江戸時代に封印された神様を現代娯楽漬けにしてみた   作:狐耳大すこすこすこてぃっしゅふぃーるど侍

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肉饅頭

 翌朝、俺は目覚めてすぐ今日が休日だったことに心の底から感謝した。

 

 昨日のあれが夢じゃなかったとしたら、今も隣には謎の美女、いや、封印されし何かがいるはず、目を開けて確認するとやっぱりいた。

 

 というか、俺の服をがっつり掴んで寝ている、腹のあたりを、顔でごしごし擦りつつ、寝息を立てていた。

 

 これが平日だったら完全に詰んでいた、遅刻確定どころか、そもそもベッドから出られない状態である。

 

 体を起こしてみても彼女は一向に目覚める気配がない。

 

まるで石像のように静かで、それでいてちゃんと温かい。

 

こんなふうに誰かが近くで眠っている、というのは案外悪くないなと、妙な実感を覚えながら、しばらくそのままぼーっとしていた。

 

 10時ごろになって、ようやく彼女が目を覚ました。

 

「……うむ……ふぁ……」

 

 寝ぼけ眼のまま、まだ顔を俺の腹にすりすりと擦りつけている。

 

「おはようございま~す」

 

 そう声をかけると、彼女はもぞもぞと体を動かしながら、「うむ……おはよう……」とぼんやりした声で返してきた。

 

 が、次の瞬間、急に肩をビクンと跳ねさせた。

 

「ゆ、夢では……なかった……のか!? と、というか! お主! ワシを……抱きしめて……何をしとるのじゃ!!」

 

 彼女がかなり力強く掴んでる服を指し示しつつ声をかけた。

 

「服を掴まれて動けなくなったというのが夢の話だったらよかったんですけどね……まぁ動けないので仕方なくここでひと眠りしました」

 

 彼女はぼっと顔を赤らめてすぐに離れた。

 

「……すまん、酷く恥ずかしい所を見せてもうたな」

 

 昨日の泣いている姿の事だろうか、それとも抱き着いてた事だろうか? しかしそれを言及するのも酷である気がして、とりあえず、まぁ……はいという適当な返事をした。

 

 

 そうしてなんとも微妙な空気が流れ始めた時、俺のお腹がぐぅ~と鳴った。二人で顔を見合わせてくすりと笑う。とりあえず、朝食にしよう。

 

「えーっと、聞きたい事は沢山あるんですけど、とりあえず朝食にしませんか?」

 

「ふむ……饗してくれるというなら馳走になろうかの?」

 

 そういう事になった。

 

 さて、食べるか? なんて聞いてはみたが客人に出すような上等な食事は一人暮らしの冷蔵庫に入ってなかった。

 

 朝食はもっぱらシリアルに牛乳掛けておしまい、昼食は会社で、夕食は外で食べるか総菜で終わらせてるっていう男に出せる物なんぞなんかあったかな? と思いつつ漁ってみたら夜食にしようと思っていた井村屋の肉まんがあった。

 

「肉まんしかなかったけど……いいかな?」

 

「にくまん? あんこの代わりに肉を入れた饅頭という事かの? 食べた事が無いのぉ、どんな味じゃろうか……? おっと、馳走してくれるならそれでよいぞ?」

 

 りょうか~いと言いつつ電子レンジに入れて少し待つ。

 

 明らかにワクワクしている彼女の前にお出ししたら、「おぉ!?」と大げさなリアクションをして喜んでくれた。

 

 銀狐は目を輝かせながら、蒸気の立ち上る白くて丸い饅頭をじっと見つめていた。

 

 鼻をひくひくさせて匂いを嗅いだあと、そっと両手で包み込むように持ち上げる。

 

「ぬぅ……柔らかい……あたたかい……これが、肉まん……?」

 

 恐る恐るかぶりついた彼女は、目を見開いて動きを止めた。

 

「……っ!? な、なんじゃこれは……! 皮はふんわり、餡はじゅわり、肉の旨味が……口の中に……っ!」

 

 一口で大げさなほどの衝撃を受けている。瞳を見開き、しばし固まる。

 

