校門付近で、西谷先輩が真っ先に体育館に向かった姿を見て、
先までのやり取りが嵐が過ぎた後みたいな感じで変に疲れる。
「話には聞いてたけど、確かに熱いタイプの人だな」
確かに大人しい生徒では無いが、謹慎になる様な問題行動をする人には見えないのに…何故?
「もしかして、星野君は西谷先輩の謹慎の件は?」
「謹慎の事は聞いたけど経緯は聞いてない。先輩達もバツが悪そうにしてたから、あの感じだと西谷先輩に直接聞くか、話したいタイミングで聞くよ」
「うん。見ての通り悪い人ではないから。西谷先輩は中総体でベストリベロ賞とる優秀な人なんだよ。中学時代に試合会場で見たけど凄かったんだよ」
「そんなに凄いんだ…これは試合で見てみたいな」
烏野の守護神、西谷先輩のプレーを見てみたい。
「おや〜星野君、朝から女子生徒と仲良く登下校ですか?」
「田中先輩、おはようございます…圧が凄い」
「辞めろ田中、1年生の女子が驚くだろ? 星野、おはよう…その子は?」
「菅原先輩、おはようございます。彼女は丸山秋子で、女子バレー部の1年生でリベロです。俺と翔陽と同じ中学の出身なんです」
「丸山です。菅原先輩、田中先輩、おはようございます。お話は西谷先輩や星野君達から聞いてます」
「へぇ〜俺達の事、悪口でも言ってるのか?」
「いえいえ、問題行動起こした影山君と日向君のフォローが凄いって褒めてましたよ。西谷先輩からも、田中先輩の熱血で頼れる所や、菅原先輩の後輩や澤村部長達の橋渡しなどの面倒見の良さを聞いてます」
「ノヤっさん、マジかっけぇー」
「と言うか、丸山さんが西谷と知り合いなのは驚いたな」
「私、部活後に週2でママさんバレーのリベロの手伝いに行ってまして、その時に西谷先輩と知り合いになったので」
「それに西谷先輩なら、さっきここで話して“体育館に影山がサーブ練習するから”って言ったらそのまま行きました」
「おっ、西谷も今日から来たんだな」
「澤村部長、おはようございます」
「大地さん、おはようございます!」
「おう、おはよう。君は…」
「丸山です。女子バレー部1年でリベロやってます」
「大地、星野と日向と同じ中学らしい。それと西谷とも接点あるみたい」
「そうなのか。西谷に何か困らされることは無いかな?」
「大丈夫です。とっても丁寧にブロックレシーブ教えて貰ってるので」
「そうか。西谷、謹慎中でも外部で練習してたんだな。それじゃ俺達も体育館に行こう。丸山さん、部長の道宮にもよろしく」
体育館では、影山と翔陽と西谷先輩が何か話していた。
「お、ノヤっさん!」
「おう龍!」
「西谷、久しぶり!」
「ちわーす!」
「そういえば影山と日向は初対面だな。2年の西谷だ」
「ちわーす!」
「お前らも1年か。特に……影山? 星野が言ってたのが、お前だっけ。どこ中だ?」
「北川第一中です」
「マジかよ、強豪じゃねーか。道理で強いサーブ打つわけだ。
俺、中学んとき2−1で負けたぞ!」
一気にテンション最高潮で、俺はただ呆然。
「星野、まあ……すぐ慣れる」
「意外だな。日向で慣れてると思ったけど」
「日向は最終的にテスト勉強と中華まん食わせれば大人しくなる」
「お前、飴と鞭かよ……」
「田中先輩、翔陽が正論言えば大人しくなると思います?」
「…成程」
「田中、お前も日向に近い人種だからな」
「菅さん、それ酷く無いですか?」
そこへ影山が、西谷の出身校について触れる。
「西谷さん、千鳥山中出身なんですか? 強豪じゃ……どうして烏野に?」
「あ、それは……女子の制服が、俺の好みだったからだぁーー!!」
『???』
1年生は全員フリーズ。
しかし西谷先輩は構わず、全力のマシンガントークを炸裂させた。
そして突然――。
「潔子さーーん!! あなたに会いに来ましたーー!」
清水先輩に高速突撃 → 見事に避けられる。
何だこの人……いや、凄いけどさ。
「相変わらず嵐みてぇに騒がしい……」
「でも試合になると、すごく静かになるよ」
