PHANTOM LORD   作:あんくせらむ

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【前回のあらすじ】一手で8人ダウンさせたエンジェルとかいうMVP



瓦解と極光

 

 聖十大魔道3人が霊王ジョゼフィーヌを引き連れて戦場を移した後。

 残された連合軍は当然のように六魔将軍(オラシオンセイス)の猛威に晒されていた。

 

「一時撤退だ! 私が引きつけている内に、お前たちは動けない者たちを避難させろ!」

「おい、エルザ! 1人で突っ込んでんじゃねぇ!」

 

 現在の連合軍で万全の戦闘が可能なのは妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士のみ。

 その中で最も強いS級魔導士であるエルザは自らが囮となるべく、グレイの制止を振り切り無謀を承知で単騎駆けを敢行した。

 

「相手をしてやれ、コブラ」

「キヒヒ、任せなブレイン。アイツにばっかデカい顔させてらんねーからな。いくぞ、キュベリオス!」

「シャーッ!」

 

 迎え撃つのは『毒竜』のコブラ。

 彼は相棒の大蛇キュベリオスの尻尾に足をかける。

 横薙ぎに振り回される尻尾の推力に従い、放たれた銃弾のようにエルザへと急接近した。

 

「『天輪・繚乱の剣(ブルーメンブラット)』!」

 

 対するエルザもまた『天輪の鎧』へと換装し、その白銀の翼を煌めかせてさらに加速。

 同時に三十を超える刀剣を展開し、接近するコブラを串刺しにせんと殺到させる。

 

「無駄だ、全て聴こえている!」

「なに!? この数を避け切るとは……!」

 

 しかしコブラもさることながら、自身の『聴く』魔法によってエルザの思考を聴き取り、身体を捻って最小限の動きで回避する。

 

「捉えたぞ、妖精女王(ティターニア)——」

「換装! 『炎帝の鎧』!」

 

 だがエルザに動揺はない。

 攻撃が避けられるのならば、避けられないほどの広範囲攻撃をすれば良い。

 即座に導き出した勝ち筋の下、呼び出した真紅の鎧に魔力を注ぎ込み、全方位を爆撃するべく赤熱させる。

 

 そして高熱が放射される直前、『炎帝の鎧』が(きり)のように掻き消えた。

 

「なっ!?」

 

 突然の意図しない武装解除。

 さしものエルザといえど、一瞬思考が停止する。

 

「やれ、キュベリオス」

「キシャァアア!!」

 

 その隙をコブラが聴き逃すはずもなく。

 針に糸を通すが如き完璧なタイミングでキュベリオスを(けしか)け、エルザの腕に噛み付かせる。

 

「ぐ、あ……!」

 

 毒牙が血管に食い込み、神経毒に(おか)されたエルザは堪らず膝をついた。

 

「おい、エンジェル! 勝手に人の獲物に手ェ出してんじゃねぇよ! テメーから殺されてぇのか!」

「はー? せっかくサポートしてやったってのに失礼の極みみたいな態度だゾ!」

「余計なお世話だって言ってんだ! 次やったらマジでブッ殺すかんな」

 

 なぜ、エルザの換装が強制解除されたのか。

 その理由はコブラとの戦闘に乱入してきた女魔導士、エンジェルにある。

 否。正確には彼女の隣に佇む存在に、だ。

 

 エンジェルの側には『炎帝の鎧』を装備したエルザ本人が何食わぬ顔をして立っていた。

 勿論それはエルザ本人ではない。

 エンジェルと契約している双児宮の星霊ジェミニが変身した姿である。

 

 エルザが攻撃を行う寸前、ジェミニはエルザの姿をコピーし、換装の魔法で無理矢理『炎帝の鎧』を彼女から強奪した。

 結果、武装を剥ぎ取られた彼女は無防備な生身を晒し、キュベリオスの毒牙に倒れたというわけだ。

 

「エルザっ! くっ……開け、人馬宮の扉『サジタリウス』!」

「で、あるからして〜もしもし!」

 

 絶対絶命の窮地に陥ったエルザを救うべく真っ先に動いたのはルーシィ。

 彼女もまたエンジェルと同じく星霊魔導士。

 呼び出したのはルーシィが契約する中で最も遠距離攻撃能力に長けた星霊のサジタリウスだ。

 

「牽制射撃、お願い! エルザを逃す時間を稼いで!」

「了解であるからして〜もしもし!」

 

