PHANTOM LORD   作:あんくせらむ

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騎士と霊王

 

 私たちが妖精の尻尾(フェアリーテイル)へ侵攻を開始してから小一時間が経った。

 彼らのギルドはもう目と鼻の先だ。

 

 幽鬼の支配者(ファントムロード)の本部はいわゆる移動要塞であり、普段は地下に格納してある六脚を展開することで歩行が可能な造りとなっている。

 主砲として『魔導収束砲ジュピター』を備え、更にはもう一段階の変形によって二足歩行形態『超魔導巨人ファントムMKⅡ』に移行することも可能だ。

 

 うん、ぶっちゃけやりすぎだと思う。

 ほぼ使う機会ないわりに維持費バカ食うし。

 

 でもまぁカッコいいから別にいいよなぁ!!

 魔導に生きるなら、いついかなる時でもロマンは忘れちゃいけないもんだ。

 私は好きだよ、こーいうの。テンション上がる。変形は永遠のロマンってね。

 

 さて、そんなこんなで妖精の尻尾(フェアリーテイル)のギルド裏手にある巨大湖まで攻め込んだ我らがファントムは、まず挨拶代わりに『魔導収束砲ジュピター』をブチ込んだ。

 

 ジュピターは魔水晶(ラクリマ)に溜め込んだ魔力を圧縮、指向性を持たせて超威力のレーザー砲として放つトンデモ魔法だ。

 一発で小さな町一つぐらいは壊滅させられるほどの破壊力を秘めている。

 

 初撃から勝負はついたかと思われたが、そこは流石に往年のライバル妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 彼らの主力である緋色の長髪のS級魔導士『妖精女王(ティターニア)』エルザ・スカーレットによって防がれてしまった。

 

 不幸中の幸いとしてエルザは深手を負い戦線を離脱。

 対してこちらは2発目のジュピターを装填可能となおも優勢であったが、ギルドの地下牢に監禁していた『火竜(サラマンダー)』ことナツ・ドラグニルが脱獄。

 ジュピターの中枢である魔水晶(ラクリマ)を破壊し2発目の発射を阻止した。

 

 お父様は次手として本部を第二形態へ移行。

 ファントムMKⅡを起動し、極大の魔法陣によって行使される禁忌魔法『煉獄砕破(アビスブレイク)』で街ごと妖精の尻尾(フェアリーテイル)のギルドを破壊しようと企てる。

 

 しかしこれも魔法陣展開の中核を担っていた我がギルドトップクラスの4人の魔導士『エレメント4』の敗北によってあと一歩のところで間に合わず。

 計画は今のところ失敗続きだ。

 まぁ、人生ってそんなもん。気合い入れたことほど上手くいかないなんて当たり前のことだしね〜。

 

 ただ、紳士然として普通に短気なお父様はこの結果にたいそうご立腹のようだ。

 

「クソッ! どいつもこいつも使えないグズばかりだ……!

 死に体の妖精ごときに(おく)れを取りやがって!

 ガジルさん! フィーネさん!」

「おうよ、どうするマスター」

「なーに、お父様」

 

 お父様は司令室に待機中の私、そしてお父様の信頼厚い魔導士『鉄竜(くろがね)』のガジルを呼びつける。

 

「こうなっては仕方ありません。奴らには我々が直々に手を下すとしましょう。

 手始めにギルド内に潜り込んだハエ共を掃除してきなさい。

 見せしめにして、首でも掲げておいてください」

「りょうかーい」

「ギヒッ! おい、フィーネ!

 くれぐれも火竜(サラマンダー)には手を出すんじゃねーぞ。

 アイツはオレの獲物だ。今度こそ決着(ケリ)をつけてやる……!」

「あいよ。んじゃあ私は適当にその他を狩っとくとするかな」

 

 と、いった流れで私はお父様の居座る司令室へと続くエントランスに陣取っている。

 ぶっちゃけた話ガジルが全部やっちゃってくれねーかなと思ったが、そうは問屋が下ろさないようで。

 

「や、どうも。お待ちしてはいなかったよ。妖精の尻尾(フェアリーテイル)諸君」

「お前は……!」

 

 やってきたのは三人の魔導士。

 『妖精女王(ティターニア)』エルザ・スカーレット。

 『氷の造形魔導士』グレイ・フルバスター。

 『ビーストアーム』エルフマン・ストラウス。

 S級1人、それに近い実力の使い手が2人。

 