「……う、うまい……」

 

 一言、ぽつりと呟いてから、もぐもぐと嬉しそうに食べ続けた。

 

「これが……そなたの……日々の糧か……」

 

「うん、まぁ……そういう日もあるって感じのやつです」

 

「時代は封印されておる間に大分変ったようじゃの」

 

 こうして、封印された謎の美女と迎える朝は、肉まんから始まった。

 

 二人でもぐもぐと朝食を食べ、腹が落ち着いた後、ようやくお互いのことを話す機会が訪れた。

 

「さて、食事まで頂いて名乗りもせぬというのはさすがに失礼にあたるな」

 

 そう言うと背筋を伸ばし、崩していた足を正座に戻し、ピシっとした姿勢で挨拶を始めた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ワシには性は無い、名は銀狐と申す。

 

 今は昔、遙照山にて生まれ出で、浅口郡にて育ち、過去に占見にて祀られた神である。

 

 神の名を濫りに呼ぶのは失礼じゃと、人はワシのことを安産の神やら子育ての神やら、好きなように呼んでおった。

 

 まぁ、人に信仰されぬ小神のことなど気にすることはない。気軽に銀狐と呼ぶがよい」

 

「ご丁寧にどうも、なるほどう……うら……うらなんとかって所で神様してたんですね」

 

 はぇーなんか神様だってすっごいね、何が凄いんだかはよくわかってない、あーとりあえず何処の誰かはわかったから後は何聞けばいいんだろ……

 

「とりあえず、なんでここに?」

 

 と聞きたかった事を聞いてみる。

 

「ワシは諸事情あって封印されておったのじゃ。

 

 封じられた当初は、なんとか抜け出そうとあれこれ試しておったが……結局何を試しても封印を破れぬでの。

 

 暇を潰すのに何かを考えたり、新しき術を考案したり、色々してはみたものの、遂には何もする事も考える事も無くなっての。

 

 どの程度の時が流れたかもわからぬまま、もう諦めて、ただただ寝ておった。

 

 そうして退屈で死にそうになっておった頃、突如として空間が揺らぎ、眩しい光が差し込んできた。

 

 そして気がつけば、そなたの部屋と……繋がっておったのじゃ」

 

「なるほど、事情はよくわからないけどわかりました。

 

 じゃあ封印が解除されてこの部屋に放り出された……わけでもないですよね? 押し入れにこんな謎空間無かったですし」

 

 押し入れの奥の狭いスペースは端も見えない程広い和室になっていた、多分この和室? に封印されているのだろう、昨日出ようとしてバチバチしてたし未だに封印されて出られないのだろうか? 

 

 しかし自分は自由に出入りできるようだ、出入りになんらかの条件があるのか? 

 

「うむ、封印が緩んできて外と繋がったのだとは思う、しかし、未だにワシを封じる機能はしっかり機能しておるようじゃの、忌々しい」

 

 そういって押し入れから手を出そうとするとバチバチっと音がして手が弾かれている。

 

「お主は自由に出入りできるようじゃな、やはり妖力に反応しておるようじゃな」

 

「妖力? 妖怪とかって事ですかね?」

 

「うむ、ワシは昔狐の妖から神へと格を上げたのよ、そもそもの出自が妖狐であってな、それもあってか術師に妖狐と勘違いされ封印されたのよ」

 

「ええ……? 勘違いで封印されたんですか?」

 

「恐らく……まぁ田舎の村の小さな祭神程度だったのでな、神との力としても大した事は無し、元の妖狐としての力のが強いくらいであったから勘違いされてもおかしくはないのだが」

 

 それにしても流石にちと酷い話じゃよな? と水を向けてくる銀狐に、まぁそうですねと返事をした。

 

「まぁそういうわけじゃから、今日から宜しく頼むぞ?」

 

「あぁー……」

 

 押し入れから出られない、銀狐さん自身ではどうにもできない、当然この状況は俺にもどうにもできない……つまり同居?」

 

「えっと……よろしくお願いします?」

 

 銀狐さんは、うむっ! と一声返事を返してくれた。

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