青葉城西高校 練習試合後・帰宅中
俺たちは練習試合のあと、学校に戻ってミーティングを終え、解散になった。
田中先輩、影山、翔陽が「腹減った!」と騒ぐので、俺たちは坂ノ下商店に寄り道することにした。
「中華まん? それならサッカー部が頼んだ分で終わりだ〜」
「えぇ〜腹減った〜!」
「職務怠慢だ〜!」
「うるせぇ! さっさと帰ってちゃんとした飯を食え。筋肉つかねぇぞ!」
店のヤンキーみたいな店員と田中先輩、それに翔陽たちが不貞腐れたようにやり取りしていたが、
店員さんがふと笑って、菓子パンを3人に手渡した。
「うほぉ〜ありがとうございます!」
「ちゃんとした飯、食えよ〜」
ヤンキー店員さん、なんだかんだ優しいな。
俺たちはそれを頬張りながら、夜道を歩いた。
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「あの青城のエース、サーブすげぇなぁ。最初からあれやられてたらヤバかったぜ……。流石、影山の先輩だな。てか影山が烏野にいるのって、なんでだ?」
「ん?」
「県内1位といえば白鳥沢だろ? なんでそっち行かなかったんだ?」
「白鳥? 斗真、知ってるのか?」
「知ってるよ。白鳥沢のオープンキャンパスで、地元の先輩たちが練習試合してたからな」
「マジか! 星野ってサラッとすごいこと言うよな」
「俺の話はいいでしょ、田中先輩。それで影山は? 白鳥沢、推薦なかったのか?」
「……落ちました」
落ちた? 推薦じゃなかったのか?
「白鳥沢から推薦はありませんでした。だから一般で受けましたが……問題の意味が分からなかったので」
白鳥沢は名門校。一般入試で入るにはかなりの学力がいるもんな。
「へぇ〜コート上の王様でも勉強はダメなんだ〜」
「あぁ?」
「どうどう、影山〜」
……月島、隙あらば煽るな。
「んで、烏野高校に来たのは? まさか"小さな巨人"に憧れて?」
「引退された烏養監督が復帰されると聞いて、です」
「烏養?」
「無名だった烏野を全国まで導いた名将ですよ」
「へぇ〜」
「“烏養”って名前が有名で、凶暴なカラス飼ってるって噂あったな」
「去年、2、3年が少しだけ指導受けたけど、すっげぇスパルタだったぞ」
『おぉ〜!』
「何で嬉しそうなんだよお前ら!」
「烏養監督、本格復帰の予定だったけど、春先に倒れて復帰の目処が立ってないんだよ」
「そうだったんですか……。だから武田先生が監督を?」
烏野が強豪だったのに練習試合が組めない理由、ようやく分かった。
監督不在で、評価も下がっていたんだな。
「でも、どこの学校だろうと、相手は同じ高校生。勝てない相手じゃありません」
「負け惜しみは寄せ〜。カッコつけても無駄だぞ影山〜(笑)」
「ぷっ」
田中先輩が笑って、翔陽が釣られて笑い、影山がブチ切れる。
「カッコつけてないです! 今日は県の四強に勝ったじゃないですか!」
「まぁな。青城に2対1。俺も“囮”のおかげでフリーになれたしな。日向の囮様様だ」
「アザース!」
「良かったな翔陽」
「本人的にはどうだった? デビュー戦」
田中先輩の問いに、翔陽は拳を握って満面の笑み。
本当に、良いチームに恵まれたよな、俺たちは。
「でも第1セットは盛大に落としたけどな」
「得点と同じぐらいミスしてるんだから、浮かれるなよ」
「お前らは何でそういうこと言うんだ〜!」
菅原先輩がフォローするが、確かに今日の試合はミスが多かった。
サーブ、レシーブ、そしてスパイク決定率。
“囮”で得点を取れても、真のエースがまだいない。
次に青城とやっても、勝てる保証はない。
「そうなんだよ。俺たちはまだ、色々足りてないんだ」
「い、いっぱい練習します!!」
「個人の実力も大事だけど、今の烏野には“戦力の噛み合わせ”が足りてない」
「そうですよね。守備専門のリベロ、それと一人で三枚ブロックを抜けるエース……(チラ)」
「おい、なんでそこで俺を見る?」
「エースなら俺が!」
「お前は最強の囮だろ!」
「そういえば“守護神”が戻るって話、してましたよね?」
「うん。烏野は強豪じゃないけど、弱くもない。
優秀な人材が居ても、それを活かせなかっただけ。
でも、皆が揃えば……“全国”がただの目標じゃなくなる。」
「夏のインターハイ! 聞いたことある!」
「でも戻る人って、今までどうしてたんですか?」
『えっ?』
澤村部長、菅原先輩、田中先輩――一瞬、間があいた。
「あぁ……ちょっとあってな。1週間の自宅謹慎と、1ヶ月の部活停止だった」
「え? 不良ですか?」
「おい翔陽、話を最後まで聞け! すみません田中先輩!」
「違ぇよ! ちょっと熱すぎただけだ! 良い奴なんだよ、マジで!」
『田中先輩が“熱すぎる”って、どんな人なんだよ……』
俺は思わず、昔のスポ根ドラマを思い浮かべた。
「アイツはな、烏野で唯一“天才”と呼べる選手だ。
まぁ今はクソ生意気な影山と、サラッと器用な星野がいるから唯一じゃねぇけど」
「田中先輩、サランラップの広告みたいな言い方やめてくださいよ」
「クソ生意気……」
いや、気づけよ影山。
「戻ってきたら“先輩”って呼んでやれよ日向。田中みたいに馬鹿みたいに喜ぶからな」
「馬鹿みたいって酷いですよ大地さん!」
守護神――西谷夕。
その名を聞きながら、俺たちは家路についた。
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翌朝・烏野高校前
影山に呼び出され、ジャンプサーブの練習を早朝からやることになった。
眠気と寒さに震えながら学校へ向かうと、体育館前に丸山と、見知らぬ男子生徒が話していた。
「あっ、星野君、おはよう! 西谷先輩、彼ですよ」
「おっ、お前が星野か! 秋ちゃんから聞いてるぞ!」
「えっと……おはようございます。あの、初対面ですよね?」
背は翔陽より低いけど、声も表情も熱い。
一目で分かる、“本気の人間”だ。
「私が紹介します。星野君、この人は烏野高校2年生、男子バレー部の西谷夕先輩です」
「西谷だ! よろしくな!」
「よろしくお願いします」
昨日の田中先輩の話通り、この人が“烏野の守護神”か。
「これから朝練か? 早ぇな!」
「はい。同級の影山がジャンプサーブの精度を上げたいって。
俺も練習中のジャンプサーブ、見てもらおうかと」
「マジか! 1年でジャンプサーブ2人も!? くぅ〜、取ってみてぇーぜ!!」
……この人、翔陽と田中先輩を足して2で割ったみたいだ。
「体育館行けば影山が自主練してると思います」
「よっしゃ! まずはそいつのサーブ見てくるか! 先に行くぜ星野!!」
「あ、はい……」
西谷先輩はまるで嵐みたいな勢いで体育館へ突撃していった。
「……嵐みたいな人だな」
この烏野の守護神、西谷夕の“凄さ”を体感するのは――
意外にも、すぐ後のことだった。