PHANTOM LORD   作:あんくせらむ

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【前回のあらすじ】ボスラッシュ開始



竜と死神

 

 ガキの頃、オレは身体が弱かった。

 風邪で寝込むなんてこともザラにあり、その(たび)にマグノリアの街では噂が流れる。

 

『ギルドマスターの孫なのに、ラクサスは信じられないほど病弱だ。

 本当にアイツは祖父と似ても似つかない』

『マスター・マカロフは後継に恵まれないな』

 

 腹が立った。

 馬鹿にされたことにはもちろん怒りが沸いたが、それ以上にジジイのことを引き合いに出されることの方が我慢ならなかった。

 オレが普通の家に生まれていたなら、こんな思いはしなくて済んだのか?

 そう考えて気が滅入るような毎日だった。

 

 だが、そんな日々もオヤジがオレに滅竜魔法の魔水晶(ラクリマ)を埋め込んでくれたおかげで終わりを迎える。

 

 オレは力を手に入れ、ギルドでも名の知れた魔導士になった。

 さらには魔導士でも最高峰の称号であるS級にまで昇り詰めた。

 それまでとは打って変わって、マグノリアの市民達は口々に賞賛の言葉を投げかけた。

 その時にオレは悟ったのだ。

 

 圧倒的なこの力こそ、オレのアイデンティティであるのだと。

 力さえあれば誰もがオレを認めてくれるのだと。

 

 しかし、ある時ふと思った。

 こいつらが見ているのは本当にオレ自身なのか、と。

 

『さすがはマスター・マカロフの孫だ』

『同じギルドの仲間として誇らしい! これでマスターの後継ぎはラクサスで決まりだな!』

『当然だろう、なんたってマスターの孫なんだから!』

 

 サウンドポッド(ヘッドフォン)を付け始めたのはその頃からだ。

 

『チッ……なんなんだよ、ラクサスの野郎。

 出しゃばりやがって、マスターの孫がそんなに偉いのか?』

『あいつが急に強くなったのは明らかにおかしい。

 きっとマスターが贔屓しているんだ』

『ラクサスのやつ、金でなにか強い魔法でも手に入れたんだ!

 ギルドマスターの孫は羨ましいよな!』

 

 2階から下りなくなったのもその頃からだ。

 

 どこに行っても付き纏うジジイの陰。

 鬱陶しくて仕方がなかった。

 

 結局は誰もオレ自身を見ちゃいない。

 まるで自分が(やすり)で削られていくかのようだった。

 オレが正当な評価だと思っていたものは全て()()()()だったのだ。

 

 だからオレは力を求める。

 いつの日かジジイを超え、オレが妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強の魔導士となるのだ。

 もはやそうすることでしか、オレはオレ自身を証明できないのだから。

 

 追い立てられるような焦燥に目を背けながら、ひたすらに実績を積み重ねていた。

 そうして各地を転々としていると、当然ながら知ることになる。

 フィオーレ王国で妖精の尻尾(フェアリーテイル)と肩を並べる魔導士ギルド幽鬼の支配者(ファントムロード)における最強の魔導士の名を。

 

 『霊王』ジョゼフィーヌ・ポーラ。

 

 かつて南方大陸からの侵略軍をたった一人で迎撃し、軍艦30隻を洋上で沈めてみせた護国の英雄。

 その追撃のため単身で渡海し、一週間で南方大陸の総人口のおよそ4割を殺し尽くした大量虐殺者。

 

 それからもイシュガル各地の紛争地帯に繰り出しては軍を壊滅させ、数えきれないほどの国家を滅ぼしてきたという。

 敵対した国は必ず滅亡し、味方した国はその後に不可解な祟りによって地獄と化した。

 

 そうしてヤツが大陸各地の戦場を荒らし回って5年が経つ頃には、すでにイシュガルからは戦争そのものが姿を消していた。

 

 まさに戦争を止めた大英雄にして、大陸史上最も多くの人命を奪った死神。

 そのあまりの功罪の極端さゆえに、魔法評議会に聖十(せいてん)への推薦と大陸追放令が同時に提出されたとも言われている。

 

 そんなヤツもまた、聖十大魔導(せいてんだいまどう)のマスター・ジョゼを父に持つ……オレと同じ立場の人間だ。

 だが決定的に違うのは、世間のアイツの評価には全くジョゼの影が見当たらないこと。

 