 3人同時となるとそれなりに面倒そうな手合いだが、どうやら全員エレメント4との戦闘で満身創痍の有り様だ。

 思ったよりは楽できそうでよかったよかった。

 

「グレイ、エルフマン。他の道を探しに行け。こいつは私が食い止める」

「大丈夫かよエルザ……まだジュピターのダメージが残ってるんだろ? ここは3人で力を合わせるべきだ」

「協力するのも(おとこ)!!」

「突っ込まねぇからな、エルフマン」

 

 女騎士に半裸の男に「漢!」と連呼する半裸の男。

 愉快な仲間達だなぁ。

 まともな奴がほとんどいない。

 

「グレイ、履き違えるなよ。私たちの第一目標は捕らわれた仲間を助け出すことだ。

 こんなところで道草を食っている場合じゃない。お前たちは手分けしてナツとルーシィを探し出すんだ。頼めるか?」

「ちっ……わぁったよ。ルーシィは必ず俺たちで連れ戻す。くれぐれも無理はするなよ、エルザ! 行くぞ、エルフマン!」

「漢ー!!」

 

 グレイはそう言い残すとエルフマンを連れて来た道を引き返していった。

 対してエントランスに残った私とエルザは一対一で向かい合う。

 

「敵の私が言うのも何だけど、本当に別れてよかったの?

 ただでさえボロボロなキミたちが数の利を捨ててしまえば、ますます不利になるだろうに」

「問題はない。かのジョゼフィーヌ・ポーラが相手とあってはいくら束になっても勝ち目は薄い。

 であれば誰か1人が足止めするのが最善の策だ」

「ははは、妖精女王(ティターニア)ともあろうお方が随分と過大な評価だね。プレッシャーだなぁ」

「ふん、そちらこそ過度な謙遜はするな。貴様の勇名はイシュガル全土に轟いているだろうに」

「どちらかと言うと悪名だけどね」

 

 エルザは額に汗を浮かべながらも気丈に振る舞う。

 魔導収束砲の防御に加え、エレメント4最強の魔導士との戦闘の後だ。

 体力、魔力共に限界に近いのだろう。

 それでも気迫には一切の衰えなしとは、流石の一言だ。

 

「そも、お前が参戦していること自体が予想外だった。

 確か仕事で別の大陸まで遠征していると聞いていたが」

「その仕事の途中で人探しが必要になってね。

 わざわざギルティナくんだりまで足を運んでおいて、結局は蜻蛉(とんぼ)帰りさ。

 その上いざ久しぶりにギルドに顔出してみれば抗争の準備なんかやってるし。

 悪運には慣れっこだけども、こいつはどうにも複雑な心境だよ」

 

 私は大きく溜め息を吐く。

 せめてハートフィリア家の依頼が、私がクエストを受注する前に舞い込んでいればもっと他にやりようがあったものを。

 まったく自分のツキのなさには嫌気が差すね。

 

「できることならお前と矛を合わせたくはない。ここは引いてはもらえないだろうか」

「そしたらお父様のとこまで行っちゃうだろ、キミたち。

 嫌よ嫌よはお互い様みたいだけど、素通しは流石に看過できないな。

 むしろこっちが引いてほしい気分なんだけど」

「生憎だがそれはできない。こちらもギルドと仲間を傷つけられている。

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)の名にかけて、引き下がるわけにはいかない!」

 

 エルザはそう強く宣言し、残るわずかな魔力を励起させる。

 彼女の周囲が白く輝き、魔法が発動する。

 

 エルザ・スカーレットの使用する魔法は通称『騎士(ザ・ナイト)』。

 カテゴリーとしては『換装魔法』に分類される。

 異空間に収納してある無数の武器や防具を装備し戦う魔法だ。

 

 今回、彼女が装備したのは白銀の翼を背負い、無数の剣を宙に浮かび上がらせる荘厳な鎧。

 あれが噂に聞く『天輪の鎧』か。

 なるほど、妖精女王(ティターニア)の二つ名に相応しい魔法と呼べるだろう。

 