丸山の言葉で“ベストリベロ賞”の意味が、少しわかった気がした。
「ところで旭さんは戻ってきてますか?」
「いや、まだ…」
「!?……あの、根性なし!!!」
体育館に響く怒号。
俺も日向も影山も、全員肩を跳ねさせた。
「コラ!!ノヤ! 先輩をそんな風に言うんじゃねぇー!」
「うるせぇー! 根性無しは根性無しだ!旭さんが戻らないなら、俺も戻んねぇー!」
「コラ、ノヤ!」
西谷先輩がそのまま体育館をさり、翔陽と澤村部長、菅原先輩、田中先輩はそのまま、追いかけて行った。
「お前は行かないのか?」
「俺が行っても先輩達の後ろに付いて行くだけだ、それなら居てもいなくても変わらない、それなら少しでも練習してチームに貢献する方が良いだろ?」
この手の事は当事者以外は口出ししない方が良いだろ…最もお節介の翔陽が居るから西谷先輩に対してはそこまでは心配してない。
昼休みーーーー
「そして、最後は翔陽のブロードで2セット目取って試合終了」
「へぇー県ベスト4に凄いね」
昼休み、俺は同じクラスの丸山と弁当もって学食のテーブルで昨日の青葉城西練習試合の内容を話していた。
「けど、あの青城のセッターの及川さんが最初から居るとどうなるか…西谷先輩、復帰して貰えないとな…」
先輩達には干渉しないと言ったが、やはり聞いてしまうと気になる。
「男子も大変なんだね…はぁ…」
「ん? そう言えばそっちは大丈夫なのか? メールで土曜日の歓迎試合で先輩泣かしたとか聞いたけど」
「うん、その事から上級生と1年生で妙な溝はあるかな、特別嫌がらせとか揉め事は無いけどチーム競技でこのままだと厳しいし…何よりも専属コーチ居ないと練習管理が部長の負担が大きい」
「そっか、そっちも監督はバレーボール未経験者なんだよな」
「うん、基本は放任主義な感じだね…」
「コーチか…それは澤村部長も言ってたな」
全国大会に出場するなら指導者が居ないと厳しい。
俺達はそれぞれの悩みを抱えて放課後を迎えた。
放課後
「だからよ〜、サッと行って、スッとして、ポンッ! だ!」
『!?』
「ダメだ、本能で動く系ヤツの説明は意味が解らん…」
「そうですか? 俺は何となく解りますけど」
「影山も同類だからな、バァ!とか、ギューン!とか周りからしたら意味が解らんよ」
「?」
放課後、西谷先輩は翔陽にレシーブを教える為だけに部活に来て指導してくれてるが説明が擬音が多すぎて説明になっていなかった。
だからっと言って理論立てて説明して理解はしないだろうから…俺は影山のジャンプサーブ用に持ってきたボールと体育館の端に父親が使ってないビデオカメラを用意した。
「翔陽、まずお前のレシーブ取る。影山、フローターサーブ頼む」
影山に渡したのはボールは俺がトレーニング用に塗装したボール。
真ん中に太い赤ラインを2本がクロスするように描いてる。 影山も不思議そうな顔を見たが気にせずに反対コートのエンドラインに立った。
「(このラインは何なんだ? まぁ良いか) 行くぞ、日向ボケっとするな」
「おう、来い! (あの殺人サーブじゃないなら大丈夫)」
影山のフローターサーブは、速い動きで翔陽の手前に来て翔陽もレシーブしようとしたが動くタイミングが遅く、ボールに触れたがボールは翔陽の後ろに飛んでしまった。
「げっボールが」
「日向、ボケ! レシーブしたボールは前に飛ばせ!!」
「まぁ、こうなるな、すみません、西谷先輩 次、翔陽と変わって1本レシーブお願いします!」
「おう、任せろ!」
俺はボールを影山に返した。
「影山、今度はジャンプサーブでやって見てくれ」
「? フローターサーブじゃなくて良いのか?」
「先は翔陽の説明の為にしただけ、今度は影山のサーブのトレーニングも兼ねてやるから」
「解った」
「西谷先輩、折角なのでジャンプサーブのレシーブお願いします!」
「良いぜ、良いジャンプサーブは俺の練習にもなるからな」
影山は翔陽命名の殺人サーブをしたが、西谷先輩は、影山のサーブを打つ瞬間には影山の打つ方向に構えて、サーブボールを丁寧に勢いを殺して、セッターが居る位置に返した。
