな』
「いえ。こちらこそ迷惑を」
『構わない。むしろ謝るべきはこちらだしな』
「……では、お待ちしております」
『ああ、いつものように送る。また連絡する』
ピッ、という小さい音とともに消えるカンナさんの声。漏れるため息は自分のもの。
憧れて入ったヴァルキューレ警察学校での思い出と、知ってしまった……知るべきではなかった、連邦生徒会という上にある組織の秘密と裏事情。
今ではもう割り切っていることだけど、複雑な感情が心を覆っていくのが自覚できる。
「はぁ……正義ってなんなんだろうなぁ」
いっそ、正義とは逆の道に走って全部を————。
「っと、思考が危ない方に……ストレス溜まってるのかな」
まずいまずいと頭を振って思考をリセット。忘れるべきことを忘れられないというのも、なかなかに苦痛だ。
過去に起きたことは変えられない。なら、今の俺……“ボク”にできるのは。
「ボクの思う正義を、正しいと感じる
▽
「おお、
「はーい!!」
激しく流れる川の水をじゃぶじゃぶとかき分けて、探していたものをようやく見つける。
橋の上から大声で指示を出しているのは、今回の依頼人である猫のおじさん。そして、案件の内容は“川に落ちた腕時計の捜索”。
事情を聞けばヘルメット団に絡まれて揉み合いになった結果、川の中へと落ちてしまったらしい。
不幸中の幸いというかなんというか。時計が金属製でかなり重量があったおかげか、そこまで流されていなかった。
「いやぁ、助かった! 悪りぃなぁ」
「いえいえ。依頼ですし、何より見つかってよかったです」
「噂には聞いていたが、気持ちの良い坊主だなぁ。またなんかあったら頼むよ」
「はい。それではボクはこれで」
“あんがとよ〜!”と大きな声でお礼を言われて、心が暖かくなるのを実感しながら手を振り返す。
疲れているはずなのに、体へ力がみなぎるこの感覚はやはり嫌いじゃない。
気分よく次の依頼へと向かうことができそうだ。
そんなわけで、2件目の依頼は顔馴染みの人が営む喫茶店の店員代理。
「いやぁ、ユウちゃんいつも悪いねぇ」
「構いませんよ。時間で言うと8時間ですね」
「うん。コーヒーとか淹れ方は……もう知ってるか」
「はい」
「じゃあ頼んだよ!」
そんなこんなで平日の昼から夜までをひとりで回すわけだが。何度もやっている業務だし、お客さんもある程度の顔馴染みばかり。
「あ。今日はユウキなんだ」
「あら、お久しぶりですね」
「いらっしゃいませ。ああ、久しぶりだな。注文は前と同じものか?」
驚いた顔で手を振ってくるミレニアムの会計さんと、いつもの優しい笑顔を向けてくれる書記さんのコンビだったり。
「あれ、ユウキくん? 今日は店員さんなんですねっ」
「よっす。……あー、またアイツを巻き込んでブラックマーケットでペロログッズ集めでもしてたか?」
「あ、あはは……今日は違いますよ」
割と遠くのトリニティからわざわざ遊びに来てくれる、笑顔と元気が特徴の帰宅部の女の子とか。
以前に来た時は、もうひとり連れがいたけど……確かアイツは、ちょっと前にアビドスに転入?したとか先生が言ってたっけ。だから、今回はひとりなのかな。
「おっ?」
「おや」
「いらっしゃい。なんだよ、その反応」
「なーんでもないよ。ひっさしぶりの顔を見たなって。ね?」
「ええ、お久しぶりですね。その節はありがとうございました」
「別に依頼だし、ボクが引き受けたものだ。だから気にしなくていいさ」
これまた遠くのゲヘナ学園から来店してくれた風紀委員会のふたり組。今日は委員長と行政官の姿がないあたり、あのふたりは今も激務に追われているのかな。
そんなこんなで大体のお客さんが顔見知り。でもって何度かの交流もあるもんだから、気軽に業務を回せる簡単な案件……というか、バイトみたいなものだ。
今日は時間的に来なかったけど、先生やちょっと怪しい黒い大人なんかもお客さんとして来てくれる。
案外、儲かっているお店なんだろなぁ、というのは俺の勝手な推測だが、貰える報酬量的に間違っていないと思う。
今日は時間のかかる依頼が一件入っていたから、合計で2つの依頼で終わった。
基本はこんな感じのものを1日に2〜4件ほどこなしている。まぁ、探偵というか何でも屋に近い。
「う〜〜〜ん……ふぅ……」
凝り固まった肩を伸ばして大きく息を吐く。すでに暗くなった道を歩みながら、スマホで片付けた依頼をカンナさんに報告。
実にいつも通りの日常。ごくごく普通で平凡な、人によっては退屈そうに見える日常。
俺としては案外気に入っている生き方だけど……幼い子どものころに憧れた“探偵”という職種とは、随分とかけ離れている。
「いや、平和であるに越したことはないんだがなぁ」
ドンパチとそこらじゅうで銃撃が響き渡るキヴォトスを平和、なんて言って良いかは置いておき。
やっぱりたまには……ごくごく稀にはさ。難解な事件とかに鉢合わせて、こう……ずばっと解決してみたいと思ってしまうものだ。
「なぁんて、な。……こんな物騒な世界で、都合よくそんな事件に巻き込まれるわけないか」
バカなことなんて考えてないで、とっとと帰るかー。そんな思春期特有の妄想を頭の隅に追いやって。
ヘイローなんて特質したものはない一般的な男子高校生・明裏 ユウキの1日が終わっていく。
ということで、こっちの主人公はヴァルキューレ警察学校に(一応)所属している探偵くんです。
彼のモチーフは察している方は、もうわかりますよね。ええ、例の世界的な探偵です。