丸山秋子視点(男子青葉城西戦前の土曜日) ―
体育館の中は朝から蒸し暑かった。
窓の外では、男子バレー部が青葉城西との練習試合に備えて走り込みをしている。
掛け声も大きく、気合いが入っているのが分かる。
その反面、私たち女子バレー部は――
「今日は歓迎試合だから、ケガしない程度にね〜」
「まぁ、1年のレベル見れたら十分でしょ」
そんな、ゆるい空気だった。
“これが、同じ烏野バレー部?”
私は思わずため息をついた。
男子が本気で県上位を目指してるのを見てきたからこそ、
この温度差が歯がゆかった。
1年生は私を含めて3人。
強気なスパイカーの
内気なセッターの
そして、リベロの私――
ウォーミングアップの最中、天知はずっと不満げだった。
「ねぇ、丸。あの人たち、ほんとにやる気あるの?」
丸とは私のあだ名みたいだ。
「……まぁ、今日はお披露目みたいなものだから」
「“お披露目”って便利な言葉ね。負けても本気じゃなかったって言い訳できる」
刺すような言葉だったけど、彼女の気持ちは分かる。
中学の時も聞いた話がある。
天知と伊地知は去年、強豪・新山女子中学相手に準々決勝で対戦し先手で1セット取ったけど
…2セット目から追い込まれてチームがやる気を失って崩れたと。
あの時から、天知は「本気じゃない試合」が何より嫌いだった。
そんな天知の不機嫌の中、3対3のゲームが開始 2年生対1年生の形でスタートした。
1セット目。
上級生チームは余裕の笑みを浮かべ、
「はいはい、いくよ〜」と声をかけながらも、スパイクは軽め。
ミスが出ても笑って済ませる。
対して1年チームは硬く、連携もズレていた。
伊地知のトスがわずかに低く、天知のスパイクは何度もブロックされる。
「落ち着いて、 天知」
「落ち着いてるよ!」
天知の声が少し荒くなる。
伊地知の手が震えて、トスが浮き気味になった。
1セット目は完敗。
でも、天知は誰よりも真剣な顔でネットを見ていた。
「このセットで先輩達は天知のマークが強い、伊地知は2アタックとか、時間差攻撃も混ぜて見たら」
「え、えっと出来るけど…でも」
「天知、バレー個人技じゃない、勝ちたいなら連携しないと」
「…解ったでも、伊地知がトス集中するには」
「分かってる、後ろは任せて」
「上等、勝つぞ!」
第2セット
「伊地知、来い!」
天知の声掛けした時に先輩達は2枚ブロックの体勢に移動したけど
「よっ」
伊地知さんは視線は天知に向けながら、2アタックを決めた。
先輩達もいきなり2アタックするのに驚いていた。
私も1セット目で伊地知の動きが静かで丁寧なボール運びを見てレベルが高いと思ってたけど、コレは凄いセッターかもしれない。
「行くぞ!」
続いて、天知が大きな声で構えた時に先輩達は飛んだけど、天知は飛ばず構えていて時間差でスパイクを決めた。
「伊地知、行くよ」
「うん」
今度は2人でブロックをしたけど、先輩はクロス側が閉じられてるからコース分けでストレートに打つけど、私達の狙いはトータルデフェンスで空いたストレートには私が構えていた。
「せい!」
ボールを綺麗にセッターに返して、ボールは天知にトスをして
「おらァァ」
「そう何度も」
先輩達も2枚ブロックしたけど、天知は2人のブロックの隙間にねじ込むスパイクを決めた。
ここからこちらのチームの呼吸が合うようになった。
「……伊地知、次は高めに。合わせるから」
「う、うん……!」
伊地知の声は小さいが、目に少し光が戻っていた。
そして、天知が踏み切る。
バシィッ!!
強烈なスパイクが、上級生コートのど真ん中に突き刺さる。
その瞬間、体育館の空気が変わった。
「ナイスキー!!」
私の声が自然と響いた。
それから天知は立て続けに決めた。
伊地知も徐々にリズムを掴み、
私はレシーブで必死にボールをつなげた。
気づけば、2セット目勝ち、3セット目のスコアは24対22。
上級生の笑みは消え、焦りの色が見えた。
「よし、ここで決めよう!」
伊地知が最後のトスを上げる。
天知が大きく踏み込み、空を切り裂くスパイクを放つ。
ドンッ!!
決まった。
1年生チーム、逆転勝利。
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体育館が静まり返る。
上級生の1人が悔しそうに膝をつき、涙をこぼした。
その様子を見て、天知がネット越しに言った。
「……泣くくらいなら、最初から真剣にやったら?」
静かな声だった。
でも、その言葉には誰も言い返せなかった。
試合後、片付けをしているとき、伊地知がぽつりと呟いた。
「私、途中で怖くて手が震えてたのに……響さん、ずっと信じてくれてた」
「当たり前でしょ。アンタがトス上げなきゃ、私のスパイクも決まらないもん」
そのやり取りに、思わず笑ってしまった。
天知の強さと、伊地知の素直さ。
この2人がいれば、きっとチームは変われる。
「丸、次の練習、3人でメニュー作らない?」
天知の提案に、私は頷いた。
「いいね。顧問の先生に言ってみよう」
そのとき、体育館の外では男子バレー部の掛け声が響いていた。
「青城倒すぞー!!」
「おー!!!」
私はその声を聞きながら、拳を握った。
──“私たちも、負けてられない”
烏野高校女子バレー部、再起の一歩はこの日から始まった。
■丸山 秋子 ポジション:リベロ
実は春先で西谷とも接点があり、リベロとして教えを受けていた。
■天知 響 ポジション:ウイングスパイカー
小学生までアメリカに住んでいた帰国子女で中学で日本に来て、そこで伊地知と知り合い女子バレー部でエースとして活躍。
アメリカ育ちの影響でハッキリ言うことが多いため、孤立気味
■伊地知 弘美 ポジション:セッター
元々、人の輪の中に居るのが苦手でセッターも最初はボール投げを上級生に押し付けられた為、やり始め怒られないようにする内に、安定感あるトスを出すのが得意で、後に影山も感心するレベルのトス精度の持ち主。