PHANTOM LORD   作:あんくせらむ

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【前回のあらすじ】一夜のセリフ編集がめんどい



六魔と客将

 

 時は少し(さかのぼ)り、連合軍が作戦会議を始めた頃。

 連合の拠点から2キロほど先にある樹海西側の廃村にて。

 ぽかぽかと降り注ぐ陽光を浴びながら、私ことジョゼフィーヌは六魔将軍(オラシオンセイス)の仮拠点で暇を潰していた。

 というか駄弁(だべ)っていた。

 

「いやさぁ、滅神魔法(アレ)は強いんだけどね〜。あんまり使いたくないんだよ。

 貰い物の力だし、使ったら魔導士として負けっていうか。

 嫌いってほどでもないけど、かと言って好きな魔法ってわけでもないしさ」

「ぐぐーぐ」

「あ、やっぱミッドナイトならわかってくれる?」

 

 駄弁り相手は六魔将軍(オラシオンセイス)の1人であるミッドナイト。

 いつも空飛ぶ絨毯の上で腕組んで居眠りしている奇特な青年である。

 

「ぐーすーぴー」

「あはは、だよねぇ! 気持ちわかるよ。やっぱり憧れた魔法を使ってこそだよね。アイデンティティ的にもさ」

 

 彼とは私が六魔将軍にスカウトされて以降、2番目に友達になった。

 何かしらのシンパシーを感じたのもあるだろう。

 妙に馬が合ったので、お互い暇な時は他愛ない雑談をしたりする仲である。

 なんというかこう……同好の士って感じが近い。

 

 そういうわけで特に何もすることのない今は、こうしてお喋りに興じているというわけ。

 しかしそんな私達にこれまたいつものように突っかかってくる男が1人。

 

「ボソボソうるせーぞお前らァ! 盗聴の邪魔だ!」

 

 六魔将軍(オラシオンセイス)の一角、『毒竜』のコブラである。

 彼とは勧誘の一件以降、目の(かたき)にされているようだ。

 まぁ先に手を出したのは私だから強くは言えないんだけど一応協力関係なんだし、一々文句をつけてくるのはいかがなものか。

 

「そもそも盗聴って今必要?

 せっかく監視用の霊(ゴースト)連合軍(あっち)の様子を探ってるのにさ」

「誰がテメェなんかの悪霊と感覚共有してーんだよ! 薄気味悪ィわ!」

「ひどい言い草だなぁ」

 

 ただ言いたいことはわかる。

 私が連合軍の作戦を傍聴させるために出している遣いの霊。

 これと視覚・聴覚等を共有することで遠方の様子を観察したりできるのだが、いかんせん幽霊との感覚共有など嫌がられて当然だ。

 慣れてないと酔うし。

 

「ハハハ、気にしなくていーぜ霊王さんよ。

 コブラのやつぁ負けず嫌いだからな。意固地になってるだけなのさ」

「あァ!? テメェも余計なこと言ってんじゃねぇぞ、レーサー!」

 

 キレ気味のコブラをからかったのは六魔の走り屋であるレーサーだった。

 彼は〝速さ〟に関して人並み外れた執着があるものの、基本的には気のいい性分をしている。

 おかげで私が六魔のみんなと仲良くなるまでに色々と面倒を見てくれたりもした。

 

「大体だな、何でナチュラルにミッドナイトと寝言で会話が成立してんだよ! 気が散って仕方ねぇわ!」

「えぇ、そんなこと? 寝言で会話するぐらいコブラだってできるでしょ?」

「できねぇよ! 聴く専門だこっちは!」

「なぁんだ、できなかったのか……」

「おし、喧嘩売ってんだな? 表出ろや!」

「ここ屋外だから表だと思うんですけど」

「屁理屈を……!」

 

 やいのやいのとコブラがじゃれついてくる。

 これはこれで初期より仲良くなったと思いたい。

 でも作戦前だから喧嘩はよしてほしい。

 殴り合いになったら死ぬぞ。コブラが。

 というわけで、さりげなくレーサーあたりに目配せをして救助要請を送る。

 

「なぁホットアイ、お前は寝言でなんて言ってるか分かるか?」

「金さえあればお見通し、デスネッ!」

「ああ、うん。一番話通じないやつに聞いたオレが悪かったよ」

 

 ダメだ、コントしてやがる。

 我関せずだ。

 あれじゃ道連れにできないじゃんかよ〜。

 

