PHANTOM LORD   作:あんくせらむ

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【前回のあらすじ】ラスボス降臨



父と娘

 

 黒く朽ち果てた森の中で出()った。

 

「……これは驚いた。評議会の勅令(ちょくれい)で『死の(ひろ)がる森』の調査に来てみれば、まさかこんな娘が発生源とは」

 

 呪いと亡霊が空気と混濁している枯れ果てた丘に在って、男は実に悠々としていた。

 

 彼は闇と幽鬼の魔導士。

 其れを扱わせれば大陸に並ぶ者なしとして聖十(せいてん)の座を(いただ)きし者。

 ゆえにこの呪われた霊地の探索に任命されたという。

 

「あなたはだぁれ?」

「おや、これは申し遅れましたね。

 私はジョゼ。幽鬼の支配者(ファントムロード)という魔導士ギルドのマスターをしております」

「じょぜ……ふぁんとむ……ます、たー……?」

 

 紫の三角帽とマントを羽織った彼は優雅に一礼する。

 

 私は、こてんと首をかしげた。

 物心ついて初めて目にした生命体。

 ずっと瞳を潰され続け、見えるようになった時には周りに生き物の死体しか転がっていなかった当時の私にとって、それがうまれてはじめての人間との邂逅(かいこう)だった。

 

「一つ質問です。あなたはなぜ森をこんな風に?」

「ごはんだから。おなかがすいて、いきをすぅーってすえば、いっぱいになるの」

「では、お腹が膨れた後は?」

「? いまみたいに、ぼーっとしてるよ」

「ふむ……なるほど。ある程度の制御は効くと」

「??」

 

 男は何事かを呟くと、指を立ててある提案をしてきた。

 

「あなたの強さには目を見張るものがある。我々の下で魔法を正しく学べば、いずれは並ぶ者のいない魔導士になる特別な才能があります。

 そこで、あなたに二つの選択肢を与えましょう。

 私に異変の原因として消されるか。あるいは私たちのギルドに入るか。

 どちらか好きな方を選びなさい」

「ぎるど……?」

「そうですねぇ。一言で言えば、仲間。もしくは家族と呼ぶ者もいます」

「なかま、かぞく……」

 

 聞き慣れない響き。

 しかしどうしてか、ひどく惹かれるような温かさをその言葉に感じた。

 

 ひとりはさびしい。

 さむいのはいやだ。

 もっとだれかとふれあっていたい。

 

 

 わたしを、あいして

 わたしも、あいしたい

 

 

 だから迷うことなど何もなく。

 私は即答した。

 

「はいりたい。ぎるど」

「クク、ええ。あなたならそう言うと思っておりましたとも。

 ようこそ、幽鬼の支配者(ファントムロード)へ。我々はあなたを歓迎いたします」

 

 彼が差し出した手を取る。

 私は生まれて初めて、()()()という感覚を知った。

 

「そうだ。あなたのことはどのように呼べば?」

「わたし、なまえない」

「おお、それは()()()。では私が代わりにあなたの名付け親となりましょう。

 そうですねぇ……ジョゼフィーヌ。

 これからは〝ジョゼフィーヌ・ポーラ〟と名乗りなさい。それがあなたの名前です。」

「わたしの、なまえ……」

 

 まるで生まれ変わったかのような気分だった。

 いや、もしかすると。

 私という存在は、あの時初めて生まれたのかもしれない。

 

 だから。

 だからね、お父様。

 私、あなたが私をどう思っていようと……。

 

 

 大好きだから。

 

 

ーーー

 

 曇天の空から陽の光が差す。

 崩れかけた巨人の中、私と聖十(せいてん)の証である白いコートを羽織ったマカロフが対峙する。

 あとついでにミストガンも距離を取って遠くにいる。

 

「ごきげんよう、マスター・マカロフ。

 空っぽになった魔力はお戻りになられましたか?」

「ああ、おかげさまでな。感謝するぞミストガン」

「いえ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士として同然のことをしたまでです」

 

