【神木輝-カミキヒカル-】 作:アイちゃんペロペロ
徹夜明け(32時間労働後)の茹だった頭で書き殴りました。
誤字脱字等有りましたら報告して頂けると、素人作者としては大変助かります。
高評価や感想、お気に入り登録ありがとうございます!
というか、思っていた以上に読んでくれた人が多くて素直に驚きです。
やっぱり【推しの子】って凄えや。
こんな衝動に任せて書いた作品で良ければ、暇潰しくらいの感覚で気軽に見ていってくださいな。
通話を切られた携帯を見つめる。
アイは、昨日別れたばかりの恋人は、いつもと変わらない調子だった。
何事もなかったかのように僕と話していた。
僕は普通の恋愛というものは分からない。
けれど、小説などで描かれる恋愛劇だったらどうだろう。
あんな唐突に一方的な振られ方をすれば、それまでの愛情が引っ繰り返ることもあるかもしれない。
実際、僕も冷静にならなければどうなっていたか怪しいところだと思う。
自分で言うのもなんだけど、自分自身の感情さえ全く分かっていなかった人間だし、碌なことにはなっていなかっただろう。
「ドライバーさん。××××までだと、どのくらいで着きそうですか?」
「あー、信号次第ですが、この時間帯なら十分前後かと」
アイに電話する前に予め呼んでいたタクシードライバーの男性に目的地と到着予定時刻を聞いて、腕時計を確認する。
現在時刻からすると、時間的にギリギリのタイミングだったかもしれない。
もっと早く連絡するべきだったかな。
でも、僕としても頭と心の整理をつける時間は必要だったし、結果的に間に合ったのだから良しとしよう。
それより、今更だけど何を話そうか。
僕の気持ちを伝えるのは……めちゃくちゃ緊張するけど大前提として、その後はどうしよう。
例えば、仮に縒りを戻すにしても、アイにまで大輝君のことを背負わせるのは違うだろう。
別れ際のアイの言葉のどこまでが嘘だったのか今では判別出来ないが、大輝君を負担に感じるのは間違いないと思う。
だって、当事者の僕でさえ背負いきれず、潰されそうになっていたのだから。
それに加えて、アイのお腹にいる僕とアイの子供のこともある。
彼女が出産するかは正直分からない。
情けないことに、全くもって想像が出来なかった。
アイは、僕が出会ったばかりの頃と比べればアイドルとして更に洗練された気はするが、未だに彼女というかB小町は売れているとは言い難い状況だ。
アイを中心として熱狂的なファンは居ても、他のアイドルグループには見劣りしてしまう。
アレでいて、アイはアイドル活動に熱心だ。
それは彼女の願いを叶えるために必要なことだからというのが根底にあるとしても、アイ自身の生来の真面目さから起因しているとことだろう。
僕の相談に対して真摯に向き合ってくれたり、何なら姫川愛梨に直談判したのも記憶に新しい。
頭の悪そうな普段の言動は、『アイ』という嘘の鎧で出来た偶像に過ぎない。
本来の彼女は思慮深く、繊細で、生真面目な、僕と同じく愛を求める一生懸命な少女でしかないのだ。
お互いに嘘が通じないからこそ、僕は本当の彼女の姿を知っている。
そんなアイが、まだ願いを叶えてもいない少女が、道半ばで諦めるだろうか。
アイドルを辞めて、子供を産むだろうか。
僕の私見でしかないけれど、想像しにくいことではあった。
しかし、同時に。
その選択は、生まれるはずの子供を中絶するということになる。
母に捨てられた、愛されなかった過去を持つ彼女が、それを容認出来るだろうか。
これもまた、想像するのは難しかった。
だから、もし縒りを戻すとしても、その辺りを確認せずにというわけにはいかないだろう。
僕の気持ちを聞いて、彼女が受け入れてくれるのであれば、アイがどうしたいのかを確認した後に決めるべきことだと思う。
アイが子供を産むとして、養育費はどうするのか。
アイが子供を産まないとして、僕等の関係は?