「とにかく勝負しやがれ、悪霊女!」

「いいけど、何で勝負すんのさ。ババ抜き?」

「オレとお前でババ抜きしたら決着つかねーだろうが。

 いいか、対戦内容は——射的だ!」

「射的?」

 

 やけに提案が早いじゃないか。

 何で勝負するか昨日一日考えてたのかな。

 

「要するに狩りだ。

 オレとお前、どちらがより遠くにいる獲物を狩ってこれるかのな。

 ただし制限時間は5秒。その間一歩も動いちゃいけねぇ。

 どうだ? まさか天下の霊王サマともあろうものがこの勝負から逃げるわきゃあねぇよな?」

「別に逃げたりしないって。ちなみに仕留めた獲物の確認方法は?」

「ホットアイの天眼で確認する」

「代金はすでにいただいておりますデスネ!」

「本当に用意がいいね……」

「おっ、面白そうじゃねぇか。オレも見物してるぜ!」

「じゃあレーサーは仕留めた獲物をここまで運んでくる係ね」

「しまった話に混ざるのが速すぎた」

「おい、うぬら……忘れているかもしれんが監視中だぞ。

 あまり羽目を外しすぎるなよ。というかちゃんと話を聞け」

 

 ワイワイと騒ぎつつ位置に着く私とコブラ。

 物見遊山に興じるレーサーとホットアイ。

 呆れた様子で注意するブレイン。

 爆睡中のミッドナイト。

 でも、何だろう。

 何か足りない気がする。

 ここにいないエンジェルは潜入中だし……あっ。

 

「コブラ、そういやキュベリオスはどこ行ったの?」

「良い質問だ。あいつなら1キロ先で野生動物を見繕っている。

 今ちょうど手頃な鹿を見つけたみたいだ」

「は?」

「言っておくがオレとキュベリオスは一心同体。

 つまりキュベリオスが捕えた獲物もオレが捕えたことになる」

「何それ初耳」

「騙して悪いが勝負はすでに始まってるんだよォ! じゃあよーいスタート!」

「あっ、ちょっ、待っ……ずるーーーー!!!」

「ハハハハ! ざまぁ見ろォ!!」

 

 ええい、汚いぞ! さすが毒竜汚い!

 だがこの程度のハンデで負けるのは私の魔導士としてのプライドに傷がつく!

 1キロ先でしょ!?

 狙いつけてる場合じゃねぇ!

 とりあえず長射程広範囲のビームでも飛ばせば何かしらに当たるでしょ!

 

「なんとかなれビィーム!!」

 

 私がちょっと上向きに放った魔力砲は空に黒線を描きながら飛翔し——見事に直撃した。

 天馬を模した空飛ぶ魔導爆撃艇(クリスティーナ)の土手っ腹に。

 

「「「「「あっ……」」」」」

 

 ちゅどーんと爆音を奏でながら墜落していくクリスティーナを遠目に、しばしその場に沈黙が流れた後。

 

「……2キロ先の獲物なのでフィーネさんの勝ちデスネ!」

「やったぁ〜」

「やったぁ〜、じゃないわァ!

 うぬら一体何をしておるかァァァ!!」

「「「「ごめんなさい」」」」

 

 ブチギレブレインの剣幕がヤバすぎたのでノリノリだった4人で素直にごめんなさいする。

 うん、やりすぎたね。

 本当に申し訳ありませんでした。

 

「まったく、余計なことを……!

 まぁいい。どうせこちらから出向くつもりだった。

 ジョゼフィーヌ、すぐに転移の準備に入れ!

 この勢いのまま奇襲をかける!」

「あいあいさーっ!」

「真面目にやれ!」

 

 ブレインの怒号を尻目に、そそくさとクリスティーナの墜落地点に『水の翼(アクアエーラ)』を繋げるよう、協力者に念話で指示を行う。

 これマジ便利なんだよなぁ〜……さすがエレンティアの魔法はレベルが高い。

 

「ほい、開いたよ〜」

 

 ていうかブレインは、あの砲撃でちゃっかりマーキングしてたことに言われずとも気づいてたか。

 コードネーム通りの頭脳だね。

 これは出し抜くのに骨が折れそうだな〜。

 

「じゃあ行くぜ、面倒は速ェこと終わらせるに限る」

「違いねぇな。ここでイシュガルの最高戦力を潰せばオレたちの勝ちは揺るがない。ヤツらを絶望の音色で染め上げてやる……!」

「これより来るべきは闇の世界! 争いが金を産み、金が争いを産む理想郷! 胸が躍るとはこのこと、デスネ!」

 