「せめて仲間を助け出すまでの時間は稼がせてもらうぞ。

 お前が幽鬼の支配者(ファントムロード)の最高戦力とはいえ、無傷で済むとは思わぬことだ」

「やれやれ、このままお喋りしてくれてるだけでもよかったんだけど。

 あくまで戦うつもりであるのなら、こっちも相応に気合入れなきゃ足を掬われそうだ」

 

 無数の剣の(きっさき)を突きつけるエルザ。

 対して私も紫紺のローブを(ひるが)えして戦闘体勢に入る。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)エルザ・スカーレット、いざ参る!!」

「我が名はジョゼフィーヌ・ポーラ。

 幽鬼の支配者(ファントムロード)にて最強の座を(いただ)く者。

 『()()』の忌み名に恥じぬ絶望でお相手しよう!」

 

 初手。

 仕掛けたのはエルザ。

 

「『天輪・繚乱の剣(ブルーメンブラッド)』!!」

 

 エルザは展開した剣群を一勢に投射。

 彼女の魔力を大量に内包した鋭利な刃物のミサイルはエントランスの壁面、床、天井、支柱に至るまで尽くを貫き、蹂躙し、破壊する。

 

「無駄だよ。私に物理攻撃は効かない」

 

 その斬撃の暴風雨を以ってしても、私には何の痛痒も与えることはできない。

 ()()()()()()()

 子供でも知っている当たり前の真理なのだから。

 

「お返しどうぞ。『霊弾(ウィスプ)』」

 

 私はエルザの攻撃で舞い上がった瓦礫と砂塵に紛れさせ、魔法を行使する。

 使う魔法は『霊弾(ウィスプ)』。

 単純な魔力弾を放つ攻撃だ。

 

 しかし、その威力は一発で巨獣を爆散させられる程度にはある。

 本来、魔力をただ圧縮して放つだけの弾丸ではそれ程の威力は出ないが、コイツは一味違う。

 

 黒魔術の概念において、代償というものは大きな意味を持つ。

 代償が大きければ大きいほど強力な魔法や呪いとして成立するのは常識だ。

 

 とりわけ人間の魂ともなれば、その価値(レート)は最高レベルと言ってもいい。

 私は今まで殺して奪ってきた人間の魂を圧縮して弾丸として使用することで攻撃の威力を底上げしているのだ。

 

 ばら撒いた『霊弾(ウィスプ)』はとりあえず様子見で500発ほど。

 それをエルザを包囲するように撃ち放つ。

 

「『飛翔の鎧』!!」

 

 だが、流石は勇名轟く妖精女王(ティターニア)

 瞬時に鎧を切り替え、肉食獣のように姿勢を低くして空気を裂くように疾走する。

 

 身に纏ったのは『飛翔の鎧』。

 装着者の速度を上昇させる豹柄の野生的な鎧であり、その突破力を以って弾幕の薄い部分を正面突破。

 かすり傷は無視し、疾走に支障をきたす弾丸だけを手にした双剣で切り払ってゆく。

 彼女が私に肉薄するまで1秒とかからないだろう。

 

 それだけあれば十分だ。

 

「『幽兵(シェイド)』」

 

 身体からノーモーションで展開する無数の『幽兵(シェイド)』。

 突っ込んでくるタイプの近接魔導士には良く刺さる。

 

 生命力を貪る幽鬼の暗幕が突貫するエルザに覆い被さって——

 

 銀閃が『幽兵(シェイド)』の大群を切り裂き、槍の穂先が鼻先三寸まで迫り来る。

 

「『破邪の槍』」

「うおっ!? あっぶな!」

 

 眼前を掠めた槍撃を大きく背を反らし、間一髪で回避する。

 その勢いのままバク転の要領で飛び退(しさ)って距離を取った。

 

 私の霊体の身体は大抵の攻撃を無効化するが、退魔の聖槍が相手では傷もつこうというもの。

 だが私もタダで退かされたわけではない。

 仕込みはとうに済んでいる。小手調べといこうか、エルザ。

 

「『地縛霊(アースバインド)』」

「むっ……!」

 

 攻撃を放ったエルザは今、私がさっきまで立っていた座標の直上だ。

 ゆえに事前に仕掛けていた(トラップ)を回避することはできない。

 

 槍を突き出した状態のエルザの周囲が歪み、闇属性の魔法陣が十数ほど浮き上がる。

 そこから伸びるのは死霊の骨腕。

 それらが彼女の手足、胴体を掴んで自由を奪う。

 