 (かす)んでいるのだ。

 『霊王』という圧倒的な力と名声の前では、たかが聖十(せいてん)なぞ及ぶべくもない。

 

 あの女こそオレの理想を体現する最強の魔導士。

 ゆえにこそ、この機会を逃すことはできない。

 

『ラクサス。幽鬼の支配者(ファントムロード)との抗争に、お前が執心している女が参戦している。

 私は奴らの支部潰しを切り上げて先に行くが、お前もその胸の鬱憤を晴らしたいというのなら、これは最後の機会になるだろう。

 彼女はこの戦いが終わればギルドを辞めるつもりだろうからな』

 

 ミストガンの口車に乗せられる形になったのは(しゃく)だが背に腹は変えられない。

 ヤツがギルドを辞めて野良の魔導士になってしまえばオレの目的は果たされない……!

 

 ギルドマスターの後継。

 ギルド最強の魔導士。

 歯向かう者すべてを圧倒的な力で叩き潰してきた大陸最恐。

 

 

 その肩書きを持つアイツを倒すことで——オレこそが真の最強だと証明する!!!

 

 

「『レイジングボルト』ォォォ!!!」

 

 

 天候が急転する。

 晴天から曇天へ。

 黒雲が空に充満し、いくつもの雷が轟き降りそそぐ。

 

 広い湖に数多(あまた)の水柱が立ち、ただでさえ半壊状態であったファントムMKⅡが瓦落瓦落(がらがら)と音を立てて崩れていった。

 

「うおぉおおおおお!!!」

「キミ気合い入りすぎだろ、この辺一帯更地にする気か!?」

「それでテメェをブッ殺せるんならなァァァ!!!」

 

 身体に雷を纏って雷速で飛翔しながら魔法を撒き散らす。

 ジョゼフィーヌは空中に躍り出ると網目のように張り巡らせた雷撃を()()()()()回避した。

 

「なにっ」

 

 この周辺の湖水地全体には雷神衆の一人、フリードによって『全ての魔法に霊体への特攻状態を付与する』という術式魔法がかけられている。

 ゆえに普段通りの霊体化による回避はできないはずだ。

 だがなぜ攻撃を透過できる!?

 

「テメェ……まさか攻撃が当たる部分だけを変形させて回避してやがんのか!」

「いやぁキッツイね! 強化してても目玉と脳みそ焼き切れそうだよコンチクショー!!」

 

 肉体全てを霊化させるならば理論上は可能だが並大抵の動体視力と反応速度では不可能だ。

 それを実現しているのは尋常ではない魔力によって強化された視神経というわけか……!

 

「しゃらくせぇ!! 流動回避っつーんならよぉ……流動する隙間もない範囲攻撃で消し炭にしてやる!! 『雷竜の咆哮』!!!」

「キミ滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だったんかーい!?」

 

 呼吸を大きく、肺に酸素を送る。

 あり余る酸素を魔力に変換し、それを口腔に集中させて竜のブレスを解き放った。

 

「『幽体進駐(プロジェクション)』!」

「消えた!? いや、移動したのか!」

 

 渾身のブレスは空を切り、湖面を蒸発させるに留まった。

 瞬間移動には驚かされたが遠くまでは行っていないはずだ。

 普段なら嗅覚で居場所を察知できるが、ヤツは霊体だからか匂いがない。

 

 ならば魔力探知で探す!

 ヤツが強化魔法を使っているのなら最も魔力密度が高い場所にいるはずだ!

 

「そこか!」

 

 巨大な魔力反応。

 場所はオレの背後、魔導巨人の頭の上!

 振り返った先にはヤツの姿と大量の闇属性魔法陣。

 その数は。その、数は……。

 

「『デッドウェイブ・レイ』——1()0()0()0()()展開」

「な……」

「ちょこまか動かれるのも面倒なんでね。とりあえず全面掃射といこうか!」

 

 魔法陣から紫紺の閃光が(またた)く。

 一発一発が城壁を粉砕して余りある死の魔光線だ。

 それが1000発となれば、破壊規模は隕石の衝突にも匹敵する。

 

 離脱は間に合わない。

 すり抜ける隙間もない。

 ならば魔力砲の壁、その一点を貫き押し通るのみ!

 

「『雷竜方天戟(らいりゅうほうてんげき)』!!」

 

 雷を束ねて三叉の槍状に形成。

 それを竜の膂力で全力投擲。

 弾幕の津波に一点の穴が開き、そこを雷速で通り抜ける!

