男子バレーボール部が町内会チームと練習試合をしている中、第2体育館では、女子バレーボール部のコーチとして呼ばれた木村恵が、部員たちの前で自己紹介を始めるところだった。
「初めまして、木村恵です。上戸コーチから、烏野高校のコーチをしてほしいと言われて来ました」
『嘘!? 木村恵って、あのオリンピック選手の?』(小声)
コーチを依頼することを知っていた丸山も、他の部員たちと同様に驚いていた。
今から8年前、宮城の地元からオリンピック選手として活躍した選手が来たのだから、当然の反応だった。
部員たちの中には、当時の彼女に憧れてバレーボールを始めた人もいるくらいの、地元のスター選手だった。
「さて、時間がないので、今の君たちの実力を知りたいと思います。キャプテンから大まかなポジションについて聞いているので、6対6で試合をしてもらいます」
マヤ(WS) 須藤(LB) アヤ(WS)
道宮(MB) 相原(MB) 佐々木(S)
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天知(MB) 菊池(MB) 伊地知(S)
青木(WS) 丸山(LB) 渡部(WS)
※マヤとアヤは、アニメで西谷が呼んだ女子バレー部員の描写が双子のように見えたため、自分の解釈で設定しています。原作とは異なる可能性があります。
また、原作キャラクターの正式なポジションが分からないため、ポジションは自分のイメージで設定しています。
そのチーム分けは、3月に行われたレギュラーメンバー対2年生の補欠メンバーに、1年生3人が加わったチームとの対決だった。
明らかに2年生の補欠と1年生チームが不利な組み合わせに、2年生の先輩たちは不安そうな顔をしていた。
「よし! レギュラーメンバーと試合できるなんてラッキーだ」
「うん、確かに滅多にないチャンスだよね」
でも、私と天知は、自分の実力を試せるチャンスにワクワクしていた。
アヤさんからのサーブを私がレシーブして、伊地知さんに向けてトスをした。
「来い!」
「悪いけど、そう簡単には取らせないよ」
「点は取らせないよ!」
「1年生!」
「すみません、私が取ります」
天知は伊地知にボールを取るよう声をかけた。
3年生たちは3枚ブロックで体勢を取っていたが、伊地知が2アタックを決めて先制点を取った。
レギュラー陣は完全に天知をマークしていたため、伊地知から点を取られたことに驚いていた。
「くそ〜、先に先制点取りたかった〜」
「ごめんね、がら空きだったから」
「バカ、謝ることはないだろ? ナイスキー、伊地知!」
「そうよ、伊地知。先制点は大きいよ」
「ありがとう」
この先制点で、1、2年チームの緊張が解けて動けるようになり、レギュラーメンバーと張り合える試合になっていた。
そして――
「オラァッ!」
天知のバックアタックが決まり、ついに逆転して20対19になり、試合の逆転勝利を狙える空気になった。
そんな選手たちの様子を見ていた木村コーチは、分析をしていた。
「キャプテンから話には聞いていたけど、天知は確かにこのメンバーの中ではバレーボールのセンスが高い。そのプレーを支えているのは、伊地知のセッターとしての安定性」
道宮のスパイクをブロックフォローした丸山を見て、感心していた。
「何よりも、上戸コーチからお墨付きのリベロ、丸山は、強豪校のリベロとしても通用するぐらいのレシーブ力」
木村の頭の中では、3年の道宮と相原を除くと、他のメンバーの実力は似たり寄ったりのレベル。
1年生3人を加えて、それを補うチーム作りが良いのでは? と考え始めていた。
それほど、1年生3人の実力が良かった。
スパイクとブロックで他の選手よりも多く点を取る『天知』。
丁寧なトスと状況把握の良さに加え、1年生でジャンプフローターサーブを打てる『伊地知』。
レシーブの安定性に加え、リベロでトスを上げる柔軟性もある『丸山』。
そんなことを考えている中で、試合は25対22と、1、2年チームの勝利に終わった。
「キャプテン、みんなに集合をかけて」
「はい、集合!」
道宮の呼びかけに、全員が木村コーチの前に整列した。
「みんなの実力は大体つかんだ。改めて確認するけど、貴女たちは試合に勝ちたいの?」
