弁当使いと寒い地方のクソダンジョン   作:弁当は茶色いほど美味い

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第1話 レシピは悪魔の書物だぜ

「何が玉子焼きだ馬鹿野郎」

 

 どのレシピも、薄焼き卵をくるりと巻けと言いやがる。

 加熱し続けるフライパンの上でだぜ? 熱した鉄板の上で卵は刻々と焼けていく。

 溶き卵が焦げ付くまではあっという間の出来事だ。

 

 無理! 馬鹿! アホの脳たりんだ。

 レシピは悪魔の書物だぜ。

 

 焼きあがった卵は、今日も元気よく焦げかけたスクランブルエッグに化けた。

 

「だがしかし、俺が食う飯だ。出来にガタガタ抜かすやつはぶっ殺――おいこらてめえ、お前のご飯はこっちだ、やめろムチャ子。やーめーろって」

 

 俺は愛するペットちゃんの前脚をかいくぐりながら、焦げた卵を弁当箱の隙間に大雑把に詰め込む。

 さて、冷ます間に着替えておくか。

 

 今は遠く離れたカミさんとの約束は二つ。

 

 曰く、毎日弁当を作って食え。

 そしてお願いだからパンツは毎日履き替えろ。

 

 三つ目以降は忘れた。

 が、俺のいい所は約束を守るところだって結婚前のカミさんは言ってたもんね。

 

 さて、今日はどこにお出かけしようかね。

 弁当までこさえておいて、代り映えのねえ部屋でかっくらうのはさすがに惨めだ。

 

 俺の郷里じゃ、野外で弁当を食うのを『弁当使い』と呼ぶ。

 カビ臭え言い回しだ。

 今となっちゃジジイかババアか、あるいはジジイだかババアだかすら曖昧な年寄しか使わねえ。

 が、俺はそんな所が結構気に入っている。

 

 おっさんが遠足だなんて言ってたら気色悪いでしょ? 

 

 という訳で俺は目的地を決める。

 今日は水の森ダンジョンにしておくか。

 滝の裏から下がって――えーと七層あたりまで降ればいいだろう。

 

 俺はアパート脇の柵に立てかけた愛車―愛しのぼろチャリンコにまたがると、一路目的地へと向かう。

 

 

 

 ここじゃ見当識と同様、重力までイカれている。

 

 真っ白い鍾乳石達は横方向に伸びて肋骨のように絡まり合い、隙間からは、薄青く光る水がさらさらと流れ落ちて眼下の大穴に吸い込まれていった。

 水の行く先は誰も知らねえらしい、今のところはな。

 

 じっとりと水気を含んだ苔を踏みしめ、眺めのいいポイントを探す。

 銀マットを持ってきて正解だったな。

 この調子じゃ乾いた地面を探すのは骨が折れそうだ。

 

 と、すり鉢状に傾斜した草地を登り始める俺の後頭部をジリジリとした予感が炙る。

 

「―おっと!」

 

 迫る殺意に調子を合わせ、上げかけた右足を踏みしめると同時に低く身をかがめた。

 直後、俺の頭があった高さを紫色の残像が横切ったのを視界の端に捉える。

 

 風切り音。

 脂っけの多い肉ばかり喰っている生き物特有の|腥<なまぐさ>い臭気。

 

 斜面を駆けのぼる素振りを見せ、急停止からの急旋回。

 半歩横の地面が砕け散って野太い何かが食い込んだ。

 けばけばしい紫の毛皮に覆われた尻尾だ。

 

 先端はくるりと巻いてある……握りこぶしのように硬く。

 

「巨リスじゃねえの! こんな所まで上がって来たんかい」

 

 お利口にも俺の挑発を聞き届けた獣が尾を揺らしながらのっそりと直立した。

 紫色の毛むくじゃら、額と尾には特有の縦縞が走り、締まりのない口元からだらだらとよだれを垂らしている。

 リスっつっても頭に『巨』が付くだけあって図体は俺のざっと倍ほどだ。

 

