月島達が来て、影山がなぜか苛立つ様子はあるが朝練は続き、ついに金曜日になった。
「やべぇ〜、遅れた」
今朝は疲れからなのか寝坊して、朝練の体育館に行くと菅原先輩と田中先輩が、影山と翔陽のラリーを見ていた。
「おはようございます。何時から始めてるんですか?」
「俺が来たときからでも15分は経つけど、菅原さんはもっと前から」
「俺が来たときには既に始まってて、時間は経ってた感じだ。日向の消耗の様子を見ればわかるだろ?」
あの体力お化けの翔陽が息切れしているなんて…。
俺と練習してた頃は、ここまで粘り強くレシーブ練習を続けることはできていなかった。
これが、あのとき試合に負けた悔しさから来る執念なのだと思った。
「そろそろ限界だろ? もう、このくらいで…」
「まだ、ボール落としてない!」
「いい加減に…」
苛立ったのか、影山は明らかに取りづらい高さのボールを打った。
嫌がらせにしか見えないボールに、田中先輩は思わず叫んだ。
「うわぁ、ヘロヘロの人間にやるか? 性格悪っ!」
「しまった!」
まぁ〜影山は口は悪いが、性格が悪いわけじゃない。ただ、コミュ障なのは確かだ。
「まだ〜!」
けど翔陽は諦めず、必死にボールへ走っていった。
「日向の運動能力はすごいけど、それだけじゃない…なんていうか」
「執念…ですかね。アイツは俺が転校するまで、ずっと1人でバレーをやっていた。本格的な練習ができたわけじゃない。名門校からしたら遊びレベルかもしれない」
時々、思う…。もし俺が翔陽の立場なら、同じように続けられただろうか?
「それでも、ひたすらバレーに真剣に取り組んでいた。だから今、この烏野でやっとまともなバレーができる…そのバレーボールを長く続けるために」
――『俺は諦めない』
翔陽は飛び込み、ボールを上げた。
影山はそんな翔陽の姿を見て、認めた。確かに技術や経験は初心者レベルだ。けどそれを覆せる運動能力と、どんな劣勢でも勝ちを諦めない執念…。同じタイプだからこそわかるのだろう。
「……」
「菅原さん、影山の奴」
「日向にトスを」
そして、バテバテなはずなのに影山のトスが上がることで、翔陽は喜んで走り抜け、スパイクを決めた。
「相変わらずすげぇーよ、翔陽」
「おい…明日勝つぞ」
菅原さんが翔陽に言っていたな。最強のライバルが最強の味方…。これは面白くなるぞ。
「当たり前…うっ、気持ち悪い」
「おい、日向! 吐くな! 星野、バケツ!!」
今すぐではないな。
そして翌日、1年生の歓迎練習試合が始まる。
影山は朝から異様に静かだが、翔陽はマネージャーの清水先輩に驚いていた。
俺も高校では初のピンチサーバーとして出場する。変則ルールで、片側コートに入れる得点は最大5点。つまり最大で10点。
ピンチサーバーが連続で取れるのはせいぜい2〜3点、調子よくても5点ほどだ。
去年の地区大会とは違う。けど、ここでの活躍が俺がレギュラースタメンに入れるかどうかを左右する重要な試合だ。
ここで「10点取る」つもりじゃなければ全国には通じない。
「目指すは10点」
「それじゃ、ルールのおさらいだ。俺は月島と山口のところに入る。田中は日向と影山のところに…そして星野は、相手が3点以上離したら、俺と田中が指示を出してピンチサーバーに入る。片チーム最大得点は5点まで。それなら身体の負担も少ないだろ?」
「はい、問題ありません」
さて、試合展開はどうなるかな…。
「あぁ〜ところで、小さいのと田中先輩、どちらから先に潰…いえ、抑えましょうか?」
月島は田中先輩と翔陽に、あからさまな挑発をしていた。
「王様が負けるところも見たいな〜。あぁ〜イケナイ、おチビちゃんもう1人いたんだった」
「あぁ?」俺の身長は168cm。
「ちょっとツッキー! 聞こえてるよ!」
「いいんだよ、聞こえるように言ったんだから」
「ねぇ〜ねぇ聞いた〜? 月島君ったら…すり潰す!」
「田中先輩、相手の眼鏡を砕くのは反則じゃないですよね?」
「おい、やめろ田中! 星野も何だ、その退場になりそうな発言は!」
「べー」
翔陽がどさくさに紛れて舌を出していたが、俺は今、月島の鼻をへし折ることだけを考えていた。
そして、試合が始まった。
「ヨッシャーー!!」
田中先輩がテンション高くスパイクを決めた。
さらに2点連続で得点し、いい感じに流れが出る。
だが翔陽がスパイクを決めようとしたところ、長身の月島にブロックされた。
「君、この前のときも思ったけど、よく飛ぶね…それであと数センチあればスーパースターだったのに」
「!? くっ、次は決めてやる」
だが、翔陽の思いとは裏腹に、月島のブロックで尽く止められる。
田中先輩が何とか決めているが、じりじりと点差は離されて8対4。
山口のサーブだったがミスをして、8対5になった。
「星野! 入れるか?」
田中先輩から声が掛かり、俺は翔陽と交代した。
こちらの陣営は明らかに流れが悪い。ここで切り替えたいんだろう…。
何点取れるかはわからないが――やってやりますか。
「…田中先輩、影山…頭、守ってくださいね…」
『!?』
俺は深く深呼吸して狙いを定めた。狙いは――ど真ん中!