「それは、どういうことでしょうか?」
「やる気のある選手と、やる気のない選手の実力差がはっきりしているから」
『!?』
そのことを言われ、練習熱心ではない生徒は耳が痛い思いをしていた。
「ここは強豪校の部活じゃないから、それはいい……でも、私は貴女たちの思い出作りに時間を費やしたくない。勝ちたいと思う選手を勝たせることに時間を費やしたい」
「木村コーチ……」
「だから、私を正式採用するかは、GWの最終日の練習試合で、貴女たちの総意で決めなさい」
木村コーチの宣言に、生徒たちは驚いていた。
「それまでは、私の方針で練習を組む。いいかしら、キャプテン?」
「はい、お願いします!」
「よろしい。まずは朝練でフライングダッシュと、体育館内のランニングをそれぞれ10周」
「2つもやるのですか?」
「えぇ。ほとんどの人はスタミナがないし、ディグができてない。バレーボールはボールを落としたらダメなのよ。レシーブ力がチームの土台には必要よ」
木村コーチの指摘に、練習に不真面目な面々は何も言えないと黙っていた。
「キャプテン、朝練に来なかった子は、放課後の練習では筋トレと球拾いのみにするから。朝練を休む場合は、私に連絡してきた子のみ認めます。そのつもりで」
「はい!」
「結の弱い所も的確に指摘してる」
「それと、GWの練習で試合のメンバーが決まると思ってね。理由は分かるよね。レギュラー組は特に意識しなさい」
『はい!』
「以上よ」
丸山を始め、他のメンバーも、コーチが入るだけで練習の空気が変わり始めたことを嬉しく思っていた。
5月2日 通学路 星野視点
この前の練習で、東峰先輩と西谷先輩が正式復帰しただけじゃなく、臨時ではあるけどコーチも来てくれることになり、チームの勢いが増して活気づいた。
今日から合宿だから、泊まり用の荷物を持って通学していたら、同じように大きな荷物を持つ丸山を見かけた。
「おはよう、星野君!」
「おはよう、丸山」
「そっちも合宿か?」
「うん、コーチが来てから大忙しだよ」
「そうなんだ。良かったな」
「男子も西谷先輩たちも正式に復帰でしょう?」
「あぁ、後はGWの最終日に音駒との練習試合に出られるように頑張るだけだ」
しんどいのは確かだが、お互いに進展していることに、さらにやる気が上がっていた。
放課後 体育館 星野視点
「揃ってるな! 4日後には音駒との練習試合……それが終わったら、すぐにインハイ予選がやってくる」
「時間がない。でも、お前らは穴だらけだ」
「そんなお前らが勝つために、やることは1つだ。練習、練習、練習だ。
ゲロ吐いてもボールは拾え!」
「おぉーす!」
『コイツは既に吐いたが』
烏養コーチの問いかけに元気よく返事をする翔陽に、俺を含めたあの朝練組はツッコミを入れつつ、練習をスタートした。
コーチが入ってからは基礎練、特にレシーブ練習が強化されたのが大きい。
……そして夕方。
「うぉぉぉ、すげぇー!」
俺たちは練習後に校内の合宿用の宿舎に向かい、翔陽は初めての合宿にテンションが高かった。
ちなみに、別の宿舎では女子バレーボール部がいると知った田中先輩と西谷先輩が、「あっちに泊まりたかった」と嘆いていたのは別の話だ。
「お前、落ち着けよ」
「ただの宿舎だぞ?」
「だって合宿なんて初めてだから!」
「一日中、むさ苦しい連中と顔を突き合わせて何が楽しいの?」
「月島、テメェー!」
「半径500m以内に潔子さんがいる空間は、むさ苦しくねぇーんだよ!」
「この奥羽山脈の源泉のように清く澄んだ爽やかな空気が分からないとは、なんて可哀想な……」
「清水は家が近いから、用事が終わったら帰っちゃうよ」
ズドーン!
月島の文句に異議を申し立てた2人の先輩は、菅原先輩の一言でその場に倒れてしまった。
「ちょ! 何やってるの、君たち?」
食堂から現れたエプロン姿の武田先生は、倒れる2人の先輩に驚いていて……
「武ちゃん、俺たちは……」
「!? 龍……」
武田先生の後ろにはエプロン姿の清水先輩がいて、2人は干からびた体に潤いを取り戻すように立ち上がった。
その後も、食事や風呂のときに騒いでいた東峰先輩、田中先輩、西谷先輩、そして翔陽だったが、合宿は順調に進み――。
5月5日 日曜日
数年振りに行われる、ゴミ捨て場の決戦が始まる。