「『デッドウェイブ・レイ』」

 

 拘束して身動きを封じたエルザに対して放つのはお父様直伝の闇魔法『デッドウェイブ』。

 本来は無数の怨霊の奔流により広範囲を食い潰す魔法だが、今回の『デッドウェイブ・レイ』はそれを収束、圧縮し貫通性の高いレーザー砲として運用している。

 その威力は先ほどの『霊弾(ウィスプ)』とは比較にならない。

 

 螺旋を描く怨霊の砲撃がエルザに迫る。

 それを前にしても彼女は極めて冷静に最適解を導き出す。

 

「換装! 輝け、『明星の鎧』!!」

 

 『飛翔の鎧』を解いて換装したのは『明星の鎧』。

 純白の鎧に鮮やかな橙色のケープと腰布を纏った光属性の装備。

 

 換装は身動きができずとも行える。

 拘束されたまま鎧を交換したエルザは、そのまま『明星の鎧』から溢れ出す聖なる光を最大解放。

 手足を封じる『地縛霊(アースバインド)』を振り払い、手に持った槍を地面に突き刺す。

 

 空いた両手に握るは二振りの西洋剣。

 二刀を束ねて魔力を集中。

 そして——解放。

 

「『明星・光粒子の剣(フォトンスライサー)』!!」

 

 撃ち放たれるは光の奔流。

 私の闇と彼女の光。

 それぞれが衝突し、幾条もの魔力を拡散させて石造りのエントランスが崩落する。

 

 階下へと戦場を移した私たちは、ある程度の距離を保って睨み合う形となった。

 

「いやぁ、強いね。妖精女王(ティターニア)の名で呼ばれるだけのことはある」

「はぁ、はぁ……そういうお前は意外と大したことがないな。

 どうやら霊王の噂話も眉唾だったようだ」

「言ってくれるねぇ。まぁ私、そのあだ名嫌いだから別にいいケド」

 

 エルザは双剣を格納し、再び『破邪の槍』を構える。

 対悪霊であればそちらの方が威力が出るとの目算か。

 

「霊体は祓われるわ闇魔法は相殺されるわ……まったく、やりにくいったらないなぁ」

「『騎士(ザ・ナイト)』の本領は対応力にある。

 どんな魔法の使い手であっても、そう易々と崩せぬ固さが私の()()でな。

 このまま足を止めてもらうぞ、霊王!」

 

 エルザは聖光を槍に纏わせて突撃する。

 破魔の聖槍が光の尾を引き一条の螺旋となって、その身そのものが白き閃光の槍と化す。

 

「『明星・聖天の烈槍(セイント・オブ・ロンギヌス)』!!!」

 

 光が濁流となって襲いかかる。

 聖なる一撃は通る道の一切を呑み込み、ついには石造りの巨人を腹から食い破って貫いた。

 その穂先には、残るものなど塵一つとも有り得ない。

 

「やっぱりやりにくいなぁ、キミの魔法」

「な……!?」

 

 その穂先を、私は片手で押さえつける。

 

 渾身の一撃であったのだろう。

 己の魔力の全てを込めて撃ち放った一撃が何の痛痒も与えていなければ、その驚きも一入(ひとしお)のはずだ。

 

「やりにくい、本当にやりにくい

 やりにくいから……もうブン殴って倒すことにしよう」

 

 拳にさらに力を込め、鋼鉄の槍を握り壊す。

 固めた拳はそのままに、地を蹴り砕いて超接近戦(インファイト)の間合いに一息で踏み込む。

 

「ふんっ!!」

 

 そして一撃。

 鳩尾に拳を突き込み、鎧を砕き肉を叩く。

 

「ごはァっ……!!?」

 

 弾けた鎧。

 殴り飛ばされるエルザ。

 壁を何枚も貫いてなお、その拳撃の威力は衰えることはない。

 

「く、そ……! 『煉獄の鎧』!!」

 

 しかし吹き飛ばされながらも彼女は諦めず新たな鎧へと換装する。

 禍々しい漆黒の甲冑と大剣。

 エルザの所有する鎧の中で最も破壊力に優れた逸品。

 空中で姿勢を整え、剣を青眼に構えて迎撃の体勢を取る。

 