 

 そしてレーザーの圧殺を間一髪で潜り抜けたオレを出迎えたのは、取り囲むように球状に展開された魔法陣の包囲網だった。

 

「しまった……!」

「さっきので擦り潰せるならそれでよし。

 よしんば倒せなかったとして、取れる手段は一点集中の正面突破に限られる。

 それなら私は弾幕の裏で包囲を敷いておくだけでいい」

 

 魔法陣が励起し、範囲内にいるオレに向けて一勢に放たれる。

 

「ぐぉあああ!」

 

 身体から雷属性の魔力を放出して相殺を試みるが、ほとんど殺しきれずに食らってしまう。

 防御を貫通した闇の魔力に肉を焼かれていく感覚が気色悪い。

 だがオレはまだ意識を失っちゃいねぇ。

 そして意識があるなら多少のダメージなんぞ屁でもねぇ!!

 

「がるァあああ!!」

「うおっ、白目剥いたまま飛び出してこないでよ! 鬼かアンタは!」

「『雷竜の(アギト)』ォォ!!!」

 

 ジョゼフィーヌは左腕を(かざ)してガードするが、その防御ごと粉砕するように雷を纏わせた両腕の叩きつけ(ダブルスレッジハンマー)をお見舞いする。

 その絶大な威力は魔導巨人の頭部を粉々に破砕し、ジョゼフィーヌを巨人の内部まで叩き落とした。

 

「今度は逃がさん!」

 

 この程度でくたばるようなタマじゃないことはわかっている。

 追撃のために再び雷速で接近しようとするが、それを突如現れた石塊(いしくれ)の壁が遮った。

 

「修復か!? だがこの質量にしては早すぎる……何をしやがった!」

 

 一旦距離を取って巨人の全体像を確認すれば、先ほど破壊した頭部はおろか、初手の『レイジングボルト』で破壊した外装や崩落した右半身までもが元通りになっている。

 オレが口にした疑問に答えるように魔導巨人の拡声器からジョゼフィーヌの声が反響した。

 

『『憑喪神(ホーンテッド)』というのさ。物体に魂を宿らせ、その魂を操ることで物体そのものに影響を与える魔法だよ。

 有り体に言えばポルターガイストの一種と思ってくれて構わない』

「フン、それで城の中に引きこもったってわけかよ。大陸最強の魔導士のくせにやることがみみっちいんだな。

 まァ構わねぇ。すぐにそっから引きずり出してやっからよぉ!!」

 

 両手に魔力を集中。

 繰り出す魔法はオレの魔法の中でも特に威力の高い『雷竜の崩拳』だ。

 これでギルドそのものを破壊して炙り出す!

 

 魔法陣を展開し、いざ攻撃に移ろうと思った矢先——目前にあったはずの巨影がかき消えた。

 

 そして、背後に特大の圧迫感。

 

『『憑喪神(ホーンテッド)』で宿らせているのは私の魂のカケラだよ。

 だから憑依させたこのファントムMKⅡも私と同等の身体制御が可能になる』

 

 巨人はいつの間にかオレの背後に回り込み、腰を捻って回し蹴りの体勢を取っていた。

 鈍重な動きしかできないはずの魔導巨人が、操り手によって人類最高クラスの機動力を獲得していたのだ。

 

 直後、巨大質量の蹴撃が砲弾の如き超高速で放たれる。

 

「うぉおおおおおおおお!!!」

 

 まともに食らったら死ぬ!!

 オレは両足を迫り来る石壁へと伸ばし、あえて極限まで脱力した。

 

 そして巨人の蹴りがオレの足先に触れた瞬間、蹴りの進行方向とスピードに合わせるように移動しながら、身体を極限まで小さく丸めて壁面を転がる。

 転がりながら、ある程度の威力を殺しきったタイミングを見計らい、まず脛の外側、次いで尻、背中、肩と順番に接地し、最後にうつ伏せで大の字になるように両手両足を大きく広げて巨人の脚にしがみつく。

 

 ()()()()()()()()()

 横方向に爆速で移動する床面に対してこんな無茶をやったのは初めての経験だったが、ぶっつけ本番で上手くいったようだ。

 

 そのまま巨人の蹴りを踏み台にして後方へと大きく吹き飛ばされるように跳躍。

 巨人も妖精の尻尾(フェアリーテイル)のギルドも、みるみる遠くなっていく。

 

 一時離脱は成功した。

 腕に溜めていた魔力を解放して反撃に出る!

