「よし、こんなところか」
俺は、例の朝練後に食べる朝食を弁当箱に詰めていた。あとは、味噌汁を入れた魔法瓶を持って家を出た。
「うぅ〜、一年以上いるが…東北の朝は寒いな」
歩きながらぼやいていたら、学校の体育館に着いた。
「俺が先だ!」
「うるせぇ! 俺が先だろ!!」
体育館前では、翔陽と影山が喧嘩していた。
「よくこんな朝から騒げるよな」
「あっ、斗真! おはよう!!」
「おっ、来たのか?」
「おぉ〜、星野も来たのか?」
「田中先輩、おはようございます。俺はピンチサーバーですけど、チームの一員なので、ボール出しや手伝いはできます」
「斗真、さっすが〜」
「あと、これ。店の残り物とおにぎり、それに味噌汁も持ってきたので」
俺はクーラーボックスから弁当箱と魔法瓶を見せた。
「すげぇ〜」
「お前、気が利くな〜」
「一応、中学時代に翔陽と同じチームだったので、予想がついたんです」
場の空気が明るくなり、練習がスタートした。
---
1時間後
「ぷげぇ〜」
「おい、昨日のサーブレシーブの動きはどうした?」
「ずっとレシーブだけ…うわぁぁぁ! スパイク打ちたい! ジャンプしたい〜!!」
「うるせぇ、その辺で跳ねてろ」
「まぁ〜予想通りだな」
「おい、お前ら、一つ言っておくが…大地さんが怒ると“すっごく怖い”ぞ?」
『はい、知ってます』
昨日の圧をかけられた姿を見れば、誰だってビビる。
「この早朝練習がバレると、俺がヤバい…べ、別にビビってないけどな…」
見た目が怖そうな田中さんがビビるくらいなんだよな〜。本当に恐ろしいな、澤村さんって…
「この練習を知ってるのは、1年の3人と俺だけだからな」
ガチャッ!
突然扉が開く音に、俺たちはビビったが――
「おぉ〜、やっぱり早朝練習か〜」
「菅さん!? いや、これは…その…」
「大丈夫だって。大地には内緒にしてやるよ。俺も一緒に練習参加するぞ」
菅原さんが加わったことで、翔陽はレシーブ練習に専念し、俺は田中さんと影山の練習に入ることになった。
「来いやぁぁぁ!」
俺はボールを影山の方に投げ、すぐにレシーブを構える。田中さんが来るスパイクコースを読んで――
「はい!」
レシーブをしたが、ボールは相手コートに返ってしまった。
ボールを上げたつもりが、相手コートに行くとは…。俺もいつの間にか訛ってきたのか?
「もう1本! 来い!!」
これは、俺も気合を入れないとな…。
---
「すげぇな、さすが元全国大会出場者。久しぶりのレシーブ練習なのに、俺が打つ瞬間にはもうそこに構えてた」
「…おい、星野だったか?」
「ん? どうした、影山?」
「1本打ってみろ。スパイク」
「おぉ」
影山から声をかけられるとは驚きだ。
俺は田中さんと交代し、コートの右側に構えた。
「よし、影山、ボール行くぞ!」
田中さんがボールを上げる瞬間、俺は走り出した。
俺の予想通りなら、ファーストテンポでも対応できる。
ライト側に飛んで構え――
「打てるもんなら打ってみろ!!」
田中さんはすでに俺の前に壁として飛んでいた。
こういう時、180cmもない身長が悔やまれるが…それだけだ。
「ブチ抜く!」
俺のスパイクは田中さんの手首を狙い、ブロックアウトで決めた。
それにしても、初見で俺が打ちやすいタイミングでトスを上げるとは…影山、さすがだな。
「ナイストス」
「ナイスキー」
言葉は少なくても、この時、お互いの力量を理解し合った。そんな気がした。
---
「影山、俺にもトス上げてくれよ!」
どうやら翔陽もスパイクをやりたいらしいな。
「…ふん」
バシッ!
影山は突然、翔陽にボールを当てた。翔陽は反応できなかった。
「今の、真正面だぞ。レシーブがグズグズだと試合にもならない。スパイクがしたいなら、これくらいやってみろ!」
バシッ!
影山は俺にも同様にボールを投げたが、俺は咄嗟にレシーブで上げた。
「おい、影山。説明の意図はわかるが、突然やるな。つまらないケガをしたらどうするんだ?」
「…悪い」
――こいつにも、謝罪の概念はあったんだな。
「…俺が満足にレシーブできるようになれば、お前は“俺にも”トスを上げるのか?」
「勝ちに必要なら誰にだってトスを上げる…でも、俺は今のお前に“勝ちに必要”があるとは思えない」
ここまでストレートに言えるの、すごいな…。
「もう時間だ、切り上げるぞ」
色々言いたいが時間がないから、俺たちは掃除を始めた。
影山、確かに翔陽は下手くそだが…アイツは運動能力以上に、恐ろしい素質に気づいてないぞ。
---
昼休み
「うぅ〜、5時練習キツイな…コーヒー…いや、エナドリ飲むか」
俺はフラフラしながら購買部の近くの自販機へ向かったが、渡り廊下付近の自販機の前に、何かを見ている影山がいた。
「何してるんだ、影山?」
「!? 星野か…あれ」
影山が視線を外に向けると、菅原さんと翔陽が昼休みにもレシーブ練習をしていた。
「影山を倒せるくらい強くなりたいんです。そうしたらもっといろんな強いヤツと互角に戦えるし…試合で簡単に負けたりしない…俺は“もう負けたくない”」
「翔陽…」
「ふーん。つまり今のところ、同年代で最強の位置づけが“影山”なんだな」
「うぅ〜ん……それは…」
「そこは認めないのかよ」
「だったらさ、最強の敵が、今度は“最近の味方”じゃん」
菅原さんは、その視野の広さに感心していた。
翔陽は納得してないが、確かにこれほどのセッターはなかなかいない。
関西にいたときは、あの宮侑くらいしか見たことがなかったが…こいつはそれくらいのポテンシャルがある。ただ、連携やコミュニケーションが下手すぎるがな…。
---
「星野…少し良いか?」
「え? ええで」
影山は翔陽たちに見つからないようにその場を離れ、渡り廊下で壁にもたれながら話しかけてきた。
「仮にお前がセッターなら、アイツを使うか?」
「唐突だな…まぁ、予想はしてたが…率直な感想だと、総合力で見れば翔陽は使わない。強豪校なら選ばれもしないだろうな」
確かに選手層が厚いところなら、翔陽は使われないだろう。
いくらジャンプ力があっても、総合能力が低ければベンチにも入れない。
「意外だな…てっきり、使うとはっきり言うと思ったが」
「セッターはコンマ何秒でスパイカーの位置、敵ブロックの状況を見てトスを上げる。
不安定な奴には頼れないからな…まあ、それは俺らスパイカー側も同じや」
「…」
「翔陽に関しては、土曜日までに考えてみたら?」
俺はそのまま立ち去った。
いろいろ言うのは簡単だけど、それは意味がない。翔陽と影山がどう決めるかだ。
---
放課後…
「失礼します」
体育館に見慣れない奴が来た。制服で来ているところを見るに、昨日言っていた残りの1年生2人か。
「月島蛍です」
背が高い…190近くあるぞ…170の俺からしたら羨ましい…
「山口忠です」
月島ほどではないが、俺よりもデカいな…
この2人と翔陽、影山が戦うのか…。
少なくともブロックではこの2人の方が有利か…さぁ〜どうする?