江戸時代に封印された神様を現代娯楽漬けにしてみた 作:狐耳大すこすこすこてぃっしゅふぃーるど侍
なぁなぁお主、強制とはいえ一緒に住まう事になったのじゃ、同じ屋根の下で暮らす者同士、少し話でもしようではないか?
そう言って銀狐さんは正座してこちらを向いた。
この奇妙な住人には自分も興味をそそられているし、話す事は吝かではない。
お茶を入れてくると一言断って飲み物を準備しに台所へ行く。
冷蔵庫からお~っしゃあ! お茶を用意し、銀狐さんへ持っていく。
あたりをキョロキョロ、呼吸も荒く、やたらとふんふん言っている。
ほんの少し離れてる間にやたらとソワソワした様子だったので一体どうしたんだと聞いてみる。
「ワシは本当に長い事封印されておったからの……こうして人と話のも久しぶりじゃろ? 朝起きてからは別に意識せんかったから普通に話せたんじゃが、これからお喋りをすると思うと、なんだか急に心臓が高鳴ってしまってな」
これが……恋!? とか言い出したので、多分加齢による動悸と息切れじゃないですかねと返しておいた。
「子気味良い返しじゃ、お主中々話をするのが上手いもんじゃのぉ!」
はっはっはっはっはと笑い転げる銀狐さんを見て、そんなに面白い返しだったか? と思ったが本人が喜んでるなら良いかと納得する。
「それで話したい事とか、何かありますか?」
「ふむ、そうじゃのう……徳川の世からどのくらいの時代が流れたかとか、今の暮らしはどうなっておるのかとか、この封印を破れそうな者に伝手は無いか? とか、色々聞きたい事はあるんじゃが……
一体どう聞いたもんかの? お主とて多分何百年も前の生活と比べてどう変わったか等言われても、その何百年も前の生活を知らんでは比べようもないじゃろ?」
なるほど、徳川の世というと江戸時代くらいだと思うが、その時代を比べて何が変わったかと言われても変わりすぎて何もかもとしか言えない。
しかし何もかも変わりましたと言っても相手も意味がわからないだろうし、これはどう説明したもんか?
腕を組み、どう答えたもんかと考えて……組んだ腕にスマホが当たった。
おっそうだ、良い事思いついた。
タブレットを持ってきて、一つの動画を再生した。
ゆっくり解説 日本の歴史。
鎌倉幕府の時代から現代までをゆっくり霊夢と魔理沙が順番に紹介していくというよくある動画だ。
銀狐は画面を食い入るように見つめながら、時折「ふむ……」や「おお……」と声を漏らしていた。
「む、この声……なにゆえ、妖しげな少女たちが歴史を語っておる……?」
どうやらゆっくりボイスに戸惑っているようだ。
「この“れいむ”と“まりさ”とやら、なぜあのような妙な声色で喋るのじゃ? ……まさか、術か? それとも呪詛の類か?」
「違います違います、これは“合成音声”ってやつです。まぁ機械で喋らせてるんですよ」
「ほう……まるで式神のようなものかのう。主の代わりに語り部となる術……現代の技術、侮れぬのう」
動画が進み、明治維新や大正ロマンのくだりになると、銀狐は小さく目を見開いた。
「幕府が……倒れた? 天子様が戻ってこられたのか……? なに? 西洋の学びを取り入れたとな? そ、そんなことが……」
その後の昭和の戦争、敗戦、高度経済成長を経て平成・令和へと続く変遷に、銀狐は口を閉ざしてじっと見つめたままになった。
特に戦争のくだりでは、眉をひそめて深くうなずく。
「……戦であれだけの民が……これは神であっても、目を覆いたくなるのう」
高度経済成長のシーンになると、目を細めて映像をじっと見つめる。
「しかし、よくぞここまで……焼け野原から、まるで鳳凰の如く蘇ったとは……これが人の力か……」
動画が終わる頃、彼女はふぅ、と息を吐いて小さく呟いた。
「……まるで別の世じゃな」
そして、ぽつりと付け加えた。
「しかし……ようもまぁ、ここまで変わったものよ。民が力を持ち、世を動かすとはのう……昔は、民が何を思おうとも、政は上から降ってくるばかりじゃった。それが今や、民が世を変えておるのか……」
時代の変化に対する驚きと感心を同時に滲ませたその声に、俺はふと、銀狐という存在の“時間”の重みを思い知った。