 

「『雷竜の崩拳』!!」

『ウッソだろバケモンかよ!? 魔導収束砲ジュピター発射!!』

 

 拳の形で繰り出した雷撃と圧縮された魔力の砲弾が激突する。

 地響きとともに今日一番の大きな水柱が巻き上がり、飛沫で一帯が真っ白に塗りたくられた。

 

 ちょうど良い煙幕代わりだ。

 これでヤツの視界を盗みつつ再び接近する!

 さっきは不意を突かれて危うく死にかけたが、巨人が人並みに動くことが事前にわかっているのならもう一度食らう心配はねぇ。

 小回りではこっちが上だ! 突入して内部から破壊してやる!!

 

 しかし水飛沫の霧を抜けたオレの眼に飛び込んできたのは、あり得ないほど複雑な軌道と超スピードで両手を動かしながら特大の魔法陣を編み上げている魔導巨人の姿。

 

 

『禁忌魔法『煉獄砕破(アビスブレイク)』』

 

 

 数ある闇属性魔法の中でも、その絶対な威力だけで禁忌と認定された破壊魔法。

 数秒で、この大きさで構築するのか……!?

 驚愕に声を出す間も無く、魔法陣から魔力が解き放たれる。

 

 

 ——音が消え、目の前が漆黒の闇に染まった。

 

 

 ——同時に、蒸発してしまうのではないかと錯覚するほどの激痛と衝撃。

 

 ——肉体が弾けて崩れていくような絶望的な喪失感。

 

 ——ああ。これが、死か。

 

 

「ざッけんじゃねえェェええええええ!!!!」

 

 

 オレは死なねぇ! 絶対に死なねぇ!!

 

 オレはジジイの血を継ぐ妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強の魔導士だ!

 

 まだ何も成しちゃいねぇ! まだ何者にも成れていねぇんだ!!

 

 こんなところで終わってたまるか!!

 

 オレはオレの為に! 一人の男である為に!!

 

 

「絶対に負けられないんだよ!! オレはァァァ!!!」

 

 

 ありったけの魔力を絞り出せ!!

 

 (ほど)けそうになる意識を強く保て!!

 

 挫けそうになる脚に喝を入れろ!!!

 

 

「うおォォああァァァあああアアァァァ!!!!!」

 

 

 血の一滴すら沸騰させて!!

 

 細胞を一粒残らず使い尽くせ!!

 

 そして今はただ——この一撃を耐えぬくことだけ考えろォォォォォォ!!!!!

 

 

 

 

 

 ——そうして、永劫とも感じられる時間が経ち。

 

 

 

 

 

「はァ……はァ……!!!」

 

 

 

 ——オレは!!! まだ、ここに立っている!!!!

 

 

 

『……さすがだね。まさか禁忌魔法の一撃さえ耐えしのぐとは』

 

 巨人の拡声器から聞こえる声には混じり気のない感嘆の念が込められていた。

 あまりの威力に湖の水は全て干上がり、魔法の範囲内にあった山麓は跡形もなく更地と化している。

 

 その中で、オレ一人だけが立っていた。

 

『大陸全体を見回しても、この魔法を正面から受けて立っていられる魔導士なんて片手の指ほどもいないだろう。

 誇っていい。キミは間違いなく聖十(せいてん)にも劣らない大魔導士だ』

「へっ……興味はねェよ、そんなもんに……オレが目指すのはただ、最強の座一つのみ……!」

『……そうか。キミならいずれ辿り着けるはずだ。

 キミにはいつか最強の名を手にする器がある。けど、それは今じゃない』

 

 声には(いたわ)りが感じられた。

 まるで高みから人を見下ろす神のように。

 

『だから今はゆっくり休むといい。こんなところで無意味に命を散らすことはないだろう?』

 

 その声色が……オレは無性に腹が立つ!!

 この期に及んで、まるでオレを敵とすら見なしていねぇその態度が気に食わねぇ!!!

 

 もう一歩も身体を動かせなくとも!

 もう魔力がほとんど残っていなくとも!!

 

 オレはまだ立っている!

 オレの心は微塵も折れちゃいねぇんだ!!

 だからまだ……オレは負けてねぇ!!!