 六魔将軍(オラシオンセイス)の面々が次々と水の輪でできたゲートをくぐる。

 

 ……闇の世界かぁ。私にはその魅力がよくわからないが、彼らにとっては生きる希望でもあるのだろう。

 闇の中で育った者が闇の中でしか生きられないのは、ごく自然なことのはずだしね。

 

 私はたまたま運が良かったから、そうはならなかったけど。

 できれば彼らにも温かな世界を知ってほしいものだが……本人たちが望まないなら私にできることはない。

 予定通り、やれるだけのことをやるだけだ。

 

 よーし、そんじゃ行くか! ぶっちゃけ気が乗らないけど!

 

「ジョゼフィーヌ」

「おっと、何かなブレイン。キミから話しかけてくるなんて珍しいじゃん」

「……仕事の件だ。もしもの時は頼んだぞ」

「あー、アレね。私としてはそうならないことが一番なんだけど……。

 まぁ安心してよ。依頼は必ず果たすのが私の数少ない取り柄だからさ」

「ああ、期待している」

 

 この人も難儀な性質(たち)だなぁ。

 正直な話、私は六魔のみんなに対して、それなりに情が湧いている。

 生い立ちについても可哀想だし、できれば救いがあってほしいと思う。

 

 だが犯した罪を考えれば、到底(あがな)えるものではない。

 彼らもそれがわかっているから、今更生き方を変えることもしないのだ。

 

 私も同じ。

 数えきれない罪の上に立っている。

 そしてこれから、また一つその山を高くしなければいけないことが、どうしようもなくやる瀬なかった。

 

---

 

 魔導爆撃艇が墜落した小高い丘。

 背後は切り立った崖になっており、眼下にはワース樹海の木々が一面に広がっている。

 

「さて……とりあえず。

 全員命をもらっておこうか」

 

 決まった……!

 今のは結構カッコよかったでしょ。

 これでさっきのワタワタはチャラだな。

 コブラが白い目で睨んでいるが気にしない気にしなーい。

 

六魔将軍(オラシオンセイス)と……霊王ジョゼフィーヌ!」

「全員散開しろ! 一塊になるな!」

 

 クリスティーナ落下に伴う土煙が晴れるやいなや、ジュラさんの怒号によって連合軍が放心状態から立ち直る。

 さすが末席とはいえ聖十の1人。

 判断が迅速だ。

 

 布陣は味方のサポートが得意な青い天馬(ブルーペガサス)化猫の宿(ケットシェルター)を中心に、右翼を妖精の尻尾(フェアリーテイル)、左翼を蛇姫の鱗(ラミアスケイル)が固め、中央後方に聖十の3人が控えている。

 右翼後方にウォーロッドさん、中央にハイベリオンさん、左翼はウルフヘイムさんか。

 堅実で安定した、事前情報通りの陣形だ。

 

「メェーン、まさかこのタイミングで奇襲とは……!」

 

 いや……実際はノリと勢いなんです。

 ほんとゴメン。

 でも一応計画には沿ってるから許してね。

 というわけで始めちゃっていいよ。

 

「皆のメェーン! まずは私の『力の香り(パルファム)』でキミたちを強化する……!」

「さすが一夜さん!」

「よっ! やっちゃってください一夜様!」

「一夜兄さんが最初から本気だ……! この勝負、もらった!」

「その前に呼び方を統一しろよ!」

 

 青い天馬(ブルーペガサス)はこんな状況でも通常運転だな……。

 ある意味尊敬するよ。

 いつでも自分のペースを保てるのは優秀な魔導士である証だ。

 

「ん……? 一夜さん、それは——」

 

 だからこうして、一夜が使おうとしているのが『力の香り(パルファム)』ではないことにも一早く気付くことができた。

 

「イヴ、レン! 突き飛ばせ!」

 

 ヒビキの悲鳴のような指示がイヴとレンの耳朶を打つ。

 2人は動揺を露わにするよりも先に、反射的に跳び退りながら進路上にいた聖十の魔導士……ハイベリオンとウルフヘイムを全力で後方に突き飛ばした。

 

 直後、戦場に鼻を突くような刺激臭が充満する。

 

「ぐっ!? こ、これは……!?」

「『鈍化の香り(パルファム)』か……!?」

 

 一夜が使用したのは味方の強化を行う『力の香り(パルファム)』ではなく、その反対。

 嗅いだ者の運動神経を一時的に麻痺させる『鈍化の香り(パルファム)』だった。

 