色々と考えることはあるが、結局のところアイの考えを聞くのが最優先ということになる。
彼女の返答如何によっては、僕とアイは本当にこれっきりの関係になるかもしれない。
「…………それは、嫌だなぁ」
無意識に出た自分の言葉に、今はまだ驚いてしまう。
まさか僕が本当にこんな感情を誰かに対して抱くなんて、夢でも見ているような気分だ。
僕自身でさえ現実感がないのだから、アイにはどう見えるだろうか。
実のところ彼女に対する依存心が消えたわけではなかった。
予期せぬ荒療治を受けたところで、結局は運良く自分を客観視して冷静さを取り戻せただけなのだから。
一朝一夕で脱せるのであれば、初めから依存なんて言葉は使わない。
ただ、それを上回るほどの感情に気付くことが出来ただけなのだ。
彼女の重荷になろうとしている現状を自戒して、本当の意味で共に在りたいと。
我ながら少し気持ち悪いくらいの変わり様だった。
「……ちゃん。兄ちゃん!」
「……ああ、すみません。なんでしょう」
「何って、目的地に到着しましたよ」
運転手に言われて外を見れば、確かにそこはララライの前だった。
代金を払ってタクシーを降りて辺りを見渡せば、見覚えのある服装に身を包んだ女性と金髪で柄の悪そうな男性が居た。
帽子を目深に被っているが、顔を見なくても分かる。
小走りで近寄って、頭を下げた。
「お待たせしました、アイさん」
「そうだねー。こんなに待たされるとは思わなかったな〜」
「……この辺りだと大したものはないんだけど」
何か奢れということらしいが、近くにはコンビニか自販機があるくらいだ。
とはいえ、実際十分そこそこ待たせておいて飲み物だけというのも少し収まりが悪いのは確かだ。
またタクシーでも使おうかと考えるよりも早く、帽子の鍔を指で押し上げたアイは、無防備に至近距離まで迫ってきて僕の目を覗き込んでくる。
一瞬気圧されそうになった僕を無視して、何度か瞬きした後に目を細めて笑った彼女は至極当たり前のように言った。
「え?そんなの車で行けばいいじゃん。佐藤さん聞いてたでしょ?車ちょっと出して」
「………………おいコラ!このクソアイドル!何を言うかと思えば、俺は社長だぞ!?お前が顎で使える便利な足じゃねぇんだよ!社・長・な・のっ!!あと俺は佐藤じゃねえっ、斉藤だって言ってんだろうが!」
お座なりな対応に分かりやすくキレているが、彼が話に聞くアイをプロデュースした社長さんらしい。
割となんでも言うことを聞いてくれるとかアイは宣っていたが、流石に見ず知らずの僕を連れて飲食店に行こうなんてのはラインを超えているようだ。
そんな社長さんの剣幕にもどこ吹く風のアイは、徐に僕の手を引いて身を寄せながら澄まし顔を向ける。
「ふーん?そんなことよりいいの?あんまり騒いでると、バレちゃうかもしれないよね〜」
「テ、テメェ!自分のとこの社長を脅すアイドルが居るかよっ!?……ああもうっ、分かったよこん畜生が!取り敢えず個室……適当なカラオケでいいよなぁ!?あと、そこのヒカル何某!俺の分も何でもいいから奢れよ!いいなっ!?」
「……はい。勿論です。ありがとうございます」
「ああっ!?嫌味かコラ!礼なんて要らねえからさっさと乗れ!」
アイが一度言い出したら聞かない人間だと身を以て理解しているのだろう。
斉藤社長は慣れた様子でアイの我儘を受け入れて、そもそもの元凶の僕に対してせめてもの抵抗のように奢りを要求した。
そんな
──なるほど。アイが懐くわけだ。
頭の回転も早く、何よりもかなりのお人好しだ。
勿論甘いだけではないだろうが、奢りという要求を通すことで僕の心理的な負担を軽減しようとしてくれている。
良くも悪くも軽薄な印象があるため、アイからすれば雑な扱いをしても気負わずに居られるような、年齢の離れた友人のような相手なのかもしれない。
僕に対しては、どういう対応を取るべきか探っているらしい。
こちらに対するさりげない気遣いや探られていることに僕が気づいているのかどうかも確認している。
このくらいのことも分からない節穴なら、後腐れなく金でも握らせてアイから引き離そうだとか、多分そんなことを考えているのだろう。
今のところは一応合格ってことでいいのかな。
流石はアイドルというべきか、優秀な番犬が居たものである。
彼からすれば僕は面倒事が歩いてきたみたいな感覚なんだろうけど、アイをプロデュースする以上は大なり小なり避けられないことだと思う。
実際好き勝手に振り回されているのは演技じゃなくて、日常的なことなんだろうね。
さて、こうなると僕も、ただアイに想いを伝えるというわけにはいかなそうだ。
どうしたものかと、ちらりと隣に座るアイを見る。
頬杖をついて窓の外を眺める彼女が今どんな表情をしているのか、僕には確認出来なかった。
アイ「あれれー?」
ヒカル「(うわっ!キスされるのかと思った……)」
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