「やったぞ!! ついに大会、出れるぞ!!」
昼休みの校庭で、翔陽が声を張り上げていた。
その手には、大会出場申請の受理通知。
まるでメダルでも取ったかのように掲げながら、全身で喜びを爆発させていた。
俺と翔陽。たった二人で活動していた、いわば“幽霊部”同然のバレー部。
けど――中学3年の春。ようやく、部としての形が整った。
1年生が3人入部し、さらに翔陽の幼なじみである泉 行高と関向 幸治が「臨時助っ人」として参加を決めてくれた。
――合計7人。大会出場の最低人数。
ぎりぎりだが、ようやく“部活”として、コートに立てる資格を得た。
「さて、どうしたもんかな…」
今日は、1年生+助っ人2人と3対3の即席マッチ。
プレーしながら、俺は自然と頭の中でメンバーの適性を整理していた。
泉は元バスケ部らしく、空間把握と瞬発力が優れていた。
中でもトスが安定していて、経験者じゃないのに“セッター”の動きができている。
関向はサッカー部出身。レシーブ技術までは追いついてないが、ボールを追う執念が違う。
予測と反応で拾える範囲が広く、守備ではかなり助かる存在になりそうだった。
1年生の3人は、経験は浅いものの、それぞれ運動神経や感覚は悪くない。
何より素直で、教えたことをすぐ試すタイプ。大事な素質だ。
翔陽はというと――以前よりもスパイクのタイミングと打点が確実に良くなっている。
けれど、ゲームの流れの中で“武器として使えるか”というと、まだそこには届いていない。
正直、このチームで大会を勝ち進むのは簡単じゃない。
でも――
「せめて、“試合らしい試合”を、1つでもやらせてやりたい」
それが、翔陽のおかげでバレーを嫌いにならずに済んだ、俺の恩返しだった。
その日の放課後、俺は廊下を歩きながら、隣のクラスの教室を覗いた。
目が合ったのは、女子バレー部の部長――丸山 秋子、通称“マルコ”。
いつも通り控えめな笑顔で、軽く会釈してきた。
「なぁ、丸山。ちょっと頼みがある」
「…なに?」
「大会前で忙しいのは分かってる。けど、そっちの控え組でいい。
うちのチームと、ワンセット10点マッチの練習試合を、何回かやってくれへんか?」
丸山は少し驚いた表情を見せたあと、すぐに視線を落とし、考えるように唇を引き結んだ。
そして、ほんの数秒後に顔を上げて、静かにうなずいた。
「分かった。先生にも話すけど…私からもみんなに話してみる」
「……助かる。マジで」
「星野君が、そう言うなら。――やってみる価値、あるって思えるから」
彼女のその言葉に、どこか救われた気がした。
「皆、聴いてくれ、女子バレー部と相談して、大会までの間向こうの1,2年と週に2回試合をワンセット10点マッチの試合を組むことが出来た!」
「すげぇ〜さすが斗真!!」
「大丈夫なの、斗真 俺達で相手の練習になるのかな?」
「泉の言う通り、ただ試合をするのでは話にならないから向こうはポジションを入れ替え方式とサイドのみしか打てないとかハンデルールの元で行ってやるみたい」
確かに今の素人だけでは話にならない、これは丸山のアイディアでいきなり、ポジション変更は皆抵抗あるけど、俺達相手だと楽勝だから、逆に遊びとして気楽にやれる。上級生はハンデルールをする事で、より試合に近い形式を行う。
このアイディアは面白い、向こうのハンデの内容の時に以下にして攻めるか、参考になる。
「それは基礎練少ないのは助かるけど、メンバー半分以上は素人だぜ? 」
「関向の言うのは当然だ、けど大会までに闇雲に基礎をしても意味が無い、特に1年生に教えれる期間は少ない」
1年生は不安そうに見るが俺は続けた。
「だから、男子バレーの俺達はストレッチ後に試合をして、反省点の所を充填的に基礎トレをする。 勝った方は勝つ感覚になれることで試合でより動きやすく、負けたら何故負けたのか、何故基礎トレがいるのか理解しやすい。 口で言うよりも自身の体験が早い」
「この即席、素人チームで戦うには本番での緊張感を無くすことだ」
「すげぇーな、俺達と同じ中学生とは思えない」
「顧問みたいにしっかりしてるね」
『星野先輩、かっこいい!』
「何だろ、斗真がすげぇーことなのは知ってるが何だろこの敗北感は〜」
「いや、翔ちゃんが」
「まぁ〜翔陽が」
『勝ってる要素無いだろ?』
「揃えて言うなよ!!」
まぁ〜変な茶々はあったが俺達は大会に向けて練習を始めた。
数日後〜
「ほら、ワンタッチ!」
「翔ちゃん!」
泉がトスをあげると翔陽はスパイクをした。 ボールは残念ながらアウトだが、連携が上手くなってきている。
その横で俺は丸山とレギュラー陣にレシーブ練習としてジャンプサーブを打っていた。
レシーブの強化に俺を入れることを考えたらしい、左利きジャンプサーブは少ないから、貴重らしい 何でも県内で左利きのジャンプサーブを得意な女子バレー部が居るらしく、練習に最適らしい。
「もう一本!」
俺は丸山と隣のウイングスパイカーの間を狙い詰まらせた。
そのまま、もう一本サーブを打ち込んだ瞬間だった。
「くっ…また詰まった」
丸山が悔しそうに首をかしげた。横の選手も反応が遅れ、ボールは床に転がった。
「ごめん、秋子! さっきから全部、間合いズレてる…!」
「いや、俺の狙いや。レシーブ崩すサーブ」
俺はサーブボールを拾いながら言った。
「ただの強いだけのサーブやったら、相手が慣れたら意味がなくなる。
でも“崩し”を目的に打つなら――このズレは、狙い通りや」
丸山が少し目を丸くして、俺のサーブを見つめる。
「…なんか、星野君のサーブって、“嫌なところ”ばっか来るんだよね」
「やっぱり?秋子もそう思う?」
「うん、でもさ。逆に言えば――」
と、丸山が一歩前に出て言った。
「それ、本番でも通じると思う。斗真君、ピンチサーバー、狙えるんじゃない?」
その言葉が、胸の奥にズンと響いた。
「……ピンチサーバー?」
「うん。今の中学ルールだと、最大で交代6回までだけど、実はサーブだけの交代って、意外と使われるんだよ。特に終盤で流れを断ち切りたいときとかに」
「確かに…全国とかでも、あったな…」
「そう。あんたのジャンプサーブ、左利きで変化が鋭いし、ボールコントロールもできてる。しかも、気持ちで打ってこない。相手を読む目がある」
俺は黙って、自分の手にあるボールを見つめた。
この体――喘息があるせいで、フルの出場は叶わない。
でも「一瞬だけ」なら、勝負できる。
「ピンチサーバーなら、試合に出られるかも――」
自分の中にあった“諦め”のような重さが、少し軽くなる音がした。
「……やってみる。マジで、狙ってみる」
「ふふっ、試合出れると良いね」
2人のやり取りを聞いていた女子部員たちがニヤニヤしながらこっちを見ていたが、そんなの気にせず、俺はもう一度サーブ位置に立った。
一球にすべてを込めて――
このサーブが、俺の居場所をつくる武器になる。