 

「『神鳴殿(かみなりでん)』全基発動!!!」

 

 相手は大陸最恐の魔導士だ。

 オレだって(はな)ッから無傷で勝てるなんざ思っていない。

 

 だから奥の手を用意しておいた。

 こんな風にもうどうしようもなくなった時のための起死回生の一手として。

 それがこの全500基に及ぶ雷の魔水晶(ラクリマ)、『神鳴殿(かみなりでん)』だ!

 

『……まだやるのかい、ラクサス?

 この空に展開した無数の魔水晶(ラクリマ)、全部一勢に起動した時の威力は街一つを破壊できる程度にはあるけど、それは範囲内での話だ。

 このファントムMKⅡは移動要塞。脱出すれば良いだけの話だよ』

 

 その通りだ。

 本来はフリードの術式と組み合わせ、敵を閉じ込めて一網打尽にする用途だが、アイツは対霊体術式の維持で手一杯だから真の実力を発揮できない。

 つまり、この『神鳴殿(かみなりでん)』自体はヤツを追い詰めるほどのものではないということだ。

 

 ただそれは魔水晶(ラクリマ)を攻撃用に使用した場合の話。

 『神鳴殿(かみなりでん)』には隠されたもう一つの使い道がある。

 

 なけなしの魔力を振り絞り、電撃を空中に(ほとばし)らせる。

 (そら)(はし)る稲妻は浮遊している魔水晶(ラクリマ)を次々と破壊していった。

 

『あれ? せっかく用意した魔水晶(ラクリマ)なのに壊しちゃうの?』

「ああ、もったいねーぜ。これを(こしら)えるのは面倒なんだ。

 わざわざ落雷、浮遊、破壊された場合の対策として生態リンク魔法を組み込んでの反撃機能。

 その上、肝心の内部に込めるエネルギーはわざわざオレとは別口の雷属性魔導士に頼み込んで入れてもらわなきゃならねぇ——なぜだか、わかるか?」

『ッ! まさか!』

 

 全ての魔水晶(ラクリマ)を破壊し終わり、『神鳴殿(かみなりでん)』の生態リンク魔法が発動する。

 魔水晶(ラクリマ)を破壊した不届者には天罰を。

 『神鳴殿(かみなりでん)』は設定通りにその下手人、すなわちオレに向かって都合500の落雷を浴びせてくる。

 

「それはな……オレ以外の雷じゃねぇと、オレが()()()()()()()()()からだよ!!!」

 

 降りそそぐ雷を、口腔を大きく開けて捕食する。

 滅竜魔導士は同属性の魔法を喰らうことで体力と魔力を回復させ、その力を何倍にも増幅させることが可能なのだ。

 

「ふーっ、ごちそうさん……()()()()()()()()()()()

 

 回復した魔力の大部分を右腕に収束。

 かつてないほどの魔力の塊。

 これが直撃すれば竜すら殺せるとの確信がある。

 この一撃で、勝負を決める。

 

 しかし、それには魔導巨人内部にいるヤツに接近しなければ。

 無策に挑むのは自殺行為だが、生憎とこちらに切れる手札は残っていない。

 

 雷速移動は何度も見せた。

 容易く対処されるだろう。

 

 なら……まったく新しい移動魔法が必要だ。

 雷速よりもなお(はや)い、光に等しいほどの圧倒的な敏捷が。

 

 イチかバチかだ!

 どのみち成功しなけりゃ死ぬだけだろうが!!

 

 全身から電撃を迸らせ、集中を最大限まで高める。

 勝負は一瞬。

 失敗すればもう二度と勝ち目はねぇ。

 

「……()()()()()ぜ!!」

 

 臆するな!

 

 ただ我武者羅に突き進め!!

 

 進めばそこが道となる!!!

 

「『雷竜の瞬光(しゅんこう)』!!」

 

 全身が軋みを上げる。

 内臓が掻き回され、目の前が真っ白に染まり——コンマ1秒後、オレは巨人の外郭を突き破ってジョゼフィーヌへと肉薄していた。

 

「はっ!?」

 

 驚愕の声を上げる『霊王』に、してやったりと獰猛な笑みが溢れる。

 

 ヤツはこの巨人の内部に隠れる前にオレの『雷竜の(アギト)』を食らっており、そしてその時の雷撃は静電気としてヤツに纏わりついたまま。

 オレはそれを遠隔でプラスとマイナスの電荷に分解し、自身をマイナスの電荷で覆うことで己の肉体をヤツへと一直線に落ちる雷へと変化させて移動したという絡繰だ。

 

 無論、肉体にかかる負荷は普段と比べて尋常ではない。

 この一撃を放った後、即座に砕け散ってしまいそうなほどに悲鳴を上げている。

 

 だが、それでも……確かにオマエに届いたぞ!!