 サジタリウスは3本の矢を同時に番え、掃射。

 誘導弾のように複雑な曲線を描きながら飛来する三筋の流星がエンジェルに迫る。

 

「忘れたの? こっちにはエルザが居るんだゾ」

「『天輪・三位の剣(トリニティソード)』!」

 

 だが、その矢はいとも容易く銀閃に弾かれる。

 ジェミニが変身したエルザが『天輪の鎧』によってエンジェルを守ったのだ。

 そしてエンジェルの指示の下、滞空していた剣が円を描くように高速回転。

 

「ザコは大人しく引っ込んでおくんだゾ」

「『循環の剣(サークル・ソード)』!」

「きゃあああ!!?」

「もしもーし!!」

 

 銀円となった斬撃が襲いかかる。

 幸いにもサジタリウスが盾となったことでルーシィは胴体を輪切りにされずに済んだが、衝撃で気絶した上に呼び出したサジタリウスは大ダメージにより強制退去させられてしまった。

 

 一方、別の戦場では。

 

「『火竜の咆哮』!」

「『アイスメイク〝突撃槍(ランス)〟』!」

 

 ナツの滅竜魔法の火炎、グレイの造形する氷の槍。

 それらが絶え間なく飛び交っていた。

 だがそれらの猛攻は全て1人の魔導士の手によって捻じ曲げられ、空を切るばかり。

 

「くそっ、なんだコイツ! さっきから魔法が全然当たんねぇぞー!?」

「……キミたちも、ボクの眠りを妨げるのか」

 

 それは眠りから覚めた六魔将軍(オラシオンセイス)最強の男、ミッドナイト。

 彼の前ではあらゆる魔法は届かない。

 

「潰れて消えろ、虫ケラども」

「がっ!?」

「うおっ!?」

 

 ミッドナイトが指を鳴らす。

 瞬間、ナツとグレイに強烈な()()が伸し掛る。

 立ち尽くすことさえ叶わない。

 大地に五体を押し付けられてなおも重さは増すばかり。

 

「『ダークグラビティ』」

「「ぐぁあああ!!?」」

「なるほど、彼女の言う通り……憧れの魔法で叩き潰すというのは爽快だね」

 

 重力場の操作により敵を叩き潰す闇魔法『ダークグラヴィティ』。

 ミッドナイトが密かに練習していたこの魔法は、ジョゼフィーヌとの交流によって段違いの威力を誇るまでに習熟されている。

 地面すら大きく陥没させる威力のそれにナツとグレイは耐えられるはずもなく、押し潰されて気絶してしまった。

 

 また右翼ではジュラが、ブレインやホットアイの前に立ち塞がっていた。

 

「ぬぅううう……! 許さんぞ、貴様らァ……!!」

「ほう、さすがは聖十。ただでは転ばぬか」

 

 そうこぼしたブレインの目の前では、麻痺によって動けるはずもなかったジュラが立ち上がり、憤怒の形相で睨みつけていた。

 ジュラの四肢、そして胴体には岩の破片が鎧のように貼り付いている。

 

「聖十大魔導『岩鉄』のジュラ。二つ名通りの繊細かつ高精度な岩の魔法だな。

 全身が麻痺しているにも関わらず、魔法による岩の操作だけで立ち上がるとは」

「貴様らだけは! 我が命に替えても必ず倒す!! 穿て、『岩鉄尖』!!」

 

 ジュラの足下の地面が隆起し、鋭く尖った無数の岩の槍がブレインめがけて押し寄せる。

 威力、密度ともに凄まじい。

 およそ防ぎようのない、まさしく大地の槍衾(やりぶすま)

 

「素晴らしい魔法だ。聖十のジュラよ。

 うぬの魔法、そして魔力は私の()れを遥かに上回っている」

 

 ジュラの魔法は土を固め、操る魔法。

 その硬度は実に金剛石をも凌駕する。

 ブレインの使える魔法ではこれほどの質量攻撃を防御することは不可能だ。

 

 しかし。

 

「だが悲しいかな……魔法戦で最も重要なのは()()だ」

 

 眼前の獲物を刺し貫かんと肉薄する岩鉄の穂先。

 それらはすべて、ブレインへ到達する直前に跡形もなく()()()()()

 

「なに……!?」

「『リキッドグラウンド』! 金に上下の隔てなし、デスネ!」

 

