飛べない烏達!
入学式の翌日、放課後。
俺は入部届けと、今の喘息の状況をまとめた医師の診断書を持って、バレー部顧問の武田先生のところへ向かった。
「先生、これ…バレー部に入部したくて。その、体調のこともあるので、先に見ておいて欲しくて」
「はい…これは丁寧に…ありがとうございます。僕が今年からバレーボール部の顧問の武田です。星野くん。実は…バレー部への入部については、私だけでなく、やはり――3年生や現主力の意見も大切でしてね」
「…そうですよね。なら、直接行って話してみます」
先生は少し驚いたように目を丸くしたが、すぐに優しく頷いてくれた。
そのまま体育館へ向かう。
「それにしても星野君は1年生なのにしっかりしてますね」
「いや、そんな事は…まぁ〜比較が日向だと、そうかもしれないですね」
「あはは、日向翔陽君ね。昨日の入学式の後に入部届け出しに来たよ」
「アイツは…入部届け、今日からのはずで仮入部は数日後なのに…」
「元気があって良いじゃないですか?」
「いやいや、あいつの行動力は先生の3倍は超えてますよ」
「あははは、またまた冗談を」
「……あれ? 体育館、騒がしいですね」
「えっ? な、何? 星野君、大丈夫だよね!?」
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体育館の中に入ると…
あフゥーッ!!
教頭の顔面にボールが強打され、頭の上のカツラが放物線を描いて上級生の頭の上に着地した。
さっきまでの緊張や不安が霞むほどのインパクトが、目の前に現れた。
「あれは影山?」
忘れもしない。中学時代、最後の試合で対戦した北川第一のセッター…。
てっきり有名校に行ってると思ったが――
「あれ、ヅラだったのか?」
「気づくのおせぇーよ。入学式の時、みんな気づいてたよ」
「確かに…」
「ぷっ! お前ら言うなよ…くくく…もう黙れよ」
「田中、お前も黙れ!」
「あの…教頭先生! これは!?」
「…武田先生、澤村君。ちょっと」
そこから体育館の影で数分話したあと、教頭はカツラを頭にセットして離れていった。
「今回はお咎めなしだ」
「? 今回は?」
少し気になるが、次の部長の言葉がすべてをさらっていった。
「いいか、お前達は何も見なかった」
『!?』
「何も見なかった…いいな?」
澤村部長のプレッシャーに、思わず謝りそうになる。明らかに俺は悪くないのに。
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「お前が下手くそだから!」
「はぁ!? お前が喧嘩売ったのが悪いんだろうが!」
「なぁー、少し聞いて欲しいんだけど?」
『!?』
「お前らがどういう経緯で烏野に来たかは知らないが――当然、勝つ気でいるんだろ?」
「はい!」
「もちろんです!」
「烏野は数年前まで、県内でトップを争えるチームだった。1度は全国大会に出たが、でも今は県内でベスト8。特別弱くも、強くもない…。今の烏野は“落ちた強豪”――飛べない烏だ」
それは、近所に来てからよく耳にした話。
特に、名将・鵜飼監督が引退してからは、そう呼ばれることが増えたらしい。
「俺達は、もう一度行く。春高バレーの舞台――東京のオレンジコートに立つ!」
澤村部長のその言葉に、適当な気配は一切なかった。
本気で、全国を目指してるんだ。
「全国出場…とりあえず目指す高校なんて、いくらでもいますよ」
(こいつ、本気で言ってるのか…?)
「心配しなくても、“本気”だよ」
部長の圧に、あの影山ですらビビってる。
「そのためには、チームが一丸にならないとダメだし――教頭先生に目をつけられたくないんだ」
部長の圧をまとったまま歩いて、俺と先輩は道を開けるように左右に避けた。
部長はそのまま、2人に詰め寄る。
「俺はさ、“お友達になれ”って言ってるんじゃない。中学時代ネットを挟んだ敵同士だったとしても、“今は”同じ側にいるって自覚を持てって言ってるんだ」
「どんなに優秀でも、一生懸命でも、仲間割れしてチームに迷惑かける奴は――“要らない”!」
その圧に、2人は体育館から追い出された。
「互いがチームとして自覚を持つまで、部活には参加させない!!」
締め出された2人に、何も言えずに唖然とする俺。
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「…さて、バタバタして遅れたが、先生から聞いたよ。星野は体調面に難があるんだよな?」
「えっ、はい…喘息の影響で、今は20分くらい…1セット戦えるかギリギリのところまでは体力は回復しました」
「そうか。あの試合から鍛えたのか?」
「…あんな負け方は二度とゴメンです。……? あれ、なんでその事を?」
「そうか、その時は星野いなかったんだよな。悪い、俺は3年の菅原だ」
「俺は2年の田中“先輩”だ! 実はあの時の試合見てたんだよ。お前のサーブ、観客席まで飛んだろ? あの時、俺達のとこまで来てたんだぜ?」
「えぇー!? そんな偶然あります!?」
「あの試合で見た中学生がウチに来るとはなぁ…。まぁ、早速問題起こしたが…」
「!? 気をつけます…!」
そう言いながらも、さっきから体育館の窓から翔陽が覗いてる姿が気になる。
――でも、悪いな。
ここからは俺も、試合で活躍したいライバルだ。情けは掛けないぜ。
「俺は喘息でフルセットは戦えませんが、それでもピンチサーバーとして――誰もが認める最強になります!」
俺は足元に転がってるバレーボールを拾い、投げて――
バァァァン!!
ボールの芯を捉えたサーブは一直線に飛び、体育館2階の手すりの隙間にカコッと挟まった。
「すげー」
「さっきの影山といい…凄いな」
ここからが、俺の高校バレーが始まる――!!