 なるほどね。

 アリアさんの風魔法によって霧散させられた体内のエーテルをミストガンが回収してマカロフに戻していたわけか。

 こいつ仕事しすぎだろ。ちょっとは肩の力抜け。

 

「では、通らせてもらうぞ。ジョゼの娘」

「どぞー」

「嫌だと言っても力ずくで——ふぁっ!? どーぞ!?」

「そ、通りたきゃ通れば? そもそも、お父様はマカロフが来たらお通ししろって命令したんだし。

 ここで私が止めちゃったら命令違反じゃん。お父様に怒られちゃうよ」

 

 ひらひらと手を振ってマカロフに先をうながす。

 彼は拍子抜けした、と言わんばかりに口をあんぐりと開けていたが、首を振って気を持ち直した。

 

「そうか。ならば遠慮なく通らせてもらうぞい」

「じゃあ私も」

「ダメに決まってるだろ! ミストガンはそこで立ってなさい!」

「ちっ……」

「おいコラ舌打ちやめーい。またぶっ飛ばすぞ」

 

 マカロフは通せと言われているけど、同時にそれ以外はブチ殺せって命令されてるんだからなー。

 まだ一回も死んでないだけありがたいと思いなさいよ。

 ……あっ、ラクサス死んでたわ。ノーカンでよろしく。

 

「なんじゃ、気が抜けるのう……」

 

 マカロフはぼやきながら私の横を通り過ぎていく。

 しかし本当にちっちゃいな。

 私の腰に届くかどうかぐらいだぞ。

 これで使う魔法が『巨人(ジャイアント)』なのが驚きだ。

 今使われてなくて良かったよ。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「むっ!!?」

 

 瞬きの間に『死神の斬魄鎌(アズラーイール)』を展開。

 身体の向きはそのままに、腰だけ落として鎌を背後に一回転。

 マカロフの首筋めがけて刃先を突き刺さんと振り回す。

 

 尋常の魔導士であれば目に捉えることもできずに首を刎ねられる。

 まさに神速。

 神業と呼ぶに相応しい刃の冴え。

 

 しかし相手もさる者、聖十大魔導(せいてんだいまどう)の一角である。

 背後から迫る必殺の斬撃を首を捻って回避してみせた。

 

 空を切った『死神の斬魄鎌(アズラーイール)』はファントムMKⅡを真横に寸断。

 魔導巨人の上半身がずるり、と干上がった湖へと(こぼ)れていく。

 

「通ってよいのではなかったのかのぅ!」

「うーん、気が変わった! だからアナタをブチ殺してこの戦いを終わりにするね」

 

 実際、さっきまでは渋々だが通すつもりではいたのだ。

 だがこうして本人を目にしてみたら考えが変わった。

 

 この老人をお父様の下に向かわせてはならない。

 きっとお父様はこの人に勝てないから。

 そして勝てないとわかったお父様が次に何をするか、なんとなく察しがついてしまっているから。

 

 だからここでマカロフは殺しておく。

 大将首を取れば妖精の尻尾(フェアリーテイル)の心も折れるだろう。

 それでお父様の(いのち)を守れる。ついでにこの無益な戦争も最小限の死人で終わらせられる。

 良いことずくめだ。こりゃもう殺すしかないね。

 

「ぬぅうううん!!」

 

 私の攻撃を(かわ)したマカロフは魔法を発動。

 子どものような矮躯(わいく)がみるみる間に巨大化し、山と見紛うほどの巨体へと変貌する。

 

「へぇ、これがマスター・マカロフお得意の『巨人(ジャイアント)』か。

 でも、私を相手に面積を広げるのは悪手じゃないかな?」

 

 私が使う『死神の滅神魔法』は少しでも触れたらアウトな魔法だ。

 肉体の表面積を広げてしまう『巨人(ジャイアント)』を考えもなしに使うのは、ただ的を大きくしているだけに過ぎない。

 