 六魔の1人、ホットアイが得意とする魔法はジュラと対になる土を柔らかくする魔法である。

 それによりジュラの魔法を粘土のように溶かし崩したのだ。

 

 いかな聖十といえど必殺を期した一撃が無為に終われば脆いもの。

 そしてその間隙を見過ごすほどブレインは甘い男ではない。

 

「『常闇奇想曲(ダーク・カプリチオ)』」

 

 彼が持つ髑髏の飾られた魔杖の先端に闇の魔力が収束する。

 一拍を置いて放たれたそれは、泥の壁を穿つ一条の光線。

 

 光線の標的であるジュラは自身の魔法の残骸で視界が遮られ察知が遅れた。

 かろうじて両腕をクロスさせて岩の鎧で防ごうとするが、その抵抗は無意味である。

 

 『常闇奇想曲(ダーク・カプリチオ)』は貫通性の魔法。

 ジュラの岩鉄の魔法であろうと、即席であつらえた鎧程度の防御力では薄衣に等しい。

 防ぎ切ることなど到底できはしないだろう。

 

 しかし盾がもう一枚あれば話は変わる。

 

「ジュラさん!!」

 

 蛇姫の鱗(ラミアスケイル)のリオンである。

 先ほどまで倒れ伏していた彼もまた、自身の動物を模した氷の造形魔法に身体を運搬させることによって、麻痺していながらも移動を可能にした。

 

「ぐ、あ……!」

「リオン!?」

 

 リオンの身を挺した肉壁によって、ジュラは重傷こそ負ったものの致命傷までには至らなかった。

 だが彼を庇ったリオンは別だ。

 即死こそ免れたものの、左の脇腹に風穴が空いている。

 遠くないうちに失血死することは明白であった。

 

 ジュラもまた命永らえたとはいえ、その傷は深い。

 未だ肉体を蝕む麻痺と合わせて、今度こそ地に膝をついてしまった。

 それでもなお、彼の眼から戦意が消えることはない。

 

「シェリーだけに飽き足らず、リオンまでも……! 貴様ら、覚悟はできているのだろうな!?」

「ほう、まだ威勢を保っていられるとは驚きだ。

 大抵の者であればこの時点で絶望に染まっているであろうに」

「意志の強さこそ魔法の強さだ……! 己が諦めぬ限り、魔導士は決して倒れぬものだ!!」

「そうか、結構なことだ。

 だが生憎と、ここで時間切れ(タイムアップ)だな」

 

 ブレインは口端を喜色に歪めながら空を指差す。

 それは戦いの終幕を告げる勝利宣言であった。

 

「見るが良い! これこそが、闇の世界への(いざな)いだ!!」

 

 直後、漆黒の極光が天を衝くように立ち昇った。

 

「これはまさか……『ニルヴァーナ』が起動したというのか!?」

 

 大地から魔力を吸い出し、屹立する巨大な黒い光の柱。

 樹海の木々さえ黒々と変質させてしまうほどの大規模な魔力の塊。

 ここから光柱の始点までは数キロも離れているようだが、間違えようはずもない。

 

 六魔将軍(オラシオンセイス)と霊王の真の目的……超反転魔法『ニルヴァーナ』が起動してしまったのだ。

 

「ふははは!! そうだとも!!

 言っただろう、時間切れだと! うぬらは、とっくの昔に出遅れていたのだよ!」

「馬鹿な……貴様らは7人で行動していたはずだ!

 六魔は全員ここに居り、霊王も四天王の御三方と闘っている!

 どうやって『ニルヴァーナ』を起動したというのだ!!」

 

 ジュラがここまで驚愕しているのは、単純に数が合わないからだ。

 六魔は全員この場に揃っている。

 ジョゼフィーヌもまた、遠くから聞こえる戦闘の余波からして交戦中。

 とても片手間に『ニルヴァーナ』を起動させるなど不可能な状況なのだ。

 彼の困惑も当然のものと言える。

 

 そしてニタリと嗤うブレインが口にした事実は至ってシンプルなものだった。

 

「そんなもの8()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「なん、だと……!?」

「まぁ、自由意志のない傀儡を人として数えて良いかは議論の余地があろうが……。

 苦労したのだぞ? ()()()を目覚めさせ、魂を縛り付けるために霊王と交渉する必要があったからな」

 

 ブレインは一通り語り終えたところでホットアイに合図を送る。

 すると連合軍が倒れている地面が軟化し、底なし沼のようにズブズブと飲み込んでいく。

 