 

「滅竜奥義……!」

「くっ!?」

 

 右腕の魔力が臨界する。

 迸る雷は空気を焼いて青白いプラズマを撒き散らした。

 

 

「『鳴御雷(ナルミカヅチ)』!!!!!」

 

 

 乾坤一擲(けんこんいってき)

 雷の拳がジョゼフィーヌの腹部に突き刺さる。

 

「ぐっ、あぁあああ!!!?」

「ふっ飛べやァァァ!!!!!」

 

 白い電光が拡散し、爆発。

 巨人の腹部が塵も残さず焼き尽くされる。

 まさに竜すら屠る滅竜奥義。

 

 いかに大陸最恐の魔導師といえどもこの一撃をモロに喰らってはたまらない。

 雷電に身体を焼かれながら、紙きれのように遠方の峰まで吹き飛ばされていった。

 

「はァ、はァ……か、勝ったぞ。オレは勝ったァァァ!!!」

 

 拳を天に突き上げる。

 見ているかジジイ!! オレはついにアンタを超えた!!

 このオレの最強がついに証明されたのだ!!

 

「うぉおおおおおお!!!!」

 

 雄叫びを上げて喝采する。

 もう誰にもマカロフの孫だから、なんぞ言わせねぇ。

 オレはオレだ。

 

 最強のオレこそが妖精の尻尾を牽引するに相応しい!

 見ていろ、オレはこのギルドを名実共に最強のギルドとして生まれ変わらせる!

 弱ぇヤツは片っ端から追い出してやる!

 歯向かう奴も全員血祭りに上げてやる!

 

 なんせオレは! オレは最強になったんだ!

 強えヤツは何をやっても許される!!

 

 オレこそが! 真の王にふさわ——

 

 

「『葬送(サリエーラ)』」

 

 

 遠くに見える山岳が闇に包まれた。

 

 それに気づいた時、身の毛もよだつ不気味な悪寒が背筋を凍らせる。

 

 最初、オレはまだ息のあった『霊王』が闇の魔力を広範囲に撒き散らしているのかと思った。

 だが違う。

 アレはそんな生優しいものじゃない。

 

()()()()()……」

 

 黒く見えたのは枯れ葉の色だった。

 腐れ落ちた幹の色だった。

 生き物から噴き出した、どす黒い血の色だった。

 死は終端から隣の木々に伝播していき、声を上げる間も無く西の森の全てが黒に染まった。

 

 ここからだとよく見える。

 仰向けになって口を開けているジョゼフィーヌの姿が。

 その口腔に吸い込まれていく、さっきまで命だったものの魂が。

 

 ()()()()()

 ヤツは、死を喰らっている。

 

〝イシュガル各地の紛争地帯に繰り出しては軍を壊滅させ、数えきれないほどの国家を滅ぼしてきた〟

 

〝敵対した国は必ず滅亡し、味方した国はその後に不可解な祟りによって地獄と化した〟

 

〝戦争を止めた大英雄にして、大陸史上最も多くの人命を奪った死神〟

 

 合点がいった。

 誇張だと思っていたあの数々の伝説に納得した。

 普通はおかしいのだ。いくら強い魔導士だからとはいえ、噂に聞くだけで大陸の人口一つ分の命を奪えるわけがない。

 

 だがアレはきっと嘘じゃない。

 目前に広がるこの世の地獄を見ればわかる。

 ヤツの魔法は、きっと命ある全ての生き物にとって特効にも等しいものだと。

 

「死神の、魔法……」

 

 遠くに見える黒い影が、ニタリと笑った気がした。

 

 

「……こういう時に言うセリフは決まってるんだっけ」

 

 

 風の噂で聞いたことがある。

 かつて失われた魔法(ロストマジック)の中に、神を殺すための魔法が存在したと。

 アレはきっとその類の禁術に違いない。

 今までの死霊術など、ただ()()の副産物でしかなかったのだ。

 

 

()()()()()()()()()()()

 

 

 神を殺す魔法——滅神魔法。

 『死神の滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)』が、ついにその大鎌を振り上げたのだ。

 





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