 その被害に遭ったのは、避難勧告と救助を優先した青い天馬(ブルーペガサス)のヒビキ、イヴ、レン。

 近くに居た蛇姫の鱗(ラミアスケイル)のジュラ、リオン、シェリー。

 そして化猫の宿(ケットシェルター)のウェンディとシャルルであった。

 彼らは麻痺によって四肢の自由を奪われ、抵抗する間もなく倒れ伏す。

 

 唯一逃れたギルドは妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 彼らはウォーロッドさんがヒビキの注意喚起と同時に木のツルで後方まで引っ張っていたおかげで全員無事だ。

 

 ていうかウォーロッドさん、全身が木でできてるから香り魔法(パルファムマジック)効かないのマジ?

 残念だなぁ。優秀なサポーターである彼こそ初手で潰しておきたかったのだが。

 

「一夜さん、なぜこんなことを……!」

「フッ——なぜか、と言ったかね?」

 

 地に這いつくばりながら一夜を問い詰めるヒビキ。

 そんな彼の言葉に対し一夜は怪しく微笑んだ後、ボフンと全身を煙で覆う。

 

「そんなの……僕たちが一夜じゃないからに決まってるじゃん! ピーリピーリ!」

「なっ……!?」

 

 そして煙の中から現れたのは、2体の小さな青い星霊だった。

 彼らの名は『ジェミニ』。

 六魔の1人であるエンジェルの使い魔にして、変身能力を持つ強力な黄道十二門の星霊の一角だ。

 

「じゃあ僕たち帰るから! あとはよろしくねー!」

 

 ジェミニがそそくさと魔法陣へと退去していくのを見届ける。

 よし、これで準備完了だね。

 こういうのはさっさと頭数を減らすに限る。

 ここで過半数を討ち取れば後はもう消化試合だ。

 

「言ったでしょ? まずは命をもらうってさ」

 

 魔力を解放する。

 黒い(もや)が幽霊の姿を型取ってゆく。

 

 使う魔法は『幽兵(シェイド)』。

 お父様が妖精の尻尾(フェアリーテイル)との戦いで使った時は接触した相手の精気を吸い取る程度の魔法だったが、私が使う場合は効果が異なる。

 

 なんせ私の魔力はめちゃくちゃ呪いで汚染されてるからね。

 文字通り小指の先を掠めただけで、魂ごと抜き取ってしまう。

 

 戦場では重宝したよ。

 大抵の物理と光・聖属性以外の魔法は透過できるし。

 なにより低コストで大量に出せるのが最大の強みだ。

 

「嘘だろ……なんだ、この量は!?」

 

 とりあえず1万体ほど展開しておく。

 これだけあれば聖十の居る後方まで届くでしょ。

 

「さて……これで半分やれるといいんだけど」

 

 それは天壌覆う幽鬼の葬列。

 通り道の全てを喰らう(イナゴ)の群れが如く、草木に至るまであらゆる命を貪り尽くす。

 

 津波が大地を(さら)うように、漆黒の壁となった『幽兵(シェイド)』が連合軍を八方から包み込む。

 後方の聖十たちはともかく、前方で麻痺して身動きが取れない面々は少なくともこれで始末できるだろう。

 

 ——と思っていたんだけど。

 さすがはエリート揃いの連合軍。

 ただで(たお)れるばかりじゃなさそうだ。

 

「ヒビキ!」

「キミだけでも生き延びろ!」

「な……イヴ!? レン!」

 

 青い天馬のイヴとレンが倒れ伏しながらも魔法を発動する。

 イヴの吹雪の魔法と、レンの空気の魔法。

 2人の融合魔法(ユニゾンレイド)によりヒビキが後方まで吹き飛ばされる。

 

 そう、『鈍化の香り(パルファム)』はあくまで運動神経のみを麻痺させる。

 魔力を扱う分にはさしたる支障はない。

 とはいえそれに直ぐ気づいた上で手足もロクに動かせないまま、あの精度の魔法を使うのは尋常な練度ではないはずだ。

 最期まで己のやるべきことをやり通せる強さが彼らにはあった。

 

「リオン様!」

「シェリー!? 何をするつもりだ!?」

(わたくし)……愛していますの! アナタのことを! 心から愛していますのよ!