「我々は忙しい。うぬらの処分など生き埋めで充分だ」

「地面が……! ぐぁあああ!!!」

 

 大地の流動が終わった頃、そこには連合軍など初めからいなかったかのように、倒れていた者達は地の底へと沈んでいった。

 

 後に残されたのは、ただ一人だけ。

 

「だが、うぬだけは特別だ。ウェンディ・マーベル……天空の巫女よ」

 

 それは相棒のシャルルの死も、連合軍の壊滅も受け入れられず、ただ呆然と項垂(うなだ)れていたウェンディだった。

 ブレインは彼女の目前まで悠然と歩みを進めると、あろうことか手を差し伸べた。

 

「うぬの付与魔法(エンチャント)は実に有用だ。極めればいずれ私とあのお方をも分離できるやもしれん。共に来い、ウェンディ・マーベル」

「い、いや……!」

 

 ブレインが行ったのは勧誘だった。

 ウェンディの使用する天空魔法は治癒の他にも様々な付与術を扱える。

 それに目をつけたのだろう。

 

 だがウェンディが頷くことはない。

 当然だ。誰が好き好んで無二の親友の命を奪った者に下りたいと思えるのか。

 

 しかしそれすらブレインには予想済みであった。

 笑いを堪えきれないといった様子で、彼は自身の魔法『アーカイブ』にとある人物の映像を映しながら再度ウェンディに語りかける。

 

「うぬは必ず、自らの足で我らの軍門に下るとも。

 なにせコイツの命はこちらの手の平の上にあるのだから」

「あ……うそ……、この人は……」

 

 宙に浮かぶ『アーカイブ』の投影画面。

 そこに映るのは『ニルヴァーナ』の極光を背景に佇む、青い髪色の男。

 その青年はかつてウェンディが心を許した親愛なる恩人であり、魔法界にとっては評議会を一時壊滅状態に追い込んだ大悪党。

 

「ジェラール……!?」

 

 元聖十大魔道の一角にして魔法評議会評議員の一人。

 死亡したと思われた亡霊が、幽鬼のように立ち尽くしていた。

 

 

---

 

 

 どうやら六魔(あちら)は上手く事を運んでいるようだ。

 ジェラールも首尾よくお目当ての『ニルヴァーナ』に辿り着いたみたいだし。

 ここまでは予定通り。

 十分距離も取ったし、そろそろこっちの戦況を動かしても良い頃合いかもしれないね。

 

 『ニルヴァーナ』が起動した光を背に、樹海の隙間を縫うように高速で動き回る影が二つ。

 無論、大陸最強決定戦中の私とウルフヘイムさんである。

 

「ウラァァァ!!!」

「おっと」

 

 大振りの一撃を海老反りになって躱す。

 巨腕のラリアットが生み出した衝撃波が木々を根本から薙ぎ倒し、まるで台風が過ぎ去った後のようだ。

 

 聖十大魔道序列三位、ウルフヘイム。

 二つ名は『百獣』。

 文字通り百を超える魔獣をその身に宿した大陸指折りの『接収(テイクオーバー)』使い。

 

 特に彼が独自に開発した『接収(テイクオーバー)』の発展系である『重複融合接収(オーバードライブ)』は非常に強力な魔法だ。

 これは百の魔獣を同時に合成した状態で『接収(テイクオーバー)』するため、通常の数百倍の強化効率と多彩な魔獣由来の固有能力を扱える。

 燃費は最悪に近い部類だが、間違いなく身体強化の魔法としては西の大陸と比較しても並ぶ者はないだろう。

 

「ぬんっ!」

「やっぱ反応いいね、ウルフさん」

「ほざけ!!」

 

 彼の攻撃を避けた際、のけ反った勢いを利用しバク転の要領で逆立ち。

 両脚を独楽のように回して左側面から蹴りつける。

 

 ウルフヘイムさんはこれを腕を垂直に構えてガード。

 しかもただ受け止めただけじゃない。

 そのまま重心を低く移動させ、防御体勢のまま肩から戦車のようなタックルで突っ込んでくる。

 これはまともに喰らいたくないな。

 

「『デッドウェイブ・バーン』」

 

 後方に跳躍しながら、魔力を片手に収束。

 本来は波動のような範囲攻撃を行う『デッドウェイブ』を圧縮し球状のエネルギー体を生成。

 これを簡易的な爆弾として突撃してくるウルフヘイムさんへの迎撃に使用する。

 