 短い両前脚にドングリよろしく白いボールを抱えているのがなけなしの可愛げかもしれん。

 ……いやあれ頭蓋骨だな。

 猿かなあ、猿じゃねえかなあ、ヒトだったらやだな。

 

 巨紫(きょむらさき)のリスは頭蓋骨をまっ黄色の牙でこれ見よがしにバリゴリと食い散らかし(南無)ぎゃらぎゃらと耳障りに鳴きまくって飛び掛かってきた。

 つまりアレか?てめえの頭蓋骨は明日のおやつ、残りは今日のランチにでもするってか? 

 

 それで威嚇のつもりかよ。

 

 俺は腰に差したナタを抜きはらい、巨リスに叩きつけた。

 さしあたりは比較的華奢にできている足先だ。

 

 巨大リスはびぎゃあ、と情けない鳴き声を発しながらバランスを崩してたたらを踏んでいる。

 

 どうやらこいつは、よほど辺鄙な深層から迷い出たようだ、生まれて初めての劣勢に戸惑っているのが見て取れた。

 

「リス語はわからんから雰囲気で聞いてほしいんだが、まあ、アレだ。取り返しのつく内に格上相手の作法も身につけておくべきだったな」

 

 俺はリスの胸元のあたりをドカンと蹴りとばす。

 

 足を滑らせたリスは負傷した脚では踏ん張りも効かず、苔の斜面をなすすべなくずり落ちていく。

 ズベズベと鼻水すするみてえな音と共に転がっていく先にはただ大穴が虚ろに口を開いているばかりだ。

 

 ギャオオォォォォん……

 

 巨リスはその果てに、哀れっぽい鳴き声をあげて大穴に落っこちていった。

 おお、ドップラー効果。

 

「うし、弁当にすっか」

 

 腹ごなしも済んだことだし、俺は適当な岩場にいそいそとマットを敷く。

 ムードにはこだわる方なのよ。

 

◇◇◇

 

bentoutukai 1時間前

今日の弁当[画像]

 

 

スレッド名:得体のしれない場所で弁当を食う謎のオッサン総合スレpart3

49:

きた

 

50:

弁当使いの供給が来たぞ

(URL)

 

53:

相変わらず写真の腕が最悪だな

 

54:

ここ水の森?肋骨石こんな遠かったっけ

 

57:

>>54

多分かなり下層に位置してる。

植生もなんかおかしいし。

これ正規踏破ルートじゃなさそうだな。もうちょい鮮明な画像さえあれば…。

 

66:

>>57

平常運転定期

 

70:

相変わらず弁当箱とおじさんの膝がジャマなアカウントだなあ

 

75:

>>70

言ってやるなよ…毎日毎日欠かさず続けてる習慣なんだから…

え?そろそろアカウント作成から1年経つんですって?嘘ぉ

 

83:

一度でいいからミスって背景にピントが合わんものか

 

85

>>83

最近のスマホカメラの性能を舐めるなよ

そんなお馬鹿ちゃんな挙動はしません(号泣)

 

56:

主食:醤油色の飯

主菜:焦げた卵

副菜:色の悪いさやいんげん

副菜:カニカマ

デザート:特に間仕切りなく突っ込まれた櫛型のオレンジ

 

63:

解析班助かる

 

72:

>>56

相変わらずまずそう

 

97:

ダンジョンの未踏破エリアとしか思えない場所で毎度のごとく弁当を食うのも不気味だが、

料理の腕が一向に上がらないのも同じくらい不気味なアカウント

 

98:

オッサンの一人飯なんてそんなもん

 

102:

可愛い奥さんが作ってるかもしれないだろ!

 

110:

>>102

だとしたらbentoutukaiは結婚生活考え直すか、かみさんを料理教室にぶち込んだ方がいい

 




続きは気が向いた時に書くシリ~ズ

プロットはできてるので、あとは時間とやる気の捻出が鍵
星々の配置が…なんかこう、いい頃合いを待たれよ
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