 しかし、その視界にはもう私の姿はない。

 

「後ろだよ」

「!? くっ……!」

 

 エルザが吹き飛ばされるよりも速く背後へ回り込み、振り向きに合わせて回し蹴り。

 横っ面を捉えてそのまま床下へ頭から叩きつける。

 

 蹴りの反動で天井に着地。

 勢いを殺さず真下へ跳躍。

 瞬く間にギルドの地下基底部まで床を割り砕いて叩き落とされるエルザに肉薄し、顔面を引っ掴んで今度は斜め上方向に放り投げる。

 

「ぐぁあああーーっ!!!」

 

 ギルドを破壊しながら投げ飛ばされたエルザがようやくその勢いを殺せたのは、最上階を突き抜けて空中に放り出され、落下してきた後であった。

 

「う、ぐ……」

「うわぁマジ? まだ意識あるんだ……やっぱS級魔導士ともなると並のタフさじゃないね」

「お、前……どこにそんな、力が……」

「初歩の黒魔術だよ。

 私自身に取り憑かせた亡霊の魂を燃料として消費すれば破格の魔力が得られるからね。

 それを全部基礎的な身体強化と魔力放出に注ぎ込んだだけさ」

 

 青空の下、天井で這いつくばるエルザを見下ろすように私は立つ。

 これでエルザの無力化は完了。

 あとはまだ動いてる奴らを潰せば一先(ひとま)ずの任務は——

 

「まだ、だ……!!」

「おいおい、そこは気絶ぐらいはしときなよ人として。

 ていうか本当にこれ以上動くと死んじゃうよ? 悪いこと言わないからそこで寝てなって」

「ふざけるな……! 仲間を救うためならば、死ぬも本望!!」

 

 エルザはそうして最後の力を振り絞って立ち上がる。

 床に突き立てた剣を支えとしながらも、その眼に宿る光は欠片も色褪せない。

 

 なんと気高い戦意だろうか。

 かつてこれほどまでに澄み切った闘志はついぞ目の当たりにしたことがない。

 仲間のために命を燃やして立ち上がる様はいっそ神々しくもあった。

 

「まったく妖精の尻尾(キミたち)ときたら……諦めが悪いにも程がある。

 私の経験上、死してなお成し遂げたことに意味なんてほとんど残らない。

 後に残るのは嘆きと悲しみだけだ。それを分かっていてなおキミは剣を取るのか、エルザ」

「当たり前だ……! それがギルドのためならば!!」

「そう……では私も敬意を表してトドメの一撃といこう。

 もしも殺してしまったその時は、いくらでも恨んでくれて構わないよ」

「——いくぞ!!!」

 

 エルザが地を蹴る。

 しかし、それは見る影もなく遅い疾走。

 

 踏み出した足は着地と同時によろめき——そして倒れた。

 倒れたエルザはぴくりとも動かず、完全に目を閉じて気を失っていた。

 

「限界、か。

 安心したぁ……あのまま続けてたら確実に殺しちゃってたし。

 その前に力尽きたならこっちとしても気が楽——」

 

 いや、待て。

 

 この唐突な幕切れ。

 妙な違和感を覚える。

 

 ふと、よくエルザの様子を伺ってみた。

 

「これは、気絶じゃない。眠りの魔法をかけられている……?」

 

 エルザは、すぅすぅと寝息を立てて眠っていた。

 気絶にしてはあまりにも安らかな寝顔。

 

 それになんだ。

 注意して探ってみれば、この辺り一帯にうっすらと魔力の残滓が確認できる。

 

 それはつまり、私とエルザ以外の何者かがここに居るということ——!

 

 

「——エルザ、あなたはこれまでよく頑張った。

 これ以上無理をすることはない。今は一時(ひととき)の休息を」

 

 

 何もないはずの空間が揺らぎ、歪みから一人の男が現れる。

 

 黒い頭巾、黒いマントでその身を覆い隠したその男。

 5本の杖を携え、普段は表舞台に決して上がらぬ正体不明。

 ()()()()()、眠りと幻を扱う魔導士。

 

 

「後のことは、任せておけ」

 

 

 それは妖精の尻尾(フェアリーテイル)、4人のS級魔導士の一角。

 ()()()()()()()()を意味していた。

 





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