 臨界、炸裂。

 魔力の奔流が地上に巨大なエネルギーの半球を生み出し、草木を根こそぎ焼き尽くす。

 

 しかし夥しい魔力の爆発を受けてなお、突進の勢いは止まらない。

 

 彼の全身に鎧のように巻き付いた樹木が私の魔法を文字通り飲み干してしまったからだ。

 ウォーロッドさんの魔法、相変わらずいやらしい性能だな。

 

「……大食いだね。身体壊すよ?」

「吹き飛べぃ!!」

 

 ズガンッ、と列車の衝突以上の衝撃が全身を襲い、私の霊体が木々をすり抜けながら綿毛のように吹き飛ばされる。

 

「うーん、やっぱり霊体化が無視されてるなぁ」

 

 これ幸いにと距離を取りながら思案する。

 

 私は常に霊体化をしている関係上、物理的な接触は不可能なはずなのだ。

 光や聖属性を纏っているわけでもないのに、どうして攻撃が通じるのか。

 まぁ何となく当たりは付いてるんだけど。

 

「多分あの樹の鎧なんだよなー」

 

 ウルフヘイムさんに巻き付いている樹木の魔法。

 あれは連合軍との接触の際、ウォーロッドさんが私の『幽兵餐渦(ワルプルギス)』から妖精の尻尾(フェアリーテイル)を守るために使った樹木の流用だ。

 

 アレには魔力を吸い取って急激に成長する性質があった。

 そして多分、あの樹には今も私の魔力が宿っている。

 つまりウルフヘイムさんは私と同質の魔力を身に纏っている状態だ。

 

 魔法を相殺する方法は二通りある。

 一つは対となる属性の魔法で相殺する方法。

 炎に水、光に闇とか。

 

 もう一つは同質の魔法で相殺する方法。

 属性はもちろん、本人の魔力を使えばより確実だ。

 今回は多分こっち。

 私の魔力を使って霊体そのものにダメージを与えているのだろう。

 

 その上、あの魔樹は偏食のきらいがあるらしい。

 私の魔力の味を覚えたのか、やたらと吸収効率が良いようだ。

 接触するたびに魔力を吸われるどころか攻撃魔法そのものすら飲み込まれている。

 しかも吸収した魔力はウルフヘイムさんの身体強化に使われているらしく、刻一刻と彼の攻撃の重さが増してるときた。

 

 なるほど。

 これが聖十大魔道の三人が導き出した私の霊体化への解答か。

 であれば、次に彼らが打ってくるであろう手は?

 彼らはこの後どのような展開を想定して作戦を立てた?

 

「……うん。とりあえず霊体化は解除した方が良さげかな」

 

 このままでは無限にウルフヘイムさんが強くなってしまう。

 いずれ強化にも限界が来るだろうが、どうせ殴り合うなら生身の方が色々と都合が良さそうだ。

 

 今後の方針が大まかに決まったところで、身を翻して着地。

 霊体化の魔法を解除して生身に戻る。

 

 瞬間、後方から気配。

 ちらり、と流し目で伺うとそこには樹海の一般大木からメリメリと這い出てきているウルフヘイムさんの姿が。

 ホラーかな? とりあえず投げたボールより早く回り込むような真似は心臓に悪いからやめていただきたい。

 

「ウォオオオ!!!」

「樹木を介した座標置換(キャスリング)かな。ウォーロッドさんめ……」

 

 器用な真似をするものだ。

 『大樹のアーク』の応用か? アレは確か樹木と同化する太古の魔法(エンシェントスペル)だったはず。

 それを『緑の魔法』で再現した挙げ句、他者に対して使用できるとは。

 聖十ならではの神業、ということか。

 

 だがこちらも迎撃の体勢は整っている。

 全身の細胞に身体強化をかけ、て……。

 

「ありゃ……?」

 

 グワン、と脳みそが揺れる感覚。

 視界が暗転と明転を繰り返し、手足に痺れが走り、呼吸が荒くなる。

 文字通り、()()()()()()()()()()()()

 

「ハイベリオンさんか……!」

 

 吸血魔法。間違いなくハイベリオンさんの仕業だ。

 彼の魔法の技量は極まっている。

 本来は対象に傷をつけ、傷口から血液を吸引する魔法を、触れることすらせずに間接的に吸血を行ったのだろう。

 もはや別種の魔法と呼べるほどに進化を遂げている。

 