 だが相手は聖十(せいてん)に選ばれるほどの魔導士だ。

 それを理解していないはずがない。

 さっき私の『死神の斬魄鎌(アズラーイール)』を避けたのが良い証拠。

 何か策があってのことなのだろう。

 

 では、小手調べだ。

 私は展開したままの『死神の斬魄鎌(アズラーイール)』を1、2、3回転。

 巨大な三筋の斬撃を飛ばしてマカロフを両断せんとする。

 

「『三柱神』!!」

 

 マカロフが選択したのは防御。

 しかし死神の鎌はあらゆる守りを殺す絶死の斬撃。

 防ぐことはほぼ不可能だ。

 

「ぬぅぁぁああああ!!!」

 

 だがマカロフは両手を交差させてその斬撃を受け止め、あまつさえ弾き飛ばしさえした。

 なぜそんなことができたのか。

 理由は斬撃を弾いた後、両手を広げたマカロフの身体を見れば察しがついた。

 

「驚いたよ。『三柱神』を自分の身体に突き刺すことで、自分そのものを防御魔法陣と一体化させるとは」

 

 マカロフの両肩、そして背中の辺りから柱が見えた。

 見上げるような巨躯であるため、柱の大きさは爪楊枝みたいになっちゃってるが、確かに『三柱神』が発動している。

 

 理解できた。そのための『巨人(ジャイアント)』か。

 通常のサイズで肉体に岩の柱をブッ刺したらもちろん死ぬが、巨大化すればダメージは軽微なものになる。

 目から鱗の活用法だ。

 

 加えてあの『三柱神』とかいう魔法、名前通りに対神特防の魔法か。

 三柱神という名の由来は東洋の神話で語られる天地開闢の際、最初に産み落とされた三柱の神のことを指したはず。

 ゆえにその名が持つ力は『万物の根源』、または『命の芽吹く場所』。

 私の『死の斬撃』を相殺するにはもってこいの技だというわけか。

 

「消し飛べぃ!!」

 

 マカロフは反撃とばかりに巨大な光魔法の陣を複数展開。

 巨人の体格で描かれた魔法陣は当然、相応の大きさになる。

 陣の面積が広がれば、それだけ魔法そのものの威力も飛躍的に上昇する。

 巨体による圧殺だけでなく、こうした魔力的な暴虐さえ可能になるとは。

 ネックなのはその分、消費も激しくなるというところかな。

 

「『憑喪神(ホーンテッド)』」

 

 聖なる光の津波が私めがけて殺到する。

 対して私は周囲一帯の空気に対して『憑喪神(ホーンテッド)』を使用。

 さらに空気に圧力をかけて屈折率を変え、マカロフの放った太陽の如き光の全てを上空へと拡散させた。

 

 アリアさん直伝の気体屈折だ。

 魔法といえど光は光。

 物理法則に抗うには少しばかり不足というもの。

 

「黄泉より出でて生あるものを貪り喰らえ『屍喰獣(ヨモツヘグイ)』」

「そんな豆粒のような犬っコロ、叩き潰してくれるわ!!」

 

 マカロフは拳に光の魔力を付加(エンチャント)し、輝く隕石のような巨腕を振り下ろす。

 一方、私は髪を三本抜き取り、それを触媒に黄泉に住まう魂喰いの霊獣を召喚。

 さらに召喚した霊獣を生贄とし、さらなる高位の獣を顕現させる。

 

「喰い散らせ、『御左口神大蛇(ミシャグジ・オロチ)』」

 

 黒獣を腹から食い破り、巨木ほどの太さの大蛇が3頭現世に引き摺り出された。

 蛇竜の如きその身を数多の呪いで覆い尽くした禍々しい祟りの化身。

 その3匹を魔力で無理やり捻り固め——発射する。

 

 死の魔法への耐性があるなら仕方ない。

 ならば純粋な質量と魔力で対抗するのみだ。

 

「ふんぬぁあああ!!!」

 