 だから、せめて覚えていてください……(わたくし)のことを! ずっと!」

 

 人形魔法の使い手、シェリー。

 彼女はリオンにそう言い遺すと同時、自らの魔法で肉体を変形させる。

 自身を生贄とした、まさしく()()()()()か。

 生きた防壁である以上、私の『幽兵(シェイド)』はあの肉壁の命を吸い尽くすまで突破できない。

 

 肉壁に包まれたのはリオンとジュラの2人。

 術者の命をかけた魔法は強度が段違いになるし、『幽兵(シェイド)』も彼らの命を啜るまでには至らないだろう。

 

「シャルル……」

「ウェンディ!? アナタ、何で治癒を私に! 自分に使えばアナタだけは……!」

「そんなの無理だよ……私、シャルルがいないんじゃ生きていけないもん。

 だから私の代わりに、シャルルだけは……!」

「この、わからず屋……!」

 

 化猫の宿(ケットシェルター)は治癒魔法か。

 失われた魔法(ロストマジック)のはずなのに、あの精神年齢で咄嗟にノーリスクで使えるとは恐れ入る。

 早めに潰せて僥倖だった。

 治癒されたのはエクシードだし、『(エーラ)』の魔法なら麻痺してても動くだろう。

 直接的な戦闘力はほぼないし、無視でいいか。

 

(ワッシ)の手が届く限り……死なせはせぬ! 『霊封樹』!」

 

 後方のウォーロッドさんが展開した樹木の魔法。

 それにより妖精の尻尾(フェアリーテイル)と聖十の2人、そして後ろまで吹き飛ばされてきたヒビキを囲うように、幾重にも重なった樹木の(まゆ)が構成される。

 

 あの植物の防壁、邪気を祓う聖樹だな。

 しかもそれが周囲の魔力を吸収し、際限なく強靭に成長し続けている。

 植物そのものの命と聖の魔力を常に継ぎ足すことで耐え切るつもりか。

 恐らく私の魔法は防がれるが、しかし魔力の消費は激しいだろう。

 後方をできるだけ集中攻撃するとしようか。

 

 

「喰い尽くせ、『幽兵餐渦(ワルプルギス)』」

 

 

 ——そうして、黒い幽鬼の怒涛が通り過ぎた後。

 

 

「なぁんだ……まだ半分以上残ってるじゃん」

 

 緑豊かな丘の上は見るも無惨に。

 枯れ草一本残らぬ荒野に姿を変えていた。

 

 そしてその上で、生き残った魔導士が11人。

 いや、正確には11人と1匹か。

 やはりイシュガル最高戦力だけあってレベルが高い。

 せめて聖十以外は全滅させたかったんだけど。

 

「いや……いや、だよぉ……! シャルル! シャルルー!!」

 

 荒れ地の丘に幼気(いたいけ)な慟哭が木霊する。

 そういえば化猫の宿(ケットシェルター)の彼女はギリギリ取れなかったな。

 治癒された白いエクシードが咄嗟に全力の体当たりで後方まで彼女を突き飛ばさなければ、まず命はなかっただろうに。

 

 まぁ結果として思ったより取りこぼしたとはいえ、それでも今動けるのは妖精の尻尾と聖十トリオだけ。

 他の生き残りはまだ麻痺が残っていて動けないはずだ。

 人数差はこれで7対7だし、数の利を潰せた以上は——

 

「飛ばせ、ウォーロッド」

「あいわかった」

 

 そんな思考を遮るように、ウォーロッドさんの後ろから黒い等身大の塊が砲弾のように射出された。

 彼は見た目通り植物を操る魔導士だ。

 おそらくその魔法で鞭のように(しな)る植物を使い、何かを投擲したのだろう。

 

 咄嗟に迎撃の体勢を取るが、砲弾はそれを無視するように私の(わき)をすり抜けていく。

 

「チッ……狙いは後ろか!」

 

 翼を広げた蝙蝠のように、黒い塊が花開く。

 それはマントに(くる)まった壮年の男。

 聖十大魔道序列二位、ハイベリオン!

