あれから――もう一ヶ月が経った。
毎日放課後、グラウンドの隅っこで跳ね回る日向に振り回され続けて、いつの間にか名前で呼び合う仲になっていた。翔陽と、斗真。
スパイクのタイミングも安定してきたし、打点も少しずつ上がってきた。
「体育館での練習できたらなあ…」なんて言ってた矢先、思わぬところからチャンスが巡ってきた。
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その日、レシーブ練習の予定だったが――
「すまん! 俺、補習!」
案の定、日向がやらかした。
ひとりグラウンドでやるか…と思っていた矢先、廊下で声をかけられた。
「星野君、ちょっとお願いがあるの」
女子バレー部の顧問――茂木先生だった。
急な職員会議で、今日の部活に出られないらしい。
「臨時でもいいから、練習見てもらえない?」
「いや、今は3年生居ないけど男子に教えて貰う事は抵抗あると思うんですけど・・・」
「担任の先生から聞いたのよ、星野君が全国大会経験者だって」
全国大会経験者ってことで目をつけられていたらしい。
「今日は特訓相手が補習なので、その代わりに少しだけ練習終わりにコート使わせてもらえますか?」
「そうね、そのぐらいなら構わないわ片付けしてくれたらね」
了承してしまった俺。気がつけば、体育館へ向かっていた。
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体育館では女子バレー部がアップを始めていた。
その中心にいたのが、2年生の部長――丸山 秋子。
動きが機敏で指示も的確、けどどこか優しい空気を持っていて――一言で言えば“頼れる部長”って感じだった。
「よろしくお願いします、星野君」
「いえ、こっちこそ。…様子見ながら、できることやりますわ」
丸山は軽く会釈したあと、少し照れたように口を開いた。
「実は…前から見てたの。グラウンドでの練習、日向君と一緒にやってるの」
「え、あれ見てたんですか?」
「うん。興味あったから。動きとか、声の出し方とか、参考になると思って」
そこに、ちょうど補習を終えた日向が、全力ダッシュで乱入してきた。
「おーい! 斗真! マジで体育館使っていいって!? 話聞いたぞ!」
「…相変わらず、声でかいな」
日向は目をキラキラさせながら、女子部員たちに向かって言った。
「じゃあ、やろうぜ! 試合形式の練習! 3対3とかでさ!」
ざわ…っと女子たちが驚く中、丸山が静かにうなずいた。
「面白そうね。やってみようか」
「えっ、マルコ先輩マジ!?」「やるの?男子相手に!?」
「何言ってんの、せっかく全国経験者が来てるんだよ? むしろチャンスじゃん」
さすが部長、場をまとめるのが上手い。
自然と女子たちも前向きになり、即席チームが組まれた。
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◆即席3対3・10点勝負スタート
女子チーム:3人のレギュラー
男子チーム:日向+星野+丸山
人数の都合で、丸山はリベロとしてコートに入ることに。
けど、すぐに不安げな顔を浮かべる。
「リベロって、トスとか…できるの?」
「アタックライン越えて、ジャンプしなければ“上げるだけ”ならOKやけど…リベロが指トスしたら攻撃できへんで?」
「そっか…じゃあ…」
「ただし」
俺は丸山にボールを見せながら続けた。
「ジャンプ中にトスすれば、アタックライン上にいないって扱いや。つまり――空中でトスする分には問題ない」
「えっ、ルール的にアリなんだ?」
「全国でそういう場面、何回も見たことある。出来るかは別として…狙えば試合を変える技になる」
丸山は目を見開いたあと、真剣な表情でうなずいた。
「やってみる」
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最初は連携ミスや硬さで、女子側が点を取られリードされる展開。
けれど、途中から丸山のリベロとしての反射神経が冴え渡り、ジャンプからのトスが正確になってくる。
「マルコ先輩ナイス!」「うわ、今の速ッ…!」
「行けるよ、秋子! その調子!!」
部員たちの声援も増えてきて、チームに一体感が出てきた。
そして――終盤、同点。
最後の1点を取ったのは、丸山のジャンプトスと、日向のスパイクの合わせ技だった。
「ぅぉおおおおおおッ!!」
ズバンッ!
日向のスパイクが床に突き刺さり、逆転勝利が決まった。
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「……楽しかった」
試合後、汗を拭きながら言った丸山の表情は、いつもの“頼れる部長”とは少し違って、どこか照れくさそうで嬉しそうだった。
「ナイス、丸山さん。思ったよりすごいわ」
「ふふ、星野君も、臨時コーチありがとうね」
たぶんこの日、俺たちは――
バレーを通して、ちょっとずつ距離を縮め始めた。