 マカロフの裂帛の気合い。

 星のような拳と呪いの黒槍が衝突し、途轍もない魔力の暴風が吹き荒れる。

 巨大な質量と質量。魔力と魔力のぶつかり合いによって空間に亀裂が走るようだ。

 つまり威力は互角ということ。

 決定打にはなり得ない。

 

「おじいちゃん粘るなぁ。困りもんだ」

 

 対神特防に加えて相性の悪い光属性のエキスパートときた。

 このまま戦えばいずれは押し勝てるだろうが、モタモタしてるとお父様がやってきてしまう。

 それは拙い。非常に拙い。

 

「めちゃくちゃ使いたくないけど、こりゃ迷ってる暇ないね」

 

 今は何より早く倒すことだけが重要だ。

 コレ一瞬でも使うと四方八里が死界で染まって二度と生き物が住めなくなっちゃうけど、まぁ背に腹は変えられない。

 街の人たちは死んだら蘇らせてあげるからそれで勘弁してちょうだいな。

 

()()だ。須臾(しゅゆ)にして消え去れ。『テ——」

 

 

 

「お待ちなさい。フィーネ」

 

 

 

 私が全力の魔法を解放しようとしたその時。

 背後から聞き慣れた初老の声。

 ああ、そうか。やっぱり間に合わなかったか。

 

「……お父様」

「黙れ。口を開くな。私の命令を忘れたか。

 今、()()を使おうとしたな。一体どういうつもりだ?」

 

 普段の紳士的な口調は鳴りをひそめ、代わりに荒々しい声色で彼は凄んだ。

 予想していたが、怒り心頭といった有り様だ。

 

「……それは」

「黙れと言ったはずだ! 他の誰を殺そうと構わんが、マカロフだけは生かせと伝えただろうが!

 なぜその程度の言い付けすら守れんのだ、この愚図が!!」

 

 ……お父様はこの戦に全てを賭けていた。

 マスター・マカロフを自らの手で打ち負かすためならば、あらゆる悪をも是とするほどに。

 もしもそれが叶うならば、ギルドの存続すらどうでもよいとさえ言わんばかりに。

 

 だからこそ、最大の目的であるマカロフを私が勝手に殺そうとしたことに酷く怒るのも道理と言えた。

 

「身体張っとる娘に対して随分な口の利き方じゃのう、ジョゼよ」

「……これはこれは。こうして直接会うのは6年ぶりですねェ、マスター・マカロフ。

 しかし、これも当然の(しつけ)なのですよ。

 あなたが来る前に目障りなガキどもを皆殺しにしておきなさいと言っておいたのに、この体たらくとは。我が娘の不甲斐なさには呆れて物も言えません」

 

 いつの間にか『巨人(ジャイアント)』を解除したマカロフが語りかける。

 それに対し、お父様は薄ら笑いを浮かべて私を貶した。

 

「力及ばなかったわけではあるまい。この無意味な戦いを憂いておるからこそじゃろう。

 その理性は誇りこそすれ恥ではない」

「だからこそですよ。やる気になれば貴様らごとき一瞬で捻り潰せる力がありながら、非情になり切ることができなかった。

 その怠慢こそが愚図だと言っているのですよォ!!」

 

 闇の魔力が空気を焦がす。

 お父様も聖十(せいてん)の称号を持つだけあり、その魔力量はマカロフとも遜色はない。

 一見すれば互角。

 魔力量だけを勘定すれば、お父様にも勝機があるように見える。

 

 しかし、実際にはお父様には万に一つも勝ち目はない。

 だから何としても戦わせてはならないのだ。

 

 たとえお父様に失望されようと、蔑まれようと。

 アナタの魂だけが安らかであれば、私はそれだけで十分なのだから。

 

「マスター・マカロフ! その(いのち)、私が貰い受ける!!」

「むっ!?」

 

 会話に気を取られている隙をついてマカロフへ突貫する。

 きっとお父様は私をお許しにはならないだろう。

 絶縁されるかもしれない。

 