 生物とは押し()べて生存に血液を必要とするもの。

 その血液を問答無用で遠距離から搾り取れるハイベリオンさんは、実質あらゆる生物に対して有利を取れる()()()()の魔導士と言えるかもしれない。

 

 無論、先程のレーサーのように直接触れられるのと比べれば幾分か緩やかな吸血速度だ。

 それでもこの速さなら五秒あれば全身の血液を吸い上げるのに充分だろう。

 だいたい秒間1リットルといったところか。

 並の魔導士相手ならハイベリオンさんと二秒睨み合ったら失血死でほぼ確殺のペース。

 こんなに恐ろしい魔法があるとは驚きだ。

 

「百獣展開、右腕全収束!

 魔樹装甲同じく右腕収束、魔力臨界!」

 

 っと、感心している場合じゃない。

 既に右腕を大上段に振り上げたウルフヘイムさんが渾身の一撃を放とうとしている。

 自身に取り込んだ百の魔獣、そして全身を覆う樹木の鎧。

 そのすべての魔力を右腕へと一点に集中。

 普通なら私を前にあらゆる防御を捨てるなど愚の骨頂だが、失血性ショックで無防備になった今ならば一転して最大の好機だ。

 

 これ以上ないほどの魔力の収束に大気が鳴動する。

 ただ振りかぶっている現状だけで、魔力震によって周囲の木々が渦を為して巻き上がり、攪拌された空気が摩擦によって雷を伴う暴風と化した。

 

 

「『獣王の隕鉄拳(ビースト・レクス・アステロイド)』!!!」

 

 

 拳が叩きつけられる。

 まず、大地が蜘蛛の巣型に引き裂かれた。

 瞬間的な震度はおよそマグニチュード7に匹敵する一撃により、樹海の腐葉土が裏返るように爆散する。

 炸裂した魔力は空気そのものを焼き焦がし、木々を炭化すら許さず燼滅させた。

 

 まさに天変地異。

 純粋なエネルギーとしては山一つを跡形もなく消し飛ばして余りある。

 

 これが彼らの作戦。

 まずはウルフヘイムさんとウォーロッドさんの連携で私を追い詰める。

 その後、霊体化を不利と悟った私が魔法を解除して肉弾戦に移行する瞬間を狙い、ハイベリオンさんが吸血魔法で隙を作る。

 それに乗じたウルフヘイムさんの最大火力の一撃により、骨すら残さず消し飛ばす。

 

 素晴らしい連携だ。

 大抵の魔導士は私と戦う時、どうやって霊体化を突破するかを考える。

 しかし突破した後の詰めまで考えている者はそう多くない。

 きちんと殺し切るところまで作戦を練り上げた彼らは大したものだ。

 これが聖十大魔道三人が力を合わせた実力か。

 

 

「馬鹿なッ……! ありえん!!」

 

 

 しかし()()()()()()だ。

 

 

「片手で受け止めただと!?」

 

 

 彼らの失策は二つ。

 一つは攻撃に使った魔力に私から吸収した魔力を流用したこと。

 土壇場で霊体化されては元も子もないため、彼らの視点では良策なのが落とし穴だ。

 

 魔力の使用権はあちらのものになっていたが、元々は私の魔力だ。

 であれば、わずかに残った魔力の経路(パス)を通じて、その使用権を綱引きできる。

 綱引きの強い方が使用権を手にするのであれば、当然扱い慣れた私が勝つ。

 そうして吸収された魔力を自分のものに返還することでエネルギーの爆発自体を操作し、ダメージをゼロに抑えられたのだ。

 

 もう一つの失策は、彼らが未だ私を甘く見ていたことだろう。

 たかだか山一つ消滅させる程度の拳で死んでいられたなら、私は生まれる前から死んでいる。

 まぁ元々死んでるようなもんだから、生きているとすら言えないのだけど。

 

「次、どうぞ?」

「くっ……!」

「まさか、もう打つ手なしってわけじゃないでしょう?」

 

 作戦が失敗に終わり、弾けるように後方へ跳躍するウルフヘイムさんを睥睨しながら軽く腕を伸ばしてストレッチをする。

 準備運動はお互いこれぐらいでいいだろう。

 ここからがスタート地点だ。

 

 

「構えなよ、スリーカウントで終わらせよう」

 

 

 さあ、久しぶりの素手喧嘩(ステゴロ)だ!

 

 





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