「……なぁにやってんのかなぁ~、俺」
俺、フレッド・スピネットはようやく20歳になった誕生日から数週間がたった今……初めて訪れた異邦の地で、ひっそりと途方に暮れていたのだった。
掻い摘んで事情を説明すると、聖杯戦争とやらに兄が参加すると聞かされたのが数ヶ月前、その兄が死んで何故か俺が代わりに聖杯戦争とやらに参加することになってしまったのが数日前のことだ。そしてその後すぐに戦地にて途方に暮れて今に至っている。
そもそも俺は、家がそういうオカルト染みたことを生業にしているのは知っていたけれど、兄が既に後継者とやらに決まっていたので特にこれといった教育をされてこなかった。
……それでも祖父曰く、潜在的に魔力量だけは群を抜いていたようで「どうしてお前が先に生まれてこなかったのだ」と、自分ではどうしようもない苦言を呈されていた。
まぁ、それは別に今更どうでも良いんだけれど……。
目下の問題は……。
「おい、いつまでも呆けているな」
この高圧的な同行者。……もとい兄が呼びだした過去の英雄とやらの扱い方だった。
「そうは言うけどな、俺は素人だぞ?どうしろってだよ……」
「……。貴様は、本当に頼りにならんな。人並み以上なのは供給してくる魔力だけか?」
こちらを訝しむように眺めてくる彼女。肩口程度にそろえられた薄い色彩の髪、小柄な体躯に似合わない力強さを感じさせる肉体。そして、俺に本人に対してすら隠そうとすらしていない落胆した態度。圧倒的な威圧感と迫力を兼ね備えた存在。
曰く、バーサーカーのサーヴァント。ペンテシレイアさんの扱いが目下一番の問題だった。
何せ彼女は召喚した兄をその手で……いや、正確にはいつの間にやら取り出していた棘だらけの鉄球でだけど……とにかく兄を木っ端みじんに粉砕した女なのだ。
……今思い出しても凄惨な光景だったと思う。
祖父は解析とやらに特化していたらしいウチの魔術を全力で使って、令呪とかいう手に刻まれた紋章を兄から俺に移植した。
燃料タンクの役と操縦者の役を分けたのだ、と疎い俺にもわかりやすく兄が教えてくれたのが懐かしい。燃料タンクが俺で、操縦者が兄……そうなるはずだったそうだ。
『……問おう、貴様が私のマスターか』
『……。うつくしい……。』
『!!』
それでおしまいだった。
何が琴線に触れたのか、兄は彼女を見てボソリと小さく口からこぼした言葉を最後に肉片に変わった。
『チっ、まだ答えを聞いていなかったが……まぁ良い。魔力の流れはそっちの貴様に繋がっているのがわかる。私のマスターは貴様だな?返答によっては貴様もさっきの男のようになることを忘れるなよ』
俺は頷くしかなかった。
その後は簡単だ。祖父からテキトウな理由を告げられ、兄がするはずだった聖杯戦争への参加という大任を素人同然の俺が引き受けることになったのだった。……祖父の顔が笑っていなかったのが印象部下かかったな、と今更ながら思う。
「おい、聞いているのか?私は他に何か得手はないのかと聞いたのだが?」
不満を隠そうともせず彼女が聞いてくる。……さて、どう返答したものか。
魔術師としての手腕なんて、俺には当然存在しない。唯一人に誇れる、または人並みに使用できるスキルとしたら……。
「一応機械いじりとかは得意だけど……アンタそういうの説明してもわからないだろ?」
俺はそんな無難な回答をすることにした。
「貴様は私をバカにしているのか?聖杯からのバックアップで現代の知識は一通り得ている」
「得ている方がその格好で街中を闊歩しようだなんて思わないと思うんですが……」
「何か言ったか?」
「いいえ。」
軽く冗談を飛ばしたつもりだったのだが、どうやら冗談が通じない性格らしい。……前途多難である。
「……。聖杯戦争の開戦前に一つだけ貴様に謝っておくことがある。」
唐突に彼女が口を開いた。
「?、謝るとは?」
「私を召喚したあの男のことだ。貴様の祖父とやらから聞いたが兄だったのだろう?すまなかったな。あの男が私の逆鱗に触れたとはいえ、肉親の前でする所業ではなかった。」
「……。謝るようなことか?」
ほんの少し苦い表情で告げる彼女に対して、俺は本心からそう伝える。
「兄は聖杯戦争とやらにに出る前の段階で死んだ。……ならどの道、戦争で生き残れなかったてことだ。アンタが謝ることじゃない。聞いた感じ、先に非礼を働いたのは兄みたいだし」
「……。見かけによらず、随分と淡白だな」
「兄には世話にはなったけど、こっちを見下してた節があったし。本気で怒ってやる義理はないかなと」
「そうか。……難儀なものだな、魔術師というのは」
そう吐き捨てるように言うと、バーサーカーは姿を消した。
実際問題として、兄が死んだのはショックだったけど……怒りはなかった。それだけは確かだった。
「……、そうだ」
そこでふと、どうでもいいことを思いつく。
そういえば祖父や兄は機械には滅法弱かった。一般的に普及している携帯端末の扱い方すら知らないほどだ。……で、あれば。
「街に防犯カメラとか配置して、映像見れるようにしとけば楽に情報収集できるんじゃないか?」
……思いついたことを口に出し、ほんのちょっぴり罪悪感を感じた。
しかしこれは聖杯戦争だ。祖父に口酸っぱく言われたのは一般人には極力危害を与えるなということのみ。なら、多少はお目こぼしもされるだろう。
なにより魔術師というジャンルの人間が、全員祖父や兄のような人種なのだとしたら、機械など歯牙にもかけないはずだ。
「バーサーカーさん、ちょっといいかな?」
「なんだ」
「ちょっと出かけるからついて来てもらっていい?」
「ほう?ようやくやる気を出したか」
何やら上機嫌になっているバーサーカーさんは「よかろう」と一言だけ言って、すぐにまた姿を消してしまった。……どうやら姿を消した状態で近くにいてくれるようだ。
「じゃ、いくか」
そして俺は意気揚々と街の電気屋を巡るべく、日が暮れかけた街に繰り出したのだった。
そんなふうに、俺たちの聖杯戦争は幕を開けた。