「凄い…ジャンプサーブでこれだけ綺麗に返せるなんて」
これは確かに凄いレシーブ…俺も綺麗に返すのは難しい…これが中総体でベストリベロ賞のとった実力者。
「ありがとうございます。 翔陽、こっちで見せるぞ」
俺は2人のレシーブの様子を録画した映像を見せた。
「翔陽は動きが固い。腕だけで取りに行ってる。
しかも“どこに返すか”考えてない。目線が常に下」
「うぐ……」
「西谷先輩は影山の打点、身体の向き全部見て、
“ボールが手を離れた瞬間”には動いてる。
だから構えも返球も無駄がない」
「あ、本当だ! めっちゃ綺麗!」
実際、翔陽は影山がボールを打った後に動いてる。 構えが身構えすぎてそこから移動する分、構える時間が少なくて先みたいな変なレシーブになる。
一方、西谷先輩は影山の身体の向き放つ瞬間の腕の方向を見た上で、ボールが影山が触れた瞬間には動いてボールを受ける体勢になっている。 これがコンマ数秒の動作でレシーブの成功率が変わる。
「だろ? あとこのボールの赤ライン見てみ。全然回転してないのわかる」
「俺がレシーブした時はブレブレだったのに……」
「つまり西谷先輩の“サッと・スッと・ポン”はこういうことだ」
① 落下地点を素早く予測して移動
② 力まず形だけ整える
③ 腕・腰・脚でクッションを作り、返球方向を見て押し出す
『おぉ〜!』
「翔陽と西谷先輩の差は“大きい”ぞ」
「すげぇー星野! 説明うまっ!」
「だな、わかりやすい……」
「つまり、日向は小学生レベルの頭って事?」
「ぷっ!」
「月島! お前!!」
「問題は今の説明聞いたからってすぐに出来ないことだよ。 レシーブに関しては反復練習するしかない…それに実際の試合じゃ、今みたいに動けるかは別だからな」
試合の状況、消耗した体力で思考力低下や緊張…練習通りに動けるようになるのは一朝一夕では出来ない。 寧ろここからどれだけ練習するしか無いからな。
「すげぇーな、星野 西谷の説明を分かり易く説明して」
「だな、曲者が多い中でアレだけフォロー出来るのは」
「日向と影山のコンビの囮があるからスパイカーが打ちやすくなるもんな…」
何か、澤村部長と菅原先輩が保護者目線で語り出したけど…
「西谷先輩、今朝言っていた"旭さん"って誰ですか?」
「馬鹿、その名前を不用意に出すなよ」
翔陽が今朝、西谷先輩が言っていた"旭さん"のワードが出てきて田中先輩は西谷先輩がキレると思って慌てていた。
「…烏野のエースだ、一応な」
「エース!」
「何、ポカンとしてるんだ?」
「俺、エースに成りたいんです!」
「エース、その身長で?」
「うっ」
「良いな、お前! だよなーカッコイイからやりてぇんだよな!なれなれエースになれよ ダハハ」
一瞬、翔陽のエース発言に驚いていたが西谷先輩は否定どころか応援する形になっていた。
「けど、やっぱ 憧れと言えばエースかー」
「はい、エースカッコイイです!」
「だよな〜エースって響きがカッコイイよな。セッターやリベロはやっぱり地味になるよな」
「…」
「おい、影山落ち着けよ」
こいつセッター愛が凄いな無言の圧力が…
「けどよ、試合中 会場中がパァっと拍手喝采するのはスーパーレシーブの時だぜ」
「高さ勝負のバレーボールでリベロは小さい奴が生き残れる数少ないポジションなのかも知れねぇ、 けど俺はこの身長だからリベロやるんじゃない。 たとえ身長が2mあっても、俺はリベロをやる! スパイクが打てなくてもブロックが出来なくてもボールが床に落ちなければバレーボールは負けない 」
「そして、それが最も出来るのがリベロだ!」
「カッコイイ!!」
凄い、リベロに対してこれだけ熱く語れる人が居るなんて…しかもめっちゃくちゃカッコイイ…
「西谷先輩、凄いです! 俺、これだけ熱く語れる人初めて見ましたよ!!」
「翔陽に星野も照れるじゃねぇーか!」
改めて烏野の守護神の凄さを垣間見た気がする。