ズドーン!
「す、凄…」
誰が言ったのかはわからなかったが、俺のサーブは相手コートの真ん中に大きく跳ね上がった。
「もう1本行きますよ…」
「よし、山口。月島、センターから後ろは俺が取るから、前のスペースは任せたぞ」
「気をつけろ星野。大地さんの武器はレシーブだ。安定感半端ないぞ」
「なるほど…田中先輩、月島の顔、曇らせたくないですか?」
「おぉ、何をするんだ…」
俺は田中先輩に次の手順の流れを伝えた。
「やれるのか、星野?」
「やりますよ。やらなければ、俺はコートに居る価値は無いんですから」
俺は2本目のサーブを、先と同じ真ん中に打ち込んだが…澤村さんに綺麗にレシーブで返された。
「流石に2本連続ノータッチエースはやらせない!?」
だが、ボールは綺麗にこちらのコートに返り、俺はバックアタックの体勢になるように飛んでいた。
「アイツ! 山口!!」
「うん、ツッキー!」
だが俺の前には、既にブロックを構えて飛んでいた月島と山口…。けど、俺の狙いは――
「なんてな」
スパイクの体勢からトスの体勢に切り替え、少し真上にボールを置いた。
「どうも〜、俺でした!!」
田中先輩のバックアタックが決まった。
俺がフェイント気味のバックアタックに入るのを警戒して月島と山口は飛んだが、実際には田中先輩に時間差攻撃を指示していた。結果、楽々とスパイクが決まった。
「お前があからさまに俺をマークしてたから利用させてもらったよ。背が高いから動きが読みやすいんだ〜。アハハ、悪いな〜」
「!?」
月島が苦虫を噛み潰したように俺を睨んでいた。
俺は練習で、澤村先輩なら同じコースのボールは確実にレシーブされると予想していた。
だから、仮にレシーブされても打ち返される位置を俺が読んで動けば、フェイントなどを警戒せずに月島たちがブロックに来るのを予測できた。
そして、田中先輩が決めるのは大きい。田中先輩は一度エンジンが掛かると、どんどん勢いづくタイプだ。こうなると試合運びがしやすい。
三本目のサーブは左端を狙ったが、ネットに当たり軌道がズレた。だが相手コートにボールが落ちそうになり、山口がレシーブ。
そのまま月島がスパイクを打ったが、影山がレシーブして上げた。
「王様がファーストタッチしたら、トスは上げられない」
月島は影山のトスを封じようとしていたが、俺は構えて影山にトスを上げた。
影山は容赦なく、月島のブロックごと叩きつけた。
「お前がどんな御託を並べようと、手を抜こうが…関係ない。俺は負けない」
「……っち」
「影山ナイスキー」
「おっ、ナイストス(にしても、星野…よくコートを見てるな、先のバックアタックも今のトスも安定感半端ない…身体のハンデが無ければ間違いなくエースだな)」
「よし、同点だ、もう1点行くぞ」
俺はボールを先までっと打って変わってわざとスローボールのサーブを打ってネット際にギリギリに落下させた。
山口がレシーブで上げたボールは月島がトスを決めて、澤村先輩がスパイクを打つが影山がブロックで防いだ。
もう一度、山口が拾うが、ネット際を超えた所で俺が叩きつけた。 山口以外は体勢が崩れて反応が遅く逆転した。
「何とか4点」
俺は後1点に集中した…狙うは月島の足元。
「行くぜ、俺の取っておきのサーブ」
投げるボール縦回転にに回しながら上に投げていつもより気持ち高めに飛んで…
「打ち込む」
鞭のようにしなる腕をボールに打ち込んだ。 縦回転したボールはネットよりボール2つ分の高さに飛んだ。
「ここに来てミス、よう!?」
月島は俺のボールが凡ミスに見えたけど、ボールが月島の前で下がり始めた。その曲がり方は野球の変化球のフォークボールの様に縦軸に落ちて、月島はレシーブのタイミングがズレてボールはネットに当たり、そのままコートに落ちた。
「5点取れた…」
試合は8対10で2点差の逆転で、俺は田中先輩達のコートから離れた。 そして、悔しそうに見つめる翔陽に俺は…
「悪いが、俺も試合に出たい…モタモタしてる暇は無いぞ 翔陽」
「!? 絶対に月島から点を取る!」
翔陽、見せてみろ お前の凄さを