ドォンッ!
体育館に響く、アイツのジャンプサーブ――
去年、ここにいるチビと一緒にいた、あのピンチサーバーだ。
「おい、あのサーブの奴、中学の時にいた奴だよな?」
「おぉ〜、星野斗真な。確か大阪の角間(かくま)中学校で全国大会出てるらしいぞ」
「大阪の強豪校……角間中学……あの中学出身なのか!?」
そこでレギュラーなら、確かにあの時の試合で、アイツのプレーだけひとり飛び抜けていた。
あの時のチームは素人の集まりだったが、個々の役割がきっちりしていた。
特にソフトブロックのタイミングが良くて、ワンタッチからのカウンターで点も取られていた。
「アイツのポジションは何だ?」
「ウイングスパイカーだったけど、今は喘息の影響で1試合フル出場も難しいって。だから、ピンチサーバーとして頑張るって言ってた」
「喘息? ……道理であの時の試合の様子がおかしかったのは、そういうことか」
喘息持ちでも、あれだけのパフォーマンスがある。このチビ(日向)の運動能力といい……ムカつく……
いや、待てよ。
「おい、お前、耳を貸せ。……うまく行けば、俺たちは練習できるようになるぞ」
俺は、この方法でコートに立つ!
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「今日の練習はこれまで」
主将の澤村さんの声で、練習は終わった。
今日は軽くボール出しだけだったが、明日からは体調を見ながら練習に参加できそうだ。
「それにしても、菅原さん、あいつら……『勝負させてください!』とか言いそうですよね」
「確かに。『勝負に勝てたら練習参加させてください!』って。反省するところを見せた方が良いのにな」
田中さんと菅原さんは、翔陽と影山が部活の出禁を解除するために、“チームワークできる証明”として勝負を仕掛けると予想したらしい。
影山はともかく、翔陽が大人しく待つとは思えないな。
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『キャプテン!』
閉じかけた体育館の扉から翔陽と影山の声が響いた。
俺が恐る恐る扉を開けると、1列に並んだ2人が立っていた。
『勝負させてください!』
「“俺たち”対、先輩たちで!」
「ダハハ、マジで言いやがった」
『せーのっ! ちゃんと協力して戦えるって証明します!』
「“せーの”って言ったよな、星野」
「言いましたね、菅原さん」
「でも、こういう奴ら、嫌いじゃないですよ」
どうやら、田中さんはこういう“バカ正直タイプ”は嫌いじゃないらしい。
「負けたらどうする?」
「えっ!?」
「どんなペナルティでも受けます!」
凄い自信だ。間髪入れずに言えるのは、本当に凄い。
「それじゃあ、土曜日にお前たち以外に、あと2人1年生が入る。毎年、新入生が入ったら先輩と混合チームを組んで戦う。今回は3対3で行う」
「俺たちのチームに入るのは誰でしょうか?」
「田中、当日この2人のチームに入ってくれ」
「俺っすか? どうして?」
「お前、さっき“嫌いじゃない”って言っただろ?」
「でも、厄介事は嫌ですよ」
「そうか。問題児を牛耳れるのは、“頼り”になる田中なら任せられると思ったが」
「しょうがねーな! やってやりますよ!」
わかりやすい反応だな、田中さん……
「星野は当日、両方のチームのピンチサーバーとして参加してもらう」
「はい、わかりました」
どうやら、俺にとっても“試験”みたいだな。
「そして、もし影山たちが負けたらのペナルティだが……俺たち3年がいる間、影山は“セッター”をやらせない」
思ったよりペナルティが軽いように思えるが、影山の表情が一気に険しくなった。
「個人技に走って負けるような自己中な奴に、セッターは務まらないからな」
「くっ……!」
「入部させないとは言ってない」
「俺は“セッター”です!!」
「なら、勝てばいいだろ?」
澤村さん、温厚そうに見えて、圧が凄い……あれだけ自信満々の影山がたじろいでる。
「“1人の力で勝てる”と思ったからだろ?」
「えっ!? 俺もいますよ、キャプテン!!」
「翔陽、空気読もう」
俺は翔陽が喚きそうだったので、口を塞いだ。気持ちはわかるが、俺たちはまだ何の結果も残していないからな。
「試合は土曜日に行う。以上!」
『!?』
「星野、今日は帰りな。明日の放課後から部活に来てくれ」
「うっす! お疲れ様です!」
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俺たち1年は、そのまま外で待機させられた。
「くそっ……俺はセッターなのに……!」
「そんなに怒るなよ。お前だけペナルティなのが腹立つのはわかるけど」
「影山、なんでそんなに“セッター”にこだわるんだ? リベロ以外なら、トスなんて誰でもできるだろ?」
「そうだよ。カッコいいのはスパイカーだろ?」
「テメェー! セッターはチームの司令塔だぞ! 試合中、一番ボールを触るんだぞ! 支配者っぽくてカッコいいだろ!」
「影山、落ち着け……!」
逆鱗に触れたのか、影山は翔陽の胸ぐらを掴んだ。
セッターを心から好きだからこそ、今の言葉が腹立つのはわかる。だが……目的は“チームワーク”を見せることのはずだ。流石に止めないと。
「でも、セッターって難しいポジションなのに、ちょっと地味というか……」
「お前ら、プロの試合、生で見たことあるか?」
「ない」
「大阪にいた時に、見に行ったことがある」
「大阪!? パルソニック……あのチーム、いいよな」
「影山、その話は今度な。今はセッターの説明だろ?」
「悪い。テレビ中継は横からの映像だから分かりづらいが、コートのエンド側から見るセッターの動きは本当に凄いんだ!」
影山、さっきまでは自己中心的で唯我独尊タイプだったが、セッターについて語ると熱がこもってる。
翔陽は理解しているか怪しいが……
「確かにスパイカーはカッコいい。けど、敵のブロックを欺いて、スパイカーの前の壁を切り開く……それがセッターだ。難しくて、カッコよくて、面白いんだよ!」
「お前が“セッター”に本気なのはわかった……」
「でも、セッターもスパイカーがいなきゃできない。バレーは6人でどう協力できるかが重要だろ? 俺もお前も中学時代、そこが致命的だったのは理解してるよな?」
『……!?』
俺の言葉に、2人は苦虫を噛み潰したような悔しい表情を見せたが、こうでも言わなきゃ、中学時代の二の舞だ。
「まぁ〜チームワーク云々は追々として、今はどうやったら勝てるかが大事だろ?」
「そうだ、俺たちはチームなんだから!」
「……」
この影山の顔……明らかに翔陽には期待してない。
恐らく、田中さんにボールを集めて、そっちで勝ちに行くつもりだな。
「おい、土曜までにお前の“クソレシーブ”、どうにかするぞ!」
「くそっ! ……まぁ〜わかったけど、練習どうする? 体育館使えないし……」
そうだな、練習場所、どこにするか……
「あーあ、朝練って、朝7時からでしたっけ?」
「どうした、田中? 急に」
窓から田中さんが、わざとらしく朝練の時間を口にした。
つまり、“7時までは空いてる”ってことか。
「朝練するぞ」
「おぉ、5時からな」
「遅れるなよ!」
2人は、俺を置いて校門を後にした。
「……どうやら、バレーボール馬鹿が2人もいるらしいな、俺の同期には。……さて、俺も早く帰るか」
――そして、俺も、そう言いながらその馬鹿たちに付き合うことになる。