 

「やってくれたな、貴様ら」

「うお!?」

 

 彼は私の後方に居る六魔将軍(オラシオンセイス)の眼前まで飛来し、最も手近にあったレーサーの顔面を鷲掴みにする。

 

「こちらも1人もらっておくぞ」

「ガ……ァァア!?」

 

 瞬きの間にレーサーの全身から水気が抜けていく。

 ハイベリオンさんの吸血魔法だ。

 彼に触れられれば最後、全身の血液を抜き取られ即死する。

 

 ミイラのように干からびて崩れ落ちるレーサーを手放し、彼は次の獲物へ手を伸ばす。

 このままだと六魔が何もせずに全滅だ。

 2人ぐらいまでなら許容範囲だが、全員となると私の目的にも差し障る。

 

「させないよ」

 

 振り返りざまに『デッドウェイブ・レイ』を放つために魔力を収束させる。

 しかし連合軍から目を離したその一瞬の隙に、私の横面へ特大の衝撃が襲いかかった。

 

「おっ?」

「テメェの相手はワシらに決まってんだろうが、オイ!」

 

 下手人は聖十大魔道序列三位、ウルフヘイム。

 今の彼は普段の小柄な体躯ではない。

 魔獣を取り込み自身の肉体を変身させる『接収(テイクオーバー)』の魔法によって、見上げるような巨体へと変貌している。

 

 彼は大陸一の『接収(テイクオーバー)』使いだ。

 肉弾戦闘に限って言えばイシュガルでも五指に入る実力者の拳を受けて、私の身体は紙屑みたいに吹き飛ばされる。

 

 丘から崖へと放り出された私の眼下には一面に広がる樹海の木々。

 それらが一斉に蠢き、槍のように天へと衝き上がった。

 木々を急速に成長させる魔法……ウォーロッドさんの仕業だな、これは。

 

「邪魔」

 

 ハイベリオンさんに発射する用だった魔力砲を眼下に向けて拡散、放出。

 

「『デッドウェイブ』」

 

 魔樹の大質量と闇の奔流が衝突し、相殺。

 大爆発を引き起こして木端が雨のように降り注ぐ。

 うーん……大したダメージにはなってないけど、距離を取らされた。

 このままだとハイベリオンさんに無双されちゃうな。

 

「ミッドナイト〜」

「ん……」

「よろしく」

 

 私がぶっ飛ばされてる間に、ハイベリオンさんはホットアイに魔の手を伸ばしていた。

 しかし彼がホットアイを掴む前にミッドナイトの魔法が発動する。

 

「『屈折(リフレクター)』」

「むっ! これは……掴めぬ!? 空間を捻じ曲げたのか!」

「……キミはボクの安眠を妨げた。報いは彼女の手で受けるがいい」

 

 ハイベリオンさんの差し出した手は強引に軌道を逸らされ空を切る。

 ミッドナイトの使う魔法『屈折(リフレクター)』は対象または一定範囲を指定し、術者の思い通りに歪曲させる。

 今回はホットアイの周辺空間を指定し、彼をハイベリオンさんの凶手から完璧に防ぎ切ったのだ。

 

 その隙を逃さずミッドナイトは周辺の空気を屈折、圧縮。

 空気砲として撃ち出し、ハイベリオンさんを崖の外まで吹き飛ばす。

 

 いや〜さすがは六魔最強。

 いい仕事するねぇ。

 このまま空中に放り出されたハイベリオンさんに集中砲火してもいいんだけど……。

 

「させんわい!」

「まぁ来るよね」

 

 超人的な身体能力により一瞬で私の頭上まで跳躍したウルフヘイムさんが両手を組んだ振り下ろし(ダブルスレッジハンマー)で私を地上へ叩き落とす。

 

 落下中に体勢を立て直し、両足からふわりと着地。

 今度はちゃんと防御できたから衝撃もゼロに抑えられた。

 

「さて……」

 

 軽く肩のストレッチをしてる間に、すぐさま3人の魔導士が私を取り囲むように落下してくる。

 言うまでもなく聖十の3人。

 ハイベリオンさん、ウルフヘイムさん、ウォーロッドさんだ。

 

「追い詰めたぞ、ジョゼフィーヌ。

 覚悟せよ。我ら聖十3人がかりで今こそ貴様の息の根を断つ」

「それは奇遇ですね。私も同じ考えでした」

 

 お互いがお互いを放置していれば被害が甚大になることをわかっている。

 だからここまでは既定路線。

 承知の上の3対1だ。

 この場の勝敗が戦場すべての趨勢を左右すると言ってもいい。

 つまり最初からクライマックスってこと。

 

 示し合わせたように、全員が一斉に魔力を解放する。

 空間が軋みを上げ、大地に亀裂が奔る。

 天変地異の前触れだ。

 

「さ、気合い入れてやり合おうか。

 適度に長引かせてくれるとありがたいな」

 

 そしてついに、大陸最強を決める戦の火蓋が切って落とされた。

 





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