挫折の始まり
2018年 カイメイアリーナ仙台
今日はここで、Vリーグ男子の試合が行われる。
俺は、その会場の隣にある公園のベンチに座り、遠くから体育館を見上げていた。
「……ここまで来たんだな」
俺――星野 斗真は、今日はシュヴァイデン・アドラーズの
ほんの8年前、この東北の地に引っ越してきたとき、
俺は「もう二度とバレーなんてできない」と思ってた。
それでも、今――コートに立つ。
「……ったく、柄にもなく語ってるな。さて、リフレッシュ完了。戻るか」
選手控え室へ向かう途中、廊下の先で騒ぎが聞こえる。
「心折れそうや……勘弁してくれぇ……」
その中には、しゃがみ込んで凹んでいる宮 侑の姿があった。
……が、正直わりとどうでもいいのでスルーする。
「どうでもえぇってなんや! 同じ関西人の情けなさないんか!」
「すんません。けどな――今は、俺、お前と戦えるのが楽しみなんや」
その声に、もう一人が応じる。
「俺もだ。今日は影山と斗真をぶっ倒す!」
振り向けば、そこにはあの日出会った**“小さな巨人”**――日向 翔陽がいた。
そう、これは――
俺が挫折の先に“希望”を見た東北の地で、もう一度夢を掴み直す物語。
8年前の――中学2年、秋の県大会。
あの夏。全国大会の3回戦。
微熱があったが、無理して試合に出た。
「エースやろ?出るしかないやん」
そう言って無理をした自分を、今でも覚えてる。
その後、風邪を拗らせて肺炎になり、2週間の入院。
ようやく退院し、迎えた秋の大会。
スタメンからは外れていたが、途中出場ならいけると、自分に言い聞かせた。
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「――星野!」
「オラァァァッ!!」
ブロックからこぼれたボールに即反応し、
俺はバックアタックを叩き込んだ。
会場が沸いた。得点表示を見上げる――マッチポイント。
そのまま元のポジションへ戻ろうとした、まさにそのとき。
「さぁ、次……で……」
視界が傾く。
呼吸が、引っかかる。
――ガクン。
膝が折れ、そのまま倒れ込んだ。
床の冷たさと、自分の荒い息だけが、やけに鮮明だった。
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目を覚ましたのは、病院のベッドの上だった。
点滴と酸素マスク。心配そうに覗き込む両親の顔。
「……嘘やろ……」
医者はこう言った。
「肺炎からの影響で気管支が弱っていて、今後“運動誘発性喘息”の可能性があります」
喘息。
もう、全力でプレーできないかもしれない。
レギュラー?戻るどころか、練習にすら出られない。
強豪校では、数ヶ月抜けることは**“戦力外”**を意味した。
自分でもわかっていた。
「頑張ろうと……してたのに……なんでや……」
言葉にできない、悔しさと絶望だけが、胸に居座っていた。
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そして――
タイミングを見計らったように、父親の転勤が決まった。
引っ越し先は、宮城県。
俺は、大阪のチームメイトに何も告げずに去った。
バレーボールのユニフォームも、シューズも、全部段ボールの奥にしまい込んだ。
「……もう、ええわ。バレーなんて、もうせぇへん……」
そう思ってた。
あの日、あの“ちっこい奴”に会うまでは――
「本日は転校生を紹介します。大阪から来た、星野 斗真君です。みなさん、仲良くしてください」
先生の言葉に合わせて、俺は前に出た。
心臓がうるさいくらいドクドク鳴ってる。
でも――
「大阪から来たけど、一発ギャグは苦手なんで勘弁してください。
その代わり、たこ焼きなら無限に焼けます」
クラスに、微妙な笑いと、少しの拍手。
ウケ狙い。本当は苦手だ。
……でも、黙ってたら話しかけられない。
ムスッとしてたら「怖い」って思われる。
親も「明るく頑張れよ」って言ってたし……。
笑ってれば、気が紛れる。
そう、言い聞かせてた。
そのとき――
「すみませんっ!! 遅れました!!」
教室の扉がバンッと開き、
小さなオレンジ色のかたまりが飛び込んできた。
「うおっ……まじか。これが北の地にいる“コロポックル”!? 実在してたんやな……」
「誰がチビだ!!」
瞬間、教室に笑いが起きる。
「アハハ、星野、関西人はやっぱりノリええな〜。
あいつは日向 翔陽って言うんだ」
ちょこちょこ動く、テンション高い、落ち着きがない。
小型犬みたいな奴。
――正直、**第一印象は「やかましい犬」
「そうか、今日転校生来るんだった」
すると日向翔陽は鞄の中を何か探していた。
「?何や、何か手品でもするのか?」
「違う違う! コレだ」
差し出したのは《男子バレーしようよ》と書かれたチラシ、部の所が消されて愛好会っと書いていた。
「俺と一緒にバレーしようぜ!」
…この日向翔陽との出会いが俺の人生に転機を迎えるとは、この時の俺は、まだ知らない。