 でも、それでアナタの(いのち)が護れるなら私は構わない。

 私は愛されていなかったかもしれないけれど、それでも私はアナタを愛していた。

 私を救ってくれた人を、今度は私が救うため。

 だからこの決断に後悔はない。

 

 死神の魔力を腕に付加(エンチャント)し、貫手(ぬきて)の要領でマカロフの心臓を穿つ。

 その指先が彼の胸板に触れる寸前まで迫った、その時。

 

「『縛魂(ソウル・グラップ)』」

 

 私の一撃がマカロフを貫くことはなかった。

 (すんで)の所で、身体の動きが強制的に停止したからだ。

 

「これは……霊体を拘束する魔法……! お父様っ、なぜ!?」

 

 反応できていなかったはずだ。

 確実に会話の隙をついた。

 正面で構えていたマカロフすら反応できない移動速度だったはず。

 これを捉えることなど、最初から()()()()()()()と予想していなければ間に合わない……!

 

「なんで……どうしてなのですか、お父様! なぜわかってくださらない……!」

「なぜだと? 虫酸が(はし)る。お前が無理をして私の代わりにマカロフを殺そうなどと。

 それは、私にはマカロフを倒せないと見限っていることの何よりの証左だッ!!」

「事実でしょう……! アナタではマカロフには及ばない!

 そこまでしてあの老爺(ろうや)と戦う必要なんて……!」

「黙れェっ!!!」

 

 お父様は私の顔を鷲掴みにして口を塞ぐ。

 万力のように締め上げられ、声が出せない。

 

「フフフ……私がマカロフに及ばないだと?

 ああ、認めよう。確かにそれは紛れもない事実だとも。

 私一人の力ではあと一歩、ヤツには及ばないやもしれん。

 ——だがね。どうして私がお前のような、人でなしのバケモノを義娘(むすめ)として迎えたと思う?

 なぜ、わざわざ己の名前さえ分け与えたと思っている?」

「ッ……! お止め、ください……お父様……! それを使えば、アナタがっ……!」

 

 お父様の腕が闇の魔力を帯びる。

 そして彼は顔を掴んでいない方の腕で私の胸部を貫いた。

 

「かはっ……! お父、さま……」

「教えたな? 黒魔術の基礎だ! 名を共有するということは、存在を共有することと同義!

 さァ! 10年間蓄え、そして強めてきた極上の魔力! その魂!

 すべて、すべて! 私だけのものになるがいい——!!!」

 

 霊体(からだ)がお父様の腕に吸い込まれてゆく。

 音を立てて、私の身体(輪郭)が崩れ落ちる。

 

 私の人生はお父様に与えられたもの。

 そして、その人生をどのように()()するのかも彼の自由なのだ。

 

 まさか、とは言うまい。

 わかっていた。お父様がこうすることぐらい。

 一体、何年アナタの背中を見て育ってきたと思っているのか。

 

 アナタが私をただの道具として、マカロフを倒すためだけの強化装置としてしか見ていなかったことなんて、もう何年も前から気づいてる。

 アナタはまんまと騙していたつもりだろうけど。

 この腕を振り払うことだって、本当は余裕なんですよ。

 

 でも、それはできない。

 魂の同化を無理矢理にでも止めれば、強い魂の方が残留し、もう片方は負荷に耐えきれずに消滅する。

 この場合、どう考えても消え去るのはお父様の方だ。

 だから、私は黙って彼に吸収されることしかできない。

 

 だって……殺せないもの。

 たった一人の、私の家族なんだから。

 

 

「お、とうさま……さよ、なら。……だい、すき」

 

 

 残り滓のようになった力を振り絞って、別れを告げる。

 心残りはある。けれど、これでよかったのかもしれない。

 だって愛されていないってはっきりわかっていた方が、きっとアナタも辛くないでしょう?

 愛していない娘との別れだって、何とも思わないはずだ。

 

 

 でも、なんでかな。

 消え行く視界に最後に映ったお父様の顔は、ひどく悲しんでいるように見えてしまった。

 

 





 次話投稿予定は来週金曜日です。たぶん。
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